櫂末高彰作品の書評/レビュー

サバイバルPゲーム

権力への反抗(脱衣)
評価:☆☆★★★
 元女子高で今は40:1で女子が多数を占める成尊学園は、ハーレムではなく、女子が男子を奴隷化する地獄だった。
 現状に憤りを感じる瀬牙達哉は、生徒会長の王坂綾女から、それを覆すチャンスが与えられることを伝えられる。そのチャンスとは、男子10人v.s.女子5人x3セットで開催される、サバイバルPゲーム、繊維を溶かす白濁液をぶっかけ合い、全裸になると負けになるサバイバルゲームだった。

 まるで女子の早乙女つばさやホモらしい安岐山千人と共にゲームに挑む瀬牙達哉だったが、ボクサーの城島明日香、狙撃手の愛知・L・クロエ、おバカなお嬢様の永塚鷹子、メイドの才賀仁桜という強敵の前に、ほとんどの仲間たちはすぐに脱落してしまう。果たして彼らに勝機はあるのか?

 作者的には「学校の階段」に近い作品だと思っているらしい。権力への反抗という構図だからだろうか。

Digital Eden Attracts Humanity (2)

悪魔との勝負
評価:☆☆☆★★
 悪魔のオラクルに感染している青年から挑戦を受けた叡理は、自らと妹の慧の秘密を守るため、それを受けることにした。勝負は、トップアイドルグループ・ノルニルからセイレーンのオラクルに感染した人物を見つけられるか否かによって決まる。
 慧と同じ吸血鬼のオラクルに感染した結園千夏も引き連れ、ノルニルの拠点に向かった叡理は、メンバーの志田宝冠と十葵に出会う。そして同じくメンバーの九沙織、大貫玲亜に引き合わされることになるのだった。

Digital Eden Attracts Humanity 最凶の覚醒

世界を敵に回しても
評価:☆☆☆★★
 天満博士が開発したデジタルウイルス・オラクルによって神話や伝承の存在に変貌したフェクターと、それに対抗するためにセントラル・メディック社が公開したデジタルウイルス・ネメシスにより動物や昆虫の特性を一時的に発現できるようになった人々が所属するH.A.W.K.が対立する世界。
 高校生の総上叡理は、義妹の総上慧と共に暮らしていた。ある日、フェクターによる犯罪現場に遭遇した総上叡理は、H.A.W.K.の伊切公平と出会い、クラスメイトの佐嶋礼がH.A.W.K.の一員であることを知る。そして時を同じくして、行方不明になっていた幼馴染の水無月智花と再会し、その知人である安西シエラから、自身が天満博士の息子であることを知るのだった。

 そして義妹の身に、彼の人生を一変させる事象が発生する。

戦変のグラン

復讐の意志
評価:☆☆☆★★
 帝国に侵略された亡国の庶子であるレナ・クセノキスとメイドのソフィアは、兄王子イリアスの神装だったグランと再会する。グランは奴隷へと身を落としていた。
 装纏者の武器となり防具となり力を振るう異能の持ち主である神装は、世界情勢に変更を加えうる戦略兵器であり、帝国はその持ち主を集めるため神装演武会を催し、その優勝者は皇帝と謁見することができる。その大会に出場するというレナの神装となったグランは、同じ出場者のライラ・ハープライネンと手を組み、優勝を目指す。全ては復讐のために。しかし…。

 この作者の問題は、いちいちキャラクターの言動がイラつくところなんだよな〜。

雀―肌上の猛牌

女子高生脱衣麻雀
評価:☆☆☆★★
 見た目は美少女な男子高校生の麻枝雀は、帰宅すると母親や森橋奈々に拉致され、姉の麻枝燕が通う私立竜虎凰亀学園女子高等学校に連れて来られた。ここは理事長の方針で、脱衣麻雀勝負で意見対立を解決し、勝負強さを養う校風の女子高だ。
 おたふくかぜになった麻枝燕の代打ちで、偽乳疑惑の紅孔雀一美との麻雀を打つことになった麻枝雀は、安めの早上がりで見事に勝負を制する。

