川口愉快作品の書評/レビュー

ナゼアライブ

突き詰めればそこにたどり着く
評価:☆☆☆☆☆
 世界に現れた救世主の名は、ジェス・リーズンと言った。日本とアメリカの二重国籍を持つ青年は、ネットワークOS「HanD」を開発し、世界規模の分散コンピューティングネットワーク「BraIN」を構築し、その中に仮想現実「WorLD」を立ち上げた。それは人類に新たなコミュニケーションの場を提供し、人類の知的向上を推進するものだ。
 しかし構築者の意図がどうあれ、独創性はその思惑を凌駕する。小学生だった日那多雄は、それをカブトムシバトルのオッズ計算に利用した。そんな彼の許に、失踪した父親から思わぬ手紙が思わぬ手段で届く。そこに書かれていた彼の質問は、「人間ってなんだろうね?」。折しも、世界には衝動的自殺が蔓延し始めていた。

 何となく昔読んだ「ソフィーの世界」を思い出した。「ソフィーの世界」は、少女が謎の人物からの手紙を受け取り、その問いに答えていくことで哲学の世界を知っていくという筋書きだが、この本はそこまで哲学哲学しいわけではない。ただ、誰かからの問いかけで、自分の中の漠然としたものが暴き出されていき、その結果、主人公の選択につながるという構成に似たものを感じたのだろう。
 主人公自身も一風変わった人物だが、その周囲にいる人々も個性的。幼少期からそんな人々に囲まれて成長した主人公は、中学生になり、高校生になり、その都度、様々な出来事に出会い、楽しんだり、衝撃を受けたり、苦しんだりしながら、大人になっていく。

 そして大人になれば、全てがスッキリ解決するというわけでもない。そこにあるのは、全く洗練されないシステムと、子どもっぽい対応しかできない人々。ゆえに彼の心には、昔と同じ問いかけが解き明かされず残ったままだ。
 そんなとき、とある人物との出会いが、いま世界を覆っていることの真実に対する直観を与える。なぜそれを成そうとしたのか?その奇跡を追いかけていった先に選び取る未来とは?

 ベースにあるのは悩める若人たちが様々にトライしている青春ものという気もするが、かなり内省的な部分も多く、世界観はSF的要素も散りばめられ、その転々としていくストーリーを追いかけるのは難しいと思う向きもあるかも知れない。
 ただこれは、誰をターゲットにしたのかで事情は変わってくる。そのターゲットの区分け方が、年齢や社会的立場ということではなく、世界に対してどう向き合っているかという様な、カタチにし辛いやり方なんじゃないのかな?

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