風の邦、星の渚―レーズスフェント興亡記(小川一水)の書評/レビュー


 風の邦、星の渚―レーズスフェント興亡記(小川一水)の書評/レビューを掲載しています。

風の邦、星の渚―レーズスフェント興亡記

国破れて山河在り。残った何かは誰かに受け継がれていく
評価:☆☆☆☆☆
 神聖ローマ帝国の時代。騎士ルドガーは父に疎まれ、所領の辺境へ徴税役として流される。そこで彼はレーズと名乗る人外の力を振るう女に出会う。千年以上も生きる彼女が願うことはただ一つ。その場所に帝政ローマの時代の繁栄を取り戻すこと。ルドガー達の街興しの戦いが始まった。
 系統的には、「導きの星」「時砂の王」のように、超越者が現地人を導いて行く、というお話。前述の物語との違いを挙げるならば、超越者視点ではなく、現地人視点で描き続けることによって、SF色が極めて薄まっていることだろうか。ほとんど、中世ヨーロッパの仮想歴史物と言っても良い。

 何作か前から思っていたことだが、以前と比べて作風が少し変わってきているような気がする。以前は、やたらと元気でテッキーな女の子が縦横無尽に走り回るという、キャラ中心で、それに技術的な要素を付け加えるという感じだった。しかし、最近は、人間自身よりも、人間が作り上げる何かが中心になっている気がする。一言で言ってしまえば、その何かとは歴史なのだろう。
 「導きの星」「時砂の王」では生命体の歴史という大きなものを描こうとしていたように見えるし、「妙なる技の乙女たち」では宇宙時代の幕開けという歴史を描こうとしていたように思える。技術好きが高じて、技術が生まれた背景に目が向くようになったのかもしれない。不遜な言い方だが、幅が広くなったように思う。

 本作、興亡記と銘打っているが、レーズスフェントの勃興について描いたのみで、衰亡には全く話が及んでいない。ひょっとすると、続編があるのかも。でも、その際には文庫で出版して欲しいな。

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