茅田砂胡作品の書評/レビュー

ポーラの戴冠式 デルフィニア戦記外伝 3

評価:☆☆☆★★


海賊王と開かずの《門》 - 海賊と女王の航宙記

評価:☆☆☆★★


パピヨンルージュと嵐の星 - 海賊と女王の航宙記

大人組のトラブルメーカーたち
評価:☆☆☆★★
 惑星ブラケリマで渓谷競走に使う飛翔機の整備士をしているガストーネから連絡を受けたジャスミンは、怪物級の伝説のチャンピオン・パピヨンルージュとして、エルナト宙域にある飛翔機の開発工場テンペスタを訪れる。
 そこで試験飛行のパイロットをすることになったジャスミンだったが、現場は面倒な状況に陥っていた。そしてそんな作業をこなす中で、ゲートにまつわる奇妙なうわさに接することになる。

天使たちの課外活動 (5) 笑顔の代償

ファロットへの恋慕
評価:☆☆☆★★
 ナイジェル・ローリンソンから食事の招待を受け、ビアンカ・ローリンソンの義母ブリジットと弟ティムに笑顔を見せるヴァンツァー・ファロット。その事実は周囲の教師や学生を驚嘆の渦を巻き起こし、やがて音楽史の教師ギイ・フレッチャーを騒動へと巻き込む。
 一方、レティシア・ファロットには、中年男性の愛人がいるという疑惑がかけられていた。

トゥルークの海賊 (4)

懐古的なお話
評価:☆☆☆★★
 惑星トゥルークを巡る後日談に、ダン船長の息子のジェームスの若者的無謀のエピソードを挟んだお話。二度とトゥルークに折りたくないダイアナとルウは逃亡を企てます。どこか懐古的なお話です

天使たちの課外活動 (4) アンヌの野兎

能ある変人
評価:☆☆☆★★
 ルウから依頼を受けたケリーとジャスミンは、食材の生産地を訪問に失踪したテオドール・ダナーを追いかける妻アンヌの父親を護衛することになった。訪れた先で巻き起こる騒動と郷愁。

茅田砂胡 全仕事1993-2013

お弁当箱らしい
評価:☆☆☆☆★
「紅蓮の夢」
 ケリーやジャスミンと共に両親らの危機を救ったリィらの前に、ウォル・グリーク・ロウ・デルフィンが現れた。しばしの歓談を楽しみ帰ったウォルの現状を知るべく、ルウの力でデルフィニアを見たリィは、知人たちが緊迫したムードでいることに気づく。
 イヴンの独白で事態を知ったリィは、何も言わずに去ったウォルをど突くため、シェラと共に再びデルフィニアへと赴くのだった。

「ヴァンツァーの櫛」
 短編漫画。

「かすがいの実」
 短編漫画。ケリーとジャスミンの、リィたちがバイトしている料理店テオドール・ダナーにまつわる思い出。

「双子と三つ子のお留守番」
 桐原零と桐原麻亜子の双子の子供の面倒を一晩見ることになった桐原眞己、桐原猛、桐原都の奮闘記。

「特別な一日」
 桐原豊の誕生日を祝うため、3人が奮闘する。

「司令官就任!」
 百之喜太朗と引き合わされた花祥院凰華の独白。

「風華のとある一日」
 短編漫画。

「レデイー・ガンナー外伝 けむけむ大作戦」
 キャサリン・ウィンスロウのもとを訪れたダムーたちは、しばらくかくまって欲しいと言ってくる。その後、ダム―たちを追ってやってきたアナザー・レイスの人々は、ダムーを純血種の蛇の長老と純血種の鰐の実力者の結婚式に参加させたいという。
 双方の決着をつけるため、ウィンスロウ家の敷地を利用したゲームが始まる。

トゥルークの海賊 (3)

伝説の再臨
評価:☆☆☆☆★
 トゥルークの僧院の秘儀に使われる羅合の原料である藍王木と白籠岩を要求し、人質を取った海賊たちが握る星系のゲートに関する秘密と、合法ドラッグ「パーフェクション」の製造者に関する情報を調べるため、ケリー・クーアとジャスミン・クーアは封鎖されたトゥルークから宇宙に飛び立つ。
 一方、ダレスティーヤ・ロムリスとエルヴァリータ・シノークは人質とされた娘を救うため、シェンブラックとグランド・セブンの二代目を騙る海賊との交渉を続けていた。

