大泉貴の書評/レビュー


 大泉貴の書評/レビューを掲載しています。

我がヒーローのための絶対悪

存在理由となるために
評価:☆☆☆★★
 月杜市には、怪人(オルタ)と呼ばれる異能を持つ人と、それに対抗するヒーロー、ガイムーンが存在する。そして、悪の組織である禍嶽社リヴァイアサンの総帥ヘルヴェノム卿は、ガイムーンによって討ち取られた。
 天羽ミアは二代目ガイムーンである。そんな彼女の幼馴染である沖名武尊は、意図的に彼女と距離を置いている。それには、彼が二代目ヘルヴェノム卿として立とうとしている理由と、密接な関係があった。

 初代ヘルヴェノム卿出会った祖母の阿久津千代の許可を受け、生き残りのオルタやその子女である桜井花音らに接触する沖名武尊。しかし彼が二代目であることを、旧知の水町佐和子に知られてしまうのだった。

東京スピリット・イエーガー 異世界の幻獣、覚醒の狩人

過去からの招待状
評価:☆☆☆★★
 ゲームアプリ「ソーシャル・スピリット・イエーガー」のメッセージに従って三鷹駅へ行った久住大吾は、ゲーム内の設定であるはずの異世界から侵略してくるモンスターが現実に存在していることを知る。そしてそのモンスターと戦っていたのは、クラスメイトの高屋敷瑠奈だった。
 ところが翌日学校へ行ってみると、クラスメイト達は昨日のモンスター来週の記憶を失くしている。それを保持しているのは、自分以外には高屋敷瑠奈だけだった。彼女からモンスターと戦う存在を聞き出した久住大吾は、自分もその戦いに参加することを決意するのだった。

アニソンの神様 score.02

さよならのやり直し
評価:☆☆☆★★
 アニソン好きの留学生エヴァ・F・ワグナーが、クラシック家系のギタリスト入谷弦人、隠れアニソン好きのドラマー九条京子、ボカロPのキーボード宮坂琴音、軽薄に見えるベーシスト小松孝弘と立ち上げたバンド“レーゲン・ボーゲン”は、文化祭での演奏を大熱狂のうちに終えた。
 バンドを継続させるため、次の目標を設定する必要がある。初めは軽音部の定期演奏会という話も出たが、入谷弦人と軽音部の関係が未だ修復されていないため難しそう。そこで、小松孝弘が持ってきたのが、ライブハウスでのライブイベントだ。しかし、同じイベントに参加する“グレイ・ウェンズデー”は、かつて九条京子がバンドを組んでいた仲間、神崎椎奈のバンドだった。

 自分の本当の姿を隠したまま、人との関係を結んできた九条京子が、その総決算を行う。

アニソンの神様

生まれたての神さまに捧げる
評価:☆☆☆★★
 ドイツからの留学生であるエヴァ・F・ワグナーは、文化祭のライブに出演するため、バンド仲間を集めることになった。軽音部など既存の部活では、エヴァがやりたい曲、すなわちアニソンを演奏してくれないからだ。  空き教室でギターを弾く入谷弦人の演奏を偶然耳にし、ビビっときたエヴァは彼をバンドに誘うものの、アニソンなんかには興味が無いと断られてしまう。だが一方的に、他のメンバーを集めれば入ってもらうという約束をすると、エヴァはギター以外のメンバー集めに奔走するのだった。

 姐さん系のキャラながら隠れアニメ好きのドラマー九条京子を脅迫紛いで仲間に引き入れ、ボカロPの後輩の宮坂琴音が仲間に入り、お調子者の女好きの小松孝弘がベースをやることになって、とりあえず形にはなった。しかし、バンドの方向性を示すギター、入谷弦人がアニソンを馬鹿にして仲間になってくれない。
 ひとまず練習を続ける4人だったが、とあるピンチがきっかけでチャンスが訪れる。

 アニソンを扱った作品がないという動機で企画したらしいが、これはあくまで「アニメで使われた曲」の演奏に過ぎない気がする。ゆえにありふれた話にしかなっていないと思う。
 アニソンの魅力は、アニメ自体の魅力と不可分ではないだろう。アニメの世界観があり、それにマッチした曲だからこそ、アニソンとして賞賛され残っていく曲になる。だからアニソンの魅力を伝えるには、アニメの魅力を伝える努力を怠ることは出来ないはずだ。その点で、この作品は不足している部分があるように感じる。

 商業的な側面から言えば、他社が版権を持っている曲を利用してのメディアミックスというのは、あまり現実的ではないだろう。相当に売れるという確信がなければ、企画にゴーを出すことは出来ない。実際「さよならピアノソナタ」なんかは、それでアニメ化出来ないらしいしね。

