川口士作品の書評/レビュー

魔弾の王と凍漣の雪姫

評価:☆☆☆☆★


魔弾の王と戦姫〈ヴァナディース〉 (18)

評価:☆☆☆☆★


魔弾の王と戦姫〈ヴァナディース〉 (17)

評価:☆☆☆☆★


魔弾の王と戦姫〈ヴァナディース〉 (16)

評価:☆☆☆☆★


折れた聖剣と帝冠の剣姫 (4)

評価:☆☆☆☆★


折れた聖剣と帝冠の剣姫 (3)

評価:☆☆☆☆★


折れた聖剣と帝冠の剣姫 (2)

評価:☆☆☆☆★


折れた聖剣と帝冠の剣姫 (1)

評価:☆☆☆☆★


魔弾の王と戦姫 (15)

評価:☆☆☆☆★


魔弾の王と戦姫 (14)

評価:☆☆☆☆★


魔弾の王と戦姫 (13)

評価:☆☆☆☆★


魔弾の王と戦姫 (12)

消せない偏見
評価:☆☆☆☆★
 ブリューヌ王国に侵攻したザクスタン軍の一陣を撃破したティグル率いる月光の騎士軍は、王都ニースへ凱旋し、王女レギンに謁見した。しかし、王都の貴族たちの偏見はひどく、一部貴族によるクーデターが勃発する。
 一方、ジスタートでは煌炎バルグレンを継承したフィグネリアが戦姫として承認されていた。

 またしても最後に爆弾だけまいて次に続きます。

魔弾の王と戦姫 (11)

新たな騒乱
評価:☆☆☆☆★
 ジスタート王国を出立する前に、新年を祝う太陽祭で謁見の機会を得ることになったティグルは、現役の戦姫全てを侍らして周囲の貴族から注目されていた。そしてジスタート王から、英雄としての心構えを持つべきと諭される。
 一方、ブリューヌ王国では、レギン王女暗殺未遂事件の陰で、宝剣デュランダルが盗まれるという事件が起きていた。そしてそれと呼応するかのように、隣国ザクスタンが侵攻してきたという情報が入る。その一方を謁見の場で耳にしたティグルの決断は?

 操炎の双剣「バルグレン」の後継者として、《白銀の疾風》団長ヴィッサリオンの知人である《乱刃のフィーネ》ことフィグネリアが登場する。

千の魔剣と盾の乙女 (15)

シリーズ完結
評価:☆☆☆☆☆
 クロウ=クルワッハ復活は、その眷属に各都市襲撃を招き、存亡の危機にさらされる。焦燥感をあらわにする一行だったが、バルトゥータスやニーウら都市の戦士たちを信じ、ロックらはクロウ=クルワッハとの戦いに専念することを決意する。

 シリーズ最終巻。

魔弾の王と戦姫〈ヴァナディース〉 (10)

終わりの時間
評価:☆☆☆☆☆
 ウルスを名乗る男がティグルヴルムド・ヴォルンかどうかを確かめるため、リムリアーシャ、ティッタ、マスハス・ロンダートは、彼のもとを目指す。
 一方、バーバ=ヤガーに襲われたところを黒弓の力で辛くも切り抜けたエリザヴェータ=フォミナは、バーバ=ヤガーに止めを刺すため、一人出発した。ムオジネル軍のダーマードに助けられたウルスは、彼女を助けることができるのか?

 第2部完結編。

千の魔剣と盾の乙女 (14)

最悪の一歩手前
評価:☆☆☆☆★
 ケンコスからエリシアを切り離す切り札としてルーの虹を手に入れたフィルは、ロック、ナギ、ファーディアと共に、妖精の道を通り、砂漠を超えてゴリアスを目指す。
 一方、彼らを迎え撃つケンコスは、魔物を周囲に集結させて罠を張り、いにしえの竜クロウ=クルワッハを目覚めさせる準備をしていた。

魔弾の王と戦姫〈ヴァナディース〉 (9)

積み上げてきた経験という力
評価:☆☆☆☆☆
 記憶喪失となりウルスと名乗っているティグルヴルムド・ヴォルンを巡り、《銀閃の風姫(シルヴフラウ)》エレオノーラ・ヴィルターリアと《雷渦の閃姫(イースグリーフ)》エリザヴェータ=フォミナは一触即発状態となるが、エレンが一時引き、第八王位継承者パルドゥ伯爵ユージェン=シェヴァーリンを討とうとする第七王位継承者ビドゴーシュ公爵イルダー=クルーティスを止めるという国王ヴィクトール=アルトゥール=ヴォルク=エステス=ツァー=ジスタートからの任務を全うすることを優先する。
 異彩虹瞳(ラズイーリス)を猫みたいといったことでエリザヴェータに取り立てられ、ルヴーシュで仕えることになったウルスは、文官たちの嫌がらせで、ひとり、水利権を巡る村同士のいざこざの調停に赴くことになり、あっさりとそれを解決する。

 そんな中、エリザヴェータの前に、かつて彼女に力を与えた悪神バーバ=ヤガーが現れる。彼女を助けるために戦うウルスの手には、失ったはずの黒弓があった。

千の魔剣と盾の乙女 (13)

滲み出る焦り
評価:☆☆☆☆☆
 新たな魔王となった金色の首環(トルク)付きの魔物ケンコスに憑りつかれたエリシアを救う方法を探し始めた魔剣ホルプとロック、ナギ、フィルは、半年というタイムリミットを見据え、それぞれのできることをするために一旦、別れることになった。
 失った瘴気の代わりに何やら凄みを加えて仲間に合流したロックは、風呂場でナギを襲い、その現場をフィルに目撃された結果、パーティーの中に気まずい雰囲気が漂うことになる。

 ケンコスをエリシアの中から追い出す神の武器の手掛かりをつかみ向かったその場所で、彼らが遭遇したのは、同じ武器を狙う魔剣使いファーディアだった。

魔弾の王と戦姫〈ヴァナディース〉 (8)

記憶喪失の主人公
評価:☆☆☆☆☆
 ジスタートへ帰国する船でトルバランの襲撃を受けたティグルヴルムド・ヴォルンは海に転落し行方不明となってしまった。しかし何者かによって命を助けられる。
 ティグルが海に散るとの情報は、彼の帰りを待つ人々に伝えられた。そのいずれも、その死を受け入れながら、しかしいまだ希望を捨てていない。

 傷心の《銀閃の風姫(シルヴフラウ)》エレオノーラ・ヴィルターリアだったが、親友の《煌炎の朧姫(ファルプラム)》アレクサンドラ=アルシャーヴィン(サーシャ)が病身をおして出征すると聞き、彼女の国へと出発する。
 既に出港したサーシャは、《雷渦の閃姫(イースグリーフ)》エリザヴェータ=フォミナと合流しトルバランが指揮する海賊との海戦を開始していた。数に劣る政府軍に対し、時間差による各個撃破でさらに数的優位を進めようとする海賊軍。サーシャは最後の命の火を燃やし、トルバランを討ち果たす決意をする。

 一方、クレイシュ=シャヒーン=バラミール率いるムオジネル軍が十分な情報収集をし引き揚げた後、ジスタート王宮には、国王ヴィクトール=アルトゥール=ヴォルク=エステス=ツァー=ジスタートが招集した、第七王位継承者ビドゴーシュ公爵イルダー=クルーティスと第八王位継承者パルドゥ伯爵ユージェン=シェヴァーリンが顔を合わせていた。さらにはその状況を利用し、《虚影の幻姫(ツェルヴィーデ)》ヴァレンティナ=グリンカ=エステスが騒乱の火種をおこす。

