上総朋大作品の書評/レビュー

天翔虎の軍師 (5)

色恋沙汰で崩れる王国
評価:☆☆★★★
 フレリカ王国の本来の領土は失ったものの、副軍師ニーア・リーベルンにより王女ミオは無傷であり、旧エリューディン王国の領土を手に入れることができた。その転戦を支えるのは、新たに丞相に任じられたエナ・ワトソンの手腕だ。
 一方、皇帝ガルヴァリア・トーレ危篤により中央へ召喚された帝国四将は、大元帥ジン・ローディー指揮の下で再編され、ラーカス再統一のための大進撃に従事することになった。そして、その勝利を確実にするため、天竜姫(テュリオン)の軍師ユミカ・ローレンツはフレリカ王国内に対して離間策を実行する。それは独身で世継ぎもいないミオとその幼馴染たちをターゲットにしたものだった。

天翔虎の軍師 (4)

領土の入れ替えゲーム
評価:☆☆★★★
 トーレ帝国の大軍師である天竜姫(テュリオン)の軍師ユミカ・ローレンツの罠にはまったフレリカ王国軍は、天翔虎の軍師(カルーディア)シェル・スノーハートの負傷、ザグロニア将軍の戦死という大損害を受けてしまった。さらには、王女ミオ・フレリカ率いるエリューディン遠征軍もディアナ城に封じ込められ、裏切り者によってせっかく取り戻した領土を失うというピンチに陥ってしまう。
 帝国四将の筆頭ベルガーによって完封されるかと思われたフレリカ軍だったが、天翼狼(ジオード)の軍師アレイアがバルディナ皇国との同盟案を持ってきたことでもう一戦するチャンスを得、ミオ救出の機会が得られることになる。

天翔虎の軍師 (3)

もうひとりの軍師
評価:☆☆☆★★
 囚われの身だった王女ミオ・フレリカを救出し、まがりなりにもフレリカ王国復興を果たした天翔虎の軍師シェル・スノーハートと尚書エナ・ワトソンは、英雄フレイ・フォルクや蜂蜘蛛隊隊長マギー・バイパーの活躍で、手痛い損失を受けながらも、天竜姫の軍師ユミカ・ローレンツの遣わした征西将軍レンギルを下すことに成功した。
 しかし、今だ政権基盤が脆弱なフレリカ王国が安定を得るためには、トーレ帝国の支配を決定的に弱体化させなければならない。そのためには、フレリカ王国が資源を手に入れつつ、トーレ帝国の財政を追いこむような策が必要になってくる。だが、未だ王国には、遠征軍を任せられる軍師がいない。

 そんなとき、シェルの募集に応じ、学友であるニーア・リーベルンが王国にやってくる。ひとまず彼女を副軍師の座につけるのだが…。
 一方、ユミカは、フレリカ王国を滅ぼしてシェルを手に入れるため、次の策に着手していた。

天翔虎の軍師 (2)

戦乱の始まり
評価:☆☆☆★★
 処刑寸前の王女ミオ・フレリカを救出し、トーレ帝国に反旗を翻した天翔虎の軍師シェル・スノーハートと尚書エナ・ワトソン、英雄フレイ・フォルクらは、フレリカ王国復興を開始した。
 外務官ファルリア・ベリーベルの活躍で、ひとまず外国との不可侵を手に入れたフレリカ王国は、手に入れた拠点で資金を調達し、暫定的な防衛態勢を整えようとする。

 その拠点を手に入れるため派遣された蜂蜘蛛隊隊長マギー・バイパーだったが、天竜姫の軍師ユミカ・ローレンツの命を受けた征西将軍レンギルにより手痛い敗北を喫し、部隊は壊滅状態に陥ってしまう。

 ユミカとシェルの実力に差があり過ぎて、なぜ未だにフレリカ王国は壊滅させられないのか不思議。あと、パン本位の貨幣制度は、経済安定性がかなり低そう。

天翔虎の軍師

幼き日の約束を胸に
評価:☆☆☆★★
 皇帝ガルヴァリア・トーレを頂くトーレ帝国は、軍師アルセル・ディオラと大元帥ジン・ローディーの活躍により、天下統一を成し遂げた。その過程で滅ぼされたフレリカ王国大将軍の息子であるシェル・スノーハートは、国王や王女ミオ・フレリカが帝国軍に下る悔しさに耐え、宰相の娘であるエナ・ワトソンやフレイ・フォルクと共に、再起の時を待つ選択をした。
 そして、アルセル・ディオラの許で学び、天翔虎の軍師と称されるまでになったシェル・スノーハートは、私兵の蜂蜘蛛隊隊長マギー・バイパーを味方とし、尚書となったエナ・ワトソンや、反乱軍を率いるようになったフレイ・フォルクと共に、ミオ・フレリカ救出作戦を実行に移そうとする。しかしそれには、同僚である天竜姫の軍師ユミカ・ローレンツが前に立ちふさがることになるのだった。