ランジーン×コード tale.5 パラダイス・ロスト 2nd

母と子の道は分かれ
評価:☆☆☆★★
 武藤吾朗の母である武藤凛子が提案したコトモノの隔離施設ノアの方舟は、人間とコトモノの対立を表面化させた。そして人間の反コトモノ勢力によるアンチコードを用いた攻撃がきっかけで、暴動が発生してしまう。その渦中に巻き込まれた滝田たつねは、その中で何を思うのか。
 一方、誘拐された名瀬由沙美を救出するため、ノアの方舟に乗り込んだ真木成美と武藤吾朗は、そこで武藤凛子の望む世界と、赤の女王・古城蒼奈の決断を知ることになる。

 この物語は誰の視点で読んだら良いか難しい気がする。現実世界における自分と同じ立場としての人間が物語に登場する一方で、主人公はそれとは異なる存在であるコトモノ。ゆえに、彼の論理はコトモノの視点からのものに思えてしまって、すんなり納得できないところもある。そのあたりが、一般的なファンタジーとは大きく異なるところだろう。
 一般的なファンタジーは、現実の自分が存在しないことが多い。ゆえに、純粋に空想の中の世界に入り込んで、空想の存在としての主人公に感情移入しやすいところがある。この作品は、そういうディスアドバンテージが存在することを考慮して、ストーリーを構成した方がより良くなるのではないかな?

ランジーン×コード tale.4 パラダイス・ロスト 1st

あっけなく訪れる破局
評価:☆☆☆☆★
 くるみの家のみんなで遊びに行ったお祭り。名瀬由沙美ら子供たちの楽しそうな姿を見て、武藤吾朗はコトモノが世間に受け入れるようになった感慨に少しだけ浸る。ところがそれは錯覚だった。縁日でコトモノが起こしたトラブルを見た人間がはくコトモノに対する侮蔑を見たからだ。表面的には融和しているようではあるが、結局、人間とコトモノは相容れてはいない。
 それを裏付けるように、帰宅したくるみの家のテレビでは、コトモノの社会参加に対する討論番組は放送されていた。そこに登場していたのは、武藤凛子、吾朗の母親だった。彼女はノアの方舟という、コトモノを社会から隔離して暮らすための施設を紹介し、入居者のコトモノを大々的に募集する。

 一気にコトモノに対する不安があおられ、社会には不穏な空気が流れる。それを象徴するように、赤の女王である古城蒼奈は学校に来ていない。彼女が主催するコトモノの組織ラピスでの仕事が忙しいのだろう。そして破局は、滝田たつねを巻き込む形で訪れる。

ランジーン×コード tale.3.5

嵐の前の一休み
評価:☆☆☆☆★
「猫と水着と白兎」
 同居人の小泉隆司からプールに誘われたデカルト。嫌々ながらプールに行ったところ、くるみの家の子どもたちと出会ってしまう。名瀬由沙美に誘われたデカルトは一緒に遊ぶことになるのだが…。
 とりあえず水着回。デカルトの発話者にも意外な疑惑が生まれたり生まれなかったり。

「あるいは、抵抗という名の犬」
 ヴァーチというコトモノが売りさばくドラックの密売ルートを上司に秘密で追っていた福地治夫警部は、元エネッグの不破太一と遭遇する。望まぬことながら、情報提供を受けた関係上、共に容疑者を追うことになるのだが…。
 おっさん二人だがハードボイルドというか、時代に置いていかれる大人の悲哀みたいになっているかも。

「ひねくれギツネからの伝言」
 武藤吾朗の誕生日を直前になって思い出した滝田たつねたちくるみの家の子どもたち。実は去年も忘れていたのだが、その時のロゴの落ち込み方はハンパじゃなかった!その二の舞を避けるため、こっそり準備を進めるキツネたちだが…。
 先の事件で印象が変わってしまったロゴに対する接し方に悩むキツネの心が、着地点を求めてさ迷い歩きます。

「ゼムト・ライジング」
 ホワイト・ラビット襲撃事件の一年前、茨城のバイク屋に身を寄せる真木成美の前に、エネッグから預かったメタコトの少女、川又千鶴が現れる。ゼムトの存在を否定していた成美は、ひたすら彼女を避けようとするのだが…。
 なぜに彼女があのような事件を起こすことになったのか、その動機ときっかけが明かされるエピソード。

ランジーン×コード tale.3 禁じられた記憶

誰かの道具にとどまるか、あるいは
評価:☆☆☆☆★
 武藤吾朗の母親、武藤凛子が残したというコトモノの記録、リンコノートを巡って争いが起きる。エネッグ買収を仕掛ける企業との取引材料にしようとする勢力と、それを抹消としようとする勢力の争いだ。
 そのリンコノートを記憶しているコトモノ録号を持つ少女、森芽衣からデータを引き出すため、コトモノ・ムジカのコトモノコピー能力を使う依頼があったため、ロゴと名瀬由沙美もその騒動に巻き込まれることになる。

 彼らが騒動に巻き込まれている裏では、それを利用して互いの組織の切り崩しを図る人々がおり、そしてリンコノートに触れたダリは、いつもとは違う様子を見せる。その変化がもたらす世界とは?

