大樹連司の書評/レビュー


 大樹連司の書評/レビューを掲載しています。

楽園追放 2.0:楽園残響 -Godspeed You-(ニトロプラス)

評価:☆☆☆☆★
ユーリ・アルヴィン ライカ・アリストラ ヒルヴァー・ブラウン アンジェラ・バルザック フロンティアセッター

おまえは私の聖剣です。 (3)

受け入れる戦い
評価:☆☆☆☆★
 弓弦羽市の外に怪偉人の反応が現れた。その調査を行うため、IXA怪偉人伏滅機関IXAs司令である《卑弥呼》伏姫咲耶花は、聖剣となった槇那一兎、《柳生十兵衛》千葉真琴、《ワイアット・ワープ》李小玲を連れて現地に前乗りし、温泉宿を楽しむ。
 伏姫咲耶花と千葉真琴が温泉に入っている間、卓球場に残っていた槇那一兎と李小玲に声をかけてきた赤銅色の肌の男性は、自分をゴヤスレイと名乗り、李小玲に卓球勝負を挑むのだった。

 その後、風呂で手負いのヒグマに襲われた伏姫咲耶花と千葉真琴が裸で乱入。そのヒグマが仔を探していることを知り、咲耶花たちはヒグマの仔を探しに山に入るのだが、それは大きな事件の始まりだった。

 シリーズ最終巻。どうやら打ち切りのよう。あと2冊くらいは欲しかったところなのかな?ついに槇那一兎はロリっこにも手を出してしまいます。

おまえは私の聖剣です。 (2)

本妻公認の浮気
評価:☆☆☆☆★
 弓弦羽市に現れる、人々に害をなす怪偉人を倒すIXA怪偉人伏滅機関IXAs司令である《卑弥呼》伏姫咲耶花の聖剣となった槇那一兎は、《柳生十兵衛》千葉真琴、《ワイアット・ワープ》李小玲、《立花道雪》宮永ちよこと共に、臨時の居所となったボロ屋で楽しく暮らしていた。
 しかし、前回の戦いで聖剣の力を解放した《卑弥呼》の力が凄まじかったため、弓弦羽市長にその使用を制限されてしまう。だがいつ新たな怪偉人が襲ってくるか分からない。残された手段は聖剣である槇那一兎を他のIXAに託すことなのだが、彼が他の女の子とキスしたり合体したりすることは、司令としてでなく女としての部分で、咲耶花は割り切ることが出来ない。

 そうこうしているうち、怪偉人《エリザベート・バートリ》が現れ、《柳生十兵衛》千葉真琴ら多数の処女たちががアイアン・メイデンにより囚われてしまう事件が発生する。この事態を打開できる戦力は、新たに《ヴラド・ツェペシュ》の力に目覚めた黒衣アーデルハイトのみ。
 伏姫咲耶花は対立する相手ながら、僅か中学三年生の少女であるアーデルハイトに、せめて無理矢理ではない、彼女の一生の思い出になるようなひとときを与えるように、槇那一兎に命令を下すのだった。

 ともかくもったいぶらない。直球ど真ん中、いきなり本番にいっちゃう。まるで港ごとに現地妻を持つ船乗りの本妻のように、咲耶花はどっしりと構えて一兎を貸し与えます。借りた側も立場をわきまえつつ、その瞬間を楽しむ感じ?本妻公認の浮気というか、なかなかラブコメ的にはないパターンかも。一般的なラブコメの、ねじれた男女立場逆転なんだよね。
 仮にこのパターンを続けるとすると、残った女性キャラから考えると、嫌がる怪力メイドを主人の権威を借りて大人しくさせるとか、何も知らない小さな女の子を言葉巧みに騙して合意と見せかけるとか、ちょっと鬼畜ネタしか思いつかないよ。さすがにそれはまずいよねえ。

おまえは私の聖剣です。

アホだけど強い怪偉人
評価:☆☆☆☆★
 育てのジジイから約16億円の借金を背負わされた槇那一兎は、債権者である伏姫佐都紀に呼び出され、弓弦羽市にやってきた。スマホさえ持っていれば生活できるというハイテク都市であるにもかかわらず、弓弦羽市には怪しいポスターがたくさん貼られている。曰く、怪偉人を見たら逃げましょう!
 怪偉人?なんぞそれ?そう思ってカフェのバイトの宮永ちよこに話を聞こうと思ったところ、雷を纏った武士が現れ、彼らを襲ってきたのだ。危うくやられそうになったところ、彼らの間に割り込んできたのは3人の女子高生だった。

