上遠野浩平作品の書評/レビュー

ブギーポップ・ビューティフル パニックキュート帝王学

評価:☆☆☆☆★

ブギーポップ・ダウトフル 不可抗力のラビット・ラン

評価:☆☆☆☆★


製造人間は頭が固い

評価:☆☆☆☆★


螺旋のエンペロイダー Spin4.

評価:☆☆☆☆★


彼方に竜がいるならば

評価:☆☆☆☆★


無傷姫事件 injustice of innocent princess

評価:☆☆☆☆★


ブギーポップ・アンチテーゼ オルタナティヴ・エゴの乱逆

評価:☆☆☆☆★


螺旋のエンペロイダー Spin3.

評価:☆☆☆☆★


パンゲアの零兆遊戯

評価:☆☆☆☆★


ブギーポップ・チェンジリング 溶暗のデカダント・ブラック

営業面の変な配慮
評価:☆☆☆☆★
 県立深陽学園風紀委員長の新刻敬は、宮下藤花のストーカーの気配に気づく。その人物を探るため宮下藤花を尾行する新刻敬は、宮下藤花を襲った事故現場で、長期欠席生徒である●●の姿を目撃するのだった。

 末真和子からアドバイスを受け、ブギーポップから警告を受けるものの、●●の行動を探るため■■高校へと出向いた新刻敬は、▼▼という生徒と出会う。彼によってデカダント・ブラックという負の衝動を濃くされた新刻敬は、■■高校の生徒たちを使ってストーカーだった▲▲を探させる。そしてその高校には、統和機構のカバー会社の××から仕事の依頼を受けた竹田啓司も関わってくるのだった。

 ちびブギーポップとか百合展開とか、編集から変な圧力がかかったんじゃなかろうか。口絵の新刻敬もエロっぽいカットだし。

螺旋のエンペロイダー Spin2.

オールスター戦
評価:☆☆☆☆★
 風洞楓と御堂璃央は、久嵐舞依から才牙虚宇介と仲良くなるように命令を受ける。早退した才牙虚宇介をひそかに追跡する風洞楓だったが、楓を心配してやってきた室井梢が、才牙虚宇介を襲うパンターとブルムベアの戦闘に巻き込まれてしまう。
 「ナイトフォール」才牙そらは、志邑詩歌に目覚めた能力をコントロールするため、日高迅八郎の能力を利用して訓練を施していた。そこに、マキシム・ゴーリキーが襲撃を仕掛けてきて、さらにはカチューシャによる攻撃で、マキシム・Gはスリープモードに入ってしまう。フェイ・リスキィに連絡を取るように伝言を残して。

 室井梢の持つ、些細な静電気にまつわる能力が、少しのきっかけで、世界の敵にふさわしい力にまで開花する。このまま世界は変革の時を迎えるのか?そして、事態を見つめる流刃昂夕の目的とは?

しずるさんと気弱な物怪たち

久しぶりの新作
評価:☆☆☆☆★
 奇妙な施設に入院するしずるさんと、彼女に会いにやってくるお嬢様よーちゃんの間で繰り広げられる交流が、世間の奇妙な事件を解き明かしていく。

第一章「しずるさんと蝉時雨」
若い女性が突如、セミの鳴き声のような空耳を聞き、混乱状態に陥って事件を起こすという奇病ミンミン病が世間を騒がせる。

第二章「しずるさんと雷蜘蛛」
小学校で現れた、胴体に雷マークの付いた謎の蜘蛛カミナリグモにかまれると、ビリビリと麻痺してしまうという。

第三章「しずるさんと不死蝶」
毒殺事件を予言した小説「不死蝶」とその作家の失踪には関係があるのか。

第四章「しずるさんと蟻地獄」
   「しずるさんと薄刃陽炎」
工事現場で起きた爆発と、現場から消えた逆さまに埋まっていた死体の真相は?後編では炎の魔女も登場する。

ブギーポップ・ウィズイン さびまみれのバビロン

忘却の効用
評価:☆☆☆☆★
 不破明日那は気づくと自分が誰か分からなくなっていた。しかし、手持ちのスポーツバックには、黒い帽子とマントが入れられている。もしかすると自分は、女子たちの間だけで噂になっている、ブギーポップなのか?
 混乱する彼女が屋上で能力を使ったところを、ブギーポップに殺されたいと思っている狭間由紀子に目撃されてしまう。さらには、統和機構の合成人間である成城沙依子もやって来て、不破明日那の記憶を取り戻すための調査が始まった。

 懐かしい名前のオンパレードで、時系列的には「ビートのディシプリン」よりは前らしい。水乃星透子の影響が未だ色濃く残る場所で、末真和子や宮下藤花も少しだけ事件に関わってくる。

螺旋のエンペロイダー Spin1.

