岩井恭平作品の書評/レビュー

 岩井恭平さんの作品の書評/レビューを掲載しています。

サイハテの救世主 PAPER III: 文明喰らい

裏切る人類を救う英雄
評価:☆☆☆☆☆
 元天才にして世界を救ってきた英雄少年の沙藤葉は、今日も沖縄の日常に振り回されていた。女神たる濱門海に懸案解決のための人材を紹介したり、バウスフィールド照瑠の宿題を処理したり、濱門陸からのお節介を処理したり、忙しいながらも、ノーラ・ダーリンに口座を凍結されてしまったため、日々の糧を手に入れることが出来ない。北海にある巨大海底火山である黄金火山とアンジェリンにまつわる事件で改造してしまった又吉三々子を養うことは尚更だ。
 働き口を探して奮闘する沙藤葉の前に、海兵のエリク・グッドオール・ジュニア一等兵曹が現れる。彼に拉致されて辿り着いたのは、ナミビア共和国のナミブ砂漠だ。そこで、南米アマゾン原産の、絶滅させたはずの好物を喰らうワームと、その改造体であるグリゴリを発見してしまう。それは災厄論文のひとつであった。

 国連事務総長のファリザに請われ、三度、人類を救うために駆り出される沙藤葉だったが、彼は人類の沙藤葉に対する裏切りに直面することになる。

 シリーズ最終巻。事件はこれまでと同様に発生するが、人間関係の処理は駆け足で。壊れた天才の意味するところが、上手く伝わらなかったのかも知れない。

サイハテの救世主 PAPER II:黄金火山と幸福の少女

同病相憐れむ
評価:☆☆☆☆☆
 沖縄県嘉手納町のボロ家で壊れたエアコンの修理をしていた元天才の沙藤葉は、隣家の濱門陸やバウスフィールド照瑠に連れ出され、引きこもりの又吉三々子に対する説得交渉をしていたのだが、気づけば北海の海底にやって来ていた。
 もちろん再び彼を連れ出したのは、敏腕助手のノーラ・ダーリンと、彼女が護衛に連れてきた、沙藤葉のハイスクール時代の知人であるエリク・グッドオール・ジュニアだ。今回彼に要請されたのは、北海にある巨大海底火山である黄金火山の噴火を防ぐこと。そのために彼は、アンジェリンという少女と面会することになる。そしてそれは、彼の天才時代の罪の証でもあった。

 ラストはかなり救いのない話なのだが、沖縄少女たちの明るさがそれをごまかしきっている。

サイハテの救世主 PAPER I:破壊者

混在する街
評価:☆☆☆☆★
 アメリカ合衆国で危機管理に従事していた天才少年教授の沙藤葉は、“破壊者”という存在に関する論文を切っ掛けとしてホワイトハウスを放逐され、沖縄県嘉手納町へと流れてきた。アメリカで出会った老人から譲り受けたボロ家が彼の新たな拠点だ。
 そのボロ家で“破壊者”に関する論文を完成させようとする沙藤葉だが、彼が周囲を警戒し遠ざけようとするにも拘わらず、濱門陸やバウスフィールド照瑠をはじめとする近隣住民たちが干渉してきて落ち着けない。

 自分は天才だと言い張り、他人を見下し、感謝せず謝罪しない傲慢さを見せる沙藤葉ではあったが、あまりにも馴れ馴れしく、彼がそこに居ることを当たり前に受け止める住民たちとの暮らしを大切なものだと感じ始める。
 しかしそんなとき、彼のもとをノーラ・ダーリンという少女が米軍を引き連れて現れる。彼女は彼に前線への復帰と、天才であり続けることを彼に求めるのだった。

 穏やかな生活と米軍、そしてテロという、あまり交わりそうもない要素を、米軍基地がある沖縄を舞台とし、かつてテロ撲滅に関わっていた壊れた天才を配置することにより結びつけている。そんなわけで、前半と後半ではガラッとテンションが変わり、それぞれのキャラクターが交わることはない。
 つまり、まるで二つの作品が一つにまとめられたような構成になっている訳で、それをつないでいるのは沙藤葉というただ一人の存在と、彼の中に蓄積された思いだけなのである。この辺りの親和性の低さが、今後のネックになりそうだ。

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