江波光則の書評/レビュー


 江波光則の書評/レビューを掲載しています。

樹木葬 −死者の代弁者−

評価:☆☆☆☆★


密葬 −わたしを離さないで−

評価:☆☆☆☆★


我もまたアルカディアにあり

評価:☆☆☆☆★


ボーパルバニー

首切りウサギの悲哀
評価:☆☆☆☆★
 道場怜は燐華や龍童、銘次を巻き込み、中国系マフィアから3億円を掠め取った過去を持っていた。そしてその金を管理し、必要な時に仲間に渡す役割を担っている。
 そんなある日、仲間の一人が路地裏で首を斬られて死ぬという事件が起きる。しかもその犯人は、バニーガールだという噂だ。

 事態を復讐と見た怜は、仲間たちに警戒を呼び掛ける。だが首切りウサギの影はすぐそばまで迫っていた。

鳥葬 -まだ人間じゃない-

仮面を剥がれる場所
評価:☆☆☆☆☆
 男子高校生が一人、ラブホテルで死んだ。その少年、八尋と同じ高校に通う陵司は、彼が死ぬ前に「過去に殺される」というメールを受け取っていた。そう、彼らには殺されてもおかしくない過去がある。
 小学生の頃、花火大会で街が盛り上がっていた夜に、親元を抜け出した瑛次、燈子、陵司、桜香、八尋は、道路に向けて石を投げる遊びをしていた。そのうち、陵司が大きな石を道路に投げてしまい、それにコントロールを奪われた車が事故を起こし、運転手は死んでしまったのだ。

 幼さゆえに裁かれることもなく、責任は全て両親が背負い、ただ反省を促されるだけでどう償えば良いかも教えられなかった少年は、ただひとり孤独に生きることで自身の存在を許容していた。そして、八尋は陵司の罪を勲章として纏い、それを武器にして荒れた人生を送っていたのだ。
 八尋の通夜で桜香と再会した陵司は、八尋の死の真相を明らかにしようとする。

 ボニー&クライドのような生き方を選択した瑛次と燈子、罪を隠し自分を偽って周囲に溶け込んできた桜香と、それぞれ生き方は異なれど、久々に再会した4人の中では、一切、嘘が差し挟まれない。そこが彼らの最後の拠り所となっている。だからこそ、その関係に嘘を持ち込んでしまった時、それまで必死によろってきた仮面が破綻し、維持できなくなってしまうのだ。

ペイルライダー

恐ろしく静かな教室
評価:☆☆☆☆☆
 父親の仕事の関係で七度も転校している享一は、いつ頃からかクラスのパワーバランスを崩すことに楽しみを覚えるようになった。趣味でやっているブログなど、ネットの世界では普通に他人と関係が築けるのに、リアルではそんなことをしてしまう。
 だが、新しく転校した高校はかなり奇妙だった。クラスメイトたちが一様で、個性が感じられる行動を教室で取らないのだ。その原因は、新卒二年目の教諭・蒔絵が敷く密告奨励制度だ。他者の失点を報告することで、指定校推薦枠の獲得に一歩近づくことが出来るという。

 とりあえずクラスで何もすることがなくなった享一は、ただ一人、クラスで毛色の違う鷹音の眼鏡のフレームを眺めていた。好きなブランドなのだ。そしてその視線に気づいた鷹音は、享一にアプローチをしてくる。
 一緒にライブに行ったり、同じ映画を離れた席で見たり、奇妙な距離感で交流をしていた二人だが、あるとき鷹音がクラスを一変させる計画を打ち明けてくる。その提案に対してどうするか。享一が自分の立場を決めきれぬうち、鷹音を災難が襲う。その原因は、享一にあった。

 相変わらずエグいネタを平気で学園ものに放り込んでくる。イジメはある意味で定番だが、密告奨励制度や強姦、脅迫や復讐はあまりない気がする。だから中盤では思いっきり暗くなるし、陰惨な描写も多々あるのだが、終盤では意外なまでに明るい終わり方になる。その主因は、鷹音の性格によるとは思うのだが、それが適切かどうかは分からない。
 そして密告奨励制度。普通にがんばったら大学進学など望めない生徒に、指定校推薦枠という魅力的なエサを用意して、教室を統治する。彼女の動機には一応理由があるのだが、その解決のためにこのやり方しか出来なかったとしたら、それはやはり元々の教育システムに問題があるのだろう。

パニッシュメント

神という存在に振り回される人間たち
評価:☆☆☆☆★
 男子高校生の郁は、本人も気づかないうちに、誰かを殺しそうな表情をする。そんな彼の癖を知ると怖がる者もいる中、クラスメイトの常磐は普通に接してくれている。
 だが、そんな常磐に対して、郁はひとつの大きな隠し事をしている。常磐の家の不幸の原因、彼女の母親が信仰している新興宗教の教祖が、郁の父親・崇史なのだ。そしてその後ろめたさが、彼にどこか一歩引いた姿勢をとらせてしまう。

 常磐の家の問題が大きくなっていき、それを支えるとさりげなく郁が言ったあくる日。同じくクラスメイトの七瀬が、郁に付き合うよう迫ってくる。…郁の父親の秘密を脅しとして。
 常磐を悲しませながら七瀬と行動を共にする郁は、彼の周囲に彼の父親の影響が思わぬほど深く根ざしていることを知るのだった。

 軽々しく扱っているとは思わないが、ラストの終わらせ方を含めて、スッキリすんなりいかない作品。中頃までは、殺しそうな表情をするという設定がどうしても余分なものに思えてならなかったのだが、それは最後に凶悪なまでに機能することになる。
 正直言って、妊婦さんはあんまり読まない方が良いのではないかなあと思ったり、思わなかったり。しかし、面白くないわけではない。ただし、対象年齢は高めという感じかな。
 ガガガ文庫はいつもチャレンジングだ。

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