 しばらく性別を隠して滞在することになった麻枝雀は、同室の春風喚子の姉の春風杏子が、麻雀勝負によってその他部から生徒会へ、三載里桜によって無理矢理引き抜かれたことを知り、三載里桜に心酔する桃瀬サリーらと、春風杏子を賭けて勝負することになる。

学校の外階段 (3)

学園内の権力闘争
評価:☆☆☆☆★
 水川徹紀、上原莉梨子、松前要一が所属する甘栗浜高校生徒間互助組織「テツ&リリー」に新入生の八巻かおるがやってくる。監査副委員長でもある水川徹紀を気に入ったかおるは、入部して彼に告白するためにやってきたのだ。
 一方、執行部長の的場咲夜は、生徒会長の神庭幸宏が所属する階段部を潰すための策をテツリリに妨害され、私怨を抱いていた。その私怨を果たすため、階段部を悪役に仕立てつつ、テツリリの機能の乗っ取りを図るため、策略を巡らす。

 いやあ、権力欲に取り憑かれた人たちは大変だなあ。いちいちこんなことを考えて生きていかなければならないなんて、無駄に苦労を抱えて生きているとしか思えない。ボクとは関係ないところで楽しく権力闘争をして生きてください。

学校の外階段 (2)

伝えられない想い
評価:☆☆☆☆★
 甘栗浜高校で生徒間互助組織「テツ&リリー」を立ち上げることになってしまった水川徹紀は、彼をその気にさせた「星の女神」上原莉梨子や友人の松前要一と共に、日々大量に寄せられる案件の処理に追われていた。もっとも、上原莉梨子はやる気はあるのだが、実態は恋愛相談というガールズトークに花を咲かせているだけだし、松前要一はとにかく楽をすることしか考えていないので、実質、水川徹紀が一人で実務を処理することになってしまう。
 もうすぐバレンタインデー。女子たちはそわそわしだし、生徒会書記をしている幼馴染の植村克美の機嫌は悪い。ただでさえテツリリの仕事が忙しいのに、監査委員長の桐生信士は新たな雑用を押し付けてくるし、執行部長の的場咲夜は冷たく当たってくる。そんなとき、「太陽の女神」にして生徒会副会長の御神楽あやめが、生徒会長の神庭幸宏が所属する階段部をつぶすべく、部活連合を立ち上げ、その仲立ちをテツリリに依頼してくるのだった。

 今回のシリーズの中核は、上原莉梨子や植村克美ら女子生徒の恋心であるように見受けられるのに、あくまで視点が無自覚な水川徹紀にしかないため、その辺りの甘酸っぱさが全く表現されず、ミステリ風味ばかりが強調されてしまっているようだ。もしそちらを中心に据えたいのならば、中途半端なラブコメをいれずに、徹底的にミステリミステリした方が潔い。あるいはその逆であるべきだろう。
 読者とか編集とか営業とか、それぞれの立場から勝手なことを言ってくるであろうが、結局、作者が書きたいものを書いていなければ、それを読者が面白いとは思えないだろう。もしくは、徹底的に商業主義的にマーケティングをして、あくまで売上を立てるための道具と割り切って、作品を書くかのどちらかだろう。

つり球 SF -Short Films-

アニメ本編の合間に繰り広げられる日常
評価:☆☆☆★★
 TVアニメ「つり球」を原作とする短編集。アニメ本編の合間に繰り広げられる日常を描いている。

「禁断のストアルーム」
 ケイト入院中に納戸の探検をしていた真田ユキとハルはアクシデントで閉じ込められてしまった。扉は開かず、のどは渇いてくる。いつも持っているスマホも手元にない。
 希望は、宇佐美夏樹と釣りに行く約束をしていること。待ち合わせ場所に現れなければ、もしかすると心配して見に来てくれるかも知れない。いや、心配なんてしてくれないかも…。

「とまどってエグザミネ―ション」
 ハルが中間テストで全教科白紙解答だったため、数学教師が怒り、次回の期末テストで赤点ならば、夏休みは補習ということになってしまった。それに、何故かユキとナツキも巻き込まれることになり、初めてのお友達お泊まりでの勉強合宿が行われることになる。

「怖がってナイトウォーキング」
 ハル、ユキ、ナツキは夜の学校に行くことになった。不気味な現場に現れたのは、アキラ・アガルカール・山田だ。巻き起こる怪奇現象は、果たして本物か、あるいは誰かのいたずらか?

