海空りく作品の書評/レビュー

落第騎士の英雄譚(キャバルリィ) (2)

剣客の本分
評価:☆☆☆★★
 魔導騎士を養成する破軍学園を出自のために留年しながらも、七星剣武祭に優勝することで復権を目指す《落第騎士》黒鉄一輝は、妹の《深海の魔女》黒鉄珠雫と再会し、《紅蓮の皇女》ステラ・ヴァーミリオンと恋仲になった。ついでに、女装趣味の有栖院凪とも仲良くなった。
 実力を認める生徒たちも出始め、武芸百般の講義も始めた黒鉄一輝は、自身をじっと見つめる視線があることに気づく。その持ち主は、《伐刀者/ブレイザー》ではないながらも最強の剣士の一角だった綾辻海斗の娘である綾辻絢瀬だった。彼女は、彼女の幸せを奪った倉敷蔵人に勝負を挑む強さを得るために、黒鉄一輝に弟子入りを志願する。

落第騎士の英雄譚(キャバルリィ)

異常な才能
評価:☆☆☆☆★
 魔導騎士の名家に生まれながらも《伐刀者/ブレイザー》として魔力が少なすぎるばかりに実家を放逐された黒鉄一輝は、それでも夢を諦めきれず、魔導騎士を養成する破軍学園に入学した。しかし、実家からの圧力で理事長が職権を乱用し、そのおかげで一年を無駄にして留年することになってしまった。
 新理事長の新宮寺黒乃の計らいで、彼を授業にすら参加させなかった規則は撤廃されたものの、現在の評価制度では最低のFランクにあるという事実は変わらない。それでも最強の騎士を目指すため、七星剣武祭で優勝して頂点である七星剣王になって卒業するしかない。

 そんな覚悟を決めた矢先、自室で着替えをしていた少女のステラ・ヴァーミリオンと鉢合わせをし、決闘をすることになってしまう。彼女は期待のAランク新入生だった。
 互いの全てを賭けた勝負に勝ってしまったため、皇族の維持として黒鉄一輝の下僕になるといって聞かないステラ・ヴァーミリオンと同居することになる。一方、既成の評価の枠内では評価しきれないながらも、驚異的な自制と努力で底辺から駆け上がろうとする黒鉄一輝に対し、ステラ・ヴァーミリオンは共感を抱いてしまうのだった。

 そんな微妙な関係をぶちこわすように、四年ぶりに再会する妹の黒鉄珠雫が兄に偏執的な愛情を抱いていたり、彼女と同質の有栖院凪が驚愕を巻き起こしたりする。

彼女の恋が放してくれない! (3) 手錠が外れてもずっと一緒です。

プールでもいちゃいちゃ
評価:☆☆☆★★
 伝説の桜の木により呪いの手錠で結ばれてしまった此花つぼみと戌亥慎太郎は、暑い夏の中をべたべたとくっつきながら、当たり前のように日常を過ごしていた。その状況を解消したいと考える宗谷美咲と宮下雅は、勅使河原暦の家が経営するプールに二人を誘う。
 一通りプールでのイベントをこなしたころ、此花つぼみはちょっとしたきっかけで、自分の初恋の相手が戌亥慎太郎であることに気づいてしまうのだった。

 シリーズ最終巻。とにかくいちゃいちゃしています。

彼女の恋が放してくれない! (2) いまだに手錠で繋がってるけど健全な友達です。

束の間の徒花
評価:☆☆☆☆★
 此花つぼみの勘違いで伝説の桜の木の下で告白された戌亥慎太郎だったが、生徒会長の勅使河原暦曰く、実は勘違いではなかった。結局、二人の間の呪いの手錠は外れることなく、お風呂もトイレも一緒に暮らさなければならないのに、つぼみの意思をねじ曲げる可能性のある真実を慎太郎は話すことが出来ない。
 その状況をおもしろがる暦は、さらに事態を混迷化させるため、慎太郎に好意を抱く幼なじみの宗谷美咲とクラス委員の宮下雅を投入することを思いつく。二人はその思惑通り、慎太郎を巡って鞘当てを繰り広げることになるのだが、肝心の慎太郎は全く状況に気づかない。

 しかし、つぼみが二人の思いに気づき、サポートするような行動を取ることで、二人の行動は徐々にエスカレートしていく。

 情報の非対称性が事態を複雑にしていることは読者の視点からは明らか。ゆえにもどかしい思いを抱いたり、生暖かい目で見守ったりする気分になる。それがラブコメだ。逆に言えば、キャラクターを投入すればあたかも初期条件を与えるごとく、その後の展開は定まってしまう訳でもある。
 そして当事者同士の関係が深まれば、自然、情報の非対称性は解消されていく。その結果、それまで構築していた関係を崩すような状況が生まれるわけで、それが次巻の展開となろう。