千の魔剣と盾の乙女 (12)

師匠世代の最後の見せ場
評価:☆☆☆☆☆
 浮遊都市ガーリャを利用した魔王城攻略作戦にギリギリで間に合った魔剣ホルプとロック、エリシア、ナギ、フィルは、バルトゥータスやニーウ、錬成師ドゥガルドと共に、蒼輝の勇者(フィニステール)サーシャから解放された魔王バロールに挑む。
 一方、けがのため途中退場したナイジェルらは、魔剣使いファーディアと出会い、魔王城の地下へとやってきたいた。

 対魔王戦最終章、そして物語は若者世代へと移り変わっていく。

千の魔剣と盾の乙女 (11)

あともう一歩
評価:☆☆☆☆☆
 魔剣ホルプを復活させたロック、エリシア、ナギ、フィルだったが、船の関係上、バルトゥータスやニーウ、錬成師ドゥガルドやナイジェルが参加する、浮遊都市ガーリャを利用した魔王城攻略作戦には間に合わないことが確定してしまった。
 しかし、ホルプが、神々の作った世界中どこでも移動できる塔の存在を明らかにしたことで、間に合う希望が湧いてくる。しかしその塔は、昇ろうとする者に試練を与える塔らしい。

 蒼輝の勇者(フィニステール)サーシャを操る金色の首環(トルク)付きの魔物ケンコスは、彼女の中に封印された魔王の魂を解き放つべく、策略を練っていた。一方、バルトゥータスらとは別に魔王討伐を目指す魔剣使いファーディアは、とある存在を発見する。

 いよいよ戦いは敵の本拠地へ。人質を取られたような状況の中で、それぞれの目的を達成することが出来るのか?相変わらず口絵は飛ばしてます。

魔弾の王と戦姫〈ヴァナディース〉(7)

冷酷な戦場
評価:☆☆☆☆☆
 アスヴァールの第一王子ジャーメインへの特使を務めることになったティグルヴルムド・ヴォルンは、偶然出会った《羅轟の月姫(バルデイッシュ)》オルガ・タムと共にジャーメインに殺されそうになり、ジャーメイン暗殺にやってきた第二王子エリオットの部下タラード・グラムに助けられる。民を守るために海賊と手を結んだエリオットを討つというタラードに協力し、ティグルは海賊討伐をしつつ、エリオットに捕えられムオジネルに引き渡される予定の《光華の耀姫(ブレスヴェート)》ソフィーヤ・オベルタスを救出する決意を固める。
 タラードから預かった約三千の兵を率いるティグルだったが、エリオットは約三万の海賊と共に上陸し、近隣の村で略奪と暴虐の限りを尽くす。その進軍速度を落とし、迎撃の時間を稼ぐため、ティグルは村人を避難させつつ、村を焼き井戸に毒を投げ込む決断を迫られるのだった。

 一方、エリオット王子に捕えられ、手枷をはめられ、ボロボロになったドレスをまとって、好色な海賊たちに囲まれる監禁生活を送っていたソフィーの精神は、折れる寸前に達していた。

 大きな変化があったところで次巻に続いてしまった。ハラハラしながら次巻を待つしかない。

千の魔剣と盾の乙女 (10)

五百年前からの負の遺産
評価:☆☆☆☆☆
 復活した魔王の影イスカーと戦い生還したロック、エリシア、ナギ、フィルだったが、フィオナは慣れない旅で疲れてしまい、寝込んでしまう。魔石(タスラム)を扱うためには性質の異なる錬成術を同時に使う必要があるため彼女の存在は欠かせないのだが、無理をして連れて行くことも出来ない。とにかく、魔剣ホルプ復活の鍵となる竜の墓場にあるという大釜の手がかりを得るべく、探索に励む。
 そんなとき、フィオナの師匠であるエイモンのもとに、かつて魔王と戦った経験を持つ錬成師ドゥガルドが訪れる。思わぬ再会をしたフィルたちだったが、彼女は彼から魔石(タスラム)を扱うヒントを手に入れるのだった。

 魔物に操られたサーシャと再会したバルトゥータスは、はやる気持ちを抑え込み、準備万端で彼女を取り戻す決意を新たにするのだった。一方、魔剣使いファーディアは、ロックたちと袂を分かち、元妖精の魔物リャナンシーの許を訪れる。

魔弾の王と戦姫〈ヴァナディース〉 (6)

政争の真っただ中へ
評価:☆☆☆☆☆
 ブリューヌ王国アルサスの領主ティグルヴルムド・ヴォルン伯爵は、ジスタート王国の戦姫《銀閃の風姫(シルヴフラウ)》エレオノーラ・ヴィルターリアや《凍漣の雪姫(ミーチェリア)》リュドミラ・ルリエ、《光華の耀姫(ブレスヴェート)》ソフィーヤ・オベルタスの助力を得て、内乱を引き起こした大貴族のガヌロン公爵マクシミリア・ベンヌッサ・ガヌロンとテナルディエ公爵フェリックス・アーロン・テナルディエを排除し、王女レギン・エステル・ロワール・バスティアン・ド・シャルルを中心とした体制を打ち立てることに貢献した。そして彼自身は、客将として3年間、エレンの許に身を寄せ、リムアリーシャから政治を学ぶことになった。
 それから半年が過ぎ、いまの生活にも慣れてきたティグルは、ジスタート国王から隣国アスヴァールへ特使として向かうように依頼を受ける。アスヴァールは、現在、第一王子ジャーメインと第二王子エリオットが内乱を引き起こし、第一王女ギネヴィアが隠棲する事態を引き起こしていた。

 エリオット側にはソフィが赴き、ジャーメインにはティグルが向かう。両天秤を掛ける状況にティグルが巻き込まれたのは、《虚影の幻姫(ツェルヴィーデ)》ヴァレンティナ・グリンカ・エステスの仕込みもある。それを心配したエレンは、《煌炎の朧姫(ファルプラム)》サーシャ・アレクサンドラに助力を頼み、その助けを受けて、ティグルはアスヴァールの地を踏んだ。そして、流浪の戦姫《羅轟の月姫(バルデイッシュ)》オルガ・タムと親交を結ぶことになる。

 第一部から半年後、《流星落者(シーヴラーシュ)》《月光の騎士(リュミエール)》という称号で現代の英雄になったティグルは、その立場に様々な思いを抱く有力者の思惑の中に組み込まれていくようになっていた。一地方領主から、国政を動かす立場の人々の注目を受けるようになったのだ。
 そんな状況でも泰然自若として自分の道を歩むことができるようになり始めたティグルは、これまでとはまた違う存在に向かおうとしている。

千の魔剣と盾の乙女 (9)

相棒を復活させろ!
評価:☆☆☆☆☆
 エリシアは聖楯(リアファル)を、ナギは光の槍(ブリューナク)を、フィルは魔石(タスラム)を手に入れたものの、アマロックは魔剣ホルプを失ってしまった。ホルプを復活させる手段を求めるロックたちの前に、ロックと同じく魔王討伐を掲げる魔剣使いファーディアが現れ、魔王バロールが復活したと告げる。
 ロックと立ち会い、曲がりなりにもロックの力を認めたファーディアは、エリシアたちの存在は無視しつつも、ホルプ復活のため、ファーディアが持つ隠し球を惜しげもなく披露し、かつてホルプを手に入れた神殿などを回り情報を集める。そしてついに、ホルプがかつて竜であったことを突き止めるのだった。