 取引が成立し海賊が牙をむこうとしたとき、伝説の海賊船が姿を現した。トゥルークと彼らをつなぐモノとは何か?  シリーズ完結編。

トゥルークの海賊 (2)

未だ残る誇り
評価:☆☆☆☆★
 合法ドラッグ「パーフェクション」の捜査依頼を受けたケリー・クーアとジャスミン・クーアは、カトラス星系で、あのシェンブラックとグランド・セブンの二代目を騙る海賊に遭遇する。
 激怒するケリーは即座に殲滅しようとするのだがジャスミンのクイン・ビーの攻撃も命中せず、ダイアンの攻撃も当たらない。さらにはルーレットを使って逃げられてしまう。

 一方、ライジャ・ストーク=サリザンは実兄からの連絡を受けていた。大いなる闇が顕現したとの報告を本山にしたアドレイヤ・サリース・ゴオランが、その報告を信じてもらえず、僧籍を剥奪されそうだというのだ。ライジャはすぐさまヴィッキー・ヴァレンタインに協力を求める。
 それを聞いたリィは、ルーファス・ラヴィーを麻袋に詰め、シェラ・ファロットと共にアドレイヤの許へと向かうのだった。

天使たちの課外活動 (3) テオの日替り料理店

今更の社会勉強
評価:☆☆☆☆☆
 リィことヴィッキー・ヴァレンタインとシェラ・ファロットは、連邦大学惑星の中高生の義務である社会体験学習に参加することになった。どの体験学習に参加すれば自分たちでも違和感がないかと悩んでいると、行きつけの会員制喫茶店店主のジェイソンから、テオドール・ダナーという料理店を紹介される。
 テオドール・ダナーは料理界の人間なら知らないものがいない伝説的な料理の神様だったが、表舞台から去り、妻のアンヌと共に自分の作りたい料理を出す店を開いていた。だがその店も、若くしてアンヌが病死すると閉店したのだが、家出した息子のヨハンにできた子供を助けるため、心機一転、店を開こうとしているのだという。

 ルーファス・ラヴィーや惑星トゥルークの僧侶留学生ライジャ・ストーク=サリザンと共に店に行ってみると、フロアは寂れ店主は気むずかし屋でとても客応対が出来るようには見えない。ところが、料理の腕前はルゥやシェラが脱帽するほどのもので、正に料理の神様と呼ぶに相応しい。
 二人は本気で店の再建を手伝うことにするのだが、かつての店の調度品を確かめていると、そこに収蔵されていたのは、美術館で展示されるべきであるような、一流の品物ばかりだったのだ。果たしてそれらを管理していたアンヌとは何者だったのか?

祝もものき事務所 (3)

キャラ造詣が深まる一作
評価:☆☆☆☆☆
 百之喜太朗の周囲に集まる幼馴染たちが、幼少のころから彼の才能の恩恵をどのように受けてきたのかを振り返りながら、現在でも受ける恩恵を短編形式で描いている。後半の二本は、事務所創設秘話だ。
 サブキャラたちの背景が明らかになり、キャラ造詣が深まる一作。

「犬槇蓮翔と『見合いクラッシャー』」
 古猿流の道場に顔を出した犬槇蓮翔は、芳猿梓の姉の芳猿美緒のお見合い相手である木戸剣持と、木戸を警戒するように告げる高梨浩紀という男に出会う。そして、犬槇蓮翔の身辺に、チンピラの妖しい影が見え隠れするようになるのだった。
 調べていくうちに、あまり良くない噂が浮かび上がってくるのだが、決定的にピンチな瞬間に、たまたま日比谷公園で迷子になっていた百之喜太朗が行き合わせる。

「芳猿梓の『お留守番』」
 アパートを追い出された芳猿梓が転がり込んだ下村武之の家から、ブライトリングのナビタイマーが盗まれた。その腕時計は、恋人の兄の形見らしい。非常に責任を感じた芳猿梓は友人宅を出て百之喜太朗の家に泊まりに行くのだが、それがきっかけで、事件は意外な様相を見せ始める。