 《柳生十兵衛》千葉真琴、《ワイアット・ワープ》李小玲、そして《卑弥呼》伏姫咲耶花を名乗る3人は、雷武士《立花道雪》を怪偉人と呼び、自らをIXA怪偉人伏滅機関IXAsと名乗る。
 だが、威勢良く出てきたにも拘わらず、《立花道雪》の圧倒的な力の前にあっさりとやられそうになる3人。それを巣くったのは、槇那一兎が持つ、ある特性だった。

 歴史上の偉人たちが現代に現れて暴れ回り、それを同様に偉人の力を借りた女子が阻止しようとするバトル展開。それを助ける少年は、彼女たちの力を底上げする《剣》の力を持っていたと言うことで発生するラブコメ展開。いずれにせよ使い古されたネタではあるのだが、怪偉人がアホっぽいくせに強くて、笑わせられてしまう。
 その一方で、ラブコメ的には無理矢理メインヒロインを押している部分があるので、もう少しラフに、他のヒロインがメインヒロインを喰ってしまう余裕を持たせた方が良い気もする。

ボンクラーズ、ドントクライ

若き日の想い出
評価:☆☆☆☆☆
 県立範堂高校映研部は映画を撮ったことがない。仮面ハンドーというMyヒーローが先行し、地元の面白キャラとして認知されるに至っても、映画を撮ったことはない。部長の藤岡寛徳は口先だけは威勢良いが、映画を撮るという活動を具体化する手腕には欠けている。そこを補うのが佐々木肇の役割のはずなのだが、細々とした事務手続きは出来ても、機材もなければノウハウもないと諦めてしまうのがいつものパターンだ。
 そんな状況は、非常勤の国語教諭として宮内松乃が転任してきたことで変わってくる。彼女がカメラを貸してくれたことで、一歩前に進んだ気がしたのだ。ところが、そのカメラを取り返しに、彼女の妹の宮内桐香がやってくる。桐香は男子制服で変わった生徒として有名だった。

 ところが彼女は、中学時代に映研部に入っていたらしく、カメラワークや編集作業などお手の物。それ故に、映研部を名乗りながら映画を撮る意欲がない彼らが、許しがたいらしい。その挑発に乗った寛徳は、桐香と撮影勝負をすることになる。

 舞台設定が1999年と限定されているのだが、これには理由がある。冒頭、特撮ものは既に終わった空気感の中で、ただ二人、特撮を愛する少年たちが描かれるのを見て、あれっと思う方もおられるだろう。その理由ゆえに、この舞台は1999年である必要があったのだ。
 今年30歳になるであろう人たちが、高校生の時に体験した、ちょっと甘酸っぱい青春の思い出。時にはぶつかり合い、時には悩み、時には笑いあう、そんな素のままの青春が描かれる。

オブザデッド・マニアックス

ゾンビ映画愛に溺れそう
評価:☆☆☆☆☆
 ゾンビ映画オタクの安東丈二が担任の佐武来実に参加させられた夏季合宿で訪れた孤島。みんなは外で思い思いに夏を満喫している中、彼は丹咲いずなと共に補習を受けさせられていた。もっとも彼はクーラーの効いた部屋にいたくて、わざとテストを白紙で出したのだが…。
 そんなどこにでもある様な夏の学校風景は、突然一変する。彼らを大量のゾンビたちが襲い始めたのだ。原因は不明。でも噛まれると感染してゾンビになる。そんな恐怖の状況に、安東は歓喜に打ちふるえていた。ついに自分が主人公になる時が来たのだ、と。

 しかしなかなか映画の主人公の様には活躍できず、それどころか逆に、委員長の城ヶ根莉桜に助けられてしまう始末。なかなか妄想の様に、格好良く美少女を助けて惚れられるなんてことは起こり得ない。
 それでも、他のクラスメイトを助けに行った委員長に託され、クラスでも虐げられる側の江戸川明広や小伏鈴を連れ、合宿所を脱出する。しかしその過程でも、自動車を運転できる江戸川や、サバイバルに長けた小伏に活躍の場を取られ、ゾンビ知識の活かし所がない。
 そこで、自分の活躍の場を求めて、ショッピングモールへ移動することを提案するのだが、そこは、委員長の帝国と化していた!