 一方、金色の首環つきながら魔王に対する叛意を抱える元妖精の魔物リャナンシーは、自らの夢を実現するため、ロックを籠絡しようとする。

 魔王の一部が復活し、魔王討伐は戯けた妄想ではなく現実の一部となる日がやってきた。しかし未だそれは一般に知られた情報ではなく、都市のギルドの反応は鈍い。他人から笑われながらも魔王討伐を真剣に考えてきた戦士・錬術師だけが、わずかに残された時間とチャンスにかけ、自らの夢を成し遂げようと奔走するのだ。

千の魔剣と盾の乙女 (8)

装備拡充第三弾
評価:☆☆☆☆☆
 エリシアは聖楯(リアファル)を、ナギは光の槍(ブリューナク)を手に入れ、魔剣ホルプの使い手アマロックの魔王バロールを討つという夢は徐々に現実味を帯びてきた。取り残された錬成師フィルは、自分がパーティの足手まといになることを恐れていた。そして、カリアッハヴェーラの神殿にあるという魔石(タスラム)を手に入れられなければ、パーティを去るとロックに宣言する。
 その事実を知らされていないエリシアとナギは、フィルの要望に従うために準備を進めつつ、互いが恋敵となったことを確認し合っていた。争わないために三人でロックの嫁になるという道は、好きな人と添い遂げたいと願う乙女の思いが容易に選ばせてはくれない。

 一方、金色の首環つきを三体も倒したロックは、魔王バロールの側近たちの興味を惹き付けていた。それはどうやら、彼の持つ剣に対する興味でもあるようで…。

 パーティの装備拡充第三弾とでも言うべき展開。これを終えていざ魔王に挑むという展開に行くのかと思いきや、新たな試練がロックに訪れる。また嫁候補を獲得し、次はどうなることやら。間延びしない感じで仕上げて欲しいもの。

魔弾の王と戦姫〈ヴァナディース〉(5)

内乱終結
評価:☆☆☆☆★
 ブリューヌ王国アルサスの領主ティグルヴルムド・ヴォルン伯爵率いる《銀の流星群(シルヴミーディオ)》は、ジスタート王国の戦姫《凍漣の雪姫(ミーチェリア)》リュドミラ・ルリエの助勢を得て、内乱に介入してきたムオジネル王国王弟《赤髭》クレイス・シャヒーン・バラミールを退けることに成功した。
 《銀閃の風姫(シルヴフラウ)》エレオノーラ・ヴィルターリアも合流し、王女レギンもその陣営に加えたティグルは、王女の王族たるの証明のため、ガヌロン公爵マクシミリア・ベンヌッサ・ガヌロンが支配するアルテシウムへと向かおうとする。しかしそれを知っていたかのように、ガヌロン公爵はグレアスト侯爵カロン・アンクティル・グレアストを呼び戻すと、ある策略を相談する。

 一方、息子をティグルに殺されたテナルディエ公爵フェリックス・アーロン・テナルディエは、その敵を取るため、アルテシウムへ向かうティグルたちの前に現れ、腹心スティードが指揮する軍勢と5頭の竜を以て、彼らを下そうとするのだった。
 新たな戦姫《虚影の幻姫(ツェルヴィーデ)》ヴァレンティナ・グリンカ・エステスもブリューヌ王国内部の権力争いに深く介入し、ティグルの持つ黒弓の力に興味を示す。数々の謎を残しつつも、ブリューヌ王国内乱は終結し、舞台は大陸中へと広がっていく。

 単なる馬鹿だと思われていた大貴族たちが、意外にもまともな戦略眼と目的を持っていたことが明らかになる第一部完結編。もし第一部で終わっていたとすると、彼らは馬鹿のままで死ぬことになったのであろう。だが第二部に続くことになったため、彼らの真意を明らかにする機会が生まれたと言うところだろうか。
 かくして、幼なじみの侍女をキープしつつ、隣国の戦姫に食指を伸ばすティグルの快進撃は、世界に舞台を広げつつあるようだ。

この家に勇者様もしくは救世主さまはいらっしゃいませんか?! (4)

後が無いのに後に引きずる決着
評価:☆☆☆☆☆
 異能の足跡を見る魔眼を持つ後輩の長野聖がストーカー化し、石川涼は彼女に監禁されてしまった。仲間が岩手智紀の魔眼《イビルアイズ》に犯され、彼女たちを助けなければならない状況だというのに、である。
 主人公不在のまま、各種ヒロインたちが動き出し、元凶を打ち破ろうとするのだが…。

 続編が無いことが決まっているならば、いっそのこともっと書き換えてしまえば良かったのに。はっきりくっきりしないまま終わった感は否めない。

この家に勇者様もしくは救世主さまはいらっしゃいませんか?! (3)

崩される信頼関係
評価:☆☆☆☆☆
 異世界ファルガードス、宇宙海賊、ノスフェラトゥ機関という3つの大規模危機を乗り越えてきた勇者にして高校生である石川涼の幼なじみの佐賀夢乃は、これまで石川涼の言葉を信じて来なかった贖罪のため、異能バトルの世界にも関わりたいと考えていた。しかし現実には彼女は普通の女子高生で、担任にして魔導世界にツテのある山形奈々からも、現場では足手まといだと明言されていた。
 ある日、石川涼は佐賀夢乃から、教室においてアンドロイドの富山楓と話している最中に、椅子で殴り殺されそうになってしまう。何とか夢乃を押さえて保健室に寝かし、家に帰れば義母の福井美幸と義妹の福井希美からも殺意を向けられてしまった。彼女たちは、ファルス・アクターに唆された人形師の岩手智紀の魔眼《イビルアイズ》により、彼と視線を合わせると殺意を向けるように洗脳されてしまったのだ。

 従姉にして魔導師の福島翠に助けを求めるものの、彼女も《イビルアイズ》に犯されてしまい、石川涼は転がり込んだ山形奈々の自宅で、転校生だった宮崎愛美に有償依頼することになり、猫神巫女のシグ=リリン、帝国の姫様ナーラ・スィーフィーア・ダイアスト・アヴァロニア、魔王サラ・バラム・ティバに救援を求めざるを得なくなる。

 この作品はヒロインたちがたくさん登場するけれど、その使い分けが今ひとつ出来なかったから、売上に結びつかなかったんだろうなあ。誰も彼もバックボーンは異なるのに、戦場における使い方が一緒だから、異なる力を持っている意味が無い。
 こういう方向で盛り上げるためには、まるで将棋の駒のように能力を的確に配置する構成が必要である気がする。

千の魔剣と盾の乙女 (7)

幼なじみの効用
評価:☆☆☆☆☆
 金色の首環つきリャナンシーの呪いで魔剣を壊してしまう魔剣使いであるアマロックは、仲間の魔槍使いナギに新たな魔槍を与えるため、魔剣ホルプを携え、光護の魔剣使いエリシアや錬成師フィルと共に、失われた砂漠の地下都市ゴリアスに向かい、伝説の光の槍を手に入れた。
 その過程でロックと同じ呪いを受けたディムナの最後を看取ることになり、彼の最後の望みを叶えるため、遺族を探してシュリガッハに赴くことにした。かつてロックが両親を殺された、彼の故郷だ。

 最近、ナギ、グラーニャと、出会う全ての女性たちにロックが色目を使われることに納得がいかないエリシアだったが、シュリガッハではロックの幼なじみである魔剣使いノエルと出会うことになり、ロックとの距離が近い彼女に悶々とした気持ちを抱えることになる。
 一方、ナギは、ロックと同じく魔王討伐を掲げる魔剣使いファーディアと出会うことになり、海の国アルモリカを目指していることを知るのだった。