「胸張ってウエディング」
 船長こと井上歩が島野海咲にプロポーズする覚悟を決めた。宇佐美夏樹は自分がアメリカ留学に行く前に、きちっと結婚を決めてしまって欲しい。真田ユキを巻き込んで船長のプロポーズ指導を始めるのだが、生徒がヘタレ過ぎて不安が募る。
 それでも初めてのデートで二人は水族館に行くことになった。ハルは宇佐美さくらを連れて、彼らの初デートを監視することになる。

「ハルとタカとクロ」

学校の外階段

体制側の新主人公
評価:☆☆☆☆★
 水川徹紀は、何かに一心に打ち込むことを忌避している甘栗浜高校の一年生監査委員だ。姉の自由気ままな生き方に反発し、無難に平凡に生きて来たのだが、幼馴染の植村克美などから見れば、もったいないとも思う。
 それなのに、面倒くさがり屋の監査委員長の桐生信士から、執行部長の的場咲夜から命じられた部費流用疑惑の調査を申しつけられ、協力を申し出て来た「星の女神」上原莉梨子と調査をすることになる。この莉梨子は、刑事ドラマに傾倒し、ウサ耳スキルをマスターするのに余念のない、徹紀の苦手なタイプに思えた。

 莉梨子の友人の今井静から頼まれたこともあり莉梨子の暴走をいなしながら、友人の松前要一や加藤博文にからかわれながら、委員長の帳桂子には叱責されながらも、段々と真相に迫っていく。そこにあったのは、彼が当初考えたような不正ではなく、単純に排斥することも憚られる様なシステムだった。

 時系列的に言うと「太陽の女神」御神楽あやめが副会長に、神庭幸宏が生徒会長に就任して初めての予算委員会の直前。まだ彼らは一年生で、「月の女神」凪原ちえや「雷の女神」天ヶ崎泉、「氷の女神」神庭美冬もほんのわずかに登場するが、本編の登場人物たちはあくまでも舞台の一部であり、本編では活躍の機会が与えられなかった女神様が今回のヒロインだ。
 神庭幸宏とはまた方向性が違うけれど、周囲と自分の生き方に悩み続けるという意味では一緒の主人公が、新たな友人と出会って学んで行く物語の様だ。続編あり。

夢魔さっちゃん、お邪魔します。 (3)

アリディア様の秘密
評価:☆☆☆☆☆
 明諒高校に通う夢野尚史の悩みは尽きない。幼なじみの枕木現を悪夢から開放し、円居鑑の夢世界崩壊の危機を潜り抜け、結果、二人の少女に好意を抱かれることになってしまった。しかし、夢野尚史が好きなのは、彼をギルバートと呼ぶアリディア様こと今野覚だ。
 現代サバイバル研究会(=ぼっちでも生き抜く会)の仲間たちで志摩河ドリームワンダーランドに遊びに行くことになったものの、枕木現、円居鑑、今野覚が結託して夢野尚史を振り回すもので、もう青色吐息。

 しかし、彼の悩みは現界だけにとどまらない。夢魔たちが暮らす深界、人間たちの夢の世界で、今度はアリディア様の夢の中に、現会メンバーの饗庭愛が度々現れるという問題が発生する。その影にいるのは、円居鑑の件でも現れた新界派の教授がいるようだ。
 新たな夢魔、グラウス・バッケンクローサーと獣人型バクのファムを交えて、夢の世界での陰謀が描かれる。

 今回の中心人物は、アリディア様こと今野覚だ。なぜ彼女はアリディア様を名乗るのか?そしてその従者はなぜギルバートなのか?そこには深界の創世神話の二柱、アリディアとプセノが関わっているらしい。
 現界と深界はそれぞれ別の世界のようであって、昔から密接に関わってきたようだ。深界ではエリーの仮称を名乗り、本当の名前は誰も知らないというさっちゃんが夢野尚史に関わったのは偶然なのか?あるいは誰かの作為が働いているのか?

