乙野四方字の書評/レビュー


 乙野四方字の書評/レビューを掲載しています。

ミウ ーskeleton in the closetー

評価:☆☆☆☆☆


正解するマド

評価:☆☆☆☆☆


僕が愛したすべての君へ

評価:☆☆☆☆☆


君を愛したひとりの僕へ

評価:☆☆☆☆☆


ミニッツ (5) ~鬼火の消えるとき~

評価:☆☆☆☆☆


神獄塔 メアリスケルター 〜光の在処〜

評価:☆☆☆☆☆


ラテラル 〜水平思考推理の天使〜

水平思考推理ゲームを紹介する
評価:☆☆☆☆☆
 「ウミガメのスープ」に代表されるような水平思考推理ゲームを紹介する物語。

 とある事故がきっかけで愛という感情を失った高校生の鳩ノ巣論は、新クラスで肌を隠し合成音声で発話する少女、瑞平すすめと出会う。そして事故で彼女の手に触れてしまったところ、謎の空間に放り込まれてしまった。
 そこにいた仮面の少女は、天使ウミエルを名乗り、彼に奇妙な問題を出す。それは不思議な問題だった。

革命機ヴァルヴレイヴ

人間を止めた高校生
評価:☆☆☆★★
 総人口の七割が宇宙空間に浮かぶダイソンスフィアに移り、世界はドルシア軍事盟約連邦と環大西洋合衆国(ARUS)の二大強国に色分けされていた。
 中立を国是とする小国ジオールのモジュール77にある咲森学園に通う時縞ハルトは、幼馴染の指南ショーコに告白しようとしたところ、ドルシア軍特務大尉エルエルフ・カルルスタイン率いる工作員に邪魔をされ、ジオールはドルシア軍により無条件降伏に追い込まれてしまう。

 モジュール77への攻撃にショーコが巻き込まれたのを目撃したハルトは、近くに現れたロボット兵器ヴァルヴレイヴに乗り込み、報復しようとする。ところがそのコンソールに表示された質問は、「ニンゲンヤメマスカ?」というものだった。
 戦わなければ護れないという境地に辿り着き、人間を止める決意をしたハルトは、ドルシア軍を一時撤退させることに成功する。しかし、直後にショーコが生きていたことが判明し、人間を止めてしまった自分では釣り合わないと、彼女から身を引く決意を固めるのだった。

ミニッツ (4) ~スマイルリンクの歌姫~

騙されて笑顔になる学園祭
評価:☆☆☆☆☆
 私立穂尾付学園高校の第一回学園祭が開催されることになった。生徒会長の琴宮遙は、相上櫻を本気で学園祭に参加させるため、生徒ポイントをエサにした評価システムを採用する。
 その目論見に乗った相上櫻は、クラスの企画ではスマイルリンクという、来場者を巻き込んだドッキリ企画を立案する。さらに、個人参加として、早乙女月緒を歌姫とした企画を立ち上げようとするのだった。

 さすがに鬼灯一族内でお灸を据えられ、大人しくしている守垣内芽明と守垣内芳明を尻目に、田辺和貴は創作遊戯研究会で創作ゲームを使ったミニカジノを立ち上げ、鬼灯よもぎらに祭を楽しませるのだった。
 学園祭という舞台で、琴宮彼方、波名城アザミ相ヶ瀬茉莉ら女子たちの非日常の姿を描きつつ、一般客を巻き込んだ非日常の拡大が試みられる。緊迫感あふれるやりとりはないけれど、みんなで楽しむために騙すという、価値の転換がテーマだろうか。

ミニッツ (3) ~神殺しのトリック~

人ならざる力への妄執
評価:☆☆☆☆☆
 《ミニッツ》を持つ相上櫻は、琴宮遥との謀略に破れ、彼女に生徒会長の座を奪われてしまっていた。せめてもの意趣返しというわけではないが、どちらが私立穂尾付学園高校の“お母さん”にふさわしいかを決めるため、お弁当作りの勝負をすることになる。
 互いに心理戦を繰り広げ、お弁当作り勝負は終わったものの、意地の張り合いから膝枕で耳かきなどというイベントまで繰り広げてしまい、琴宮彼方からじっとりとした目で見られたりもしたもの、田辺和貴の作った創作遊戯研究会で創作ゲームに興じる日々を過ごしていた。

 ところが、鬼灯よもぎの婚約者である守垣内芳明がリベンジのために波名城アザミの身柄を狙い、御幸院彦星率いるアザミ親衛隊のメンバーを襲うという事件が発生する。一方、「鬼火憑き」の秘密を追う相ヶ瀬茉莉は、オキナガタラシヒメこと神功皇后をまつる鬼灯神社が、その由来に大きく関わっていることを突き止め始める。
 そしてついに、波名城アザミと琴宮彼方を穂尾付図書館地下書庫に監禁するという事件が発生し、二人を助けるため、乾陣内や岸良夏凪の手も借りて、琴宮遥と共に侵入する相上櫻を待ち受けていたのは、とっておきのゲームを用意していた守垣内芽明だった。