 ロックの前には戦う少女たちが次々現れ、彼に対して好意を抱いてくれる。それは代わらないのだが、彼女たちを分けるのは、ロックが掲げる魔王討伐という夢だ。魔王という、名前だけでも人々を震え上がらせる存在に挑むという無謀さに、現実的な少女たちの多くは寄り添うことができない。
 古くからロックと共にいるエリシアでさえ、それは難しい話だ。しかし、後から仲間になったナギが軽々とその障壁を飛び越え、そしてそれを実現しかねない武器を手に入れて、エリシアの怖れはひとしおであると言えよう。それを少しでも緩和するための、今回のエリシアエピソードだとも言える気がする。

魔弾の王と戦姫〈ヴァナディース〉 (4)

戦力になる女の子たち
評価:☆☆☆☆☆
 ブリューヌ王国アルサスの領主ティグルヴルムド・ヴォルン伯爵は、故郷を戯れに攻めてきたテナルディエ公爵と敵対することに成り、ジスタート王国の戦姫《銀閃の風姫(シルヴフラウ)》エレオノーラ・ヴィルターリアの助けを得てそれを撃退、恭順を命じてきたガヌロン公爵も撥ねつけたことで、逆賊として爵位を剥奪されてしまった。
 両国の混成軍である《銀の流星群(シルヴミーディオ)》を結成し、西方国境を守るナヴァール騎士団の団長にして《不敗の剣(デュランダル)》ロランに認められ、仲間を増やしつつあるティグルだったが、エレンの《光華の耀姫(ブレスヴェート)》ソフィーヤ・オベルタスに勝る姉貴分である《煌炎の朧姫(ファルプラム)》サーシャ・アレクサンドラの領地が折悪しく《雷渦の閃姫(イースグリーフ)》エリザヴェータ・フォミナに攻められてしまったため、エレンはリムアリーシャを連れてサーシャの救援に向かうことになった。

 僅か二千となった《銀の流星群(シルヴミーディオ)》の前に現れたのは、ムオジネル王国王弟《赤髭》クレイス・シャヒーン・バラミールの先遣隊二万!奴隷にとられた民を助けるために十倍の敵に立ち向かうことにしたティグルだったが、その後詰めには三万の本隊が待ち構えている。
 絶体絶命のピンチに、かつては敵であった《凍漣の雪姫(ミーチェリア)》リュドミラ・ルリエが援軍を連れて現れ、ティグルを試すような問いを発する。自軍の中でもジェラールとリューリックという参謀格の二人が角を突き合わせたり、ティッタを銃後に置いた代わりにレギンという娘を拾ったり、死んだはずの王子レグナス・エステル・ロワール・バスティアン・ド・シャルルが現れたり、ティル・ナ・ファの力を宿した黒弓を狙う魔が現れたり、戦乱は様々な方面で複雑さと激しさを増していく。

千の魔剣と盾の乙女 (6)

仲間になるということ
評価:☆☆☆☆★
 魔王バロールをその身に封印した蒼輝の勇者<フィニステール>サーシャを助けるため、強力な魔剣を探し求めるバルトゥータスは、不滅の稲妻<ガラドボルグ>を手に入れるため洞窟へと潜った。
 勇気を試す第一の試練を乗り越えた彼は、魔剣の精霊により、魂を試す第二の試練を課される。そして彼は、ニーウと初めて出会った時のことを思い出すのだった。

 一方、「文化都市」ベアルフェルから「要塞都市」シュリガッハを目指すロック、エリシア、フィル、ナギの一行は、思い出話に興じていた。フィルが師匠のナイジェルに紹介され、ロックと組むようになった時のエピソードや、そこにエリシアが加わった時のエピソードだ。
 当時はそれぞれ自分のことしか考えていなかったフィルやエリシアが、ロックの行動に触発され、そして師匠たちから課せられた課題を乗り越えた先に得た言葉で、次第に仲間になっていく。

 ということで今巻は過去の回想編。バルトゥータスの話が中編で、他二本は短編の分量だ。

この家に勇者様もしくは救世主さまはいらっしゃいませんか?! (2)

解き明かされる歴史と昏い意志
評価:☆☆☆☆★
 異世界ファルガードスの危機を再び救い、次は宇宙海賊の問題に取り組むことになった石川涼。計画通り順調に進んでいると思っていたが、実は宇宙海賊からの要求にはタイムリミットがあった。しかも問題の根には、体制側が引き起こした失敗があるらしい。体制のメンツを保ちつつ、クローンたちが平和に生きられる環境を生みださなければならないのだ。
 そして順次、様々な世界の問題を解決していく過程で、その底流に一つの意志が見え隠れし始める。そこには、なぜ魔導技術を応用した兵器が各世界に共通して出土するのかという謎が関わっていた。

この家に勇者様もしくは救世主さまはいらっしゃいませんか?! (1)

いまならいける
評価:☆☆☆☆★
 石川涼はどこにでもいる普通の高校生。しかし、これまで三度、世界を救っている。一度目は10歳の時にファルガードスという異世界を救い、二度目は14歳の時に宇宙海賊を撃滅し、三度目は15歳の時にノスフェラトゥ機関という死の承認の暴走から世界を助けた。だが彼が戻って来たのは、幼なじみの佐賀夢乃がいて、義母・福井美幸と義妹・福井希美がいる日常だ。
 それなのに、四度、彼には世界の危機が助けを求めて来る。それも今度はみんな仲良く一緒にだ。転校生の宮崎愛美は奇妙な魔導書を持って来て、クラスメイトでアンドロイドの富山楓からは救援要請が入り、異世界からは猫神巫女のシグ=リリンが助けを求めにやって来て、宇宙からは帝国の姫様サラ・バラム・ティバナーラ・スィーフィーア・ダイアスト・アヴァロニアが飛来する。そしてそれに加えて、義母と義妹が怪しく消えてしまったのだ。

 大混乱に陥りながらも、助けを求めに来た彼女たちを見捨てる気はない涼は、世界の危機たちを整理し、効率良く順番に救っていく計画を立てる。
 2007年刊「ステレオタイプ・パワープレイ」のリメイク版。「俺がヒロインを助けすぎて世界がリトル黙示録!?(なめこ印)」が売れているのを見て、これも今なら行けるんじゃないかと再刊行したのかな?この手の作品はノリと勢いで飛び出しつつ、しかし上手く伏線を回収することですごいと思われると主のだが、伏線はともかく、ノリと勢いはちょっと弱いかも。だがそれも作者の特徴だしな。

魔弾の王と戦姫〈ヴァナディース〉 (3)

新たな戦姫と強力なライバルの登場
評価:☆☆☆☆☆
 ブリューヌ王国アルサスの領主ティグルヴルムド・ヴォルン伯爵は、テナルディエ公爵の専横から領地を守るため、彼を捕虜にした敵国ジスタート王国の戦姫・銀閃の風姫<シルヴフラウ>エレオノーラ・ヴィルターリアの助けを借りた。彼女たちの軍を傭兵として雇ったティグルは、同じく大貴族に虐げられる小貴族の兵力を糾合しつつ、テナルディエ公爵の領地へ向かっていた。そこに、ガヌロン公爵の腹心であるグレアスト侯爵がやってきて、ティグルに恭順を求める。
 ガヌロンが用意したジスタートに対する報酬が略奪権であることと、舐めるような目でエレンを見たことにイラっときたティグルは、その申し出をはねのけ、ガヌロン公爵とも敵対することになってしまった。そしてさらに、テナルディエ公爵の刺客として、西方国境を守るナヴァール騎士団の団長にして不敗の剣<デュランダル>ロランが、エレンたちを襲う。ピンチに陥ったエレンを助けたのは、ティグルの弓矢と、光華の耀姫<ブレスヴェート>ソフィーヤ・オベルタスだった。