 謎は少しずつ明かされつつ、しかしそれが新たな謎を呼び、学園ラブコメをやりながらも、底が読めないミステリアスな人物をコミカルに描きつつ、表面上は明るく、しかし中身はブラックに、物語が繰り広げられていく。

夢魔さっちゃん、お邪魔します。 (2)

深くかかわるからには責任を取らなきゃ
評価:☆☆☆☆☆
 アリディア様こと今野覚の家庭教師のおかげをもち、夢野尚史は明諒高校に入学した。幼なじみにして、深界絡みで関係が改善された枕木現も同じ学校だ。改善され過ぎて、毎朝起こしに来ることが最近の悩みだ。
 サキュバスのさっちゃんも正式に夢魔となったらしいのだが、その配属場所は尚史の周辺というあいまいなもの。彼の周りにはこれからも深界絡みのトラブルが起き続けるというのか?そのことを確認するように、実際に問題が起き始める。

 さっちゃんが気にしているのは、尚史のクラスメイトでもある円居鏡。ぼっち気味な尚史は知らなかったことだが、高城直を介したテストの予想屋で有名な人物らしい。どんなテストでもほぼ100%予想するとか。一体どんな仕組みだというのだろう?

 マレーバクとの漫才風味でごまかされがちだが、実はさっちゃんは色々と隠していることがあるみたいだし、思った以上に有能な夢魔でもあるらしい。そして、夢魔協会からも一定以上の信頼を受けているとみて良いだろう。つまり、夢野尚史の周囲には、何かが起きる背景があるわけだ。
 そして今回、枕木現の件で見て見ぬふりをすることの恐ろしさを思い知った夢野尚史は、円居鏡という問題を抱えているように見える少女に関わって行くことになる。当然、他の女に気を取られる彼を、今野覚や枕木現は厳しく躾けるわけだが…。

 友貝亦太郎や加東芳、度会幹人などという新キャラも登場し、事態の背景も徐々に明らかになってきた。現界と深界のかかわりなど、興味は尽きない。

夢魔さっちゃん、お邪魔します。 (1)

あきたな、と思った頃から面白くなる
評価:☆☆☆☆★
 高校受験を控える夢野尚史の夢の中に現れたサキュバスのさっちゃん。サキュバスといってもエロいやつじゃなく、夢世界の管理者という役割らしい。そんな彼女が言うには、尚史の夢世界は誰かに壊されていて、このままだと現実に死んでしまうかも知れないらしい。

 半信半疑くらいな気持ちで、尚史は容疑者たちの夢の中を調べていくのだが、その容疑者たちというのは、尚史と関係の深い友人たちや家族だった。
 現実世界では、受験勉強で苦労したり、友人同士の恋愛模様に巻き込まれたりしつつ、夢世界で原因を探っていく。ようやくたどり着いた原因は、とっても身近なところに潜んでいたのだ。

 半ば過ぎまでは、結構退屈な展開が続くかも知れない。そこからが作者の真骨頂とも言うべき、人の心の奥底に沈む、くらい願望がドロドロと溢れてくる。
 そんな状況でも明るいさっちゃん、やっぱり人間とは感覚が違うんだなあ。

 尚史の妹・優芽、尚史が仕える主君・アリディアこと今野覚、尚史の幼なじみの枕木現、友人の青谷高次や小窪止揚太たちと、これまで築いていた関係が表面上のもので、気づけていなかった関係が実はあったのだということを思い知らされる。

 なんやかんやとありながら、最終的にはラノベ的な結末にたどり着いて、次巻以降につながる感じです。

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学校の階段の踊り場 (2)

目指すべき先を探して
評価:☆☆☆☆★
 FBonline掲載の短編3本と書き下ろし2本が掲載されており、後者のうち1本は本編完結後のエピソードになっている。
 大晦日から元旦にかけての初詣を兼ねた千段の参道レースを描く「年越しの階段」、三島真琴視点でバレンタインのエピソードを描く「恋愛とチョコレート」、御神楽あやめ視点で同じ出来事を描く「チョコレートと恋愛」、九重ゆう子・刈屋健吾・遊佐由宇一・中村ちづる四人の関係を描く「エンドレスフォー」、そして、新しい年度になり新入生を迎えた天栗浜高校で、井筒研の妹の井筒奈美と神庭幸宏の出会いと再スタートを描く「予兆」を収録している。

