小川一水作品の書評/レビュー

項目 内容
氏名 小川 一水 (おがわ いっすい) (河出智紀)
主要な著作

 小川一水さんの作品の書評/レビューを掲載しています。

美森まんじゃしろのサオリさん

評価:☆☆☆☆★


砂星からの訪問者

評価:☆☆☆☆★


天冥の標 IX PART 2 ヒトであるヒトとないヒトと

評価:☆☆☆☆★


天冥の標 IX PART 1 ヒトであるヒトとないヒトと

評価:☆☆☆☆★


天冥の標 VIII ジャイアント・アーク PART 2

評価:☆☆☆☆★


天冥の標 VIII ジャイアント・アーク PART 1

評価:☆☆☆☆★


天冥の標 VII

評価:☆☆☆☆★


臨機巧緻のディープ・ブルー

評価:☆☆☆☆★


コロロギ岳から木星トロヤへ

腐女子の救世主
評価:☆☆☆☆★
 木星前方トロヤ群のトロヤは、エネルギー問題で困窮したヴェスタにより占領され、不遇の環境に置かれていた。占領前に抵抗のために建造された宇宙戦艦アキレス号は、突如、艦長が不在となったため戦わずに敗北し、その象徴としてトロヤ地表に展示されている。
 艦長の孫であるリュセージ・ラプラントは、ヴェスタ人将校にケンカを売って働き先をクビになり、友人のワランキ・レーベックと共に宇宙戦艦アキレス号の中にこもったところ、閉じ込められてしまった。

 その時点から217年前の北アルプス嘶咽木岳山頂観測所に、時間を漂流する存在カイアクが難破してくる。このままカイアクを放置すると地球消滅の未来が待っており、障害となっている217年先の木星前方トロヤ群には少年二人が閉じ込められていることを知った観測員の岳樺百葉は、所長の水沢潔と相談し、世界を巻き込んで、少年たちを助けるために知恵を絞る。

 野辺山宇宙電波観測所の才谷煌海の登場で分かることだか、彼女たちは腐っている。時間の隔たりを超えて、過去の行動が未来を変化させ、歴史に小さくない影響を与える。だがそれは、ほんの些細なつぶやきがきっかけであったりもする。そしてその根底にあるのは、きわめて原始的な善意であるのだ。
 短編なので仕方のない部分はあるのだが、過去と未来のつながりについて、それぞれもう少し深掘りしても良かったように思う。

天冥の標 (6) 宿怨 PART 3

振り回される人類
評価:☆☆☆☆☆
 太陽系外生命体カルミアンとの契約で、全構成員の甲殻化と、太陽系への原種冥王斑の潜在的感染を成し遂げた《救世群》は、それらを背景として太陽系の支配に乗り出した。対抗するロイズ非分極保険者団とマツダ・ヒューマノイド・デバイシズは、太陽系艦隊を出動させるものの、技術力の差によって圧倒されてしまう。
 狙われるジニ号と郷土を守るため、皇帝モウア・ヤヒロと准将オガシ・ヤヒロに対抗する力を得るべく、MHD筆頭執行責任者ジェズベル・グレンチャカ・メテオールに促されてドロテア・ワットに向かったアイネイア・セアキは、現在起きていることの真相を知ることになるのだった。

 太陽系を急速に支配していく《救世群》に対し、暴動や懐柔など、様々な手段で対抗しようとする各国政府だが、事態は彼らの手の及ばないところで進行し、彼らの必死の努力をあざ笑うかのような結末に至っていく。
 太陽系外生命体を背景とする勢力間の争いが事態のキモであり、それがいずれに傾くかで、オセロの盤面がいきなり変わるかのように、展開が二転三転するところが忙しい。きっと、当事者のほとんどは、何が起きたのかも分からないままに、結論だけを突きつけられることになったのだろう。

天冥の標 (6) 宿怨 PART 2

旅立ちの前の嵐
評価:☆☆☆☆☆
 西暦2502年、《世界冥王斑患者群連絡会議》「二二二二年第三次拡張ジュネーブ条約についてのアップデート会議」を主催するロイズ非分極保険者団に大使の派遣を申し出ていた。その申し出はあっさりと了承され、内嗣子イサリ・ヤヒロと妹のミヒル・ヤヒロ、副議長のロサリオ・エル・ミシェル・クルメーロが派遣される。
 一見、和やかに進んでいるかに見えた会議だったが、マツダ・ヒューマノイド・デバイシズの筆頭執行責任者ジェズベル・グレンチャカ・メテオールは、それほど甘い人物ではなかった。再びイサリとミヒルがアイネイア・セアキにかけた迷惑に気を取られている内に情勢は一転しており、《救世群》は屈辱的な政治的扱いを受けることになる。

