来田志郎作品の書評/レビュー

勇者には勝てない

世界征服を捨てた魔族たち
評価:☆☆☆★★
 第18回電撃小説大賞銀賞受賞作、来田志郎「勇者には勝てない」。

 最終決戦で魔王を追いこんだ勇者は、魔王復活を阻止するため異世界に追放することにした。勇者自身も犠牲にして…。そこには、魔王の配下だった三魔将も含まれていた。
 そうしてやってきた異世界、つまりはこの世界で、三魔将たちは普通の高校生に生まれ変わっていた。北瀬鉄次郎は元巨人族の軍団長、相羽源治は元悪魔族の大侯爵、浦河克明は元合成獣の親衛軍団長なのだが、もはや世界征服など頭にない。17年も平和な世界で暮らしていれば、警察だって怖いし、社会的に抹殺されることも怖い。しかしそこに、もっと怖いものがやってくる。転校生として来た菅田香澄からは、かつての勇者が持っていた光の波動が放たれていた。

 北瀬鉄次郎のことを追って詩吟部の部室にやってきた菅田香澄に即土下座をする三人だったが、幸いにして香澄に勇者の記憶はないらしい。だが万が一に復活することを恐れ、香澄が悲しい思いをして記憶を取り戻すきっかけにならないよう、三人は彼女に快適な生活を送れる様に気を使う。
 とりあえず平和な学校生活が戻ったのも束の間、中学三年生の少女に転生した魔王・茉那がやって来たことで、元三魔将は震撼することになる。そして、かつての勇者の婚約者であり魔法使いだった女性も、一つ下の少女・君島望未も現れ、勇者の記憶を取り戻そうとする。

 二巡目の世界に来た元ファンタジーの登場人物たちが、何でもない平穏を維持するために、勇者の記憶を封じたままにしておこうとする。そもそも、ゴツイ男性だった勇者が女子高生になっているということで、生理的な何かを感じないのかと疑問に思ったり思わなかったり。
 そして、女子高生となった元勇者の前に現れる、元婚約者の少女。おいおい、そういう展開になっちゃうの?なんてドキドキしたりしなかったり。

 二巡目のファンタジーという点では、「はぐれ勇者の鬼畜美学」の流れだし、異世界の魔王たちが日常を過ごすという意味では「はたらく魔王さま!」に近しい部分もある。
 でも、イベントとして中途半端すぎて、異世界ファンタジーの二巡目という設定は特に生きなかったかな?ただの前世という設定でも十分な展開だと思う。

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