嬉野君作品の書評/レビュー

金星特急 (7)

終着地
評価:☆☆☆☆★
 純国語普及委員会のザメンホフに雇われた傭兵組織イェニツェリを率いる元月氏のKの一鎖である黒曜の襲撃を避けるため、白の一鎖である夏草や二鎖である三月を雇った錆丸は、乗り遅れた金星特急を追ってスペインのグラナダにやって来た。そして、空襲を止めるためにテレビ出演し、金星特急をグラナダに呼び寄せることに成功する。
 一方、金星特急の乗客である砂鉄、ユースタス、アルベルトらは、残される彗星、ロヴェレート王女ヴィットリア、ハハリ・ジュニアらに最後の教育を行っていた。

 シリーズ最終巻なのだけれど、外伝が一冊出版されるらしい。彗星、憐れだよ彗星。

金星特急 (6)

火種が集まるグラナダ
評価:☆☆☆☆★
 傭兵組織イェニツェリの追っ手を巻き、夏草や三月に連れられて、錆丸はグラナダで砂鉄、ユースタス、アルベルトに合流した。そこに、ロヴェレート王女ヴィットリアや、アルベルトが大切に思うハハリ・ジュニアも加わっていく。
 一方、金星の許へと誘われた彗星は、彼女の幼さに見合わぬ異常な能力を痛感させられていた。そして、不死身と思われている錆丸に弱点があることを知る。

 錆丸の兄の穂村伊織もグラナダへ向かい、スペイン内戦の動向も巻き込みつつ、物語はクライマックスへと向かっていく。

 やっぱり、ハハリ・ジュニアはアルベルトの…。

金星特急 (5)

金星特急の裏側で
評価:☆☆☆☆☆
 純国語普及委員会のザメンホフに雇われた傭兵組織イェニツェリに拉致監禁された錆丸は、金星とは何者かという問いを受ける。夏草や三月に見捨てられて孤立無援の錆丸は、ザメンホフとの面談をこなしつつ、窮地を切り抜けるための策を必死に考える。
 一方、予定外の停車をした金星特急は、残りの乗客を全て降ろし、どこかへ走り去ってしまう。残された砂鉄、ユーストス、アルベルトは、アルベルトを迎えに来た護衛たちを交わしつつ、真の停車駅であるグラナダを目指そうとするのだが、思わぬお荷物をしょいこんでしまうことになる。

 彼らが奮闘する裏側では、金星に集められた彗星をはじめとする女性たちが、ある映像を見せられていた。そこに隠される真実とは…?

金星特急 (4)

評価:☆☆☆☆☆
 月氏の黒の一鎖にして砂鉄の養父でもある黒曜との資格試験を辛くも生き残った錆丸だったが、木になる瞬間をカメラにおさめたいマスコミの暴挙により、拉致監禁されてしまった。監禁からは脱出できたものの、出発時刻までに金星特急に戻ることは不可能。このまま木になるのを待つだけかと思ったのだが…。
 一方、錆丸を置き去りにしたまま出発した金星特急に乗り込んだユースタスは、錆丸を見捨ててしまったことにショックを受け、荒んでいた。それに追い打ちをかける様に、彼女を襲う乗客まで現れてしまう。あわや貞操の危機に砂鉄は…?

金星特急 (3)

砂鉄の動機
評価:☆☆☆☆☆
 中央アジアへと進んだ金星特急は、月氏の支配地で停車した。月氏とは、世界有数の傭兵集団にして、三本の鎖からなる国家だ。金星特急の花婿候補達を迎えに来た白鎖の三月と赤鎖の無名は、砂鉄に対して気安く話しかける。砂鉄は黒鎖の二鎖であり、彼が金星特急に乗車した動機である探し人も、月氏の人間だったのだ。
 月氏のトップ・鎖様の発案で、金星特急の乗客はもれなく月氏の祭に参加させられることになる。それは、年に一度行われる月氏の構成員の入れ替え戦であり、現在の構成員との勝負が課せられるのだった。

 武芸の心得のあるユースタスですら、勝負は五分という相手に対し、素人の錆丸はどう対処するのか?

 どうして世界中の人々は、一部を除いて同じ言語を使っているのか?その背後に見える、純国語普及委員会とは何なのか?そんなことを仄めかしつつ、ユースタスをいじりつつ、さらにめんどくさいアルベルトを仲間に加え、段々と情報が開示されていく。

金星特急 (2)

密林のかぐや姫
評価:☆☆☆☆☆
 上海を出発する際に、金星特急を途中下車すると樹になってしまうことを知った錆丸、砂鉄、ユースタスの3人は、次はジャングルのど真ん中で列車から降ろされる。次なる金星の要望は、王の火を手に入れること。限られた情報から、遠くに見える塔を目指す3人だったが、それは新たな困難の始まりだった。
 金星特急に置き去りにされ、与えられた猶予時間は98時間!それまでに金星特急を見つけ出さなければ、樹になって死んでしまう。それぞれの得意領域を生かし、情報をかき集めていくのだが…。

 「遊女に惚れられる」という台詞が妙に印象に残った。それを他人の評価軸として使える錆丸のこれまでの人生って、すごい気がする。そして、ユースタスの秘密が明らかになり始める。

金星特急 (1)

旅路で知ること
評価:☆☆☆☆★
 金星は絶世の美女だ。そして花婿を募集している。条件は生殖能力のある男であること。選ばれればこの世の栄華を手に入れることが出来る。そんなうたい文句があれば、数多くの人が押しかけて来るかも知れない。しかし、ここにあるのは高揚と恐怖だ。
 金星が仕立てる金星特急は、世界中の様々な場所に現れる。物理的に排除しようとしても出来ないばかりか、それをしようとした者たちは文字通り消される。そして普通に金星特急に乗った者も、二度と帰ってはこない。だが、誰も乗せなければ金星特急の周囲は消滅してしまう。だからここにあるのは、栄華を目指す者の高揚と、巻き込まれたくない者の恐怖だ。

 そんな金星特急が、今回は東京駅から出発する。15歳の錆丸は、周囲の反対を押し切って金星特急に乗ることを決めた。金星に一目ぼれしたからだ。生みの親の形見の着物とトカゲのウェルを相棒に、東京駅へと向かう。
 そこで出会ったのが、聖マセッティ騎士団領出身の元騎士ユースタスと、正体不明の男・砂鉄。人懐っこい錆丸は、彼らにまとわりつき、ともに行動することになる。そして金星特急は、多数の脱落者を出しながら、陸路、上海へと向かうのだった。

 現在までの歴史とは異なる過程を辿ったような世界で繰り広げられる不思議な物語。基本的に言語はひとつで、言葉が通じないということは稀にしかない。まるで20世紀初頭の歴史世界の様でもあり、しかし現代的な世界で物語は進行する。
 それぞれ目的があって乗り込んだ金星特急。停車する都市で、彼らは世界の問題を見せつけられ、そして金星特急の恐ろしさを知る。そのたどり着く先には一体何があるのだろう。

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