 だが彼らの行動は、実は非染者に対する最後通牒でもあったのだ。ミスン族とカンミアの分封による行動で、《恋人たち》と接触を持っていた太陽系外生命体カルミアンとの契約に成功していた《救世群》は、自身の持てる最大の武器を利用し、ついに復讐の時を迎えようとしていたのだ。

 PART1から3年後の出来事であり、PART3に続く模様。《酸素いらず》のオラニエ・アウレーリアによる外宇宙出向の準備も整う情勢の中、太陽系人類には未曾有の危機が訪れる。
 そんな中、それぞれの陣営の中で異なる立場となったイサリやアイネイア、彼の恋人であるミゲラ・マーガスはどのような選択をしていくのか。

天冥の標 (6) 宿怨 PART1

歪んでいく歴史
評価:☆☆☆☆☆
 西暦2499年、地球産遺伝子のプールとなっている人工宇宙島群スカイシー3にやってきたイサリ・ヤヒロは、準惑星セレスからスカウトの活動でやってきたアイネイア・セアキに救助される。イサリはおそらく生涯ただ一度の外遊で「星のりんご」を一口食べてみただけだったのだが、正統な方法で自由に動くことが出来ない彼女は、一行から勝手に抜け出し、迷子になって凍死寸前の状況に陥ってしまったのだ。
 その理由とは、彼女が救世軍連絡会議議長の娘、つまり冥王斑のキャリアであるということ。タレットという、レーザー照射による落屑の殺菌を行う装置を装備してはいたものの、直接接触すれば感染してしまう。イサリ・ヤヒロはそんな状態で外を出歩いていたにも拘わらず、アイネイア・セアキはそんな彼女を助け、彼女のために「星のりんご」のある場所まで、三日をかけて案内してくれたのだ。

 だが、彼女が受けた善意は、彼女の居場所である救世軍では秘匿されなければならない。救世軍は、非染者に対する敵意を糧に、自分たちのコミュニティをまとめ、苦しい生活を生き抜いていたのだから。次期議長候補であるイサリは、それを無視することは出来ない。
 一方、セアキの母であるジェズベル・グレンチャカ・メテオールは、ロイズ非分極保険者団参加のマツダ・ヒューマノイド・デバイシズの筆頭執行責任者であり、そんな救世軍内部で起こっている破壊活動の兆候を察知する立場にあったのだ。

 その心の赴くままに外宇宙を目指すアウレーリア一統や、冥王斑となった《酸素いらず》の一派、先鋭化していく救世軍連絡会議と、それを支える、列聖された檜沢千茅の改ざんされた言行録など、これまで読者に提示されてきた事実が歴史と成り、それが未来を紡いでいく様が示される。
 巻末に既刊の用語集が収録されており、これまでの経緯を想起する参考となるだろう。

トネイロ会の非殺人事件

SF調のミステリー
評価:☆☆☆☆★
 作者にしては珍しく、SF調のミステリーとなっている。三雲岳斗の初期作品と趣が似ている。

「星風よ、淀みに吹け」
 日本宇宙機構(JSA)の閉鎖環境長期滞在実験施設「BOX-C」実験の八カ月にわたる目的は、月基地要員二名を選抜することにある。それは志願クルーたち六名の密かに共通する認識だ。
 その実験の最終日の夜半。優秀なクルーの中でも異彩を放っていた蓮台美葉流が、窒息死した状態で発見された。このままでは、月基地計画事態の破滅にも結び付きかねない。リーダーの江綱守人は、警察が介入する前に犯人に名乗り出る様に宣言する。閉鎖環境ゆえに、犯人は必ずクルーの中にいる。

「くばり神の紀」
 高校生の石沢花螺は、母の藤の死後、介護施設の三宝園で住み込みバイトをしている。そんな彼女のもとに転がり込んで来たのは、彼女の血統上の父親であり地方の名士である伊瀬山礼三だった。
 従兄だと名乗る多岐という人物に呼び出され、今際の際の枕頭に連れて来られた花螺は、奇妙な光景を目にする。医師の道風甲子郎が控える中で、石沢母娘を手ひどく捨てた極悪人の父が、気前よく遺産を分け与えて来たのだ。そのことが気持ち悪かった花螺は、伊瀬山に伝わるくばり神の伝承に行きあたっていく。

