虚淵玄作品の書評/レビュー

白貌の伝道師

破滅の物語
評価:☆☆☆☆★
 “根無し”のエルフと見られる旅装のラゼィル・ラファルガーは、彼を襲撃して来た盗賊を返り討ちにして、彼らに凌辱されたハーフエルフの少女アルシアを拾う。
 彼女は“樫の護り”という谺谷のエルフの里の秘宝を、その地方の領主の孫アーウィン・メラネイドに誑かされて持ち出し、愛する男の手によって盗賊に下げ渡されたのだ。

 その話を聞いたラゼィルは、エルフの酋長ニブニールに目通りし、彼がその“樫の護り”をメラネイド伯爵の城から取り戻してこようと申し出る。そしてその対価として、里を裏切ったアルシアを譲り受けたいと。ラゼィルがそう申し出た理由とは…。

 こうまとめると、正義の味方が少女を救う物語の様にも見えなくないが、作者の名前を見ればそういう展開にならないことは察しがつくだろう。その通り、あなたの感覚は正しい。過去の過ちが正されることはなく、その過ちが緩やかに、そして急速に破滅に至っていく構成だ。
 だが、それが感覚的に許容できないほど嫌悪感があるかというと、あまりそんな感じがしないのが不思議でもある。もはやそれ以外に道はない気がするのは、実は物語が始まる前に既に終わっていたからなのだろう。


Fate/Zero (6) 煉獄の炎

全てを捨てて求めたものの正体
評価:☆☆☆☆★
 言峰綺礼に守るべきアイリスフィールを奪われたセイバーは、必死に彼女の行方を捜し求めるものに、一向にその足取りはつかめない。だが彼女の夫にしてセイバーの真のマスターでもある衛宮切継は、もはや妻を助けようともせず、言峰綺礼が次に目指すであろう聖杯儀式の遂行を阻止すべく、罠を張り巡らせることに終始していた。

 そうしてついにやってくる最後の決戦の瞬間。ライダーはアーチャーと、セイバーはバーサーカーと、衛宮切継は言峰綺礼と、それぞれ因縁のある間柄の者たちが、その雌雄を決しようとする。
 彼らがそこまでして求めようとする聖杯とは、一体何なのか?物語はついにゼロへと至る。

 最後の解説は、奈須きのこ氏がつとめている。

Fate/Zero (5) 闇の胎動

切継の対極
評価:☆☆☆☆★
 ついに言峰綺礼が自らの意志で聖杯戦争に身を投じる。目的を持たないままに戦ってきた彼が始めて目指すものは何か?そして彼の策謀の魔手は、彼が気にするただ一人の人間である衛宮切継と、彼の周囲の人間に及んでいく。
 一方、ウェイバー・ベルベッドは、ライダー・イスカンダル王の苦境を見抜き、自ら彼のために行動を起こし始める。聖杯戦争の過程でもっとも変化した人間は彼なのかも知れない。

 いままで明示されていなかった、聖杯を用いて根源の渦に至るために必要な犠牲が明らかにされる。これはもう少し前に明らかにされていた方が、遠坂時臣という人物に深みを与えていたかも知れない。でも、これまでに去ったキャラの中で、もっとも最後の扱いが良いようにも思う。
 切継の過去、彼の願望の原点が明らかにされ、舞弥が抱えてきたものも明らかになったいま、ふたつの立場からの対立は頂点に達した。後はその雌雄を決するのみだ。

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金の瞳と鉄の剣

突き放された場所から人間を見る
評価:☆☆☆☆★
 流れの傭兵タウと、そのパートナーである魔法使いキアが、その流れ歩く街で出会う社会から見る人間の様相を描く。一話完結方式で5話を収録しており、そのうちの4話はウェブサイト「最前線」に掲載された作品らしい。イラストは高河ゆん。表紙だけで妄想できる人がいっぱいいそう。