 真ん中の三篇は、サブキャラ視点で本編の時系列の中の物語を描きなおしているので、これまでとは違った人間関係の印象を抱くかも知れない。また、最後の一編は、まさに新しい物語のスタートという感じに仕上がっていて、目標を失って自暴自棄になりかけている井筒奈美に前を向かせるセリフを放つ神庭幸宏が格好よい。
 まだまだ今回触れられなかったキャラクターたちも大勢いるので、機会があれば彼らの事後談が描かれるのも面白いと思う。

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学校の階段 (10)

先の先にあるもの
評価:☆☆☆☆★
 とりあえず、神庭幸宏がどれだけみんなに愛されているのか、という事は良く分かりました。あと、渡辺と吉田の名前がこれまで全く出てこなかった理由も。でも、なぜ走るのか、という問いに対する答えは明示的には書かれていない。

 社会不適合者の時代を経ながらも曲がりなりにも社会人になって数年が経つが、乏しいとは言えいくらか経験を積んでくると、全く新しい仕事に対しても何んとなく見切りが出来るようになる。別に武道の達人の話ではなく、新人の頃はどんなつまらない仕事にも真正面から全力で取り組んでいかないといけない様な気がするのだけれど、そのうち、要所要所をきっちり締めさえすれば所々手を抜いたとしても無難に仕上げられる、という事が理解できるようになり、さらには事前にどこが要所なのかを知る事が出来るようになる、ということだ。これが悪い方に進むとお役所仕事になるのだけれど、全くできないと、どこかでボキッと折れるという事態になりかねない。
 この、見切りを会得できた(気分でいる)のは、初めの頃、死ぬ気で仕事に取り組んだおかげだと思う。今から見れば無駄のように思えることでも当時は無駄ではなかったし、現在を築くための礎になったのだと思えばやはり無駄ではなかったのだろう。一方で、初めの頃に手を抜いて生きていたとしても、今でも適当に生きていられるような気もする。結局どちらが正解なのかは未だに分からない。

 刈谷圭吾はどうやら彼自身の答えにたどり着いたようだ。そしていずれは神庭幸宏も答えにたどり着く。果たして読者は自身の答えにたどり着く日が来るのだろうか。

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学校の階段 (9)

階段レース以外の対決も最終決戦間近
評価:☆☆☆☆★
 階段部の次期部長を決めるための戦いが開幕。時を同じくして訪れるバレンタイン・デーでは、それぞれの思いが交錯。
 自分の強みの無さに悩む幸宏は、美冬との会話を通じて、それをつかむきっかけを見つける。一方で、井筒はついに部長に告白する決心をする。そして、バレンタイン・デーに送られるチョコレートの行方は。

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学校の階段 (5)

不器用な、でも正直な生き方
評価:☆☆☆☆☆
 この巻のメインは井筒研と凪原ちえ。考える前に行動して突出する孤高の狼の様な井筒と、行動スピードがスローであるため周囲の意見に巻き込まれてしまいがちな凪原。自己と他人のバランス感覚があんまり良くないという意味では似たもの同士の二人。合同合宿での間違い告白から、周囲を巻き込んで、二人をくっつけるという強制的な流れが出来てくる。そのうち中学時代の友人である他校の生徒も登場し、何故か階段レースの対抗戦が開催されることに。
 協調性という言葉の下、多数が正義でありそれに反対するものは和を乱す悪として断罪されてしまう小さな社会。その中で、不器用に自分の行き方を貫こうとしてもがき、ちょっと失敗をしてしまう二人。無意味に思える対立でも、対立しないで得られる仮初めの調和よりも、対立したことで生まれる本音の関係の方が価値がある。そんな理想が見られるかも。
 こっそり学年主任の大津先生がちょっと格好よい。

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学校の階段 (4)

悩める若者と仲間たち
評価:☆☆☆☆★
 今回の主役は"天才ラインメーカー"こと三枝宗司。彼が突然提出した退部届と、階段部との退部を賭けた勝負。一年前に刈谷健吾との間にあった約束とは、そして、元の部活である電脳研で起きていた事件とは。
 体育祭で披露される筋肉の祭典にも注目!