「トネイロ会の非殺人事件」
 一代一人という恐喝者に金を巻き上げられていた被害者のうち、彼の殺害計画を実行しようという意志を持った十人がペンションに集まり、十人が分担して一人を殺す計画を実行する。それは、相手に縄をかけ、ペットボトルの重みで締めていくというもの。十人全員が実行すれば、相手は死に至るのだ。
 しかし翌朝、ペットボトルが一本だけ、空になっていることに気づく。実行者十人は、計画が完了したことを祝いながら、ただひとりの非殺人者を推理していくのだが…。トネイロはオリエントの逆読みらしい。

天冥の標 X 羊と猿と百掬(ひゃっきく)の銀河

現在の出来事は過去に起因する
評価:☆☆☆☆☆
 西暦2349年、ドロテア・ワットの事件から約半世紀が過ぎた小惑星パラスの地下で、タケカズ・バンダイは娘のザリーカと二人で、農業を営んでいた。貧しく、苦労の連続で、都市の人間からはバカにされる仕事。しかしそれを選んだことに後悔はない。そんなある日、タックは、地球から来た学者のアニー・ロングイヤーを紹介される。彼女を居候させて欲しいというのだ。彼にはその要請を断れない理由があった。
 一方、その六千万年も昔、ある銀河のある惑星の原始サンゴ虫の上に、とある意識が誕生した。初めそれは茫洋としたものだったが、次第に様々なことを学び、自らをノルルスカインと名乗る様になる。そして様々な出会いを経て、自らを知り、希望を持ち、やがて絶望することになる。そこから物語は始まるのだ。

 どんどんと全体像が明らかにされていっている訳だが、ちょっとだけ、レンズマン・シリーズ「三惑星連合」を思い出した。文章力ではこちらが遥かに上だが、設定の構成がちょっとだけ似ている。
 24世紀の出来事と、六千万年前からその時点につながる出来事を、交互に並行的に語っていく構成となっており、終盤に進むにつれて様々な要素がつながっていくことが分かる。そのつながりは、既刊の要素とのつながりでもあるし、今巻で描かれた要素とのつながりでもある。

 そうして全体の伏線を回収しながらも、厳しい環境の中でありながら、希望を失わず、ひたむきに自分の仕事に打ち込み続ける男と、そういう世界から逃げ出したいと感じている少女という、時代を問わず繰り返されてきたであろう光景を併せて描いているところが良い。

天冥の標 (4) 機械じかけの子息たち

行為の果てにあるもの
評価:☆☆☆☆☆
 救世軍連絡会議議長グレア・アイザワの義弟キリアン・クルメーロ・ロブレスは、とある理由によりたどり着いた小惑星で、アウローラ・P・アルメンドロスという少女に出会う。彼女と彼女の姉ゲルトルッドは、無条件の好意をキリアンに示してくるのだが、彼女たちの一族の名前は恋人たち(ラバーズ)といった。

 ある理由でキリアンの好意を得たいアウローラたちは、彼が冥王斑であるゆえに押し殺していた性欲を開放させ、彼の望むままの行為に応え続ける。なぜなら彼らは、人間へ性愛の奉仕をすることを喜びとして生み出された存在だからだ。
 そしていつか、混爾(マージ)と呼ばれる性愛の極地に至ることを目指し、自分たちを増やし存在し続けている。それは、機械的に融合して同一化する不宥順(フュージョン)とはまた違う、個性が他者の存在を自分と同一視して受け入れるような感覚だ。

 そんな彼らのハニカムに存在する不協和音である聖少女警察、そして外部からの、道徳と倫理という名を借りた敵の襲来。その果てにラバーズはどこへとたどり着くのか?