何者かに制限された夢
評価:☆☆☆☆☆
 統和機構が設置したNPスクールには、ほどほどの能力を持った少年少女が集められている。彼ら彼女らは、自らをエリートだと信じ、日々、自分の能力を磨きつつ、時折課される実地訓練に励む。
 アンプラグドと呼ばれる、統和機構に所属しない能力者の虹上みのり捕縛に駆り出されたNPスクールのメンバーだったが、彼女はMPLSに匹敵する力を持っており、ほとんどの生徒は翻弄されるばかり。だが、才牙虚宇介に対しては、彼女はエンペロイダーと呼び、警戒して逃走してしまう。

 一方、エンペロイダーに迫って行方不明となった志邑咲桜の調査のため、フェイ・リスキィがやって来た。彼女は御堂璃央や日高迅八郎に情報を流し、囮として利用しようとする。そして調査の過程で、日高迅八郎は志邑咲桜の妹である志邑詩歌と、「ナイトフォール」才牙そらと出会うのだった。
 また、虹上みのり事件を切っ掛けにNPスクールに潜り込んだ流刃昴夕は、才牙虚宇介の正体を探るために状況を操る。

戦車のような彼女たち Like Toy Soldiers

軛から逃れる道もある
評価:☆☆☆☆☆
 「リミット」雨宮美津子が失踪し、中枢との連絡も滞るようになった統和機構内部で、「リセット」雨宮世津子やマキシム・ゴーリキーなどの実力者による政変が進行していた。しかしその間も、変化が決定づけられるまでは、合成人間たちの任務に変更はない。その目的を知ることもなく、ただ言われるままに任務をこなすだけだ。
 MPLS「アウトランドス・ダムール」古猟邦夫の監視を命じられた合成人間の久嵐舞惟は、ポルシェ式ヤークト・ティーガーに例えられる戦闘型合成人間の琥依を連れて現場に向かう。しかし、古猟邦夫と琥依が互いに一目惚れをしてしまった結果、彼らを結婚させ、義妹として監視任務を継続することになってしまった。そこに、旧知の合成人間カチューシャが現れる。

 ファウストやメフィストに掲載された、「アウトランドス・ダムール」に関連する連作短編集。その上司であったリセットとリミットのエピソードを最初と最後に持ってくることで、今後の展開を予感させる構成となっている。
 兵器開発は試行錯誤の連続で、とりあえず使ってみて生き残った兵器が優秀と評価されることとなるだろう。その過程で潰れたり埋もれたりしていった兵器は、よほど強烈な個性を持たない限り、誰かの記憶にすら残ることはない。だが強烈すぎる個性は、例え失敗作だとしても、誰かにとっては意味のあるモノとなるのかも知れない。

ヴァルプルギスの後悔 Fire4.

古き連鎖の終点
評価:☆☆☆☆☆
 ヴァルプルギスとアルケスティス、炎の魔女と氷の魔女、宇宙の相剋渦動を体現する太古より続いてきた闘争は、アルケスティスを霧間凪に封じたことで、ヴァルプルギスの勝利に至ったかに見えた。統和機構の幹部たちを招集し、現アクシズであるオキシジェンを排除することで、世界に対する支配体制を構築しようとしていた。
 しかし、末真和子、九連内朱巳、霧間凪という、現在の世界を維持する存在に選ばれた女性たちが、それぞれの意思に従って行動した結果、勝敗は覆され、これまでと同じ、だがこれまでとは違う世界の仕組みが出来上がっていく。

 世界にある多くの強いものは、より強いものの前に屈することで、秩序が維持されると信じている。それは確かに真実のひとつではある。だが、それ以外の真実の導き方もまた存在する。ただそれは、未だ誰によっても検証されておらず、どうなるか分からない世界でもあるのだ。
 そうして、新たに世界に関わる人々が登場し、自らの進む道に物語を振りまいていく。