「竜の峻嶺」
 龍の棲み処を知ったタウが、キアの消極的反対を押し切り、龍殺しの名声で傭兵としての価値を高めるため、龍殺しに挑む。しかし、龍はタウの想像を絶する生き物だった。
 タウとキア、それぞれの役割と性格の説明、そして、キアの超人的な能力を紹介し、その彼と自然に隣にいられるタウの、ある意味での特殊性を紹介している。


「永遠の森」
 味方をしたスラグルス伯爵陣営が敗北し、敗残兵として追われるタウとキア。しかもタウは足を痛めて逃げ切れない。そんな彼らが迷い込んだのは、妖精の住む森だった。
 一話目が動的なキアの特異性の強調だとすると、二話目は静的なキアの特異性の強調という雰囲気がある。


「古城の盗賊」
 魔法の罠で守られた廃城に宝探しに出かけたタウとキアは、最後の宝を前にして、錠前殺しのラルーバスという伝説の盗賊に出会う。ブラニガンの牙城という特別性の錠前をあけるため、彼ら3人は協力することになるのだが…。
 錠前を開けるというひとつのことに人生を注ぎ込んだ男の物語と、タウというキャラクターが最後に引き立つお話。


「陰謀の街」
 社交界に潜り込んで有閑マダムと火遊びを繰り広げるタウは、思わぬ権力闘争の闇に片足を突っ込んでしまう。一方、人間の感情が商売になると学んだキアは、媚薬を売りさばき始めるのだが、それが思わぬ余波を引き起こしてしまう。
 暇をもてあましている人が、枷をはずそうとして別の枷にはまって、結局は不自由な状態で安心する話。


「旅立ちの夜」
 書き下ろし。タウとキアの出会いの物語。
 飢饉で餓死者が出る村々の中で、異常な裕福さを誇る村に雇われたタウ。村人が禁忌とする土蔵で、タウは監禁されるキアと出会う。
 既得権益を守るためなら何でもするような話。


 こう書いてくると共感が得られるかもしれないが、何となくキノの旅に雰囲気が似ている気がする。タウがキノで、キアがエルメス?エルメスの方が一般常識はあるけど。

 全能でありながら人間としての常識を学ぶ機会を持たなかったキアと、人間の情を感じる機会を持たなかったにも拘らず人間らしい人間たらんとするタウという二軸から、恵まれた人間を見ているという印象を受ける。
 ただ、こういう内容なら一話完結形式よりも、もっとドロドロとつなげた方が深く描ける気がしなくもない。一話完結はきれい過ぎると思う。

 作家とイラストレーターの双方にそれなりの印税を支払うためかも知れないが、そこそこ値段が高い。星海社のCOOに踊らされている気がしなくもない。

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Fate/Zero (4) 散りゆく者たち

それぞれの理想のために
評価:☆☆☆☆★
 魔術に携わる者としてのルールを逸脱するキャスターとそのマスターを聖杯戦争から排除するため、聖堂教会の主導の下、キャスターとそのマスターを獲物とする狩が始まった。ライダーの宝具により彼らの実験場を壊滅させたものの、獲物はその場におらず、彼らの反撃を招くことになる。
 そして始まる、怪獣映画のような大激戦。航空自衛隊のF-15まで出撃し、魔術戦争は人目に触れる事態となってしまう。

 想像を絶する巨大魔獣を前に協力すべき英霊やマスターたちは、それぞれの事情を優先し、それぞれの死闘を繰り広げることになる。強敵を一撃で葬るセイバーの宝具がランサーにより封じられているいま、事態打開の策はあるのか?
 そしてついに、セイバーとマスター・衛宮切継が真正面から対立することになる。その悲しく無残な結末とは?