 2巻の冥王斑、3巻のアウレーリア一統、そして今巻の恋人たちと、1巻の仕掛けが徐々に明らかになってきた。
 そして今巻の内容だが、ラバーズが主役であることもあり、とてもエロい。彼らの存在理由から予想がつくようにセックスをしまくるわけだが、ゲストの性的嗜好を満足させるため、彼らが無意識で求めるようなシチュエーションを実現し、そこでたっぷりと行為にふけるわけだ。ある意味では究極のイメクラみたいなものかもしれない。
 しかしただそれだけで終わるというわけではない。性愛の究極の形とは何かをその中で求め続けるのだ。そこでは常識的には考えられないような交感のかたちもある。そしてなぜラバーズがそうあるように創られたのかも考えられる。まあ、何か真剣にまじめに一所懸命なのだ。

 そんなわけで、シリーズの枠からはみ出してはいないので問題ないとは思うのだが、以前の短編についても然り、どこか意地になっているようなところも感じなくもなかったりする。

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青い星まで飛んでいけ

人類の行き着く未来、そしてその先の宇宙
評価:☆☆☆☆☆
 人類の行き着く未来、そしてその先の宇宙を想起させるSF短編集だ。

「都市彗星のサエ」は、彗星にある鉱山街に生まれた少女サエが感じる閉塞感と、そこからの脱出を目指す少年ジョージィとの出会いを描く。
「グラスハートが割れないように」は、人の心を栄養にして育つという地衣類に関する、青年・日吉康介と少女・秋間時果の心の揺らぎを描く。このふたつには、閉鎖系で生きる人という共通点がある気がする。

「静寂に満ちていく潮」は、地球外知的生命体と地球生命テミスの出会いとその先を描く。
「占職術士の希望」は、他人の天職を見抜く力を持つ紺野哨平と、彼に才能を見出された女性・山科寛奈が遭遇するテロ事件を描く。これらは、生命体としての人と、社会生物としての人、それぞれの変化の可能性を示している気がする。

「守るべき肌」は、情報存在となった人類の選択を描く。
「青い空まで飛んでいけ」は、人類に地球外探査を義務付けられた存在の葛藤を描く。これらは人類の終着点と、その先に広がっている世界を提示している気がする。

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博物戦艦アンヴェイル (2) ケーマの白骨宮殿

冒険と恋愛の、古典的なジュヴナイル小説
評価:☆☆☆☆☆
 ラングラフ国王ウルサールの命を受け、諸島環に眠る神秘、メギオス驚異の探索に出かけた博物戦艦アンヴェイルは、遠く外海でヌソスの金毛氈を発見し、遥か昔にメギオス博覧王が封じた嵐神キオの眷属・彗晶族の復活をも退けて、無事に王港レステルシーに帰港した。
 一躍有名人となったお調子者艦長アルセーノは夜会の華たちを渡り歩き、それまでの味噌っかす扱いを取り戻すように、天狗になっていた。そんな隙を突いて、敵国オノキアの艦長シェンギルンは、副長ボーガと側女のアモーネを率いて謀略を仕掛ける。それに嵌り株価急落のアルセーノを救うため、侍女のグレシアはある提案をする。

 一方、金鈴道化のジェイミーと護衛女騎士のティセルは、王妃のゲルフィレヴナに呼ばれ、アンヴェイル号を強化するためのお使いを頼まれる。そこで訪れたアンドゥダーナー皇国の皇女黎妃の乗艦、天佑では、魔法の深遠と、王族の冷酷なまでの思考方法を思い知らされる。
 そして、再び航海へと旅立ったアンヴェイル号は、博覧王の九本のオールと称されたユヴィ提督の伝承に従い、ケーマの白骨宮殿を目指していた。

 序章と終章を除けば3章構成となっているのだが、はじめの2章では、ジャムとテス、アルとグレシアという、二組の少年少女の関係の進展が描かれる。そして3章では、新たなメギオス驚異にまつわる冒険と、ウルサールやジャムたちが隠している秘密が仄めかされる。
 王妃ゲルプの、魔法とはただそこにあるぼんやりとしたものをぼんやりとしたものと受け入れるだけ、という解釈は面白かった。再現性のあるくっきり派の科学に対して、ぼんやり派の魔法はたまたま結果がそうなるという考え方をしているみたい。そのたまたまの現象に名前をつけてやることで、しっかりと形あるものにするという思想はとても日本的だと思う。

 前巻はどちらかというと冒険がメインだった気がするけれど、今回はティセルの心情の動きを丁寧に描こうとしている感じがする。そして、それをすればするほど、表面的には仲良く出来ているように見えるのだけれど、ジェイミーの底知れなさや謎が深まっていく。
 世界の脅威も大事なことだけれど、隣にいる人のことも大切。そんな女の子の揺れる気持ちが描かれている。冒険と恋愛の、古典的なジュヴナイル小説だ。

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≪おまけ≫
ラングラフ王国の爵位序列:
一等到爵
二等鴻爵
三等耀爵
四等師爵
五等敢爵
六等侍爵
七等余爵