 ゾンビ映画愛にあふれた作品で、簡単なゾンビ映画の歴史は読めば分かってしまうかもしれない。学校で虐げられる側だったら、一度は、事件・事故が起きてクラスメイトが危機に瀕し、それを自分がヒーローとなって救うという状況は妄想したことがあるかもしれない。この作品ではまさにそれが起きるのだ。
 しかしこのとき起きる革命は、単に立場が逆転してしまうだけのもの。それを肯定してしまえば、元の世界も肯定しなければならないという、精神の矛盾が起きてしまうのだ。素直に受け入れればもしかするとヒーロー。でもそれをやれば、かつて自分がやられていたことも認めなければならない。そんな葛藤がここにはある。

 だが、それゆえにフィクションは存在する。フィクションの中でならば、何をやっても許される。現実が辛くなったら、現実逃避をしても良いじゃないか。そこで活力を得て、また現実に立ち向かえば良いのだ。

勇者と探偵のゲーム

描かれる物語の外側に面白さがある
評価:☆☆☆☆☆
 21世紀後半、首都圏の地方都市に日本問題象徴介入改変装置が建設された。この装置のおかげで、日本に関する問題が一夜で解決されるようになり、日本は世界の中で復権することが出来たが、代わりに、この街を平和を乱す存在と密室殺人が満たすようになった。そしてこれらの、日本の問題を象徴する事件を勇者・疾風寺舞や探偵・万陀院恋が解決することで、日本の問題が解決される。
 そんな非日常が日常となった街で暮らす人々は酷く退屈している。どんな非常識な事件が起きても、被害者として物語に組み込まれた人々以外が傷つくことはない。ベーシック・インカムが制度化され、補償金までもらえるため、生活のために働く必要がない。だから街にはパチンコ屋がいっぱいだ。

 そんな街にある高校で、一人の少女が事故死する。全くどんな日本問題も象徴しない、ただの事故死だ。クラスメイトの一部は、彼女の死を意味あるものにするため、ただの事故死を邪教教団による生け贄の結果と偽装する。勇者を騙して物語とし、過去を改変して彼女の死の真実を書き換えるのだ。
 ぼくは彼女と最後に交わした言葉を胸に、そんな改変を望むクラスメイトと近づいたり離れたりしながら、彼女の死の真相を解き明かしてくれる探偵の来訪を待つ。

 読後、プロローグとエピローグの関係を考えてみると面白い。あるいは別の死の真相を想像してみると空恐ろしい。描かれる物語の外側に面白さがある性質の本だと思う。

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お嬢様のメイドくん

メイドくんの心の奥は
評価:☆☆☆☆☆
 瑞鶴咲夜が鳳翔女学院に転校するため、少年従僕の媛代雪風は女装して一緒に転校することを命じられる。山奥の古風な女子高にお嬢様と二人で転校する。困惑と共に喜びも感じる雪風だったが、転校寸前で咲夜は父親にヨーロッパへ連れ去られ、雪風はただ一人で、女子高に先行して転校することになってしまう。  そして訪れた鳳翔女学院は、事前に調べた校風とは全く異なり、縦ロールの宍戸來華が率いる救世軍という集団と、革命生徒評議会という生徒会が対立して妙な闘争を繰り広げていたり、瑞鶴家の所有である別邸・咲夜は、革命生徒評議会の寮として占拠されていた。  革命生徒評議会議長の鞍馬九葉や、副議長にしてヴァレリー女公爵・ヘイゼルベル王女殿下、書記の漆羽奇那という個性の強い面々に流され、彼女たちと同居することになる雪風は、その後の流れ上、何故か中等部生徒会長選挙に立候補することになってしまう。男の子なのに。。  咲夜と雪風の幼少期にあった出来事の後遺症で、主人と従僕という関係性に当てはめてしか生きられなくなったという現状があり、成長に伴ってそれが破綻しようとする中で、新たな関係性の中に希望が生まれていく、という様な物語になっている。  前半はかわいい男の子が女装をさせられ、メイドさんになり、女の園で翻弄されるという属性重視の展開になりながら、後半では主人公二人の過去のエピソードをひも解くことで、現在に至るまでの心理的呪縛をつまびらかにしていくという、暗さも含んでいる。  この、若干性格の悪いヒロインを採用しながら、そこに面白さを見出していくところは、作者らしいストーリーだと思う。
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星灼のイサナトリ