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Fate/Zero (3) 王たちの狂宴

英霊たちの真意
評価:☆☆☆☆★
 キャンサーこと狂える元帥ジル・ド・レェは、全ての英霊にとってのターゲットとなった。そしてそのキャンサーは、セイバーをジャンヌ・ダルクと勘違いをして狙っている。その構図を利用して、魔術師殺し・衛宮切継はひとつの作戦を立てる。それは、清廉なアーサー王を激怒させるものだった。  一方、ライダーこと征服王イスカンダルは聖杯に相応しき王を見定めるため、聖杯問答を行う宴を催す。そこに招待されるのは、騎士王アーサーと英雄王ギルガメッシュだ。その問答の果てに明らかになるライダーの真の実力とは?そして、彼らが詳らかにする英雄王の苦悩とは?  存命中は英雄として何事かを成し遂げたはずの英霊たち。その現代での行動は、過去の何事かに規定されている。それは王としての誇りか、あるいは後悔か。それぞれの真意も明らかになってくる。
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Fate/Zero (2) 英霊参集

英霊の決戦、マスターの駆け引き
評価:☆☆☆☆★
 全ての英霊が顕現し、聖杯戦争の本格的な戦いが始まる。セイバーの座を占めるアーサー・ペンドラゴンを妻のアイリスフィールに預け、密かに冬木の地に潜入した衛宮切継は、かつての相棒である久宇舞弥と合流し、マスターたちの襲撃準備を整える。
 一方、初めてアインツベルンの城の外に出たアイリスフィールは、セイバーを男装させて冬木の街を見物に練り歩く。英霊を隠すことのないその行動は、当然のことながら他の英霊たちの目に留まり、一対一の決闘から混戦へと戦いを拡大していくのであった。

 かつての冷酷な魔術師殺しも、妻を知り娘を得たことで、その牙を鈍らせている。それが相棒の舞弥には歯がゆい。何より、そういったものを取り戻さなければ、穴熊の底に隠れているようなマスターたちに刃が届くことはない。
 英霊たちが終結したとはいえ、そのマスターたちは陰に隠れたままだ。英霊たちを矢面に立たせて彼らを使役することで自分の利益を得ようとする姿が魔術師であり、そこには騎士の美学は無用のものなのだろう。
 そんな他人任せの戦いの末に、一体何が得られるというのか?

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Fate/Zero (1) 第四次聖杯戦争秘話

聖杯を巡るそれぞれの事情
評価:☆☆☆☆★
 万物の始まりにして終焉、この世の全てを統べる「根源の渦」に至るため、約二百年前に、アインツベルン、マキリ、遠坂の魔術師たちは、それまでの独立独歩の道を捨て、互いの秘術を出し合い、ひとつの奇蹟を作り出した。それが、所有者のただ一つの願いを叶えるという聖杯だ。
 救世主の血を受けた聖杯とは異なり、概念的に生み出されたこの聖杯を手に入れるためには、聖杯により選ばれた7人のマスターが、それぞれの特性に合致した英霊、かつて世界で名をはせた偉人たちの霊を使役し、命を賭して戦い、勝ち取るしかない。この戦いは聖杯戦争と呼ばれ、これまで三度繰り返されてきた。

 第四次となる今回の聖杯戦争に参戦するのは、アインツベルンが勝利のために迎え入れた婿養子・魔術師殺しの異名を持つ衛宮切継、遠坂の当主・遠坂時臣、彼に遺恨を持ち自らを犠牲にして資格を得た間桐雁夜、魔術師と対立する聖堂教会に所属する言峰綺礼らの7人の魔術師だ。
 彼らはそれぞれ異なる動機、異なる願いに導かれながら、あるいは資格を奪い取り、戦いの渦中に身を投じていく。この物語はもともとゲームで描かれたものではあるが、この本ではその中であまり描かれることのなかった前日譚を語っているらしい。

 上記のような背景もあり、彼らがなぜその様な戦略を取るのか、なぜそんなキャラクターなのか、など、人物像が詳細に描かれていると言って良いだろう。この巻では特に、衛宮切継とその妻アイリスフィールの覚悟、遠坂時臣と言峰綺礼、その父にして監視者の璃正の協力体制の様子、互いに興味を抱き理解する衛宮切継と言峰綺礼の皮肉な関係などが主に語られる。
 全6巻らしいので、物語はまだ立ち上がったばかり。まだ語りつくされないワクワク感が読者を期待させてくれると思う。

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