恥知らずのパープルヘイズ −ジョジョの奇妙な冒険より−

自分を理解するための回り道
評価:☆☆☆☆☆
 ジョルノ・ジョバァーナが組織のボス・ディアボロを倒して組織の新たなボスとなってから半年が過ぎた。ブチャラティのチームから途中で離脱し、“恥知らず”となったパンナコッタ・フーゴのもとに、かつての仲間、グイード・ミスタがシーラEを伴って訪れる。ジョルノへの忠誠を示すための指令を伝えるためだ。
 マッシモ・ヴォルペ、ヴラディミール・コカキ、アンジェリカ・アッタナシオ、ビットリオ・カタルディで構成される麻薬チームを殲滅するのが、彼に課せられた任務だ。シーラE、カンノーロ・ムーロロの協力を得つつ、麻薬チームを追いかけていく中で、フーゴに半年以上前の記憶がよみがえっていく。自分はなぜあの時、ブチャラティについていかなかったのか?なぜ他の仲間はついていったのか?その問いに真摯に向かい合うことで、彼のスタンド・パープルヘイズに変化が訪れる。

 第5部の半年後からはじまる公式の二次創作みたいな作品だ。原作ありのノベライズには、作品世界にどっぷり浸かって、その雰囲気を再現しながら構成するパターンと、逆にその作品を作家の作風の方向に引っ張ってくる方法がある気がするが、この作品は後者に近い。それでも原作の雰囲気が完全に破壊されていないのは、元々作風に似通った部分があるからだろう。
 そんな訳なので、スタンド使いが数多く登場するのではあるが、どこか、合成人間やMPLSの能力っぽく見えなくもない。このため、上遠野浩平に接したことのないジョジョ好きの人に気に入ってもらえるかはよく分からない。

 組織に属する人間として当たり前の選択をしたつもりが、いつの間にかそれが裏切りとして周囲に認識されてしまい、フーゴはその清算を強いられる。
 だがその“当たり前”とは、どんな意味で当たり前だったのか。ただそれは他人に選択を委ねていただけではないのか。彼の本質はどこにあるのか。これはジョルノがフーゴに与える、フーゴが自分自身を理解するための課題なのだ。


 また、それは本編とは全く関係ないのだが、杜王町の料理人トニオ・トラサルディーの血縁者も重要な役割で登場している。

アウトギャップの無限試算 ソウルドロップ幻戯録

本物を超える偽物はあるか?
評価:☆☆☆☆☆
 ネット上に流れた1本の動画に移っていたのは、一人のマジシャンと、そのカードマジックの間に紛れ込んだ一枚の予告状だった。「これを見た者の、生命と同じだけの価値あるものを盗む」それはペイパーカットからの本物の予告状なのか、あるいは彼を誘い出す罠なのか?

 その動画に移っていたマジシャン、インフィニティ柿生こと柿生太一は行方不明となっているため、サーカム保険のオプ・伊佐俊一と千条雅人は、彼と最後に仕事をしたマジシャン、スイヒン素子こと村田素子に事情を聞きに訪れたものの、何の情報も得ることはできなかった。しかし、彼らが去った後で、彼女の許に飴屋という人物が訪ねて来る。
 一方、同じく動画を見た東澱奈緒瀬は、それが本物か誘いかを確かめるために、奇術師の側から調査を進めていた。そして紹介を受けたのが、一流の手品師にマジックの種を卸すという天才中学生・種木悠兎だった。

 手品には種がある。これは当たり前。しかし全ての奇蹟的な出来事に、種があるとは限らない。種があると思って見ていれば、どんな不思議なことが起きても、具体的にどうやっているか分からなくても、何となく安心できてしまう。それはひとつの、心の防衛機構として働いているとみなすこともできるだろう。
 ペイパーカットが起こす現象は本物の奇蹟かもしれない。今回、彼がやろうとしたことは、それを種のある奇蹟で越えようとする行為だ。そしてそれは、見る目のある者には本物には及ばないものとしてしか映らないだろう。

 しかしかなり重要なことは、その見る目のある者というのは、さほど数が多くないのかもしれない。それならば、種のある奇蹟で目を慣らしておけば、種のない奇跡も種のある奇蹟と誤解してくれるようになるかもしれない。そうなれば本物も、陳腐なもののひとつとしてしか扱われないであろう。

