大間九郎の書評/レビュー


 大間九郎の書評/レビューを掲載しています。

絶名のドラクロア

空気には逆らえない
評価:☆☆☆☆★
 スーパーで警備員のバイトをする17歳の少年、向井竜童は、真夜中の食品売り場でオナホのリフティングをやっていたところ、冷蔵庫で寝ている少女を発見する。
 招かれなければ建物に入ることが出来ず、オスマン帝国の兵士を串刺しにしたことがある前世を持つ彼女は転生者であり、真名を暴かれると過去の力を取り戻すことが出来るという。スマホで検索すれば真名を知ることも簡単なのだが、猫耳尻尾のスカリーヌに襲われたり、真名を暴けば主従契約の結果、魔力が流れ込んで向井竜童が大爆発してしまうと言われ、とりあえず真名は暴かない方向で、追われている彼女を匿うことにする。

 ところが彼女は、魔族・吸血鬼・ワーウルフの協定で封印されていた人物であり、ワーウルフのテリオン・アルカディア一味が勝手に持ち出してしまったため、魔道士協会の轟静や各種方面から追われる身となっていた。
 そして向井竜童の身柄と引き替えに、テリオン・アルカディアに囚われた彼女は、地獄の門である絶門を開くように命じられる。

 その場の流れで適当に生きている少年が、基本的には危険から遠ざかろうとするのだけれど、夢の中に出てきた裸でギターを抱えている女性に勇者だとおだてられ、危険な方の道を選択する。自分の積極的な選択ではないところがポイント。
 変に普通のラブコメ異能バトルにしたため、作者の持ち味が削がれた感じはする。

オカルトリック 02

狂気の勝利条件
評価:☆☆☆☆☆
 オカルト安楽椅子探偵の葛乃葉と暮らす元狐憑きの美少年で探偵助手の玉藻のもとに、発火能力者であるメンヘラ女子高生の吉備津イソラから電話がかかってくる。昏睡状態だった姉の吉備津舞花が目を覚ましたという。しかしその十分後、今度は舞花が失踪したという連絡を受けることとなった。
 反対する葛乃葉を押し切り、舞花を探す手伝いをすることにした玉藻は、イソラと共に舞花が隠れていそうな場所に赴き、そして帰る手段を失って、奇妙なペンションに宿泊することになる。そしてそこで玉藻は、自分の過去を再整理するような、不思議な夢を見ることになるのだった。

 最初の事件の真相は事件の経緯が語られる前に明らかにされるのだが、その上で作られた虚構の中、葛乃葉とイソラという、玉藻を愛する女性と少女の心理戦と、騙されたまま素直に動く玉藻が自身の求めるものを自覚するまでの過程が描かれる。
 傷ついても、打ちのめされても、拒絶されても、他の何を手放しても、最も手に入れたいものを手に入れるという執念が凄まじい。一つしか無いものを分け合うことは出来ないけれど、求めるものが完全に重複していないならば、妥協の余地はあると言うことだろうか。

 おまけとして、スピンオフ「メンヘラバーズ2」を読むためのID/PASSが記載されている。

オカルトリック

エロく可愛く不道徳
評価:☆☆☆☆★
 オカルト安楽椅子探偵の葛乃葉に拾われた元狐憑きの美少年である玉藻は【偽憑】キツネツキを最終手段として持つ探偵助手をしている。とはいえ、普段は葛乃葉をねえさんと呼び、彼女のためにご飯を作り、お風呂で彼女の体を洗い、アロママッサージをして、謝るときにはつま先にキスをする、ただの美少年だ。それが常識にかなっているかどうかは、一年以上前の記憶がないので分からない。
 本来ならオカルト事件は公安「霊体人外対策室」対オカルト対策部隊の管轄なのだが、彼らは大量殺人以外の事件は放置している。その隙間を縫っての商売をする葛乃葉に命じられ、玉藻は鷺山女学園の女子寮に潜入し、パンツ焼失事件の捜査をすることになる。もちろん、女子高生に扮して、だ。
 その捜査の手伝いをすることになったのは、二年生にして寮長を勤める吉備津イソラだ。妙に馴れ馴れしいイソラにイラつきつつ、それでいて女子生徒たちを翻弄しながら、玉藻は事実を集めていく。それに対して葛乃葉が押しつける真相とは…?

 舞台設定や時代背景の説明は全くしないのだけれど、オカルト・地球外生命体・超能力なんでもありの世界で、それらを無視して、ただ玉藻を愛でつつこき使う葛乃葉と、玉藻に恋するあまり暴走するイソラの壊れっぷりを描く。一人の美少年をめぐる争いは、周囲に被害をまきちらしつつ、どんどんエスカレートしていくことだろう。
 そしてその陰で、人間性に対する観察が行われていることも忘れてはならない。

 おまけとして、スピンオフ「メンヘラバーズ」を読むためのID/PASSが記載されている。

ファンダ・メンダ・マウス (2) トラディショナルガール・トラディショナルナイト

泥の中から這い上がろうとする美月
評価:☆☆☆☆☆
 横浜の倉庫で倉庫番をしているマウスは、実は横浜華僑の王様ホァン・コンロンの息子、ホァン・フェイタンだった。今回、マウスは、そんな横浜華僑の権力騒動に巻き込まれる。

 マウスには3人の夫人がいる。第一夫人はネーネ、マウスの義姉。第二夫人は佐治まこと、恩師の遺児。第三夫人はキンバリー・マァ、横浜華僑の実力者の娘だ。そのうち、キンバが今回の騒動の中心にいる。
 マァ家がコンロンの顔に泥を塗るような事態を引き起こしてしまい、また、さらにその仲を裂くため、キンバが命を狙われているというのだ。マウスはそんな彼女を守るために事態に介入する。

 一方、前巻でまことがらみで保護された豊島美月は、今回はくそったれな父親の死体と、10キロのヘロインに関わることになってしまう。そのため、また生き地獄のような泥の中に落とされそうになるのだが…。

 韻を踏んだスピード感のある読み味と、マウスの周囲を巡る暴力、そしてそれに屈することなく自分の生きる道を選択する強い精神。そういったものが一体となって物語を形作る。
 誰が敵で誰が味方かわからない物語の結末は?

 ところで、一気に定価が上がったのは収益的な問題なのだろうか?

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ファンダ・メンダ・マウス

どうでも良いところと、どうでも良くないところ
評価:☆☆☆☆★
 横浜港の一角にある倉庫で、マウスは倉庫番をしている。とは言え、実際の管理はAIがやっているので、彼の仕事はAIの相手をするのみ。家に帰れば、マウスにべったりの姉が待っている。
 そんな毎日に紛れ込んできた異分子、佐治まことは、かつての恩師の娘だ。名門女子高に通う彼女は突然押しかけて来て嫁にしてくれという。たいそう不審で迷惑だ。高校時代に知り合い今も付き合いがあるミツルの助けを借りて彼女の真意を調べてもらったところ、彼女と寄宿舎が同室の少女、豊島美月の父親と、マウスに恨みのあるアマルに関係があることまでは分かった。
 そうこうしている内に、どうやら周囲がきな臭くなってくる。

 文体は短いセンテンスが積み重なっている感じで、全体的には相当荒っぽいのだけれど、それがテンポを生んでいるとも言える。内容的にもバイオレンスなところがあり、文章も含めて好みが分かれると思うのだが、背景に知識を感じるところもあって、意外に深みがある部分もある気がする。
 基本的には勢い重視、丸いよりもちょっと尖った感じの物語だと思う。

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