神崎紫電作品の書評/レビュー

ブラック・ブレット (7) 世界変革の銃弾

仕組まれた戦争
評価:☆☆☆☆★
 東京、大阪、仙台、博多、北海道の各政府のトップ会談において、仙台首相の稲生紫麿は、東京が秘匿する七星の遺産の存在を暴露する。それは、ガストレアを呼び寄せる力を持つという。
 時を同じくして、アンドレイ・リトヴィンツェフの指示を受けたユーリャ・コチェンコヴァが、研究施設からソロモンの指環を盗み出し、ゾディアック・ガストレア天秤宮(リブラ)を那須鉱山に誘導した。

 仙台はそれを東京による先制攻撃の準備と判断、東京に対して宣戦布告をする。攻撃までの猶予はあとわずか。聖天子から依頼を受けた里見蓮太郎は、事態を解決することができるのか。

ブラック・ブレット (6) 煉獄の彷徨者

生き残るのはどちら
評価:☆☆☆☆★
 水原鬼八殺しとその後に引き続いた虐殺の濡れ衣を着せられた里見蓮太郎は、水原鬼八のイニシエーターの紅露火垂と共に、真犯人の証拠をつかむべく、追跡する警察の手から逃れつつ、調査を行っていた。
 そんな里見蓮太郎に濡れ衣を着せた、警視総監の息子で警視の櫃間篤郎は、天童木更との結婚準備を整えつつ、五翔会の巳継悠河に命じて、里見蓮太郎抹殺作戦を実行させていた。

 数々の刺客を倒しつつ、「ブラックスワン・プロジェクト」「新世界創造計画」の真相に到達した里見蓮太郎は、最終決着の時を迎える。生き残るのは果たしてどちらか?

ブラック・ブレット (5) 逃亡犯、里見蓮太郎

天童民間警備会社、崩壊
評価:☆☆☆☆★
 ステージIV「アルデバラン」から東京エリアを守り抜くことに成功した天童民間警備会社だったが、ティナ・スプラウトは驚愕していた。なにしろ、お金がなくて晩御飯にサツマイモしか食べられないのだ。そして明日以降はもやしに、やがて水に変わるらしい。
 そんなとき、天童家のかつての執事の紫垣仙一から、天童木更に見合い話が持ち込まれる。相手はかつての許婚の櫃間篤郎だった。それを聞かされた里見蓮太郎は衝撃を受けるが、身分違いゆえに何も言うことはできない。

 二人の間に間隙が生まれてしまい、それを埋めようとした瞬間、依頼人の水原鬼八が訪ねてくる。里見蓮太郎の小学生時代の友人である彼は、人払いをすると、「ブラックスワン・プロジェクト」「新世界創造計画」という単語を告げ、待ち合わせ場所を指定して去っていく。  櫃間篤郎と天童木更のお見合いが上手くいくのを尻目に、水原鬼八との待ち合わせ場所に出かけた里見蓮太郎は、目の前で水原鬼八を殺されてしまい、濡れ衣を着せられて殺人犯として逮捕されてしまう。

 全てを擲って里見蓮太郎をサポートしようとする天童木更を彼女を思う故に退け、天童菊之丞の助言を受けた聖天子が民警ライセンスを返上させた結果、プロモーター資格を失い、イニシエーターの藍原延珠を奪われてしまう。
 全てを失い自暴自棄になった里見蓮太郎の前に、彼を敵と狙うイニシエーター紅露火垂が現れ、図らずも里見蓮太郎は逃亡犯になってしまった。

 従業員がバラバラになった事務所で呆然とする天童木更には貞操を狙う櫃間篤郎の魔手が迫り、里見蓮太郎には彼以上の改造を受けた巳継悠河が刺客として迫る。果たして濡れ衣を晴らし、元通りの生活を取り戻すことができるのか?次巻に続く。

ブラック・ブレット 黒の銃弾 (4) 復讐するは我にあり

地獄の先にある地獄
評価:☆☆☆☆★
 東京エリアを囲む防壁のひとつである三十二号モノリスが、ステージIV「アルデバラン」のバラニウム浸食液により侵食され崩壊した。予想よりも一日早く、である。アジュバントを組んだ里見蓮太郎&藍原延珠、天童木更&ティナ・スプラウト、片桐玉樹&片桐弓月、薙沢匠麿&布施翠の8名は、ガストレアの大攻勢をいったん退け、生き残ることが出来た。
 しかしその課程に於ける命令違反を問われ、民警軍団の団長である我堂長政から、処刑と同意義の、ガストレア本隊に潜入した上で、長距離砲撃能力を持つ「プレアデス」の単独撃破を命じられるのだった。

 圧倒的恐怖の前に低下する士気、滞る後方支援、そして対面のために無駄に散る人々。そんな地獄を経て生き残ることが出来るのか。
 だが、生き残った先に広がっている世界が、幸福な世界とは限らない。三人以上の人間がいれば派閥争いが起き、平穏は組織を自壊させるのだ。

 ついに、天童木更の実力が白日の下にさらされる。

ブラック・ブレット (3) 炎による世界の破滅

戦う理由の摩耗
評価:☆☆☆☆★
 東京エリアの元首・聖天子暗殺未遂事件を経て、天童木更が社長を務める天童民間警備会社には、プロモーターの里見蓮太郎、イニシエーターの藍原延珠に加え、イニシエーターのティナ・スプラウトが加わった。蓮太郎を巡る小さな闘争はあるけれど、外界における「奪われた世代」による「呪われた子供たち」の排斥などは別世界の出来事のように、幸せな日常を送っていた。
 その日常に最近加わったのは、「呪われた子供たち」が住む外周部にある第三十九区第三仮設小学校に延珠やティナが通うようになり、木更や蓮太郎が講師を務めることになったことだろう。