「鬼光智也は『昭和の男』」
 鬼光智也は、妹の鬼光塔子の友人だという女性から、彼女が付き合っている北正宗という男がろくでもない男だと吹き込まれる。半信半疑で、妹に内緒で男に会いに行った智也は、それが間違いない情報だったと確信する。そして妹に忠告するのだが、あっさりと跳ねのけられてしまうのだった。
 ところが、百之喜太朗との会話から、ある違和感に気づいた鬼光智也は、何が真実なのかを改めて知ることになるのだった。

「雉名俊介に『天敵現る』」
 百之喜太朗の祖母の百之喜百千代が亡くなった途端、彼女の友人である光圀八千代が遺産を相続することになったとして、八千代の姪の越後屋銀子が乗り込んでくる。あっさりと実印を押してしまった百之喜太朗にめまいを覚えながら、雉名俊介は彼の財産を守るために無償で尽力しだす。
 そして裁判に訴える覚悟を決める雉名俊介だったが、ある日、当の光圀八千代から呼び出しを受けるのだった。

「百之喜と鳳華が『最悪の出会い』」
 祖母が亡くなり、警視庁を退職して引きこもりを目指した百之喜太朗だったが、越後屋銀子に脅される形で、探偵事務所を開業することになった。所長の秘書に就任したのは花祥院凰華だ。
 所長のあまりの怠惰さに、有能秘書は頭を抱えるのだが、事務所最初の事件となる依頼で、彼の才能に気づかされることになる。

トゥルークの海賊 (1)

怪獣を困惑させる僧侶たち
評価:☆☆☆☆☆
 かつての連邦主席マヌエル一世に呼ばれたケリー・クーアとジャスミン・クーアは、トゥルークの僧侶アドレイヤ・サリース・ゴオランと、ルゥの友人であるライジャ・ストーク・サリザンの両親のダレスティーヤ・ロムリスとエルヴァリータ・シノークに会う。
 そこで一世から語られたのは、連邦中枢の一部の人たちに合法ドラッグ「パーフェクション」が出回っているということだ。人の心の闇を埋めるそのドラッグを利用して、連邦中枢から情報が漏れている。そしてそれは、どうやらトゥルークの僧院の秘儀に使われる、藍王木と白籠岩から作られる羅合という香と関係しているらしい。

 原料調達が海賊行為によりなされており、かつ、連邦軍の追跡を不審なまでにかいくぐっている現状を調査するため、ダイアナ・イレヴンスと共にトゥルークに向かうことになった怪獣夫妻は、トゥルークの常識外の実態と、そこに住む高僧たちの非常識さに困惑させられることになる。

 最後の最後に海賊が登場するわけだけれど、懐かしい名前が無残に使われている様を知り、クーア財閥総帥が久しぶりに海賊王に戻っちゃったりする展開になりそう。

天使たちの課外活動 (2) ライジャの靴下

やっぱり最後は…ね
評価:☆☆☆☆☆
 中学二年生に進級したリィことヴィッキー・ヴァレンタインとシェラ・ファロットは、ルーファス・ラヴィーと共に課外活動をすることにした。そんなとき、新たに友人となった惑星トゥルークの僧侶留学生ライジャ・ストーク=サリザンから相談が持ち込まれる。それは、彼の許に届けられた手編みの靴下の贈り主を探したいというものだった。
 課外活動なので、ルゥの手札はお預け。編み物の編み癖と、使われている毛糸の出所から、贈り主に徐々に近づいていく4人は、ヴァンツァーと談笑する美少女ビアンカ・ローリンソンと出会う。

 ビアンカやレティシアの協力を得て靴下の贈り主に迫っていったところ、やはり彼らが関わるのにふさわしく、荒事が待っている展開になるのだが…。
 「クラッシュ・ブレイス ファロットの休日」に登場したビアンカが再登場する。今回は、ヒロイン役に苦情を言うどころか、あり得ない光景を見せられて、非常識なはずの3人が逆に驚嘆させられることとなる…かも。