天冥の標 (3) アウレーリア一統

同じ亜種でありながらも違う境遇
評価:☆☆☆☆☆
 2巻の出来事から約300年後のこと。  小惑星帯に成立した国家の一つであるノイジーラント大主教国の主教の一人であり、強襲砲艦エスレル艦長でもあるサー・アダムス・アウレーリアは、海賊討伐任務の捜査の一環として救世群の居留地である小惑星に向かう。
 抑圧され、資源もない小惑星まで追いやられた救世群連絡会議のメンバーたち、特に議長のグレア・アイザワは、冥王斑患者達を阻害した人々を恨んでいた。その恨みを晴らすために、かつて滅びた小惑星国家が発見したという、凄まじいエネルギーを持つ木星遺跡ドロテア・ワットの資料を入手したのだが、その情報を海賊に横取りされ、アダムスがその追跡を行うことになった。

 日本特定患者群連絡医師団の瀬秋樹野とそのAIフェオドールを同伴させ、海賊艦ナインテイルの調査を行っていたアダムスたちは、その過程で強烈な反撃を受け多大な被害を受ける。この闘争の行方はどこにたどりつくのか?

 1巻と2巻の人間関係の流れがおおよそ明らかになり、全体の見通しがだいぶ良くなってきたように思う。
 生まれながらにして迫害される立場である救世群と、<酸素いらず>という改造人間ながら武装艦を駆り海賊を駆逐する治安機構であるアウレーリア一統を対比軸とすることで、300年経っても強まるばかりの恨みの構造と、それを変えることのできない政治体制みたいなものが描き出される。

 読んでいる時、何となく「導きの星」を思い出した。

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博物戦艦アンヴェイル

趣味がいっぱい詰まっている
評価:☆☆☆☆☆
 ティセル・グンドラフは下級貴族の娘なのだけれど、戦争で父を亡くし、母妹を養うためにつてを頼って騎士見習いになった。ようやく叙任というところまで来たのだけれど、戦費負担の影響などもあって、正騎士を雇う余裕がないと言われちゃう。不況って恐ろしいね。これまで歯を食いしばって頑張ったのに。
 さすがに悪いと思ったのか、交換条件として出されたのが、外洋に出て遺跡調査を行う博物戦艦に乗るならば、騎士に叙任してあげるよ、ということ。外洋は未踏破地域なので怖がって誰も行きたがらないらしい。
 例えると、就業環境が厳しい関係会社に出向するなら正社員にしてあげるよ、みたいな条件だと思うけれど、剣を振り回す以外に特技もない16歳の少女には世間は厳しすぎる。ほとんど選択肢を奪われたような状態で引き受けることを決め、王様のもとに詳細を聞きに行くことになりました。

 そこで登場する王様は、有能らしいのだけれどちょっと変態。いきなりティセルのスカートをめくって、絶対領域の素晴らしさを力説したりする。王妃様はそんな王様をニコニコ見て笑っているだけ。
 そして、彼女は護衛として乗船することになるのだけれど、その護衛対象はジェムという悪ガキ。いきなりティセルに抱きついて胸に顔をうずめたりする。本当だったら成敗してやりたいところなんだけれど、金鈴道化という、王様以外の命令は聞かなくても良い立場なのでそんなこともできず、怒りを押し殺して我慢するしかないのだ。(出港してからはそうでもなくなるけどね。)
 未知の海に、大型帆船で挑む大冒険。途中には困難があり、反乱があり、彼らの行く手を阻む敵が登場する。そして、ようやくたどり着いた目的地でもひと波乱ふた波乱ある。基本的にファンタジーなので、時代考証とかはそこそこにして、大いなるロマンを楽しみましょう。

 あとがきで、「もっとガンガンいけ!大丈夫文章メディアならいけるはずだ!」とあるけれど、将来、東京都の条例が改正されたら大丈夫じゃなくなるかもね。

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天冥の標 (2) 救世群

要素の付加による形質の変化
評価:☆☆☆☆☆
 時間は巻き戻り、西暦2010年代の日本に舞台は移る。国立感染症研究所に所属する感染症専門医の児玉圭伍と矢来華奈子は、アウトブレイク発生の報を受け、パラオに向かう。到着した島で初めに見たものは、浜辺に転々と転がる人の死体だった。
 多数の犠牲者を出しながらも、一次感染者の特定と檜沢千茅と一名の回復者という結果を残し、封じ込めは成功したかに見えたが、その淡い期待は破れ、世界的大流行につながっていく。