ブギーポップ・アンノウン 壊れかけのムーンライト

それぞれに分けられる役割
評価:☆☆☆☆★
 クラスメイトの中条深月に片思いをしている的場百太は、彼女がつぶやいたレモン・クラッシュという言葉に興味を持つ。それは女子の間で広まっているという噂に関係しているらしい。友人の弓原千春や矢嶋万騎と共に、噂を追って訪れた公園で、彼は不思議な黒いコウモリの影を見る。
 その後、なぜか中条深月につき従うようになってしまった弓原千春を追いかけて、深月の中学時代の友人、宮下藤花や歌上雪乃と共に進んだ先で、彼らは世界の危機とそれと戦おうとする存在、そしてその結末を知る。

 自分でも本当はどうしたいのかよく分からない夢や希望。それは何かの影響を受けて変化したり、大きな障害にぶつかってついえたりもする。
 そんな瞬間瞬間に、様々な局面で浮かび上がってくる負の感情。これらは誰かに押し付けてまとめて消せたりするものではなく、一人ひとりが向き合って処理しなければならないものなのだろう。そうすればその先には新しい何かも見つかる気がする。

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私と悪魔の100の問答

答えがない問いを考え続けること
評価:☆☆☆☆★
 17歳の少女である葛羽紅葉は、実業家の母親の会社が起こした事件のせいで、マスコミから追い回される存在になってしまう。そんな状態の時に、でびる屋なる裏家業を営む謎の存在、シャーマン・シンプルハートと呼ばれる男と、その男が操っている不思議な人形ハズレ君が、母親の苦境を救う交換条件として紅葉との接触を希望してきた。
 ハズレ君が対価として要求してきたことは、ただ紅葉が彼の質問に答えること。そこから紅葉を巡る状況がさらに変化し、でびる屋が関わる出来事に巻き込まれていく。

 目次を見ると100の質問が明確に書かれているが、本文中ではハズレ君と紅葉の会話の中でマシンガンの様に放たれるので、個別の質問に答えるという感じではない。そして、全ての問いに対して答えが返されるわけでもない。

 幼年期には世界の出来事全てに対して疑問を抱く。なぜ空は青いのか?夜はどうして暗いのか?鳥はなぜ飛べるのか?風はどうして吹くのか?数限りないなぜがその口から放たれたとしても、大人はそれを曖昧にごまかし、子ども自身もいつしか忘れてしまうことも多いだろう。
 これは成長するに従って、世界の常識を自然に受け入れていくからだと思う。ではこの世界の常識は何によって作られたのか。これは、人類の幼年期を生きた先人達が、疑問を疑問のままにせず、考え続け、調べ検証し、理論化してきた結果だろう。問いに答えがないことに納得せず、世界に答えを問い続けてきた結果だ。そして過去には疑問を抱いて当然だったことが、いずれは当たり前として処理される時代が来る。
 しかし、常識を常識として受け入れ疑問を抱かないことは、思考する存在として異常だとも言える。自分の周囲の状況を受け入れることが常態化してしまえば、どんな理不尽な状況が訪れたとしても、それを仕方のないことと無意識に受け入れるようになってしまう気がする。

 本書でハズレ君が紅葉にする質問も、紅葉からすれば当たり前として受け入れてしまっている事柄が多い。そしてそれは、深く知ったところで自分にはどうしようもないという、諦めの表明でもある。だが、ハズレ君の問いに対して考えることを強要されていく内に、彼女の行動にも変化が訪れていくのだ。受動から能動へと。ただ受け入れるのではなく求め続けることへと。

 作者の他の作品と同様に、既存作品と部分的にリンクした内容となっています。

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ヴァルプルギスの後悔 Fire3 Dozing Witch

反撃の狼煙が上がる
評価:☆☆☆☆★
 霧間凪の母親の代から準備した策略により、氷の魔女アルケスティスは炎の魔女ヴァルプルギスを封印することに成功した。これにより傷を負った凪は、九連内朱巳の助けも受けながら、ビートたちの手によって救出される。
 凪を助けるために統和機構の情報を利用しようとする織機綺だが、逆に彼女を利用しようとする思惑が絡まり、彼女の意思に反して事態は進行する。
 封印されたはずの炎の魔女の、未来の可能性を利用した逆転の一手が、氷の魔女の予測を上回り、状況を一変させる。そんな魔女たちに対して、霧間凪は自分の意思を貫き通すことが出来るのか。