 エレン、リムアリーシャ、ティッタの相手をするのも精一杯なのに、さらにもう一人、お姉さん格の女性が加わり、ティグルを翻弄する。一方、戦場では、新たな敵勢力とわずかな味方、そして戦姫すらも圧倒する騎士の登場と、見所は満載だ。
 エピローグはなかなか見物で、使い捨てにすんのかよ!という驚愕と、帰っちゃうのかよ!という焦燥があふれている。魅力あるキャラクターよりも竜具という設定を優先したのか、あるいはより魅力あるキャラクターが登場するのか、色々と王国の背景も見えてきたので、次巻を楽しみにしたい。

千の魔剣と盾の乙女 (5)

お姉さんキャラの登場
評価:☆☆☆☆☆
 金色の首環つきリャナンシーの呪いで魔剣を壊してしまう魔剣使いであるロックは、魔剣ホルプを手に入れて魔剣使いとなれたものの、ガーリャ奪還戦で金色の首環つきを倒したことで、その呪いは強まっていた。つまり、ホルプも耐えきれなくなる時が近づいていたのだ。
 しかしいま、ロックの心配は自分のことにあるのではない。ロックを助けるために魔槍を失ってしまった仲間のナギに、代わりになる魔槍を見つけなければならないのだ。伝説を求めて大図書館のある学園都市ベアルフェルへやって来たロックやナギ、エリシアとフィルは、失われた砂漠の地下都市ゴリアスに、伝説の光の槍が祀られているとの情報をつかむ。

 砂漠を旅するために雇ったフリーの魔剣使いグラーニャはとても色っぽいお姉さんで、3人も女を連れているのに女慣れしていないロックをからかい、真っ赤になるのを楽しむような人物。その光景を見せられ、ロックの嫁候補である3人は心穏やかではいられない。
 そんなやりとりとは裏腹に、ナギの、戦えない自分は不要ではないかという不安と、ロックの、いつホルプが耐えられなくなるかという不安は、徐々に高まるばかり。特にナギの不安をなだめるため、ロックは精一杯の行動を示すことになる。

 魔王を倒すという目標を公言し、そのために必要な行動をとりはじめたロックと、彼につき従うことを決めたナギ、そしてとりあえずは一緒にいることを選択したエリシアとフィル。彼らの関係はあいまいなままだが、それを維持するためにも努力は必要だ。戦うためのパーティであるため、戦えなくなればその存在意義が薄れてしまうのだ。
 その一方で、仲間を家族と思っていることも事実。大切だから離れたくはないし、しかし危険だから身を守れないなら一緒にいては欲しくない。そんな相反する感情を抱えつつ、またもや波乱を振りまくお姉さんが登場したりしながら、魔王攻略に向けて物語は進んでいく。

 それでありながら、ロックの天然ジゴロは変わらない。今回はお姉さんキャラだから大丈夫かと思わせつつ、彼女の弱みが明らかになると、それを支える発言をすることで心を揺るがし、そして行動に移すことでメロメロにしてしまうのだ。もうどんだけだよ。そのうち、刺されない様に祈るしかない。

千の魔剣と盾の乙女 (4)

3人まとめて俺の嫁
評価:☆☆☆☆☆
 師匠バルトゥータスからのお使いを終えて、ガーリャ奪還計画の前線基地であるドニゴール島にやって来たアマロックとその嫁候補のエリシア、フィル、ナギは、それぞれの師匠であるバルトゥータス、ニーウ、ナイジェルと再会する。
 各都市を回り、黄金、銀の首環つきの魔物と戦った経験は、彼らを成長させもしたが、特にロックは、彼の魔剣殺しの原因がリャナンシーの呪いであり、魔物を殺せば殺すほど強くなる呪いであることが明らかにもなった。つまりそれは、彼の魔剣使いとしての将来にとって、明らかに不利な条件である。今の魔剣ホルプが壊れれば、もはや彼が使える魔剣は存在しないかも知れない。

 このまま戦い続ければ、いつか彼の呪いは彼自身だけではなく、エリシア、フィル、ナギという仲間を傷つけることになるかも知れない。そのことが、彼に魔剣使いを続けるかどうかを悩ませる。自分は一体何のために戦うのか?結局はその問いに行き着くのだ。

 そして全ての悩みに自分なりの答えを出し、バルトゥータスからのお墨付きも得て臨む、ガーリャ奪還作戦は、熾烈を極める戦いとなるのだった。

 巻頭のイラストに登場するニーウが健気で憐れすぎる。本編と全く関係ないこともすごい。今回はロックの将来についての悩み、そしてその答え如何によってはエリシア、フィル、ナギの選択も変わるという、重要な分岐点となるお話だ。
 そして蒼輝の勇者サーシャと魔王バロールをめぐる魔界の情勢など、物語の背景となる事実も徐々に明らかになってきた。また、あとがきではちょっとだけ裏設定も語られる。

魔弾の王と戦姫〈ヴァナディース〉 (2)

いがみ合う戦姫
評価:☆☆☆☆★
 ブリューヌ王国アルサスの領主ティグルヴルムド・ヴォルン伯爵は、ジスタート王国の戦姫・銀閃の風姫ことエレオノーラ・ヴィルターリアの捕虜となった。エレンに気に入られたティグルは、彼女の領地ライトメリッツでその地位を少しずつ築いていた。しかし、アルサスにブリューヌの大貴族テナルディエ公爵の嫡子が、アルサスを焼き払うために兵を進めているのを知り、エレンの協力を得て何とかそれを撃退することに成功した。
 もちろん、その後始末は大変だ。敵国の戦姫の協力を仰いだことを国王に言い訳しなければならないし、嫡子を殺されたテナルディエ公爵は、復讐と体面のためにティグルを許さないだろう。それに、エレンの方も国王に言い訳をしなければならない。ティグルはエレンの副官のリムアリーシャに厳しくしごかれつつ、先々を見据えた覚悟を固めつつあった。

 しかし、ジスタート王国の戦姫は7人いる。そして彼女たちの中には、テナルディエ公爵と利害関係のある人物もいる。そのひとりである凍漣の雪姫ことリュドミラ・ルリエは、エレンと個人的に不仲だという理由もあり、エレンとティグルに敵対的な対応をしてくる。そんな政治的な障害を乗り越えつつ、なぜか出会う女の子のお風呂シーンに遭遇しつつ、色んな人から強烈にやきもちを焼かれつつ、ティグルはアルサスの平和を守り切ることが出来るのか?

