近江泉美の書評/レビュー


 近江泉美の書評/レビューを掲載しています。

オーダーは探偵に (2) 砂糖とミルクとスプーン一杯の謎解きを

喫茶店から飛び出して
評価:☆☆☆★★
 就職活動に疲弊する女子大生の小野寺美久は、内定も取れずに彷徨っていたところを、縁あって、井の頭恩賜公園のほとりにある喫茶店、珈琲エメラルドでアルバイトすることになった。店長の上倉真紘は優しいのだが、弟であるオーナーの上倉悠貴はドSな毒舌高校生で、しかも名探偵だった。
 お調子者の小野寺美久は探偵の助手気取りで、喫茶店にやってくる客の誰もが依頼者に見えてしまい、不審な行動を取って上倉悠貴にいびられるのが常だ。しかも、簡単に人を信じたり、感情移入してしまうので、冷静に事象を分析する名探偵には全く向かない。それなのに、常に問題に首を突っ込んでしまう。

 ワトソン役は一般人と同レベルか少し下くらいが良いのであって、一般人より(知能的に)遥かに下の人間をワトソン役にするのは、かなり無理があるように思う。彼女のお人好しぶりで事件に人間味を持たせたいのかもしれないが、それならばミステリー仕立てにする必要などなかろう。

オーダーは探偵に―謎解き薫る喫茶店

人の根底に根ざすもの
評価:☆☆☆★★
 就職活動に疲れた女子大生の小野寺美久は、井の頭恩賜公園のほとりにある喫茶店、珈琲エメラルドの前で行き倒れ、店長の上倉真紘の弟の高校生、上倉悠貴に助けられ、そして生ゴミ置き場に放り投げられる。見た目は王子様のようなイケメンながら、中身は例えようもないドSだったのだ。
 しかしこのドSには、ひとつの特技があった。それは、喫茶店の壁面に張られている張り紙「貴方の不思議、解きます」に表れている。彼は探偵なのだ。

 死んだ妻の幽霊を探して欲しい、生きた雛人形の謎を解いて欲しい、そんな奇妙な依頼を、上倉悠貴はわずかな手がかりから合理的に解き明かす。その結果、モヤモヤが解かれた依頼者は感謝し、美久は思い出が人に与える力強さを理解していくのだった。

 ミステリーと見るにはパっとしないので、あとがきにあるように、一人の女子大生が自分の根っこを見つける話と解釈するのが良いのだろう。しかしそうすると、過程はあまり重要ではなくなり、最後のプレゼントだけが意味あるものになる気がしてしまう。
 続編を盛り上げるためには、この流れの中で行くと、ドS高校生にいたぶられる女子大生の形を踏襲することがメインになってしまうのだが、そうすると美久は就職浪人をすることになるのか?それも憐れすぎる。

小悪魔ちゃんとMP0の少年

無能力の少年が最強で悪しき慣習をぶち壊す!
評価:☆☆☆★★
 誰もが持つ生体エネルギー「炎(プクロス)」を利用して起動する術式が電子機器に組み込まれるようになり、安全に誰でも、かつて魔術と呼ばれていた術式が使えるようになった。もっとも、系譜と呼ばれる能力は先天的に備わっているものであり、誰もが使える訳ではないことに変わりはない。
 そんな社会の異端児である真柴七瀬には、この術式が使えない。なぜなら彼は「炎(プクロス)」がゼロなのだ。だがそんな彼が教室で待ちぼうけを食わされていると、先見の系譜の頂点に立つ《先見のイヴ》東雲彪女が現れ、いきなりキャミソールを脱ぎ出したのだ。

 翌日、彼女が忘れていったキャミソールを返しに行くと、初対面のふりをして頑なに受け取りを拒否する東雲彪女に、強引に放課後に引き渡す約束を取り付けた真柴七瀬だったが、その放課後に見たものは、壮吾という術式使いの少年に襲われボロボロにされた東雲彪女の姿だった。
 そもそも、先祖の浅守正綱が倉敷という親友に恨まれ受けた呪いの結果、悪魔インクに「炎(プクロス)」を全て吸い取られる代わりに、インクにより虐殺されることを免れて来た浅守一族の最後の生き残りである真柴七瀬は、東雲彪女が自身の系譜である先見のために人生を縛られ、ただひとり傷つき諦め一族の歯車になろうとする様に自身を重ね、怒りを抱く。そして彼女を諦めから救い出すため、先見により定められた未来へ抗う覚悟を決めるのだった。

 MP0という物語内の社会における無能力者が、能力者の頂点に立つ少女を救おうとするお話。この時点で「とある魔術の禁書目録」の影響を感じないわけにはいかない。そういう意味でのオリジナリティはない。
 しかし定番には定番の良さもあるわけで、保険医の糸原繭に体制側の論理を吐かせて意志をくじけさせようとさせ、しかし幼なじみの日野の言葉に背中を押されて立ち上がらせ、一面的ではない事情を持ったもう一人の主役とも呼べる壮吾と対立させるという構図と、徹底的に踏襲させれば、それはそれで形になることを示しているようにも思う。

 名前だけしか登場しない境は、今後も自分は登場せずに、事態を動かすきっかけを作り続ける存在となるのか、あるいはただ出すのを忘れただけなのか、少し気になる。

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