川崎中作品の書評/レビュー

裏ギリ少女 (2)

最後の裏ギリ
評価:☆☆☆☆★
 バーグ・ティーン(若年性異理症)の中でも、ユダと呼ばれる現実を改編するほどの強大な能力を持つ星空ゆずきは、その力を利用しようとする研究施設ハウスに囚われるところを、小早川小春の機転で逃れることができた。ハウスも壊滅し、小春の能力で触れ合えるようになり、ゆずきとの仲も深まると思ったのだが、ゆずきは小春と必要以上に近づこうとしない。
 小早川小春、月丘茜、星空ゆずきの三人は、一条芹葉の紹介のアミューズメントパークで、着ぐるみバイトをすることになった。そこに遊びにやってきた妹の小早川菜々千と小早川千歌、青山の前に、栗栖ひな子という変わった少女が現れる。

 シリーズ最終巻。一応、ハッピーエンドという体になっているが、裏ギリ体質が消えてしまった星空ゆずきに代わり、月丘茜が最後の裏ギリをしたのではないだろうか。それは、自分の気持ちに対する裏ギリだ。
 もちろん、叶わぬ思いを抱えたまま引きずっても幸せは訪れない。現実には、どこかで見切りをつけ、手に入れられる幸せに手を伸ばすのが賢い。そして彼女はそれをした。しかしその時、元々あった自分の思いに対し、彼女はどう整理をつけたのだろう?酸っぱいブドウのごとく、手に入らないものは価値がないと見切らなかったであろうか。もしそうしたのだとすれば、それは、ずっと思いを抱えていた自分に対する裏ギリに他ならないような気もする。もっともそれは、他人には分からない裏ギリであろう。ゆえにそのことを人生のどこかで思いだしたとき、それは深い傷になるかもしれない。

裏ギリ少女

裏切る少女
評価:☆☆☆☆☆
 バーグ・ティーン(若年性異理症)は、千人に一人ほどの確率で十代に発生する現象だ。多くの人は二十歳を過ぎるまでに消え去るのだが、まれに死ぬまで残ることがある。その起きる現象とは、既存の物理とは異なる物理を導くこと、平たく言えば超能力だ。

 一条芹葉の主催する抱擁の会に所属させられているため、女子生徒から変態扱いされている小早川小春は、登校中、車に轢かれて吹き飛ぶ少女を目撃する。もう助からない。そう思いつつ、励まそうと手を取った小春は、奇妙な現象を目撃した。あれほど吹き飛ばされていた少女は、傷ひとつなく、元気に走り去ってしまったのだ。
 そのことを、ひとつ年上のクラスメイトの月丘茜に話していたところ、彼らのクラスにくだんの彼女、星空ゆずきが転入してくる。

 一方、小春の双子の妹の小早川菜々千と小早川千歌は、訳ありの少女を拾い、自宅に匿っていた。

 第17回スニーカー大賞優秀賞受賞作。中二設定のラブコメ。主人公は息をするように嘘をついているようでありながら、幼い頃にそうならざるを得ない事情を抱えている。その事情から何とか抜け出せたところ、かつての自分のような少女と出会うことになるのだ。
 続編はなく綺麗にまとまる系の話かなと思ったが、最後の一行で新たな展開が生まれた。「空色パンデミック(本田誠)」「魔術師たちの言想遊戯(一橋鶫)」と共通するものを感じる。

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