 しかしそんな東京エリアを囲む防壁のひとつである三十二号モノリスが、ステージIV「アルデバラン」のバラニウム浸食液により侵食されるという事件が発生する。後七日で崩壊するモノリスを新たに作るには十日かかる。つまり、このままでは東京エリアはガストレアによる侵攻で崩壊する!
 聖天子は新たなモノリス作成を命じると共に、三日間、東京エリアを守り抜く策として、自衛隊と民警による共同作戦の立案を命じる。彼女の信頼厚い民警である蓮太郎も、紆余曲折の上、片桐玉樹&片桐弓月、薙沢匠麿&布施翠という民警とチームを組むことになる。

 だが、目前に迫る死の気配に、東京エリア住民は暴動寸前。シェルターに避難できる住民は三割に過ぎず、他エリアへの移動も遅々として進まない。そしてシェルターに避難できる住民の中に、「呪われた子供たち」が含まれていることが発覚するや否や、悲しい事件が発生することになる。

 共通の敵であるガストレアが組織だった攻撃を開始したにも拘らず、人類は十分な協力体制を構築することが出来ない。「奪われた世代」と「呪われた子供たち」、自衛隊と民警、それらの間で起こる対立は、戦う前に戦う意志をなえさせるものばかりだ。
 一体自分は何を守るために戦うのか。それもよく分からないまま、ついに戦いの時はやって来てしまう。その戦いは次巻にて。

ブラック・ブレット (2) vs神算鬼謀の狙撃兵

利用され蔑まれる子供たち
評価:☆☆☆☆☆
 ガストレア・ウィルスにより、人類の人口は9割近くを失った。感染したものの多くはガストレアという新生物に変貌し、それを免れたものもガストレアに襲われ殺されたのだ。しかし、ガストレアが嫌う金属バラニウムと、ガストレア・ウィルスの進行が遅延しているイニシエーターと呼ばれる子供たち、そしてそれを導くプロモーターにより組織される民警が、かろうじて都市の形成を許していた。
 そんな都市のひとつ、東京エリアの元首・聖天子の護衛の仕事を任された天童民間警備会社のプロモーター・里見蓮太郎とイニシエーター・藍原延珠だったが、超長距離狙撃により、危うく聖天子を暗殺されそうになってしまう。その犯人は、蓮太郎が偶然であった少女、ティナ・スプラウトだった。

 イニシエーターとして利用しながらも、彼らを赤目と蔑み、人類とは別の存在として差別する多くの人間たちと、ごく少数のそうは考えない人間たちの政治対立。戦後の自分の立場を強化するために、人類同士で起きる対立。圧倒的な力を持つばかりに、その倫理観や幸せを捻じ曲げられて育つ、イニシエーターの子供たち。
 そんな大きな世界構造・環境構造に起因する対立とは全く別に、非常に卑近な、天童木更と肉親の対立、蓮太郎を巡る司馬未織との女の対立など、過酷な時代にあっても身近な幸せを求める、あるいは失ったそれを取り返そうとする人間たちの悲喜交々が描かれる。

 前巻で状況説明や人物紹介を終えたため、それらの設定に基づく、それぞれの立場の人間のあり方がよく見えるようになった。その意味で、今巻は前巻よりも面白いと思う。

ブラック・ブレット 神を目指した者たち

人類が敗北した世界
評価:☆☆☆☆☆
 あるとき、地球上にガストレア・ウィルスが蔓延した。このウィルスは血液感染により広がり、爆発的な速さで感染体のDNA情報を書き換え、その侵食率が50%を超えると形象崩壊と呼ばれる、見た目の変化を起こす。他の生物、例えば昆虫などの情報を取り込み、ウィルスが物理的サイズの変化に伴う強度の改変などを行って、要は怪物になるのだ。
 そして2021年、人類はガストレアに敗北した。残された人類は、ガストレアが嫌う金属バラニウムで作った巨大なモノリスで都市を囲い、その中でのみ生きていくことが出来た。しかし当然、格差が生まれ、不均衡が生じる。日本にはそのエリアが、関東平野を含めて5つある。

 そんな世界にあって最後の希望は、ガストレアと戦う民警の存在だ。彼らはイニシエーターとプロモーターという2人組から構成されていて、バラニウム製などの武器を作って、モノリス内に進入したガストレアと戦う。そしてこのうちイニシエーターは、胎児のときにガストレア・ウィルスに感染し、ゆっくりとその進行が進む、10歳以下の子どもたちである…。
 この物語は、東京エリアに君臨する政治家・天童家を出奔した、天童木更と里見蓮太郎、そして里見のイニシエイターの藍原延珠たちの物語だ。


 近未来において人類が敗北した世界での再起をかけた戦いの物語。人類以外に圧倒的に強大な敵がいるにもかかわらず、人類内でそれぞれの思惑により対立や抗争が起きているところが憐れ。
 そしてこの危機を救う可能性があるのが、人類のエゴが生み出した存在というところが、またもや人間の一筋縄でいかない部分を象徴していると言えるだろう。

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