 奇蹟使いとか、まだ存在しない概念を引っ張って来るような無茶苦茶な魔女たちの力に翻弄されているかに思えた霧間凪だが、密かに逆転の策を考えていたことが分かる。ここで上げられるのは反撃の狼煙。
 カレイドスコープなども登場し、統和機構の行方も含めて、各キャラクターたちの今後の行動が気になる。

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ソウルドロップ巡礼録 クリプトマスクの擬死工作

残された世界の住人達
評価:☆☆☆☆☆
 東澱久既雄の寝所に侵入した少女、舟曳沙遊里は、ペイパーカットの秘密と引き換えに、舟曳尚悠紀の残した未完成映画の調査協力を願い出る。東澱三兄妹の次兄である早見任敦に預けられた沙遊里は、伊佐俊一と共に、撮影候補地だった場所を巡るのだが、それを妨害するようにサーカムの幹部が現れる。
 一本の未完成映画と、その映画に人生を左右された人々が織りなす物語。

 エンターテインメント作品が面白いか面白くないかは、作品のテーマが高尚か低俗かではなく、作り上げられた世界がどれだけ読み手の“リアリティ”を喚起できるかにかかっていると思う。本当にそれがあるかどうかではなく、もしかしたらあるかも、あったらいいな、と思わせることができたら勝ちなのだろう。
 この“リアリティ”が極めて高くなると、作品世界のキャラクターが現実にいるかのように錯覚させられたり、作品に影響を受けて現実に行動する人々も登場したりする。つまり、作者以外の作品の作り手が登場するのだ。
 元々の作者が作った世界と、新たな作り手たちが築き上げた世界。いったいどちらが本物なのだろう。きっと答えは、読み手によって異なってくるのである。

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ブギーポップ・ダークリー 化け猫とめまいのスキャット

そこには確かにあった
評価:☆☆☆☆☆
 ある日から、輪堂進は奇妙な猫をよく見るようになる。マントの様に見える影を纏い、筒状の帽子をかぶった変な猫。しかし、幼なじみの真駒以緒や、写真部の先輩である相原亜子には見えないらしい。
 その時も、変な鳴き声がした気がして、何もないところをじっとみていたら、転校生の無子規憐に興味を持たれてしまった。憐はそれをブギーポップと呼び、彼女につきあってそれを探して街を歩き回ることになる。

 同じ街には、失踪した合成人間の謎を探るため、フォルテッシモも訪れていた。しかし、街に入った途端に統和機構との連絡は途絶え、不可思議な攻撃を受けるようになる。最強の能力でも倒すことのできない相手。その能力の謎とは。


 穏やかな世界、平和な世界というのは、実は意外に簡単に作れるのだと思う。小さなところでは、引きこもった自分の部屋。もう少し大きくすれば、さまざまな矛盾を軍事力や経済力で外に押し付ける国。精神的には、空想の世界なんかもそれに該当するかもしれない。他の誰も通さず、外に出なければ、そこはとても居心地がよい。外に目を向けなければ、誰も矛盾に気づくことはない。
 まあしかし、そんな世界はいずれ崩壊する。自分から外に出ようと思うのかもしれないし、外から壊されるのかもしれない。その時に、幸せだった過去の記憶は、自分を支えてくれるものになるのでしょうか。あるいは、次の逃避先を探すための原動力になるのでしょうか。

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騎士は恋情の血を流す The Cavalier Bleeds For The Blood