 辺境領主であるティグルが戦乱の先頭に立つために、リムに色々としごかれつつ成長していく描写は実直な感じがする。また、巫女メイドのティッタとティグルのからみも、リムがちょっと打ち解けるあたりも、エレンが見せる焼きもちも、ルリエの態度も、個別にはラブコメ分として十分。ただしそれが重なると、ややもたれ気味な気がしなくもない。
 戦記風ファンタジーとラブコメのバランスをとりつつ、今後も続いていって欲しい。

千の魔剣と盾の乙女 (3)

旅を経て学ぶこと
評価:☆☆☆☆★
 二十年前に魔物により滅ぼされた都市ガーリャの奪還。これまでで最大の魔物への攻勢計画を前に、他都市へ協力要請する手紙を持たされた魔剣使いアマロックと魔法楯使いエリシア、錬成師フィルは、前に立ち寄った都市で魔槍使いナギを仲間にし、新たな都市コノートを訪れていた。
 コノート評議会の決定を待つ間、訪ねた錬成師エイモンから、祭の準備のために大陸へ赴き行方不明となった者の救出と、祭に必要な枝と水の採取を依頼されたロックたちは、準備万端整えて、大陸へと出かけていく。

 しかし、直前に起きたロックとエリシアの気持ちのわだかまり、姉弟子からの諌言がもたらしたフィルの落胆、道案内としてつけられたフィオナとのすれ違いと、コンディションはあまり良くない。
 加えて大陸で現れる魔物は、どこかこれまでと異なっていた。そして、ロックが幼少時代に出会っていた、金色の首環持ちの魔物が再び現れ、ロックに隠された秘密を知らせて来る。

 ロックを囲む女の子たちは回を重ねるごとに増す一方。そういったラブコメ度も深まっていく中で、それとは別にファンタジーとしての伏線も張られていく。また、経験をつむに従って自分の未熟さを知り、人と交流することによって自分の考えの浅さを考えさせられるという、キャラの成長も描かれる。
 ロックの魔剣壊しの起源が明らかになる一方で、竜にまつわる疑問が新たに加わった。もしかして、あの作品とつながっていたりするの?な巻です。

魔弾の王と戦姫〈ヴァナディース〉

人々の日常を守るために戦う少女
評価:☆☆☆☆☆
 ジスタート王国との治水を巡る小競り合いが、王子の初陣に格上げされてしまったため、ブリューヌ王国辺境に領地を持つ伯爵ティグルヴルムド・ヴォルンも、戦陣に参列せざるを得なくなってしまった。
 手勢はわずか百、貧乏貴族でかつ、ブリューヌでは蔑まれる弓の使い手であるため、後陣で無聊を託っていれば良かったはずなのだが、ジスタートの七人の戦姫のひとり、エレオノーラ・ヴィルターリア、銀閃の風姫エレンの計略に味方は総崩れ、敵勢に踏み散らされ、ティグルは気を失ってしまう。

 そんなティグルが目覚めて目にしたのは、掃討戦で追いかけられる味方勢と、敵将の少女エレンの姿。ティグルは敵の指揮を寸断し味方を逃がすためエレンを射殺そうとするも、エレンの力の前に屈して捕虜になってしまう。

 エレンの領地に連れ帰られたティグルに与えられたのは、思わぬ厚遇だった。身代金が払えなければ、彼女の部下になれば良いという。エレンがティグルの弓の腕を褒めてくれたこともあり、自国で弓を蔑まれるティグルは悩むが、領地の屋敷には妹のような侍女ティッタが待っているし、エレンの側近の女騎士リムはティグルを殺そうとすることもあり、きっぱりと断ってしまう。

 それでもティグルの腕を惜しむエレンは、彼を屋敷にとどめ気が変わるのを待つのだった。そして、エレン陣営にもなじみ始め、エレンとの生活に楽しみを覚え始めた頃、ティグルの下に故郷で政変が勃発したことを知らせる手紙が届く。

 弓しかとりえがないけれど弓だけは凄まじい腕前を持つ少年と、戦場を駆け抜けて敵を滅ぼす少女の物語。作者のこだわりなのだろうけれど、少年の側には妹のような少女と、敵対する嫌な少年がいるのはお約束。
 ファンタジー的な世界観ながら中世風の技術レベルで、表に出てくる戦場風景は剣を使った白兵戦がメインなのだけれど、魔法的な伏線も多く張られている。

 最初と最後に戦闘シーンもあるのだけれど、じっくりと日常を描きながら世界観を構築していく姿勢は素晴らしく好感が持てる。ただこのまったりとした雰囲気が、ファンタジーに対する期待とは異なるという意見もありえそう。
 今巻のキャラ構築はかなり成功している気がするので、これはいける気がする。MF文庫J的なファンタジーとして。

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漂う書庫のヴェルテ・テラ 断罪星導師 (5)

五賢七書を巡る最後の決戦
評価:☆☆☆☆★
 聖堂と結んだ隣国アルガンディアの奇襲により王城を追われたブルガトリア女王アンジェリナは、リシェルと共に地下道を使って脱出するのだが、天使により命を狙われるピンチに陥る。しかも国軍は、倍の敵に攻められている状況だ。そんな彼女たちの危機を救うために現れるのは…。

 聖堂の枢機卿内部でも対立が起き始める。神を降臨させようとするレシティートと、降臨した神を倒したいパラゼンダル、そして神を降臨させたくないシェルフの間に、万巻の書レジィナが割って入る。
 そしてついに登場するジグウォルの師匠と、彼女が語る星導の本質は、彼らを過酷な戦いへと駆り立てていく。

 五賢七書を巡る戦いは最終巻へと至る。戦いの面においてはおおよそ決着がついたけれど、ジグウォルを巡る争いは全く落ち着く気配が見えない。そのあたりをのんびり描けるチャンスがあれば良かったんだけどなあ。ちょっと残念。

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千の魔剣と盾の乙女 (2)

婚約破棄をめざして決闘だ
評価:☆☆☆☆☆
 活躍しすぎたほとぼりを冷ますため、プロトミルズの回遊都市からエリシアの生まれた回遊都市リムリックへと旅に出た魔剣使いロック、魔盾使いエリシア、錬成士フィルの3人だったが、海難事故で路銀を失くし、エリシアは嫌々ながら実家を頼る。
 ところが実家に帰ったエリシアに待っていたのは、資産も実力もある有望な若者との婚約だった。何とかそれを破棄するため、ロックを恋人と偽って父親に引き合わせるエリシアだが、ロックの夢である魔王を倒すことがあだとなり、結局、婚約者のファビウスと儀式で対決することになる。

 海で遭難しかけたロックを助けてくれた魔槍使いの少女ナギもこの対決に関わって来て、ロックにすごく興味を持っているらしい。このため、エリシアと二人でロックの嫁となる予定のフィルは、新たな嫁候補の登場に、楽しい未来生活を実現するために策謀を巡らすのだった。

 旅のパートナーの少女のピンチ、新たな恋のライバルの出現、そして強敵との対決と、正統派のラブコメ風ファンタジーに、フィルという少女がブラックな要素を味付けする。
 今回、すごくまじめな少女が加わって来て、作者の好きそうな物語でありつつ、一般受けしそうな雰囲気に仕上がっていると思う。欲を言うならば、強大すぎてあいまいになりがちな魔王ではなく、明確な敵がいた方が分かりやすいのではあろうが。

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千の魔剣と盾の乙女

誰が笑っても静かに夢を貫く
評価:☆☆☆☆★
 150年前に現れた魔王バロールにより、大陸は魔物が席巻する世界となってしまった。しかし彼ら魔物は海を渡ることができない。人間は海に面した6都市を錬成術によって切り離し、海流に乗って回遊するようにして防衛拠点とし、87の島々を生産拠点として何とか生き延びていた。
 魔物たちは普通の武器では傷つけることができない。試行錯誤の末、魔鋼というものを錬成術という精霊の力を利用した加工術で魔剣を精製し、それを操る魔剣使いが何とか都市を防衛していた。だが、20年前には勇者サーシャが魔王を自分の体に封印したものの、未だ世界は魔物たちの天下であり、魔剣使いたちのギルドも組織防衛を優先して本気で勇者を倒す気はない。

 そんな世界にあって、有名な独立魔剣使いバルトゥータスの弟子ロックは、本気で魔王を倒そうと考えている魔剣使いだ。彼は宿屋で働いて生活費を稼ぎながら、魔法盾を持つ魔剣使いの少女エリシアと錬成師の少女フィルと共に、大陸に渡っては魔物と戦い、魔鋼を集めて生活している。そんな彼はあるとき、言葉を回する魔剣ホルプを手にする。