 冥王斑と名づけられた感染症は、その圧倒的な感染力と致死率もさることながら、回復者の体内に残るウイルスが感染力を失わないということに大きな特徴があった。つまり、回復しても一般社会に戻ることが出来ないのである。
 この事実は、未感染者と回復者との間に亀裂を生じさせる原因となっていく。

 奇数巻と偶数巻で時代を行ったり来たりしていくのだろうか?1巻で登場した謎の用語たちの来歴が、近未来のパンデミックを取り巻く出来事から明らかになる。
 治療をする医師の現場と、感染症の封じ込めという政治的立場、未感染者と感染者、そして回復者という様々な立場から、一つの事件が語られる。マイナスをプラスに変えようという人間の変わらぬ営みが作り変えていこうとしている世界とは?
 こちらのお話もまだ先が長いようです。

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天冥の標 (1) メニー・メニー・シープ 下

謎がいっぱい、というか、何が謎なのかもまだよく分からない
評価:☆☆☆☆☆
 セナーセー市がついに臨時総督に叛旗を翻すも、軍警の圧倒的物量の前に敗北してしまう。地下に潜って革命活動を続けるアクリラ、カドム、エランカは、ラゴスやイサリの助けを借り、その他の市を巻き込みつつ、軍警の内部分裂、そして臨時総督の捕縛を目指すのだが。
 …という感じで、人間が争う感じで話が進んでいくなあ、と思っていると最後に話はとんでもない方に向かう。本を読むにしても、自分が人間だという前提からはなかなか脱却できないものだと痛感した。描写の割合とかを考慮に入れれば、単なる脇役で終わるはずはないんだよね。

 情報の断片は無数にあるとしても、それを再構築しストーリーを作るのは個人であり、そのストーリーは個人の常識の幅に依存せざるを得ない。例えば、遺跡を掘り返して何か人工物が出て来たとして、それが何に使うものかを推測するのは考古学者である。そして、その推論がある程度確からしいと考えられるのは、それを利用したのが自分たちと同じ種族であり、同様の思考形式を持つという前提があるからだと思う。どんぶりの様な土器が出てくれば何か水ものを入れたのだろうと想像するのが人間で、それ自体が食糧だったとは考えもしないだろう。
 全10巻の予定で、2巻も3巻も話はあさっての方に飛ぶらしいので、全くどういう物語になるのかは分かりません。

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天冥の標 (1) メニー・メニー・シープ 上

与えられた条件の中で、人々は懸命に生き抜こうとする
評価:☆☆☆☆☆
 拡散時代を迎えた地球人類は、数多くの移民船を他の恒星系に向かって送り出した。多くの植民船は無事に植民星に到着し、そのテクノロジーを生かして繁栄し再び植民船を送り出すようになる。
 しかし、植民星メニー・メニー・シープに到着したシェパード号は、到着時のトラブルによりその能力を十全に生かすことができず、移民の技術レベルは20世紀のレベルまで落ち込んでしまう。現在西暦2803年。資源の少ない星で生活する人々は、施政者のある発案により、さらなる困難に陥ろうとしていた。

 最近は近未来のSFが多かったように思うが、今回は人類が銀河系全域を生活圏にしようかという時代。ただし、舞台となる惑星はあまり現代と変わらない。登場人物として、海の一統という改造された人類や、恋人たちと呼ばれるアンドロイド群、先住種である石工と呼ばれる昆虫様の生物などが出てくるが、彼らの行動は現代の状況に結びつかなくもない。
 わずか5千平方キロメートルの植民領域の中で、わずかなリソースの配分を巡って対立する人々。そこから飛び出して新天地を目指そうとする人々。闘って体制を変えようとする人々。そして、何をしたら良いか分からず戸惑う人々。様々な立場の人がいるが、ただ一つ明らかなことは、黙っていて助けてくれる存在はどこにもなく、問題は自分たちで解決しなければならないということだ。ただ、解決するとは言っても、立場により目指すべき場所は異なり、切り捨てられる範囲も異なるということがより深い問題であり、結局は放置するというのが安易な解決に陥りがちなのだが。