砂漠での鯨捕りと世界の秘密
評価:☆☆☆☆☆
 壮大な物語の第一章という印象を受けた。  理由は未だ明らかにされていないが、地球を旅立った一部の人類は、地球型惑星を発見し移住した。それから千年、その惑星テラの先住民であるテラナーと、移民してきた人類は、色々とトラブルを起こしながらも、基本的には、人類は巨大な塔の中で暮らし、テラナーは大地に暮らすという形ですみ分けて来た。
 このテラの巨大な砂漠地帯には、クジラそっくりの巨大生物・鯨が棲んでいる。人々は、自分の体は塔の中に置きながら、ヒルコという人形を遠隔操作し、ゲーム感覚で鯨を狩るのが流行している。一方、テラナーたちは、捕鯨鎧と呼ばれるアーマード・スーツみたいなものをまとって、生きるために鯨を狩るイサナトリだ。
 そんな世界の中で、那取洋という17歳の少年は、とある理由で塔を飛び出し、テラナーの捕鯨船に暮らすことになる。その時、出会い頭に狩った鯨の中から一人の少女が現れる。この出会いが、様々な事件を呼び起こす。

 テラのイメージは琉球と満州だ。単語や人名の端々に影響が見受けられる。そして、最も根幹にあるのが、タイトル通り、かつて小舟と銛で鯨に挑んだ漁師たちだろう。
 洋が塔を出奔するのを手引きする幼なじみの崎守弥生や、その先で出会うミルファという鯨捕り、そしていさなとのストーリーというファンタジー的な要素もありつつ、捕鯨鎧やヒルコというSF的な要素もあり、そしてこの世界にはまだまだ秘密が隠されていることを感じさせてくれる。
 壮大な物語の第一章でありながら、単純な導入に陥らず、一冊の中で盛り上がりや見せ場があるので、フラットで飽きさせるようなことはないと思う。後半に進むほど、面白くなっていく。

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ほうかごのロケッティア School escape velocity

打算でも計算でもなく、ただまっしぐら
評価:☆☆☆☆★
 イトカ島にある私立イトカ島学園高校には、何か問題をおこすなどして本土の高校には通えなくなった生徒たちが流れ着く。褐葉貴人もそんな一人。中学時代に、覆面少女歌手クドリャフカに電波な内容のファンレターを大量に送りつけ、それを批判した彼女が干される原因を作ってしまった過去を持つ。そんな彼も高校デビューを果たし、理事長の娘である那須霞翠と共に、教室内の人間関係に介入してクラスの雰囲気を操作し、進学率が上がるように仕向けて、学校のイメージを改善させようとしている。
 全ての過去から切り離された島。そう思っていた場所に、一人の少女が転校してくる。彼女の名前は久遠かぐや。彼女は褐葉を屋上に呼び出すと、一枚のはがきを朗読し始める。それは、中学時代に彼が送った、電波なファンレターだった。
 バッシングにあい、自分の歌に恐怖するようになり、携帯電話に宿った宇宙人に慰めてもらうというファンタジーを信じるしかなくなっていた久遠は、褐葉に、"彼"を宇宙に帰すためにロケットを用意するように要求する。
 島に伝わる龍勢という農民ロケットを通じて、イトカ実業高校のロケット部と知り合った褐葉は、当初は嫌々ながら始めた作業でありながら、教室内の人間関係操作という"仕事"も忘れて、どんどんロケット作りにのめり込んでいく。しかし、全てがそう簡単にうまくいくはずもなく…というお話。

 理論の郡涼、設計の千住高介、加工の五反田八郎、そして何故か携帯電話の宇宙人のおかげでプログラミングまでできるようになっている、制御の久遠かぐやと、それぞれ一芸に秀でたメンバーが、一部大人たちの協力も得ながらロケットを作っていく。じゃあ、平凡な主人公である褐葉貴人が何をやるのかというと、彼らの話を聞いて整合性をとるという、プロジェクトマネージメントという重要な役をこなすのである。
 たとえお金があっても、知識があっても、実際ここまでやれるのかなあ、という疑問はあるけれど、たとえ他人から見ればどうでもよいことであっても、自分で決めた目的を果たすために、躊躇なく全力を注ぎこめるというのはうらやましい限り。彼らの脇を固める大人たちも、その前日談などを語らせたら大変面白そう。

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