 人類滅亡の三歩手前くらいまで追い込まれながら、ギリギリで都市を防衛して何とか均衡を保っているという世界で、その世界に住む人々の誰もが夢物語だと思う魔王討伐を本気で目指して努力し続けている少年がこの本の主役だ。
 しかし、彼のその夢はある意味で借りもので、本当の意味で自分の夢にはなり切っていない。だからこれはやはり、様々な人との出会いの中で少年が成長していく物語と言えるだろう。

 作者らしく相変わらず生真面目なキャラクターや、素直じゃないライバルなどが登場する。また、独自の世界観を作ろうという気概を感じる。そこにどうエンターテインメント性を結びつけるかで試行錯誤しているようだ。
 今回は世界観の紹介がメインだったが、次からは新天地が舞台になると思われる。魔剣と魔剣潰しの関係に関する伏線は、今回は完全放置。魔王と人間の関係も含めて、いずれ解き明かされることを期待したい。

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漂う書庫のヴェルテ・テラ (4)

聖堂の敵とみなされたジグウォル
評価:☆☆☆☆★
 聖堂内で焚書の妨害活動を開始したジグウォルは、破竹の快進撃を続けていた。ついに司祭ではなく司教も倒されるという事態に至り、3名の枢機卿は事態打開のための策を実行に移す。
 その頃ジグウォルは、五賢七書の次なる一冊の手がかりを求めて、ソコートとデルミッシュの師アルトメルンのもとを訪れていた。アルトメルンに復讐の虚しさを諭され、そして実力で打ちのめされるジグウォル。

 そんな彼に会うため、ジグウォルを兄の敵と狙うサリナがやって来る。そこに、彼女やリシェルを逆恨みするルーグラムが、枢機卿から授けられた天符を携えて現れるのだった。天使と名乗る異形の存在に隠された秘密とは何か。
 一方、ジグウォルを助けて以降、聖堂内で冷や飯を食らっていたリシェルは、ラフィ抹殺の命を受け、プルガトリア王国に入国する。そして彼女も異形の天使との出会いを果たすのだった。

 第二部では、地道な五賢七書を集める旅から一転、本格的に策動を始めた聖堂が次々と打って来る手によって、ジグウォルや、彼の仲間・知人たちが様々な事件に巻き込まれていきます。そして最後には、ジグウォルを快く送り出してくれた女王アンジェリナにもその魔の手が…。
 歴史の闇に閉ざされてきた神と人との真実、物語の根幹にあるものが徐々に明らかになって行きます。

 最後についている規制反対声明文みたいなものが、社会批判的で面白い。

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戦鬼-イクサオニ-

復讐心とそれを癒す心
評価:☆☆☆☆★
 父親である鬼の頭領を桃生という人間と犬猿雉に殺され、自身も捕えられた温羅は、人間を激しく憎んでいる。しかし、牢で生活するうち、自分の食べる分を減らし、邑のものから虐められても、温羅に食事を差し入れてくれた巫女の少女、梓には恩を感じていた。そんなある日、彼が捕えられている邑を、中津国に反逆した桃生の配下である犬が襲う。
 何とか撃退したものの、中津国の神宝のうち二つを桃生に奪われ、それを取り返す旅をすることになった温羅と梓、そして役人の川楊智也。旅をするうちに、温羅の中で忘れられていた過去の記憶がよみがえってくるのだった。

 時代的には垂仁天皇の頃。日本書紀の記録や吉備津彦命による鬼退治の伝承をベースに、父を殺され復讐を志す鬼と、その心を癒す少女の交流を描いている。
 さまざまな伝承の要素を入れようとして、いささか消化不良気味になっている設定がある気もするが、二人の交流が微笑ましいので問題ない。でも、型にハマったものなので、続編は書きにくいかも。

 作者としては、本来はこういう、まつろわぬものの物語が好きなのかな?

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星図詠のリーナ (3)

物語は一区切り
評価:☆☆☆☆★
 イーデン第五王女リーナと異母姉の第四王女パルヴィは、海図作成と航海術の勉強のため、海洋貿易で繁栄する隣国ビクラードを訪問する。道中はパルヴィと一緒で買い食いもできず息がつまるように感じるリーナに対し、パルヴィは素直になれないお姉さんの本領を発揮してリーナをいじめてしまうところが可愛らしい。
 ようやくたどり着いたビクラードでは、連日のパーティに明け暮れ、本来の目的を達成することができない。イーデンが中原を制覇したことで海運貿易の相対的価値が下がり不満を抱くビクラード国王アルディウスは、これ以上イーデンが力をつけることを防ぐため、のらりくらりと彼女たちの要望をかわしているのだ。
 そこでパルヴィは、自分たちとバールを利用して、相手方の弱点を色仕掛けで攻め、目的を達しようとするのだった。

 今回は陸から少し離れて海の上の冒険なので帆船と海賊が出てくる。物語全体の背景に迫る部分としては、星図詠の謎を教えてくれる竜も登場する。
 前半にはほとんど初めて王女さま活動をするリーナの姿があり、後半には冒険で活躍するパルヴィの姿がある。それぞれがお互いの生き方を少しずつ学んだのかも知れない。

 今回で物語は一区切りのようで、最後に色々なものを無理矢理まとめてしまっているのが寂しい。続編を出してもらえれば良いのだけれど…。

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漂う書庫のヴェルテ・テラ 断罪星導師 (3)

面白さが封じられた感じ
評価:☆☆☆★★
 準備不足のまま、いきなりパラセンダル枢機卿に襲撃を仕掛けたジグウォルは、あっという間に返り討ちにあい、地下牢に監禁される。彼を助けるために、レジィナはティベリアやラフィに助力を求めつつ、聖堂に向かう。
 彼らの前に立ちはだかる、ジグウォルやリシェルのルームメイト、サリナ。彼女がジグウォルを恨む理由、そしてジグウォルが聖堂を出るきっかけとなった、彼女の兄にまつわる事件とは何なのか?少し明らかになるような気配もしつつも、まだはっきりとはしない。

 これまでの、本を探して旅をするという流れからの飛躍が大きくてビックリした。本筋から逸れた所にはえもいわれぬ焦燥感を感じるのだが、肝心の本筋となる部分は遅々として進まない気がするのが不思議だ。目先を変えるのならば最強カードの師匠を乱入させればグチャグチャにかき乱されるだろうに、おそらくこれをやるとその後の展開が破綻するのだろう。
 この作品はどちらかというとジグウォルのある種の不道徳さが面白さのポイントに押されていたのだから、それを封じるかの様な今回の展開は面白さを減衰させる結果になる気がする。ということで、次巻は突っ走って行って欲しい。

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桐野くんには彼女がいない!?