 ライジャの師匠であるアドレイヤ・サリース・ゴオランがルゥに会いに来る「お師匠さんが来た! 天使たちの課外活動外伝」も収録。これは「yorimoba」連載作とのこと。次回は海賊と女王の短編が掲載されるそうな。

祝もものき事務所 (2)

金が絡むと人が変わる
評価:☆☆☆☆☆
 本人に全くやる気はないのだけれど、動けば必ず事件の手がかりにぶち当たってしまう探偵もどきの百之喜太朗と有能美人秘書の花祥院凰華の事務所に、大家にして超富豪の越後屋銀子の紹介で、宿根栄がやってくる。
 彼はあるカフェで、倒れた糖尿病患者にいきなりインスリンを注射しようとしている男を止めて代わりにグルコースを投与したのだが、その結果がどうなったのかを調べて欲しいという。というのも、彼の糖尿病に知識は飼い猫が糖尿病になった時に知ったもので、その聞きかじりの知識が病状を悪化させていないか心配だというのだ。

 やる気はないけれどとにかく調査に向かった先で知ったのは、それが演出された殺人未遂事件だったのではないかという疑惑。その病人、樺林慎を突きとめてこっそり護衛したところ、その男は3回も誰かに殺されそうになったのだ。
 だが被害者は、至って普通のサラリーマン。特徴と言えば、1型糖尿病を患っていて、生涯インスリンが手放せないことくらい。しかし、どんどんと手がかりを手繰り寄せていくと、知らないところに遺産問題を抱えている事実が明らかになってくる。

 世間話をしているうちに事件がインフレーションしていき、遺産額もインフレーションしていくびっくり展開。特にミステリーという訳ではないので、犯人を推理することなどは出来ません。
 前巻に比べると、手がかりに勝手にブチ当たるのは変わらないのだけれど、無理矢理な強引さを少し控えめに描写するようにしたらしい。そのあたりは受け入れやすくなっているように感じる。

 相変わらず、ダメな女性キャラには女性的な手厳しい視線を向け、ダメな男を徹底的に糾弾する強い女性キャラが登場する。
 よく聞く病気でも意外に実態は知らないなと思わされた。

天使たちの課外活動

超人たちの探偵活動
評価:☆☆☆☆☆
 リィとシェラは中学二年生に進級した。卒業したフォンダム寮の前寮長ハンス・スタンセンから元寮長たちを紹介されたリィたちだったが、そのうちの一人、アクセル・レノンにストーカ容疑がかかる。メイベル・パターソンという女性に、卑猥なメールや盗撮映像を送り付けたという容疑らしい。
 その決定的証拠が、外部からアクセス不可能な、アクセルの自室の情報端末から写真が送られているという事実らしい。だがその時彼は自室におらず、その瞬間、彼の部屋に入ったという惑星トゥルークの僧侶留学生、ライジャ・ストーク=サリザンに疑いがかかる。

 しかしライジャはルーファスやリィ、シェラの本質を一目で見抜く、類まれな感覚を持つ人物。そしてトゥルークの僧侶は、厳しい戒律によって、一生、女人と接触することはないらしい。彼の人物を見て、彼にヴィッキーではなくリィと呼ぶことを許したリィは、彼の濡れ衣を晴らすために動くことにする。

 相変わらず、一部の女の子には厳しい作者だなあ、と。正しいだけに、それを直視できない人もいることでしょう。いや、理解できないと言い換えた方が良いのかな?
 そして、新たな仲間を加えて、一転、探偵ものに鞍替えした感のある本シリーズ。今回の事件だって、本来ならばダイアナの領分の気がするのだけれど、あちらサイドの人は一切登場せず、苦労して最後の最後に真相に至ります。

 「もものき」の方も2巻が出るようですね。しばらく探偵ものにつかっていたいのかな?