彼女の恋が放してくれない! 俺たちは手錠で繋がっているだけの健全な友達です。

警戒心が低すぎるのも困りもの
評価:☆☆☆☆★
 戌亥慎太郎は見た目が怖いせいで周囲の生徒から避けられている高校生だ。彼の本質を知っている生徒は、校内に3人しかいない。
 だが、そんな彼の下駄箱に、ある朝、ラブレターが入っていた!幼なじみの宗谷美咲やクラス委員の宮下雅は、ふしだらだの破廉恥だのと騒ぎ出す。

 とにかく、待ち合わせ場所の結びの桜の伝説のある桜の木の下に行ってみたところ、やってきたのは三つ編みグルグル眼鏡のクラスメイト此花つぼみだった。
 告白自体はつぼみの相手間違いだったのだが、伝説の桜が勘違いしたせいか、つぼみと慎太郎は、本人たち以外に触れない手錠でがっちりとつながれてしまったのだ。

 生徒会長の勅使河原暦によれば、その手錠は、お互いが恋人同士になるか、どちらかに相手以外の恋人が出来れば外れるらしい。そうなればつぼみに本来の告白相手と恋愛成就させれば良いはずであり、グルグル眼鏡を取ればつぼみは美少女なので、このミッション楽勝だぜ、といった感じだったのだが、そう簡単にはいかなかったのだ。
 なぜなら、小学生の頃にクラスメイトや担任からブスと言われ続けたせいで、自虐が習い性になってしまったつぼみは、眼鏡を取ることに拒絶反応をしめしたのだ。

 とりあえず、慎太郎の家で暮らすことには成ったのだが、つぼみの慎太郎に対するガードは妙に低く、一緒にお風呂に誘い、背中まで洗わせるという展開になってしまう。

 ご案内の通り、ほんのりとエロい学園ラブコメとなっている。慎太郎が非常に真面目な性格なので危ないことはないのだが、なぜかつぼみの方が危ない行動をとるので、危険域マックス状態。
 今巻はつぼみの事情を解決するのに精一杯だったが、次巻以降は慎太郎を取り巻く他のヒロインたちが本格的に行動を開始することだろう。

断罪のイクシード (5) −相剋の摩天楼−

取り戻した日常の行く末は…赤信号?
評価:☆☆☆☆★
 愛刀・破錠が封印していた魔王の魂と神殺しの力を解放してしまい、様々な勢力から狙われる運命となった藤間大和の命を救うため、彼の右腕を切り落とし、レジャーランド・マリンコスモスに混乱を導いた逆十字教団「小隊」リーダーの漆原雄一郎について行くことを、東雲静馬は選んだ。それは、彼女が好意を寄せる少年を、彼女のために不幸にしないための決断…。だがそれを、当の大和が許すはずもなかった。
 妹の藤間ましろから全ての事情を聞き取り、自身に秘められた秘密を知った大和は、勝手な行動をした静馬を自分たちの日常に引きずり戻すため、猫耳の人狼少女・結城ニアと単純馬鹿の猪塚青磁を引き連れ、時の王権アイオーンの所有者・漆原雄一郎の許へ向かう。そして、彼らとはまた別の理由で、炎の王権イグニスの所有者・火倭秋晴は、マリンコスモスに降臨し、その炎をふるうのだった。

 一方、主戦場から引き離された鬼兵隊隊長の土御門明日奈は、天使の環を持つ本物の悪魔、殺戮鬼ジルと対峙していた。師・榊原天童の授けた榊原一刀流を、一閃・煌から秘閃・八裂まで極め、さらにそれを極限まで磨き上げた歴史の力が、人間を神の領域まで引き上げた一太刀を放たせる。

 同じ剣を修め、友人と言った良かった二人が、なぜ道を違えたのか?その理由が漆原雄一郎の口から語られる。自分で言っちゃったらお仕舞いだろというのは抜きにして、自分を理解して欲しい、対等な存在として扱って欲しいという人間的な誘惑から、英雄と呼ばれる存在すらも逃げることが出来なかったという、オチがついている。
 そして人間を辞めかけてまで友人を引きずり戻しに行った少年は…。ここから「未来日記」が始まってもおかしくない。しかし、シリーズは完結だ。後半、かなり盛り返した気がするな。

断罪のイクシード (4) −蠢く双頭の蛇−

ふたつの時間の流れの衝突
評価:☆☆☆☆★
 小隊のリーダー・漆原雄一郎に藤間大和の秘密を知らされた東雲静馬は、彼が魔術師の世界に関わり続けるリスクを知り、彼をこの世界に引き込んだ者の責任として、彼を普通の世界に戻すための憎まれ役を演じようとする。
 しかし、突然、敵対してきた静馬の言葉に大人しく従う大和ではない。当然、ガチンコバトルになるのだが…。

 一方、他国の介入を招く前に今回の騒乱を鎮圧したい護国課だったが、敵の策にはまり戦力は分断され、兵装を潰されて弱体化したところに、敵の主戦力を相手にしなければならない羽目に陥ってしまう。

