皆藤黒助作品の書評/レビュー

飛火夏虫 -HIKAGEMUSHI- (2)

がっかり展開
評価:☆☆☆★★
 松竹梅の上中下で強さが表現される異能《言技》でも、自らを傷つけてしまう能力は桜ランクと呼ばれる。瀬野大介はかつて自らの言霊でいじめられていた少女の硯川叶を助けようとして、逆に彼女に大やけどさせてしまった過去を持つ桜ランクの少年だ。それからは日陰虫として、人に関わらず生きてきた。だが、綱刈きずなという少女と出会ったことで、硯川叶とは和解し、社木朱太郎や村雲照子、九頭竜坂育という友人も出来た。
 日陰虫から飛火夏虫として、一躍街のヒーローになった瀬野大介の許に、探偵の芦長十一から護衛の仕事が回ってくる。脅迫されて仕方なく受けた瀬野大介は、節沢一と園山優花というカップルに出会う。園山優花は、桜の中の《言技》を持ち、フェイルという、桜ランクを狩る組織に狙われていた。

 あっけなく意外な幕切れにちょっと呆れた。現実の理不尽さを理由にしているが、単にハッピーエンドになり得る展開を思い描けなかっただけではなかろうか。努力不足といっても良い。
 理不尽さに打ち負ける例は数限りなく現実にあるのだから、それに打ち勝ちうる可能性を探ることが虚構に求められることだと思う。そうでなければわざわざ架空の世界を生み出す必要など無い。駆け出し作家一人の頭が考えるよりも複雑で現実的な世界は、既にひとつ存在しているのだから。

飛火夏虫 -HIKAGEMUSHI-

過去からの脱却
評価:☆☆☆☆★
 高校一年生の瀬野大介は、ずっと他人を避けて生きてきた。小学生の時、加賀屋剛にいじめられていた初恋の女の子、硯川叶を助けようとして、逆に傷つけてしまって以来、両親からも避けられ、一人で生きてきた。その原因は、彼の持つ《言技》だ。
 五十年以上前、世界で初めて言技《石に花咲く》を発現させた世村七郎が世界を変えて以後、新しく生まれてくる子供たちは、諺に由来した異能力を発現出来るようになっていた。大介のそれは《飛んで火に入る夏の虫》、危険を察知出来る代わりに、危険に飛び込めば自分が燃えてしまうという、マイナスな《言技》だ。

 そうやって他人にかかわらず生きてきた瀬野大介に、《袖振り合うも他生の縁》綱刈きずなが声をかけてきて、無理矢理友達になろうとする。彼女は友達一万人を目前に控えた少女だった。
 そして、友達の社木朱太郎や村雲照子を差し向け、彼の言技が危険ではないという噂を広め、委員長の九頭竜坂育も巻き込んで、大介に普通の高校生としての生き方を与えようとする。それは上手くいくかと思われたのだが、市誠十郎という言技使いが街に混乱をもたらすことで、大介はあえて危険に飛び込む決断を下さねばならないことになる。

 他人と自分を傷つける異能力で失敗したことで、他人を避けて生きることが正しいと思った少年が、とにかく友達を一杯作ることが正しいと思っている少女によって、日向に引きずり出されるという話だ。
 正直言って、九頭竜坂育や村雲照子は今回のエピソードでは特にいらないと思うのだが、巨乳要因やエロ要因として動員されている模様。次巻があれば、彼女たちの存在意義があるストーリー展開を望みたいところだ。

ホーム
inserted by FC2 system