 ラブコメな日常から導入し、相ヶ瀬茉莉によるミステリーチックな秘密の追跡と、人神という存在に囚われてしまった守垣内芳明の妄執を打ち砕くためのバトルという展開になっていく。色々な意味でのアクションシーンが多いため、前巻までのような緊迫するゲーム場面は少なくなっているかも知れないが、全体的にはバランスが取れていると思われる。

ミニッツ (2) 神の幸運、天使の不運

運否天賦の絶対勝利者
評価:☆☆☆☆☆
 私立穂尾付学園高校に入学した相上櫻は、一分間だけ相手の心を読める能力「ミニッツ」を用いて、琴宮彼方を巡って対立した生徒会副会長の琴宮遥をゲームで下し、彼が生徒会長に立候補することへの協力を取り付けた。そして、妙に色っぽい先輩の相ヶ瀬茉莉から、彼らが持つ能力が「鬼火憑き」と呼ばれるものであることを教えられる。
 生徒会長の田辺和貴や創立者の孫の鬼灯よもぎが所属する創作遊戯研究会に入り込み、琴宮遥に心酔する岸良夏凪からは敵意を向けられるものの、計画は順調に進んでいるかに思えた。しかし、鬼灯よもぎの婚約者だという守垣内芳明と妹の守垣内芽明波が転校してきたことから、彼の計画は崩れ始める。

 転校後僅か一ヶ月で生徒会長選挙に立候補した守垣内芳明は当選。自分が生徒会長になることは既定路線として、名城アザミを生徒会会計にしてしまった相上櫻は窮地に追い込まれる。
 守垣内芳明の当選は能力を利用した不正だと見込んだ相上櫻は、守垣内芽明波を取り込み、乾陣内が作ったゲーム「14番目のワルツ」で守垣内芳明を追い込もうと画策するのだった。

 物語の中核に関連する新キャラクターが何人も登場し、なぜか影が薄くなったかに見える主人公。肝心のゲームでも、色々と追い込まれて見せ場が少なめ。その分、他のキャラクターが見せ場を作っているので十分なのだが、一巻の緊迫感に比べると、少し弱いかも知れない。

ミニッツ 一分間の絶対時間

盛りだくさんに、かつ絞り込んで
評価:☆☆☆☆☆
 私立穂尾付学園高校の一年生である相上櫻は、とある野望を胸に抱いている。その手始めは、一年生で生徒会長になることだ。そのために、この学園特有の生徒ポイントを集めることに余念がない。
 たとえ優秀であったとしても、他人から嫌味に見えたり、敬遠される人格では意味がない。相手に与える印象まで考慮し自分の行動を操作する彼の行動指針には、ひとつの裏付けがあった。それが「ミニッツ」。一分間だけ相手の心を読める能力である。

 しかしこの能力には反動がある。その後遺症を、彼と同じ様な人格を持つと見受けられる生徒会副会長の琴宮遥に見られてしまい、それに対抗する弱みを握るため、不登校の彼女の妹である琴宮彼方に近づこうとするのだが、それを悟った琴宮遥と、あるゲームで勝負することになる。
 そのゲームの名は「馬鹿と天才ゲーム」だ。馬鹿役は相手の言うことを理解してはならず、天才役は必ず相手の言うことを理解しなければならないという、言葉による戦い。その戦いの先に、遥に心酔する岸良夏凪の恨みを買い、色っぽい先輩の相ヶ瀬茉莉に能力の秘密を悟られ、半同居する波名城夕楓と娘の波名城アザミ、そして父親の相上豊が櫻にかけた呪いの存在が彼の新たな人間関係を生みだすということを、櫻は思いもよらないだろう。

 登場人物は大概腹に一物抱えていて一筋縄ではいかない。アザミの親衛隊というロリコン性を除けば、御幸院彦星という人物が唯一素直なキャラと言えるだろう。
 ここまで見ても分かる様に、まずは心理バトルから物語は始まり、主人公が慮外に置いていた人々の感情が新たな局面を導き、その果てに腹の中を全部吐き出してしまうことで、ハーレム系ラブコメ展開になるという盛りだくさんさだ。

 だがこの作品の美点は、様々に要素を盛り込んでも、一度に展開させるのはひとつのテーマだけとしているところだろう。鬼火憑きという能力のこと、アザミが抱えているように見える問題、茉莉の行動原理など、多くの謎が同時に提供されながら、今回取り扱うのは遥と彼方の問題だけに注力しているのだ。ゆえに物語が発散せず、物語として成立していると感じる。
 つまり伏線はたくさんあるので、次巻以降の展開には困らないとも言えよう。第18回電撃小説大賞選考委員奨励賞受賞作品。

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