天冥の標 (6) 宿怨 PART1(小川一水)の書評/レビュー


 天冥の標 (6) 宿怨 PART1(小川一水)の書評/レビューを掲載しています。

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天冥の標 (6) 宿怨 PART1

歪んでいく歴史
評価:☆☆☆☆☆
 西暦2499年、地球産遺伝子のプールとなっている人工宇宙島群スカイシー3にやってきたイサリ・ヤヒロは、準惑星セレスからスカウトの活動でやってきたアイネイア・セアキに救助される。イサリはおそらく生涯ただ一度の外遊で「星のりんご」を一口食べてみただけだったのだが、正統な方法で自由に動くことが出来ない彼女は、一行から勝手に抜け出し、迷子になって凍死寸前の状況に陥ってしまったのだ。
 その理由とは、彼女が救世軍連絡会議議長の娘、つまり冥王斑のキャリアであるということ。タレットという、レーザー照射による落屑の殺菌を行う装置を装備してはいたものの、直接接触すれば感染してしまう。イサリ・ヤヒロはそんな状態で外を出歩いていたにも拘わらず、アイネイア・セアキはそんな彼女を助け、彼女のために「星のりんご」のある場所まで、三日をかけて案内してくれたのだ。

 だが、彼女が受けた善意は、彼女の居場所である救世軍では秘匿されなければならない。救世軍は、非染者に対する敵意を糧に、自分たちのコミュニティをまとめ、苦しい生活を生き抜いていたのだから。次期議長候補であるイサリは、それを無視することは出来ない。
 一方、セアキの母であるジェズベル・グレンチャカ・メテオールは、ロイズ非分極保険者団参加のマツダ・ヒューマノイド・デバイシズの筆頭執行責任者であり、そんな救世軍内部で起こっている破壊活動の兆候を察知する立場にあったのだ。

 その心の赴くままに外宇宙を目指すアウレーリア一統や、冥王斑となった《酸素いらず》の一派、先鋭化していく救世軍連絡会議と、それを支える、列聖された檜沢千茅の改ざんされた言行録など、これまで読者に提示されてきた事実が歴史と成り、それが未来を紡いでいく様が示される。
 巻末に既刊の用語集が収録されており、これまでの経緯を想起する参考となるだろう。

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