B級ハリウッド映画みたいに楽しめれば
評価:☆☆☆☆★
 鉄道研究部兼ラノベ研究部(仮)の部長である桐野康介は困っている。1つ、入学当初の言動から邪気眼扱いされ、ほぼ全生徒から敬遠されていること。2つ、言動は妄想ではなく本当に49個も異能を持っていること。3つ、そのうちのひとつの影響で、18歳までに童貞を捨てないと死んでしまうと言われていること。しかし、まあ何とかなるさと思いながら、幼なじみで鉄道好きの遠山沙由里、元写真部の森里麻耶、転校生で運動神経抜群のレナ・イリノヴナ・薬袋と共に遊んでいた。
 でもそんな状況も人によっては妬まれるもの。生徒会長からのお達しで、1学期中に活動成果を求められた桐野は、自分のお勤めの都合もあって、メンバー全員で熊野にレポートの取材に行くことにする。当然、お約束のトラブルが色々とあって…。

 アレとコレとソレと、という感じで色々な作品の様々な要素を足し合わせた感じの設定になっている。実際それをあまり隠しておらず、メタ風にばらしている所もある。そんな感じなので、独創的な、予想もしないことは起こらない。お約束どおり、起こるべくしてイベントが起きる。
 いまは少し硬くて、ファンタジー風とラブコメの噛み合わせがちょっとずれている違和感がある気がするので、そこをリバランスできれば素直に楽しめるようになると思った。B級ハリウッド映画みたいな感じで。

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漂う書庫のヴェルテ・テラ (2) 断罪星導師

過去と現在を根拠にした、恐ろしくも可愛らしい争い
評価:☆☆☆☆★
 貴族の屋敷に本を仕入れに行った帰り道に、ジグウォルと『万巻の書』レジィナは、二人の刺客に襲われる。襲ってきたのは、かつてジグウォルが学んだ星導師の下にいた、ソコートとデルミッシュ。
 聖堂からの依頼だというその襲撃を振り切って落ち着いたと思ったのも束の間、今度は同じ聖堂から、ジグウォルの護衛役として幼なじみのリシェルが送り込まれてくる。加えて彼に依頼があるという。
 『五賢七書』とそれをめぐる聖堂内の権力争いに巻き込まれる形となったジグウォルだが、本来の目的に適うとばかりに依頼を受ける。ところが、外敵以外にも身内に争いの種がまかれるとは思いもよらなかった。万巻の書と幼なじみの、無言の鞘当てが始まる!

 ジグウォルが星導術を目指す理由となった過去の出来事が少しずつ明らかにされてきている。同時に、ジグウォルを取り巻く多くの少女たちの存在も。
 印刷所のティベリア、宿屋のユーリ、女王アンジェリナ、そして前述の人々と、枚挙に暇がないという状況である。ただ、彼女たちとの描写をメインとするのか、世界観をベースとするストーリー性を優先するかのどちらを選ぶかが定まりきっていない印象があり、双方とも中途半端になっている気がしてしまう。
 個人的に面白かったのは、ポリオとジグウォルが書いた本の紹介記事。この書評も「嘘ではない、いろいろな見方のひとつ」になっているだろうか?

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漂う書庫のヴェルテ・テラ 断罪星導師

自由に本を読むために戦う
評価:☆☆☆☆★
 聖堂という中世の教会の様な国が教義の背く書物を焚く世界で、本好きで星導師という星の力を使う魔法使いの少年ジグウォルが、「万巻の書」という膨大な本を記録している精霊の少女レジィナと共に、「五賢七書」という星導術の本を求めて旅する物語。
 同出版社の前作「ライタークロイス」に比べ、主人公の性格は真面目少年からエロ少年へ変わり、主人公ははじめから強力な力を備えていて、物語を構成する対立軸も分かりやすいものになっている。だから、一読すると、本当に同じ作者なのかと感じるところがなくもない。とても器用なのだろう。
 今回は人物と能力を紹介する展開だったので、次巻以降で彼らが入り混じりながら対立し、ストーリーを進行させていくことだろう。

星図詠のリーナ (2)

災害復興は最終的には自分たちの手でやらなきゃね
評価:☆☆☆☆★
 地図はすでに存在しているものを紙の上に書き表したものであり、過去から連綿と続いてきた変化の、現在における断面を写し取ったものと言えるだろう。じゃあ、地図作成は後ろ向きな作業かというと、そうとばかりも言えない。なぜなら、いまを知ろうとするのは、いまはないものを作り出す余地を見出すためでもあるのだから。
 再び地図作成を命じられ、侍女のサラと傭兵のダールだけを連れて出発したリーナ。今回も何やら騒動に巻き込まれ、何となく通じ合っていたと思っていたダールとも、立場や目的の相違などもあって、気持ちの行き違いが発生してしまう。そして、不思議な力を持つ存在たちの登場。
 一言で言うと、変な王女による公共事業の物語です。

 公共事業で思ったのだけれど、過去に公共事業が有効だったのは、国家が専売事業を持っていたからでは?金山や塩田を支配していればそこからぼろ儲け出来るし、公共事業はその利益分配という見方もできる。だから、リーナがいるような世界では意味を持つ。
 でも、国家の収入減が税金だけの世界ではどうだろう?公共事業の費用はすべて、現在か将来の国民の負担になるだけなのでは?物語とは何の関係もないけれど、ふとそんなことを思った。

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星図詠のリーナ

彼女の生きた証が地図に残る
評価:☆☆☆☆★
 知らない街の様子を知るには、数値化された情報と数値化できない情報が必要らしい。前者は街までの距離などだし、後者は風俗・習慣などだ。例えば古代ローマでは、この二つの情報を伝えるため、街々までの距離を示した地図と、名所や住民の特徴などを絵で記した地図の二種類があったらしい。当時のローマの人々は、一生訪れないかもしれない遥か彼方の様子を、その地図を眺めながら夢想していたのかも知れない。

 この物語の主人公であるリーナは大陸最大の王国の王女殿下であり、普通であれば王城の中にあって夢想する側の人間であろう。しかし彼女が普通と少し違うのは、母親の影響で測量と作図が出来ること。そして彼女が手慰みに作る地図は、それぞれの場所で見たもの、出会った人を描いた、思い出の縮図でもある。この趣味が高じて一流の技術を身につけたリーナは、父王の勅命を受け、とある港町の地図作成を命じられ、何故か水戸黄門の時代劇の様な役割を果たすことになってしまう。
 侍女のサラや、旅の途中で出会った傭兵のダールなどと繰り広げられる、ファンタジーな冒険譚。彼女の持つ白紙の世界地図は、これから思い出の記録で埋まっていくのだろうか。

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ライタークロイス (5)

最後まで山は動かず、か
評価:☆☆☆★★
 まず挿絵を見て衝撃。一体いつの間にの急展開。しかし、それも読み進めていくうちに腑に落ちてきた。ああ、打ちきりなんだ、と。
 読ませる文章を書くのは確かなのに、なぜか熱血系キャラですら”クール”にしか動かせなかったことが敗因なのだろうか。熱狂的なファンが生まれることはなく残念な結果になってしまった。あとがきから悔しさがビンビン伝わってきた。

 駆け足でいろいろな伏線を回収しようとしたけれど、さすがに無理があり、最後は打ち切り少年漫画みたいに、「今後も彼らの旅は続く」みたいな終わり方になってしまった。でも、作者に技量がないわけではないと思うので、今後の作品に期待したい。

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ライタークロイス (3)

初めての外国は色々と衝撃なのだ
評価:☆☆☆☆★
 ペンを握って感性の趣くままに書く、というよりも、きちんと舞台装置を作り上げて事前に展開を細部まで考えてから書く、というタイプに思える。無駄な伏線は張らず、どこで回収するかをきちんと決めている感じ。だから、物語が理路整然と進行し無駄がない。一方で、きちんと役割分担を決めて書いているキャラクターなので、まだ勝手に動き出すというほどには生き生きと動いていない気もする。でも、色々言ったけど、やっぱり続きが気になる作品。

 カインにとっては人生の方向を決定付けた男といってよい、アリキーノとの再会。インフェリアでの経験は彼に何をもたらすのか!という感じの第三巻。あとがきはシンデレラバージョン。

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