泉和良作品の書評/レビュー

 泉和良さんの作品の書評/レビューを掲載しています。

レッドソードのアンテ奈 ファウスト 2011 SUMMER Vol.8

困難を乗り越えさせた外的要因
評価:☆☆☆☆★
 ネットでアルカ奈という女性と知り合った藤沢は、いつも彼女のことを考え、チャットをしてきた。その彼女が何か疲れているようなのを感じた藤沢は、彼女を始めてデートに誘う。その行き先は、彼のアパートの近所をぶらぶらと散歩すること。
 狭い路地をわざわざ選び、童心に帰って散歩をする彼女たちは、いつの間にやら見たことも無い場所へと紛れ込む。その大きなパラボラアンテナがある建物には、剣野宇宙エネルギー研究所、と書かれていた。

 ネットから始まる恋物語と、赤猫のレッドソードという存在が絡むファンタジー的SFの要素を混ぜ合わせた物語だ。
 始まりは、ネット上だけの仮想的な関係かもしれない。しかし、それが長く続き、相手のことを真に思いやる気持ちがあれば、それは実体を持ち始める。あとはそれをどうやって表に出してやるかだけだ。
 だがそれが一番難しい。なぜならそれは、相手にも同じように自分をさらけ出させなければならないからだ。ネットではそれらをさらけ出さなくても関係が築けるというもの、ネットでの付き合いが続いている理由なのに…。

 そしてその相反を克服させたのが、彼らが巻き込まれたファンタジー的SFの出来事だ。その混乱の中で藤沢はアルカ奈の名前である星野香奈を知り、そしてその実体ごと、彼女の存在を肯定する。
 それもこれも、外的要因によって、全てがさらけ出されてしまったからではあるのだが。そのあたりは、彼女たちの関係にとって、ご都合主義だったとは言えるだろう。


猫のCIA ファウスト 2011 SUMMER Vol.8

道を見失った時に
評価:☆☆☆☆★
 星座アキラを名乗ってWEB上でイラストを描いている佐島良介に来る仕事と言えば、たまにあるエロ絵の仕事くらいで、自分の描きたい絵でお金を稼ぐことは出来ていない。そんな彼のフラストレーションを発散させてくれるのは、自分のサイトに連絡して来てくれるファンの女の子を食うことだ。
 今日もそんな相手がひとり。連絡して来たのは、ツキと名乗る大学生の女の子。口実を設けて秋葉原で会うことにしたのだが、いつもは上手く回る口が、今日は突然、変なことを言い出す。あったその場で「君とヤりたい」なんて言ってしまうなんて…。それもこれも、最近、周りにうろついている、しゃべる白い子猫のせいだ。きっとヤツはCIAの回し者に違いない。

 内容は「エレGY」とかなり似通っている部分もある。つまり、自分のやりたいことがやれず、そのストレスをファンを食い物にすることで発散させ、しかしその子に本気になってしまうというところが、だ。
 この場合、白い子猫は彼の良心のメタファーと解釈するのが自然なんだろうな。

 ところでホントにこんなにお行儀の悪い人が、いっぱいいるのかな?そうなのか〜。

エレGY

再起をはかるものがすがる光
評価:☆☆☆☆★
 組織の中では自分の個性を生かしたゲームは作れない。そう思いたって会社を辞めてしまったのが泉和良だ。そしてジスカルドというハンドルネームでサイトを立ち上げ、フリーウェアゲームを公開し、その二次作品で収入を得るというビジネスモデルを構築した。
 しかし、才能と意欲が常に収入に結び付くとは限らない。失業保険のあるうちは、センスの赴くままに作りたいゲームを作ることができた。でもそれが切れて何年も経つと、生活を考えなければならない時が来る。そうして結局、ユーザーに迎合し、ユーザーの望む虚像を演じることで生活の糧を得るようになってしまった。

 本来の自分が望む姿と、食べなければ生きられないという現実、そして他人が彼に求める虚像の間で心をすり切らせていたときに出会ったのが、エレGYという女子高生だ。
 泉和良は彼女に心ひかれながらも、彼女が魅力を感じているのは自分の虚像なのだからということで、なるべく彼女との距離を保とうとする。だがその葛藤は、彼の心をさらに摩耗させていく。

 それでもエレGYは、諦めて閉ざそうとする泉和良の扉を無理矢理にこじ開ける。そして彼に教えるのだ。あなたのやって来たことは無駄ではない。あなたの個性は世界に届いているんだよ、と。

 この作品は一度打ちひしがれ、そのまま泥の中に沈んでいこうとする人々に当てられる光なのだと思う。
 自分が今闇の中にいるのは出発点が間違っていたのかな?そう思う人に、そうじゃない。キミは初めのままで良いんだよ、と肯定してくれている作品なのだと思う。

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