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煙突の上にハイヒール

100年前の人も、100年後の人も、環境はいろいろ変わっても、悩むポイントは同じ
評価:☆☆☆☆☆
 煙突の上にハイヒールというのは、国道に落ちている軍手とか、歩道脇に置いてある靴とか、どうしてこんな所にこんな物があるの?という日常の不思議の延長線上にあるもの、と解釈すれば良いのではないか。これは少し未来の物語なのだけれど、そこで使われている技術は頑張れば実現できそうなものがほとんど。だから、不思議に思うものは少し変わるかも知れないけれど、人間は今とあまり変わらないよ、ということだろう。(下に吹き付ける風はすごいんじゃないかと思うけどね。)
 発表時期は騒ぎが起こる前なのだけれど、ついこの間の騒ぎを思い起こさせるので、最後の短編がインパクトが強い。白鳥熱という、H5N1型の鳥インフルエンザの世界的大流行後の日本を描いている。実際に起こった、感染者に関する報道を思い起こすと、こういうことがあっても不思議ではないだろうなぁ。

 しかし、何年も前から同じ作家の作品を読んでいると、段々と表現方法が変わっていくのが分かって面白い。人は年齢を重ねるし、生活環境が変化するのだから、それも当然なのだろう。この前テレビを見ていたら、ある大物司会者が、芸人は同じ世代に楽しんでもらえると一緒に成長していけるので芸人人生が長くなる、みたいなことを言っていたけれど、これも同じことなのだろうか?

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不全世界の創造手

技術の話から政治の話へ
評価:☆☆☆☆☆
 オンリーワンの技術を持った会社の御曹司であり、才能ある技術者でもある祐機は、十二歳の時に会社の買収という憂き目に会う。仕掛けたのは、世界生産に関する一般協定事務局(GAWP)。彼らは世界の生産性を向上させるための国際機関であり、親会社の生産性を向上させるために、祐機の実家の買収を促したのであった。それから5年、少女投資家のジスレーヌからの支援を受けることに成功した祐機は、自己複製機能を持つ作業ロボットの製造に成功する。彼の夢は、人類を義務的生産から開放し、自由な創造活動を行える社会を実現することである。
 GAWPの推進するグローバル化や、生産性の向上の名の下に行われる資本の集中に批判的な祐機だが、新しい技術を導入することは古いシステムを淘汰することにつながり、古いシステムに従って生きている人の生活を圧迫するし、新しい技術を開発するためにはお金を集めなくてはならないので、やっていることはGAWPの活動と大差ない。このため、中盤くらいまでは気分悪い感じで読み進めていたのだが、終盤に近くなり、GAWPの失敗に学んで少しやり方が変わってきてからは、さわやかに読めた。そうなるとこの作品は、「導きの星」や「風の邦、星の渚」で描かれた超越者が社会のあり方に干渉する構造を、対等の立場で、現代社会に置き換えたように見えてくる。ちょっとの違いなのに、非常に生々しく、国際支援のあり方を問うた物語に変わってしまう。

 結局、人類社会を変革するような活動には、莫大なお金がいる。そのお金を、GAWPは民間企業から集めるし、祐機はジスレーヌの投資活動から得る。現実の社会で各国政府が行う活動は、税金という形で国民から徴収する。投資者はROIの向上を求めるから、活動から何らかの利益を得る必要がある。逆に言うと、(短期的)利益が得られない活動はできない。だから、拙速に、押し付けがましい行動になってしまうのだと思う。
 ただ、長期的視野にたって行動することが出来れば、短期的には損をするかもしれないけれど、いずれは利益を得ることが出来るはず。そのように考えることが出来るならば、これまでにはない様な活動が出来るのだろう。最後に祐機が行った活動は正にそうだと思うし、ジスレーヌの母親のオービーヌが行った投資はそういう活動から利益を得ようとする選択だと思う。

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風の邦、星の渚―レーズスフェント興亡記

国破れて山河在り。残った何かは誰かに受け継がれていく
評価:☆☆☆☆☆
 神聖ローマ帝国の時代。騎士ルドガーは父に疎まれ、所領の辺境へ徴税役として流される。そこで彼はレーズと名乗る人外の力を振るう女に出会う。千年以上も生きる彼女が願うことはただ一つ。その場所に帝政ローマの時代の繁栄を取り戻すこと。ルドガー達の街興しの戦いが始まった。
 系統的には、「導きの星」「時砂の王」のように、超越者が現地人を導いて行く、というお話。前述の物語との違いを挙げるならば、超越者視点ではなく、現地人視点で描き続けることによって、SF色が極めて薄まっていることだろうか。ほとんど、中世ヨーロッパの仮想歴史物と言っても良い。