騎士にとって重要なのは主君か自分か
評価:☆☆☆☆☆
 仮に、すごいコンピュータが出来て全ての物事を計算しつくせる様になったとしよう。その場合、資源を節約するため、実際にはテニスの試合をせずに、「試合時間67分、2-0でAさんの勝ち!」というコンピューターの託宣を受け入れることが出来るだろうか。その計算がどれほど確かであるかが万人に認められていたとしても、きっとそうはならない気がする。なぜなら、物事は結果がすべてだ、なんて言ったりするけれど、本当は、勝つ過程であり負ける過程が重要だと感じているのだから。その過程がなければ、結果を受け入れることは難しいと思う。
 そういう意味で言うと、じゃんけんというのは過程をすっ飛ばして結果だけを与えるシステムと見ることもできる。大体において、じゃんけんは別の何かを始めるにあたっての初期状態を決めるために使われることが多いので、それだけで何かが決まるわけではなく、決まったとしても決定的なことではないので、許容されるのだろう。
 このじゃんけんに代表されるような勝敗は、相手との相対的な関係で決定される。つまり、勝つための方法は、自分が相手に勝つか、相手が自分に負けるか、そもそも相手が勝負の舞台から降りるか、の3つしかない。この作品に登場する"騎士"は、2番目と3番目の方法を多用する。しかし、先に述べたとおり、じゃんけんの勝敗は何かを決めるための手がかりに過ぎないという事は忘れない方が良いだろう。それだけで何かが成し遂げられるという訳ではない。
 そんな感じで、よーちゃんとしずるさんの出会いの事件です。

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ヴァルプルギスの後悔 Fire2 Spitting Witch

圧倒的な存在の登場
評価:☆☆☆☆☆
 どんな世界に行っても他存在との関係が途切れることはないらしい。あまりにミクロの世界なので自分の目で確かめた事はないし、確かめることもできないが、素粒子と呼ばれる物質の最小単位や原子・分子の間にも色々な力が働いていてお互いがお互いに影響を与えているし、雷は落ちるといいながら実は地表から空へ走るし、水は川となって高い所から低い所へ流れる。
 では、人間くらいに大きな単位になれば影響を受けないかというと、よく使う上下という概念は明らかに重力の影響を受けている。しかし、ロケットの様な装置を使えば、重力の井戸から脱出することは可能だ。ただし、それには重力よりも強い力が必要であることを忘れてはならない。

 運命というのは果たしてどれほど強い力なのだろうか。全ての存在は強者の打った布石に導かれる様に石を置き続けてしまうのだろうか。これまでコツコツと作り上げてきた盤面には、致命的な隙があったのだろうか。
 霧間凪の中に眠る真の魔女の目覚めによって、全ての流れが入り混じり、別の流れを生み出そうとしている。強者は流れを断ち切ろうとするだろう。弱者は流れに身を任せるのが賢い生き方だ。そして愚者は流れに逆らおうとするに違いない。

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残酷号事件 the cruel tale of ZANKOKU-GO

怨嗟の鎖は断ち切れず、ただ引きずって進むだけ
評価:☆☆☆☆☆
 「国富論」もしくは「諸国民の富」と翻訳されるアダム・スミスの著作がある。この中で彼は、個人個人が各々の利益を目指して行動することによって、本来全く目的にしていなかった社会全体の富の向上を達成することができる、というようなことを説いている。これを導くものが有名な、見えざる手、というやつだ。
 取引が成立する唯一の条件は、買い手と売り手が合意することだ。通常、それぞれはそれぞれの意思に基づいて判断し取引を実行するが、最近では決められた法則に従ってプログラムが自動処理をする取引というものも存在する。この結果として、仮に"見えざる手"が変な場所に導いてしまったとしたら、誰を罰すればよいのか。形のないものを罰することはできないので、犠牲の山羊を供して鎮静化を図ることになる。

 冷めないスープ、と呼ばれる領有権が未確定の荒野。そこに、残酷号と呼称されることになる、圧倒的武力をもった何かが降り立つ。それは、そこで虐殺されかけていた難民たちを救出し、その後は世界を転々としながら、弱い者を助けていく。
 誰が、何のために、何をする、あるいはしたのか。それが明らかになって行くごとに、残酷号と行動を共にするロザン、レギューン、千兆帝ロードマンなど、様々な者たちが、過去の残照に導かれるように一点に収束していく。訪れる未来が幸いかどうかは最後まで分からない。

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ロスト・メビウス―ブギーポップ・バウンディング

あなたがいてボクがいる
評価:☆☆☆☆★
 読んでいてふと思いついたのは、人間関係が1対1でつくられているなあ、ということ。多対多のように見えても、1対1がつながっているだけだったり…。ある人の方向性を決定付けるのは常に一人、みたいな考え方を持っているのかもしれない。
 話が広がりつつも、ひとつの方向性を持って収束してきたような気がする。いきなりこの巻を読んでも何も面白くないと思うが、愛読者は読まれた方が良いかと。

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