 ふたつでひとつという存在と、ひとつの存在の違いが、イマイチよく分からなかった。もともとひとつから分かれたのだろうに、分かれたものが別の存在であることが重要なのはなぜだろう?それは錯覚なのでは?
 そうではないとすると、コトモノという存在は自分自身から生まれたわけではなく、どこか別のところにつながっているという解釈もできなくもない。その根拠はいまのところ明らかになってはいないけれど。

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ランジーン×コード tale.2 Dance with The Lang-Breakers

相手に伝えるということの重要性
評価:☆☆☆☆★
 他のコトモノの物語を詠唱する能力を持つムジカを宿した少女、名瀬由沙美は、ロゴたちの暮らす施設くるみの家に引き取られることとなった。「た」を認識できないコトモノを持つ少女、滝田たつねなど、くるみの家に暮らすコトモノたちにも受け入れられた由沙美だったが、ムジカの元となったコトモノを持ち、かつてのくるみの家の中心にいた真木成美の記憶を共有していない彼女は、何か落ち着かない気分になってしまう。
 こうしてホワイト・ラビットの事件が過去のものとなったころ、街には奇妙なダンスを披露する集団、破詞が広まりを見せ始めていた。そしてそのダンスを踊り続けたコトモノは、自らの物語を変質させてしまう。

 コトモノの物語を守るために、ロゴは破詞の正体を探ろうとするのだが、その圧倒的な広がりと、言葉を必要とせずに伝染するという性質ゆえに、己の無力感にさいなまれる日々が続く。そして、そんなことに気を取られているうちに、破詞の影響は身近なところにも及ぶのだった。

 今回の遺言詞は発声言語ではなく、別の手段を媒介して意思伝達が図られる言語、そして他者の遺言詞を通じて自らを複製するというレトロウイルス的な性質を持ったものがテーマとして取り上げられる。
 言葉を必要とせずに相手の気持ちが読める、意思の疎通ができるという能力はたいそう便利に思えるが、そもそもコトモノの能力は超能力的なものというよりも通常の能力が研ぎ澄まされた感じの能力なので、本当に心が読めるわけではない。
 だからその能力を過信しておぼれると、どういう結果になってしまうのか。伝えるということの重要さを考えたい。

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ランジーン×コード

自分にとっての真実の世界
評価:☆☆☆☆★
 27年前から一般に認知されるようになった、世界に対する認識が他者とは異なる少年少女の存在。例えばそれは聴覚で世界を視る人々であったり、数字で世界を理解する人々であったりする。彼らは自身を規定する言葉を持ち、それを他者に伝え受け入れさせることで、同じ認識で世界を見る仲間を増やしていく。そんな遺伝子の様な性質を持つ言葉は遺言詞(ランジーン)と名付けられ、その様な人々はコトモノと呼ばれて人間と区別されるようになった。
 ロゴこと武藤吾朗は、そんなコトモノの一人で、仲間内だけでしか理解できないはずの他者の遺言詞を理解し記録する能力を持っている。そんな彼は、コトモノたちのグループ、詞族に対する連続襲撃事件に遭遇し、一人の少女名瀬由沙美と出会い、事件の容疑者である真木成美と再会する。成美は6年前にコトモノを失った、吾郎の友人だった。

 コトモノを襲い、その能力を喰らい続けるバケモノと化したかに見える成美が執拗に狙う由沙美が宿すコトモノは、かつて成美がコトモノを失った理由と関係していた。そして、その状況を作り上げた組織の存在と、彼らの目指す歪んだ世界が明らかになる。
 ロゴが過去の真実と自分の罪を知った上で、選び取る未来はどの様なものなのか。

 極めて狭い範囲の価値観を共有しあえる人々で形成されたコロニーと、その様な異物を飲み込んで利用しようとする社会という、若干風刺的な広めの視点から始まって、主人公個人の認識と選択という狭いところに落ち着いた感じがする。そのスコープ切替タイミングがよく分からなかったので、最後の解決が最初の社会的状況にどんな影響を及ぼしたのか、関係が見え難い気がした。その辺の広がりは今後の展開となるのかも知れない。
 コトモノを宿しているからというせいもあるのだが、場面転換ごとにロゴや成美の性格が一変しているような気がして、何か落ち着かない気分がした。今回ある程度は彼らの立ち位置は固まったと思うので、今後はそういう揺らぎはあまり無くなるとは思う。あと何名かはほとんどストーリーに絡めなかったので、彼らの活躍は今後に期待したいと思う。


 内容には全く関係ないのだが、同時発売タイトル5本が、そのページ数の多寡に関わらず、全て同じ定価であるという試みは評価したい。他のレーベルと比べると、ページあたりの単価は相当下げられていると思う。

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