 戦記ファンタジーなのだけれど、積み上げる事実が薄っぺらく、説得力のある作戦立案とはなっていないように感じた。何より、偶然、自分以外の人物が作り出した状況に助けられるというのが、軍師物としては弱い。

カナクのキセキ (5)

引きずる想いが世界を変える
評価:☆☆☆☆★
 千年前に飛ばされたユーリエと再会するため黒夢の魔王となったカナクは、抵抗する人々を黒夢の力で眠らせ、目的を達成するための準備を着々と完成させつつあった。それを阻止したいネウは、黒晶石に対抗する白剛石を手に入れるため、精霊界フェイエリアへとやってきていた。
 一方、アレンシア大陸を反魔王の旗の下に糾合した烈翔紅帝オリヴィアは、征伐軍25万を従え、黒夢の魔王のもとへと向かう。そこで、仇敵たるリーゼと最終決着をつけるべく、戦いを挑むのだった。

 シリーズ最終巻。ある意味で二巻以降は後日談というか蛇足だったと思えないこともない。でも、荘は思わない人もいるとは思うので、それはそれで良いのだろう。

カナクのキセキ (4)

収束し始める物語
評価:☆☆☆☆★
 現世界アレンシアに再臨した黒夢の魔王の正体は、銀獣人スフィアとコルセア王国の烈翔紅帝オリヴィア陛下ことレベッカの一人息子カナクだった。彼は千年前に飛ばされて暁の賢者マールとなった愛するユーリエに再びまみえる為、夢幻界イストリアルを通じてなら過去に行けるというリーゼの甘言に従ってしまった結果だ。

 カナクの弟子であり、精霊界フェイエリア起源のダークエルフでもある、マール神殿聖神官のネウは、銀獣人の最後の生き残りであるライカを影砲士にしてカナクを討つというオリヴィアの策を退けるため、カナクを助ける方法を求めて旅に出た。彼女と共に行動するのは、セレンディア王国の王弟であるレニウスと、盗賊ギルド「リュシオルファクル」幹部のアルマ、吟遊詩人ヤヒロだ。
 レニウスはユーリエの義兄にしてカナクの友人として、アルマは仕事でありネウへの私情もあって、ヤヒロは養父にして、「金翼竜エキドナム」「白爪竜レディ・ヴェルファリア」「緑牙竜エレネディオ」「蒼尾竜ラザーフェニア」の一体を倒した五英雄のひとりでもあるルイ・ソーンを助けるため、ネウと行動を共にしている。

 そんな彼らが向かったのは、中立国ミスティカ公国だ。そこで、黒夢に対抗する白夢の秘密を探るため、秘蔵の書籍を調査に行ったのだ。しかし図書館の館長がとんだ俗物で、対価にネウの貞操を要求してくるのだった。

 登場人物は前巻までで出そろったので、本格的戦いに至るまでの準備が今巻の役割となっている。世界会議を開催して各国の協力を求めるオリヴィア。カナクを助けるためにドジっ娘をおして奮闘するネウ。そんな女性たちの周囲にいる男たちは、彼女たちに様々な思いを抱く。だが彼女たちの気持ちの向かう先は揺るぎなく、その気持ちはある意味で救いのないものだ。
 そんな救いのない物語は、ついに最終激突の時を迎える。果たしてこれが後味が悪い物語となるのか、別の解決に至るのか、それは次巻にかかっているだろう。

カナクのキセキ (3)

愛を取り戻したいという執着
評価:☆☆☆☆☆
 ユーリエを千年前から救えるというリーゼの甘言に唆され、黒夢の魔王となってしまったカナク。彼を慕うダークエルフの聖神官ネウは、コルセア王国の烈翔紅帝オリヴィア陛下に助けを求めに行くが、逆に彼女から、カナクを討つための人材への連絡役を務めるように厳命される。
 それまでの恩に報いるため、陛下の命令は受けつつも、その後はカナクを助けるための方法を見つけたいと申し出る。それに同調した、カナクとユーリエの友人であるレニウスは、ネウに同行することになる。しかしその道中、セレンディア王国の聖騎士となるために分かれたリリルが、レニウスの前に現れ、彼を襲ってきた!

