壱日千次作品の書評/レビュー

 壱日千次さんの作品の書評/レビューを掲載しています。

ひきこもりパンデモニウム (2)

法力を使ったヒーローショー
評価:☆☆☆☆★
 魔界の王である第5代サタンが亡くなった日高見聖歌であることが判明し、召喚師である義弟の日高見春太は、召喚術で魔界出勤を行い、聖歌の妹で現代最高の退魔師である日高見久遠と共に、幸せな3人の生活が再開された。
 サタンの仕事を助けるため、某精神と時間の部屋のような試練の間を活用し、魔界の土でも栽培可能な食料を見つけるための活動を開始した一家だったが、引きこもりから学校に復帰した日高見久遠の前に、雷火栗栖という少女が現れる。彼女は聖歌を天使としてスカウトし自分の目的のために堕天させた四大天使ラファエルだった。

 AVショップピンクスラッシュ社長の娘の多々良沙枝の正体で南の島に遊びに出かけたり、魔界宰相ベルゼバブを説得して魔界から地上へのツアーを敢行したり、天界宰相ウリエルからの報告で、神が日高見家にちょっかいをかけたりする。
 シリーズ最終巻。

ひきこもりパンデモニウム

生まれた意味は
評価:☆☆☆☆★
 現代最高の退魔師である日高見久遠は、世界を守るために自宅警備員をしている。悪の召喚師が悪魔を召喚し、自宅地下の扉から現れるのを防ぐためだ。しかし、明治以降、召喚師が現れたことはなく、世の人々は悪魔の存在も信じておらず、退魔師はイタい人間だと思われている。だから、日高見久遠も高校に行かないただのひきこもりだ。
 十年以上前に施設から引き取られ、少ない法力でも訓練を続けてきた日高見春太は、いまは亡き義姉の日高見聖歌に代わり、義妹の日高見久遠を守ってきた。今の彼の目標は、日高見久遠を学校に行かせることである。

 最近転校してきた多々良沙枝と話をしたある日、帰宅した日高見春太は、自宅に魔王サタンが現れたのを発見する。ようやく退魔師の活躍出来る時代が来たと驚喜した春太は、久遠にサタンを引き合わせ戦ってみるのだが、現代最高の退魔師である日高見久遠は、サタンと悪魔四天王を十万分の一の力で一蹴してしまう。

 会話の掛け合いが面白い。

社会的には死んでも君を! (3)

香月が生まれた理由
評価:☆☆☆☆☆
 高校生の薩摩八平は、中学時代に幽霊の香月と出会った。誰にも見えず、話しかけても聞こえず、寂しく漂っていた香月に一目ぼれした八平は、彼女と友だちになる代わりにとりつかれ、ラブコメ現象という呪いをくらうこととなった。
 ラブコメ現象とは、本人の意思とは無関係に、周囲の女の子たちに対して、ラブコメ的なハプニングイベントが発生してしまうことを指す。着替えを覗いてしまったり、胸を揉んでしまったり、ぶつかった拍子にパンツを見てしまったり、などなど。このおかげで周囲から変態と思われ、暗黒の中学時代を過ごした八平は、体を鍛えることでラブコメ現象の抑え込みを図り、周囲の女の子に恥をかかせなくて済むように努力をして来た。

 しかしその努力もむなしく、全校生徒の目の前で、生徒会長の北見鈴音の股間に顔を突っ込んでしまった八平は、女子の敵として全校生徒から迫害されそうになる。それを救ったのは、全校放送で、八平のことが好きだから何をされてもいい!と宣言した、鈴音自身だった。
 鈴音と同様に、ラブコメ現象のせいで八平の薩摩ハーレムに入ることを望んでいるのは、同級生の染谷佳乃や義理の姉の薩摩霧子、女装に目覚めてしまった親友の万石浦ヒカルらだ。そこに、誰にも見えないはずの香月が見えているらしい、財閥のお嬢様・魅剣柚姫と、その護衛の長谷川忍が関わってくることになる。