 サポート役が多くてあまり目立たないけれど、実は頼りになる先輩というポジションの三枝。母親のあまりの束縛に反撥し、周囲の人々を見下げ果てることで何とか折り合いをつけて生きてきたが、その有能さゆえにより傷つき、刈谷という乗り越えるべき壁を見つけることで、新しい生き方を選択してきた。
 でもその生き方は自分にとっては不自然で危ういものに思えてしまう。いつか壊れてしまうならば自分の手で壊してしまえ。そんな衝動に駆られて行動する三枝。そんな三枝に対する階段部の面々、そして三女神の一人、見城遥の対応を見よう。

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学校の階段 (3)

翼がふたたび羽ばたくまで
評価:☆☆☆☆★
 今回の主役は"黒翼の天使"こと天ヶ崎泉。天馬グループという大金持ちのご令嬢にして、三女神に数えられる美貌を持つ彼女。恵まれたものを持つからこそ、そこに生まれる邪推・妬みみたいなものと闘わなければいけないこともあるわけで、そんな彼女が自分のいるべき場所を確認するまでの物語。
 部活の合同合宿で女子部員獲得に向けた勝負を行うことになった階段部。その相手は女子テニス部。なぜか女テニ顧問の竜胆先生もノリノリで、幸宏の従姉、神庭美冬と、いずみがテニス勝負をすることに。勝敗の行方と、テニスに対するいずみのトラウマとは。
 階段部のもう一人の二年生、三枝宗司と女バスの見城遥の関係もちょっと明らかになる。

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学校の階段 (2)

階段部設立の物語
評価:☆☆☆☆★
 この巻の主役は、階段部部長の九重ゆうこと副部長の刈谷健吾。階段部の設立の陰にあった部長の葛藤と、幼なじみである健吾の助言を背景として、理事会やPTAを巻き込んだ、生徒会長による階段部への妨害活動が描かれます。
 階段部という、あまり常識的ではない部活動を真剣にやろうと思うには、それぞれにそれぞれなりの理由があったわけで、陸上部のハードル走者として部長が感じてしまった壁と、それを突き破る際に感じた走ることへの飢えみたいなものが丁寧に描かれていて、当時に起きたことが現在に影響を及ぼしている様子なんかも理解できます。

 前巻ではちょっと消化不良気味に感じた設定もストーリー進行の核として機能してきたり、部活動での悩みや教育者のあり方など、ちょっと真面目な話題も盛り込まれます。
 そして、彼らの学校に赴任して来る臨時教師は…。

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学校の階段 (1)

階段を駆け抜ける高校生を描いた青春ドラマ
評価:☆☆☆★★
 タイトルをひらがなで書くと「がっこうのかいだん」。夏にぴったりの怪談集かと思ってしまうかもしれないけれど、漢字で書くと「学校の階段」。階段を、廊下を、いや、校舎中を全力疾走する、階段部という奇妙な部活の物語です。

 神庭幸宏は新高校一年生。体験入部期間中に、非公式かつ体制側から睨まれている階段部なる変な部活に勧誘される。はじめは嫌々ながら見学させられていたが、実際に校舎を疾走し、部活のメンバーたちの走る姿に感じるものがあり、結局入部することになる。
 しかし、廊下を走ってはいけません、というのは小学校から教え込まれるルール。いかにゆるい校則が売りの高校とは言え、思いっきり規則に違反した部活が部活として認められるはずもなく、彼らを目の敵にする生徒会執行部による、階段部の解散に向けた謀略が仕組まれる。

 廊下を走るという既存のルールに抵触しつつも、彼ら自身のルールを作り、出来る限り他人に迷惑をかけない形で、いかに校舎内を速く走るかに切磋琢磨するメンバー。そのひたむきな姿は、部活に対する迫害を撥ね退ける力となるのか。あんまり普通ではない種目ですけれど、熱いスポーツの物語。階段を上り下りするテクニックに色々と名前がついていて面白い。
 この巻では、階段部の活動を中心に描いているので、メンバーそれぞれの個性みたいな部分まではあまり踏み込めてはいない感じ。主人公の幸宏も、両親を相次いで亡くし、従姉四姉妹と甘い生活を送っているという設定なのだけれども、まだまだ設定の方が過剰で消化しきれていない気もする。そのあたりは、今度のお楽しみといったところだろう。

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