木本雅彦作品の書評/レビュー

くあっどぴゅあ

不器用な生き方
評価:☆☆☆☆★
 全国から優秀な学生を集めた学園都市の高校に入学した鮎見勇は、中学時代にサイドキックというロボット競技の大会で敗北し、心機一転、高校デビューを目指す。しかし、その高校で出会った知能科学の天才桐生静華と賭けをすることになり、結果として、サイドキックのチームを結成することになる。
 ある大会で優秀な技術を見せつけられたメカニックの平賀寿を仲間に引き入れ、マネージャー役の関谷雪音と共に大会を目指すことになるのだが、それぞれが個性的で方向性が違うメンバーはなかなか息が合わず、チームワークなど夢のまた夢の状態だ。果たして彼らは一つになれるのか。

 1位を目指して努力したけれど4位にしかなれず、普通の人が努力しても天才には届かない、という負け犬根性に染まった勇が、静華に発破をかけられてもう一度、1位を目指そうと立ち上がるのだが、色々と気を散らす要因がありすぎて、まっすぐ立ちあがることができなかったりする。…なんか心に突き刺さるものがあって、泣けそう。
 ロボット競技ものだけれど、作り上げるまでの過程を描くことがメインになっているので、大会自体は比較的あっさりしたもの。男女4人集まれば恋愛物語が生まれるものだけれど、これまでの内容から想像がつくように、こちらもシンプルな結論は生まれない。

 ロボットでも恋でも迷走し、必ずしもハッピーな展開ではないけれど、普通の人の上を目指す努力が天才を捕まえることが出来るか、切なる想いを感じつつ、楽しみではある。
 でも、せめて物語でくらいは都合のよい展開を見たいとも思うなあ。

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星の舞台からみてる

情報の集積とネットワークがもたらす展望
評価:☆☆☆☆★
 ネットワークの革新的技術者である野上の死後に送られてきた彼からのメールに導かれ、彼の事績を追いかけて行くうちに、国家間の陰謀にまで話が広がっていく。

 この作品では、グループ企業の組織体制とルート証明書に至るツリーを、恋愛などの個人間のつながりとWoT(Web of Trust)の概念を、それぞれ対比させている印象を受けた。
 そして、それぞれを代表する人間として辻河原と広野天見を登場させ、その間に荒井香南を置いて物語を展開させているのだと思う。

 過去の歴史をたどって行く過程は面白いのだけれど、物語の行きつく先はかなり唐突に現れる。視してこの終盤での大転換にボクは慣れられない。

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クロノレイヤーに僕らはいた

輪廻の中に組み込まれた対立
評価:☆☆☆★★
 君塚育人はなじみのゲームショップの店長から、オンラインゲームの試供版をもらう。試しにログインしてみると、そこに広がっていたのは約40年前の地元の風景。五反田駅近くのビルで、短刀と共に、カガチダチという謎の単語を聞かされたイクトは、プレイヤーの中に赤い蛇の刻印を持つ者がいることに気づく。彼らは全て犯罪者で、カガチダチとは彼らを倒す者らしいのだ。
 同じ短刀を持つカガチダチの自称勇者リホこと安堂李穂と出会い、協力したり対立したりしながらも、ゲームの世界を楽しんでいた。しかしある日、育人は現実の世界でも蛇の刻印を持つ者がいることに気づく。カガチダチとは一体何なのか。

 主人公と家族の話し方がとても丁寧なのが浮いている印象を受ける。キャラ付けとして悪いことではないと思うのだが、口調が丁寧ではあっても行動が理知的という訳ではないし、彼にまとわりついてくる深寺奈子という少女の異質さと相まって、いつまでも慣れなかった。
 個人的には、前世の記憶を根拠として現実世界で超法規的措置をとるという行動原理にあまり共感できなかった。第三者から見れば、正直どっちもどっちとしか言いようがない。

 システムに関する謎を放置して、いびつな人間関係の修復に注力した感じだが、入り口としてはハードルが高いやり方だった気がする。もう少し純粋に物語に入り込める部分を作って、それから展開させた方が良かったのではないかと思った。

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声で魅せてよベイビー

現実の厳しさを語る物語
評価:☆☆☆☆★
 声優になるために専門学校に通い劇団に所属しようとする少女沙奈歌と、ハッカーを名乗り他人とのかかわりを持ちたがらない少年広野。普通なら交わらなそうな二人の人生が、同人誌即売会のあるブースで接触する。

 一見するときちんと夢に向かって生きている少女と何をすべきかはっきり分かっていない少年という構造に見えるが、そう単純な話ではない。
 沙奈歌は声優を目指して友人たちとがんばっている。しかし、みんな一緒に夢に向かって努力するというのは聞こえは良いが、それは一種のなれ合いだろう。トップを目指す者は、並ぶ者がいないという意味では孤独にならざるを得ない。
 一方で広野は技術者としての腕を持ち、それを利用して孤独に活動をしている。そして、自分は一流として立つためにそうあるべきだと考えている。そんな二人が出会うことによって、互いに変化が訪れるのだ。

 現実は厳しい。自分の思うようには上手くいかない。でも、自分の夢をかなえようと思えば、苦しくても、辛くても、プライドがズタズタになっても、前に進もうとしなければいけない。
 物語らしくない現実の厳しさを語っている物語。

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