 藤間大和を人間として生かしたかった過去の人々の想いが、藤間ましろの口から大和に知らされる。一方で、戦中から時の王権の力で現代にやって来た漆原雄一郎は、過去の想いをそのまま現代にぶつけようとする。それは、時間という緩衝を許さない、急激な変化を与える行為だ。そしてそれを止めようとするのは、じっくりと時間をかけ成長してきた大和なのだ。
 次巻でいよいよ全ての決着がつく。巻末には、短編「黒鉄の鍛冶屋と白の魔女」を収録している。

断罪のイクシード (3) −神の如き者−

楽しい日のはずが…
評価:☆☆☆☆★
 夏休みを前にして、藤間大和は友人の梶十四郎の招待で、レジャー施設のプレオープンに参加することになった。常磐京子や雨森穂波も一緒だ。大和はせっかく仲良くなる機会ということで東雲冬馬も誘うのだが、寺の片づけをするという口実で断られてしまい、猪塚青磁もそちらの手伝いに行くことになる。
 夏休み前の楽しい日のはずだったが、招待されたレジャー施設マリンコスモスを建設した上杉コンツェルンのトップは、護国課の前身である葬魔局に所属する魔術師だった。そして、大尉と呼ばれる何者かの下で、藤間大和と東雲冬馬を利用する、大規模な魔術災害を企てていたのだ。

 そのために、友人たちを魔術を巡るいさかいに巻き込んでしまった大和。その頃、静馬は、かつて榊原天童が住んでいた寺の地下に、魔術師の工房を発見していた。そしてそこで厳重に封印された日記の中には、大和にまつわる秘密が記されたものがあった。
 自らの行動により、過去の人々のやさしい思いを無にしていたと知った静馬は、大和のためにある決断をする。

 今巻で終わりのような雰囲気で始まったものの、終わってみれば大規模な戦いの前哨戦に過ぎなかった。そして、次に大和の前に立ちはだかった人物は、意外な人物。大和の姉弟子であり、護国課鬼兵隊隊長の土御門明日奈も登場し、色々と自覚した大和が自分の筋を通すために戦いに挑む。

断罪のイクシード (2) 牙を剥く闇の叡智

ねこみみ登場
評価:☆☆☆★★
 孤高の女子高生魔術師、東雲静馬と共に戦うことを決めた藤間大和の前に、猫耳の人狼少女・結城ニアが現れる。行き倒れていたところを助けようとする大和にいきなり襲いかかって来たのだが、そのまま放っておくわけにもいかず、結局家に連れ帰ることになる。…妹には誤解されシメられちゃうのだけれど。
 その頃、街の不良たちには、ジェイルクラッシュという魔術要素を含んだドラッグが流行していた。その流出元と目される逆十字を追いかけているうちに、ニアの養父を殺した男と遭遇してしまう。逆上して獣化してしまうニアは、娘として仇をうつことができるのか?

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断罪のイクシード 白き魔女は放課後とともに

自分を追い込む少女と、彼女に手を伸ばす少年
評価:☆☆☆☆★
 高校生の藤間大和は悪夢を見た。自分が黒犬に食い千切られ殺されるリアルな夢を。友人の雨森穂波にそんな話を話しながら行った教室で、人形の様に美しい転校生・東雲静馬に出会う。だが彼女は、他人とのコミュニケーションを真っ向から拒絶していた。
 彼女と再会したのは夜。日課のトレーニングを行っていた大和は、本当に黒犬に殺されかけてしまう。絶体絶命の彼を助けたのが東雲静馬だった。彼女は魔術を使い、悪魔と一人戦っているらしい。悪魔という存在は、大和の古い記憶を刺激する。彼の剣の師匠である神原天童が戦った存在と、彼が残した一振りの日本刀、式刀・破錠、そして塞ぎ込んだ自分の姿を。
 心中から突き動かされるものがあり、静馬に協力を申し出る大和なのだが、すげなく断られてしまう。一体彼女が抱えるものとは何なのか、そして大和は彼女を救うことが出来るのか?

 第2回GA文庫大賞優秀賞受賞作とのことなのだが、応募作品としては異例だと思われることに、作中に登場する伏線が多く回収されないままに残される。大概、応募作品は一巻完結で構成するものだと思い込んでいたので、意外だった。もともと続巻を予定して書かれているのだろうか?もしそうではないならば、印象ベースで半数以上の伏線が残されたままというのは、いかにも不親切という気がする。
 主人公を取り巻くクラスメイトたちも多く登場するのだが、静馬から突き放されたところから始まるので、心理的に近づくまでのプロセスが必要だったり、静馬の事情を描写したりするのに紙幅を割かれるので、クラスメイトにまでは手が回らなかった様に思われる。イラストにも登場しているのに、本文中での扱いが軽いというギャップが物足りなかった。

 全体的に色々と裏設定を盛り込み、設定が複雑になっている様なので、紙幅との関係で消化不良の感が否めない。今回でメインキャラの関係は出来上がったので、2巻以降ではスッキリとストーリーを展開させられると思うので、そこに期待したいと思う。

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