デルフィニア戦記外伝 (2) コーラル城の平穏な日々

むかしのおもいで
評価:☆☆☆☆★
「ポーラの休日」
 『デルフィニア戦記画集』に収録された中編の加筆修正版。本編13巻末頃のエピソード。
 ウォルからコーラル見物を勧められたポーラが、アランナを連れ立って昼間の魔法街に買出しに行く。ところが小間使いの姿に変装して行った事から、妙な事件に巻き込まれてしまう。
 そして、彼女たちを密かに護衛していたリィとシェラ、国王からの密命で内偵をしていたバルロとナシアス、ロザモンドとシャーミアン、それにイヴンまで巻き込んだ大騒動に発展していく。

「王と王妃の新婚事情」
 『デルフィニア戦記アルバム』に収録された掌編『蜜月―彼と彼女の場合―』の加筆修正版。本編8巻頭頃のエピソード。
 戦場で休息するウォルとリィ、それに振り回されるシェラの姿を描く。

「シェラの日常」
 書き下ろし中編。本編14巻頭頃のエピソード。
 王妃の身の回りの世話をするシェラの日常生活を描く。本宮での他の女官たちとのやりとりや、街中での出来事など、比較的平穏なやりとりが続いたかと思ったところで、やっぱり彼ららしいアクションも発生する。
 最後には、サヴォア公爵に叱責されるシェラや、ベルミンスター公爵の問題を裏技で解決しようとする国王に困惑させられるシェラが見られる。

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レディ・ガンナー外伝 そして四人は東へ向かう

若き日の姿
評価:☆☆☆☆☆
 蛇のヘンリーが鰐のミュリエルに求婚する「木に登る鰐」、獅子の若者シルヴァが鷲のドーザに出会ったときに起きた殺人事件を描く「蒼天に輝く」、前述の殺人事件の真相が明らかになる「鷲のチェリーザ」、殺人事件の顛末に関わった水牛のモームの若き日の友情を描く「モームと真珠のブローチの話」、ダムー・ベラフォード・ケイティ・ヴィンセントの出会いを描く「そして四人は東へ向かう」が収録されている。
 なお4本目は書き下ろしだが、それ以外は雑誌掲載分の再録だ。

 レディ・ガンナー本編の雰囲気に近いのは、鷲のチェリーザとそして四人は東へ向かうだと思うが、少し趣が変わったところで面白いのは、木に登る鰐や蒼天に輝く、そしてモームと真珠のブローチの話だろう。個人的にはモームのお話が好き。
 アナザーレイスとノンフォーマーのかかわりが薄かった時代の雰囲気が分かり、本編の補完もしてくれる短編集だと思う。

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祝もものき事務所

ワイドショー的な視点で描かれたミステリー
評価:☆☆☆☆★
 本人には全くコントロールできないけれど、出歩けば事件の真相にぶち当たるという星の下に生まれついたのが百之喜太朗という人間だ。この特性を頼りに、無実の罪に落されそうな人を助けたい人などが、最後に彼の事務所を訪れる。本人はまったくやる気がないので基本的には断りたいのだが、なぜか断りづらい依頼があって、それは100%の確率で冤罪なのだ。
 今日も秘書の花祥院凰華に尻をたたかれ受けた依頼は、物証あり、自白あり、不在証明なしの殺人事件の容疑者の無罪を明らかにすること。友人で弁護士の雉名俊介は、彼を事件に駆り出しながら、友人の芳猿梓、犬槇蓮翔、鬼光智也の協力を得て、百之喜太朗が手がかりに出くわすのを待つのだった。

 偶然に頼った事件解決を目指すので、ミステリーというのもちょっと違う気はする。どちらかというと、事件を調べる過程で出くわす旧家に生きる人間の異星人っぷりを思いっきりこき下ろしたという感じの物語だ。このあたりを書かせると、相変わらずウザいくらいに徹底的に描くなあと思う。
 事件の謎ときよりも、事件のなかのゴシップ性を楽しむという意味では、ワイドショー的な視点で描かれたミステリーと呼べるかもしれない。

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ファロットの休日

一般人のお友達作り
評価:☆☆☆☆☆
 レティシアとヴァンツァーのそれぞれを主役としたお話。リィたちはほとんど登場しない。ただし、物語を成立させる上で、ルウは非常に重要な役割を果たしている。
 レティシアのお話は、「ファロットの美意識」の続編的な物語で、当時レティシアに見逃されたニコラが、自分の父親に関する脅迫事件でレティシアに助けを求めてくるというもの。
 ヴァンツァーのお話は、たまたま通りでぶつかった盲目の美少女と友達になるうち、彼女に関する過去の事件に巻き込まれていくというもの。

