ソードアート・オンライン (9) アリシゼーション・ビギニング(川原礫)の書評/レビュー


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ソードアート・オンライン (9) アリシゼーション・ビギニング

未来への歩みを横から取り込む仮想世界
評価:☆☆☆☆☆
 ノーランガルス北帝国、ダークテリトリーとの境界である果ての山脈の麓にあるルーリッド村は、開拓以来三百年の歴史を誇る貧しい村だ。三方を果ての山脈に囲まれ、唯一、開墾可能な方角には《悪魔の樹》ギガスシダーが深く根を下ろしていて、農地にすることができない。その樹を切り倒すのは村の悲願ではあるが容易ではなく、《竜骨の斧》を以って三百年挑み続けて来た天職が《刻み手》だ。当代のそれは、ユージオとキリト、二人の少年が担っている。そんな二人の幼なじみが、村長の娘であるアリスだ。
 だがそのアリスは、ちょっとした思いつきから踏み込んでしまった果ての山脈の洞窟で、ダークテリトリーの土地に触れてしまったことがきっかけで、公理協会の整合騎士により、央都セントリアへ連行されてしまった。それから六年、その後のアリスがどうなったのかをユージオは知らない。ただ彼の許には、洞窟から持ち帰った、白竜の死骸の下にあった《青薔薇の剣》が残されている。

 最近の桐ヶ谷和人はまたもややつれ気味だ。菊岡誠二郎からの紹介で、ラース社開発の新たなフルダイブ・マシンであるソウル・トランスレーターのβテスターをしているからだ。脳細胞の構造体であるマイクロチューブルに充填されているエバネッセント・フォトンが生み出すと考えられる魂の座、フラクトライトに直接アクセスし、記憶の中の物体をデータオブジェクトとして呼び出し仮想世界を構築する、現実の記憶と識別不可能な夢の世界。それがラースの目指す場所だという。
 ガンゲイル・オンラインに現れた、理解不能な強敵に対抗してもらうため、桐ヶ谷和人と結城明日奈をエギルの店に呼び出した朝田詩乃は、キリトからそんな話を聞かされ、不安を感じてしまう。そしてその予感は、予想外のところから的中してしまうのだった。

 仮想世界で様々な経験を積みながら、現実世界で未来へ向けて第一歩を踏み出した少年少女に襲い掛かる事件と、より現実との違いがなくなっていく仮想世界を構築しようとする試み。それらが接点を持つことで、キリトはよく分からないまま、まっさらな状態で新たなゲーム世界で戦いに飛び込むことになる。
 プロローグが約半分!という驚愕の構成となっている第一巻だが、それはやはり必要だからそうなっている。ただのテストだと思っていたことが、キリトのリアルな経験として蓄積される伏線となっているのだ。ただし、その転換はあまりにも唐突で呆気ないものだが…。そして読者も顛末に見えない部分を残されつつ、新たな世界での物語に取り込まれていくことになる。

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