 なぜ柚姫には香月のことが見えるのか、その理由がついに明らかになる。明らかになった理由はと言えば、予想外に残念で衝撃的なものだった。その衝撃の理由がもたらすインパクトを大きくするため、前半では徹底的にラブコメ現象を起こさせ、八平の香月への想いを明確に表現させ、そうして持ちあげた上で徹底的に落とすという構成が良かった。周囲の目も顧みず思いっきりやるところが潔い。
 今回でこのシリーズは完結となっている。

社会的には死んでも君を! (2)

香月の正体を知る少女
評価:☆☆☆☆☆
 薩摩八平は自分に取りつく幽霊・香月が大好きだ。だが香月がいる代償として、八平にはラブコメ現象というものが発生する。彼の周囲に近づく女の子たちが、ラブコメイベントに巻き込まれるのだ。現実でそんなイベントが起きれば、女の子は激怒し社会的に抹殺されてしまうもの。だから八平は、ラブコメ現象の影響を最小化し、香月の心理的負担を減らそうと日夜努力している。
 そんな二人が迎える初めての文化祭。香月にも達成感を感じさせてあげたいと、八平に異常なまでの好意を抱くクラスメイト染谷佳乃の協力も得つつ、クラスの出し物である着物喫茶の着物のコーディネイトを香月が行えるようにする。

 だが、文化祭の準備期間中もラブコメ現象は休んでくれない。生徒会長の北見鈴音のスカートに頭を突っ込んでしまうし、義姉の薩摩霧子は階段の上から降ってくるし、大変。そんな中で、香月の前に、八平以外で初めて香月を認識できる人物、魅剣柚姫が現れる。どうやら彼女は香月を知っているらしい。
 香月が見えることを知らせず八平を見極めようと接近してくる柚姫。止むことのないラブコメ現象。それらは八平を再び悪夢の学園生活に叩き込もうとする。
 それにもかかわらず、香月のために尽くす八平に対し、香月のとる行動とは…。

 大好きな香月を守るために奮闘しつつ、ラブコメ現象に会う八平は、悲惨な状況なのだけれどどこかうらやましい。

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社会的には死んでも君を!

幽霊に恋する少年
評価:☆☆☆☆☆
 薩摩八平は中二の部活帰りに香月という美少女幽霊と出会い、一目ぼれしてしまう。その結果かどうか分からないが、浮遊霊だったはずの香月は八平に憑りついた形となり、彼から20メートル以上離れられない体になってしまう。
 そしてもう一つ、八平に訪れたのはラブコメ現象と名付けた日次イベント。毎日何かしら、女の子と手が触れ合ったり、胸に触ったり、スカートに頭を突っ込んでしまうという様な、いわゆるラブコメイベントが発生する体質になってしまったのだ。

 ラブコメ作品なら最終的に許されるが、現実でそんなことをやってしまえば社会的に抹殺されかねない。強制ラブコメイベントに少しでも対抗すべく体を鍛え、もし間違いが起こっても許してもらえる様に女の子の好感度を上げる努力を続けていた。
 そのせいかは分からないが、高校入学直後から、クラスメイトの染谷佳乃からは過剰に慕われるし、生徒会長の北見鈴音には気に入られるし、義姉の霧子にはストーカーばりにまとわりつかれるし、うらやましくも困った状況に。何より、八平は香月が大好きなので、彼女を放置して他の女の子と遊んでいるわけにはいかない。

 だが、香月は香月で、八平が幽霊である自分に義理立てするより、生身の女の子と付き合った方が良いと思い、寂しさを振り切って身を隠す決意をするのだった。

 会話のテンポが良く、ヒロインたちのボケに突っ込む主人公のやり取りが面白い。単純なラブコメと思わせておいて、しんみりとした雰囲気も作ったり、主人公の格好よさを際立たせるイベントを作ったり、何より幽霊のヒロインの切なさを描いたり、ストーリーの幅広さがある。
 べたなラブコメディと言われればそれまでだけれど、深みを持った笑いを作り上げるセンスがあるという印象を受けた。

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