 普通なら一般人には関わらない彼らが、それぞれの理由により、彼らを助けるような働きをする。その理由がそれぞれの性格にあわせたもので、いかにも彼ららしい。
 いつもは超人サイドで活躍する彼らだけれど、今回は一般人の立場に立ってその力を振るうところが少し違う。リィに言われたからではなく、彼ら自身の判断で一般人に関わるところも結構珍しいと思う。

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クラッシュ・ブレイス オディールの騎士

助さん格さんの要らない水戸黄門
評価:☆☆☆☆★
 ダイアナが一人でお出かけしている時のこと、リゾート気分を満喫していたケリーとジャスミンに、人を使ってちょっかいをかけてきた少女オディール。初めは迷惑そうにあしらっていた二人だが、何度か彼女に会うことで、父親の言いなりになっているオディールに興味を持つようになる。ちょっとしたエサを使って彼女の父親を釣り上げ、オディールを変えたいと思う二人(おもにジャスミン)なのだが…というお話。

 オディールの父親のちんけな小悪党ぶりがいつも以上に小悪党っぽい。この作品に登場する悪役は大抵、上にはおもねり下には高圧的に対する組織人であることが多いのだが、今回ほど小人ぶりを発揮する悪役は珍しい。正直言うと、ケリーやジャスミンと渡り合うには余りにも役者が不足しているのだが、本人があまりに感性が鈍いことと、ダイアナがいなくていつもの情報収集能力が低下していること、二つの条件が重なって、ギリギリでバランスが保たれている感じがする。ラストの方は、少ないんだけれども、キングの名にふさわしい活躍をする。
 新作に専念するため、続巻はしばらく刊行されないらしいです。

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逆転のクレヴァス―クラッシュ・ブレイズ

派手に暴れまわるのを期待してしまうのに
評価:☆☆☆☆★
 カレンの事件のアフターケアをしていたら、今度はリィが誘拐事件に巻き込まれたんだけれど、その誘拐犯がエキセントリックな人だった、というお話。
 政府による陰謀、みたいな展開になると、最後は水戸黄門みたいになるのが定番になってきている気がする。彼らの様に、武力が異様に高い人間を平和な社会で活躍させようとすると単なる犯罪になってしまうので、結局最後は他人の権力で言う事をきかせることになってしまう。持ち味を生かし切れていないよなぁ、という気がしない?

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レディ・ガンナーと虹色の羽

閉じた世界の価値観と激突
評価:☆☆☆☆★
 <蜥蜴>のベラフォードが故郷に帰ると、母親の故郷から使者が来ていた。二十年ごとに開催される祭祀に参加して欲しいとの依頼を受けてついて行くと、いきなり大人数に囲まれ拉致される羽目になる。ベラフォードを救出するため、キャサリン達が向かうと、そこで待っていたのは現人神扱いされるベラフォードの姿だった。
 羽の色数が人の価値の全てだという、<南天極楽鳥>の里に納得できないものを感じるキャサリン達。自分たちの価値観では美しい羽である純白の羽も、彼らに言わせれば人としての価値もないらしい。仕事として割り切って彼らに付き合うベラフォードだが、祭祀には重大な秘密が隠されていた。
 自分たちの正義を振りかざして、他人に価値観を共用するヤツらに、キャサリンの怒りが爆発します。

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海賊とウェディング・ベル―クラッシュ・ブレイズ

キング・オブ・パイレーツの遺産
評価:☆☆☆☆☆
 この一連のシリーズの中でボクが一番ワクワクするのは、キングのストーリーなのです。何かをするために翔ぶのではなく翔ぶために翔ぶという、手段が目的になってしまったような生き方。彼自身とダイアナ・イレブンスだけという、その世界構成の単純さ。純粋性。そういったものにしびれてしまう。並の人間にはまねできない、ということは十分承知の上で。