 いつものように二つのストーリーが同時に進行し、片方が片方の起源であることが後に明らかになる構成となっている。今回は、黒夢の魔王とは何か、現世界アレンシアとは別の、夢幻界イストリアルや精霊界フェイエリアの物語によって、その秘密が語られるのだ。

 この物語の中核にあるのは、愛という感情。今回も愛を語らう男女が登場し、そして破滅的な結末へとたどり着く。だがその結末を否定し、希望ある未来を得ようと奮闘するのがネウだ。そして彼女は、道中、同じ様な理想を持つ仲間たちと出会い、カナクを救うための旅路に赴く。
 まだまだ物語は、全体の序盤が終わったばかりのところ。様々な課題が生まれたところで、それを一つ一つ解決するための旅が始まるのだろう。そしてその主人公は、カナクを愛し、その復活を望む、コロコロと表情の変わるダークエルフの少女、ネウなのだ。

カナクのキセキ (2) Innocent Journey

あれから5年、新たな幕が開く
評価:☆☆☆☆☆
 カナクを救うために千年前に飛ばされて、暁の賢者マールとなったユーリエを弔うため、カナクがマール神殿の神官となってから5年が経った。カナクとユーリエの友人にして闇種族の少女マウと共に村人と平和に暮らしていたカナクだったが、その平和に変化の兆しが見えて来る。

 でも今回はカナクは裏章。表章の主役はレベッカという少女だ。ガザラ王国の辺境キンドリーにある夕闇の長城にいる影砲士スフィアに突然嫁に行くことになった彼女は、彼が海からやってくる影の巨人を倒し、国を守っていることを知る。
 そして、かなりシャイでおとなしく、やさしい彼に妻として尽くしていくことを決めたレベッカは、少しずつ、でも積極的に、スフィアとの距離を縮めていく。しかし、その愛ある生活も長くは続かなかった。王都の失政で影の巨人を倒すのに必要なガザリウムの弾が届かなくなり、影の巨人の強さも増して来ていたのだ。

 1巻はカナクとユーリエのじれったい、届きそうで届き切らなかった悲恋を描いたけれど、今回は実ったけれど引き裂かれてしまう悲恋を描く。そして表章と裏章は、1巻と同様に密接に関係していたのだ。
 その関係が明らかになった時、再び悲恋の幕が開く。しかしそれが悲恋のまま終わるか、あるいは成就することがあるのかは、次巻のお楽しみの様だ。何か次は、逆サイドから見る正統派ファンタジーになりそうな予感。引き裂かれた仲間たち、みたいな。

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カナクのキセキ (1)

重ねる想い、届く想い
評価:☆☆☆☆★
 セレンディア魔法学校を卒業したカナクは、千年前にアレンシアの地に魔法をもたらした魔女マールの足跡をたどる旅に出かけることを決意する。当時、紅の魔女と呼ばれたマールは、世間から災厄をもたらすと怖れられながら、魔法により虐げられた人々を救い、時代が過ぎて暁の賢者と讃えられ、彼女を慕う人々はマール信徒と呼ばれるようになった。
 そんな彼女がアレンシアに残したのが、各地に散らばる石碑。そこには彼女の言葉が残され、しかし全てを巡らなければその記憶が残らないという。カナクはその言葉を知るために旅立つことを決意したのだ。

 そのカナクの旅にくっついていくことを宣言したのが、セレンディア魔法学校始まって以来の天才で、卒業前にすべての魔法を習得したという少女、ユーリエ。セレンディア侯の養女でもある彼女は、カナクと離れ離れになりたくなくて、そんなことを言い出したのだ。
 ユーリエに思いを寄せながらも、ある事情でそれをいうことができないカナクは、その申し出に悩みながらも、とりあえず一緒に旅立つことになる。

 そんな二人の旅は、アレンシア各地にいる様々な人々との出会いの連続。そしてその人々はなぜか二人に親切にしてくれ、つつがなく終焉の地へとたどり着く。そこで二人が悟る真実と、美しくも悲しい物語の結末とは。

 ファンタジー風の恋愛物語で、カナクとユーリエの二人旅の様子を中心に、ストーリーは順調に進む。もっともその結末は笑えるものではないかも知れないが。
 非常に平易な語り口で分かりやすく物語が展開するので、とても安心感がある。逆に慣れた読み手には分かりやすすぎるという見方もあるかもしれないが、読書の入口としてみればオススメしたい作品だと思う。

 2巻が刊行されることは決定しているようだが、一体どういう形での続編なのかはとても興味がある。今回は二人の話に終始した印象なので、作品世界を深めるカタチでの続編なのか、あるいはまた違ったものなのか。楽しみに待ちたい。

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