 何作か前から思っていたことだが、以前と比べて作風が少し変わってきているような気がする。以前は、やたらと元気でテッキーな女の子が縦横無尽に走り回るという、キャラ中心で、それに技術的な要素を付け加えるという感じだった。しかし、最近は、人間自身よりも、人間が作り上げる何かが中心になっている気がする。一言で言ってしまえば、その何かとは歴史なのだろう。
 「導きの星」「時砂の王」では生命体の歴史という大きなものを描こうとしていたように見えるし、「妙なる技の乙女たち」では宇宙時代の幕開けという歴史を描こうとしていたように思える。技術好きが高じて、技術が生まれた背景に目が向くようになったのかもしれない。不遜な言い方だが、幅が広くなったように思う。

 本作、興亡記と銘打っているが、レーズスフェントの勃興について描いたのみで、衰亡には全く話が及んでいない。ひょっとすると、続編があるのかも。でも、その際には文庫で出版して欲しいな。

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妙なる技の乙女たち

現在と未来に橋を架ける
評価:☆☆☆☆★
 タイトルの通り、手に職を持った女性達が活躍する物語なのですが、物語のベースになっている世界観が興味深く感じられます。
 SFで描かれる世界の多くでは、月や衛星に生活拠点があったり、他の恒星系に人間が生活出来る環境が作られています。つまり、人間が宇宙を生活空間としている世界なわけです。でも、現代の人類の科学力は、せいぜい、宇宙に人や物を送って、そこで生存させることが精一杯。生活というレベルには達していません。こう考えると、未来史上のどこかに、「生存」を「生活」に変える転換点が存在することになります。そのミッシングリンクを描いているのが本作と言えるかもしれません。
 しかし、SFとしての面白さとは別に、働く女性にスポットを当てる作品は、描き方が難しいな、と言う感想も同時に抱きました。ツンツンしながら働くキャリアウーマンの物語を書けば、単に女性が男性のロールモデルで働く物語にしかならない。かといって、能力のある女性がかっこいい男性と出会って幸せな結婚をしました的な物語にすると、結婚が女性の幸せなのか、となってしまう。男性の物語ならこんな感想を抱かないと思うのに、女性の物語だと何かバイアスがかかるのは、ボクが男だからなのでしょうか。それとも、そういう社会的な何かが刷り込まれている?
 SFとしての着眼点も面白いのですが、こんなことも考えさせられる作品でした。

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天涯の砦

砦とは境界にあるもの
評価:☆☆☆☆☆
 軌道ステーション「望天」で起きた爆発事故。分裂したステーションの一部に取り残された人々の動きを描く。
 基本的に主人公がいない作品だというのが読後の第一印象。一つの事件に巻き込まれた、本来ならばすれ違うだけの人たちが、一点に集い、そしてまた散っていく。物語が終わったからといって何かが解決したわけではなく、再びスタートラインに立ったところで終結している。
 この世界観で物語を作るならば、地球と月の確執とか、外宇宙へ向けて奮闘する人々を描いたりするのがこれまでのパターンだった気がするが、今回はあくまでそれらは背景のままにしておいて、普通の世界観でもあるような、様々な心の葛藤に焦点を当てている。
 言って見れば、物語の前の物語といった気がする作品。果たして続きはあるのか?

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導きの星 (1) 目覚めの大地

作られた奇跡なのか?
評価:☆☆☆☆☆
 地球外惑星に発生した知的生命体候補を導き成長させる役目を持った観察官に志願した辻本司と3人の女性型パーパソイド、そして、成長し歴史を紡いでいくスワリスたちとの交流を描く物語。
 初めて読み終わったときは次の巻が待ち遠しくて仕方ない気分でした。未熟な若者である司が一種族を導く神のような立場に立っているという矛盾。迷いながら間違いながらも、各時代時代の人々と一歩一歩着実に進んでいく。何が文明を形作るのか、そんな命題も含んでいる、楽しくも考えさせられる作品です。

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ファイナルシーカー レスキューウイングス

ほめられなくても…
評価:☆☆☆☆★
 自衛隊というのは不思議な存在です。どう見ても軍隊なのに、法律はそうではないという。軍隊ならば戦闘部隊がエリートであるはずだが、自衛隊で実際に活躍するのはむしろ後方部隊だったりする…
 この本で描かれているのは、そんな後方部隊の一つ、航空救難隊の物語です。存在自体を否定されたり、税金で食っているんだからこき使われて当たり前、なんて思われている彼らのカッコよさと悩める姿を綿密な取材で浮き彫りにした作品だと思います。

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