 今回もやはりジャスミンが大活躍して、海賊を子分にしたり駆逐艦を乗っ取ったりするのだけれど、最後の最後にケリーに向けられる尊敬というか敬意は、利害とか社交辞令とかそういうものの全く混じらない、きれいな結晶ではないかと思うのだ。そして、そういうものを平気な顔をして受け取り、簡単に手放せてしまえる自由さ。それに憧れる。

 金銀黒はまったく登場しない、政治力もほとんど使わない、人間的技術と魅力の勝負のお話。

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追憶のカレン―クラッシュ・ブレイズ

シェラも男の子
評価:☆☆☆☆★
 シェラがリィと離れ、セントラルで開かれる手芸の展示会に出かけたまま行方不明となった。そのときの状況が、現地で知り合った女の子と二人連れというものだったため、現地警察は思春期の少年のちょっとしたロマンスと捉え、真剣に捜索しようとしない。しかし数日後、連れの少女が溺死体となって発見される。そばではシェラの靴も落ちていた…
 同じ頃、グレン警部はウォルナット・ヒルで、シェラにそっくりの瞳をした少年と出会う。だが、髪の色も肌の色も違う。事前にルウからシェラ捜索の依頼を受けていた警部は、訝りながらも二人に連絡を取る。そして、辺境のクーア財閥といわれるレイブンウッド家を相手に、シェラを取り戻すための対決が始まった…

 という感じで、今回のメインはシェラです。シェラは女の子に対しては女の子的な感じで対応するので少年的な面はあまり見られませんが、今回は少し趣が違います。しかし残念ながら、冒頭で判明するように、相手の少女であるカレンは亡くなってしまうのですが。
 何十年も昔の亡霊によって、いまを生きる者が殺されてしまったようで、悔しい限りです。

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ソフィアの正餐会―クラッシュ・ブレイズ

フクロウが飛び交っていそうな
評価:☆☆☆☆☆
 ハチャメチャさがない、普通の物語だ!第一印象としてそんな感想を抱いてしまうシリーズってどうなんだろう?前回や今回のストーリーは、リィたちが登場する新しい物語なんだ、焼き直しじゃないんだ、という気がして結構好きだ。
 今回は黒金銀の三人組が一時転校するというお話。女子校と男子校での彼らのアイドルっぷりは、本筋とは別に楽しめる。また、寄宿舎生活もリアリティ(行ったことはないけどイメージで!)があって、物語に骨格を与えている。
 次も、彼らの作る新しい物語を見せてほしいなあ。

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オンタロスの剣―クラッシュ・ブレイズ

私を形作るものが世界の全て
評価:☆☆☆☆★
 問題はリィ達が強すぎることなのだろう。直接的武力にとどまらず、政治力、経済力…どうにも攻め様がない。無理に敵を出さなくても物語が成立すればよいのだが、どうもそうはいかないらしい。彼らの存在に気づかなかった連邦政府やラー一族は無能といっても良いのでは?
 しかし、そういう筋立てとは別に、今回の物語はリィの内面に鋭く切り込んでみたようだ。自らの能力を閉じ込めて普通の人間を演じる者と、舞台上で強者を演じる者。それぞれに折り合いをつけて生きている。
 疑問は、序盤に張られた伏線?が、果たして回収されなかったのか、それとも次回に持ち越しになったのか、ということ。事件の入口としての役割しか負わせないつもりなら、ちょっと説明過多な気がする。…それとも、物語とは別に言いたいことがあったのだろうか?

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大鷲の誓い デルフィニア外伝

口には出さない
評価:☆☆☆☆☆
 本来なら出会うはずもない二人がいかにして出会ったのか。ナシアスとバルロが親交を深めていく様子が描かれています。
 初めて出会った頃はいかにも貴族らしい傲慢さが前面に出ていたバルロ。果たしてナシアスと出会わなかったら、彼はどんな人間になっていたのだろうかと思います。本質は変わらないかもしれないけれど、部下の心がつかめない人間になっていたかもしれない…
 一方で、ナシアスにとってもバルロとであったことは幸運であったはずです。それを実感として感じるのはずっと先立ったかもしれませんが。
 お互いに与え合うところがあったからこそ、長く付き合うことができる。そんな良き関係の始まりの物語がここに。

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