九條斥作品の書評/レビュー

ディバースワールズ・クライシス (2)

懐かしの故郷
評価:☆☆☆★★
 勇者クロワと魔王レインドロルの世界から飛ばされたアルがいくつかの救世の旅の末に辿り着いたのは、かつてアルが住んでいた世界だった。アルとの再会をひどく喜ぶ妹のエピカだったが、アルには分かっていた。彼が飛ばされてきたということは、この世界は未だ危機に陥っているということを。
 友人のトゥットから、支配者ヘルツと取引し、自分たちの周囲だけ、生贄の恐怖から逃れられているという現実を知ったアルは、すがるエピカの誘惑を断ち切り、支配者を殺すために旅立つ。そうすれば、再び世界から飛ばされてしまうことを覚悟の上で。

 そうしてやって来た支配者の間で、アルは懐かしい再会を果たすのだった。

 シリーズ最終巻っぽい。

ディバースワールズ・クライシス

嘘から出た真
評価:☆☆☆★★
 八百年前、魔モノを統べるレインドロルと、いずこからともなく現れた勇者の少女は、不可侵協定を結んだ。魔モノは自領に潜んで人間と干渉せず、魔王と勇者は共に舞台から去るという条件の下で、以後の平和は続いた。しかし、五十年前に魔力を取り込む魔石が発見され、そのエネルギー利用に目がくらんだ人間が魔モノ狩りを始めるに至り、停戦協定は破綻、復活した魔王により世界の半分はあっさりと征服された。
 そんな時代、王の命により魔王に挑む勇者クロウの前に、彼女よりも剣の腕が立つ青年アルが現れ、仲間にして欲しいと言ってくる。妖しいと思いつつも、頼りがいのある彼に頼る気持ちが芽生えたクロウは、アルと共に旅に出る。

 第8回MF文庫Jライトノベル新人賞審査員特別賞受賞作。新人賞作品だから仕方ないのかもしれないが、構成と展開が今ひとつ整理されていない。当初に提示される設定と状況で、クロウとアルに関する秘密はおおよそ明らかになり、物語世界がどういう入れ子構造になっているのかは察しがつくのだが、それを上手く文章で語れていない。
 さらに、キャラクター描写にも難があり、ヒロインを魅力的に感じなければ、ヒーローを格好良くも感じない。結局のところ、作者の興味は、こんな世界構造を作りました、と表明するところに意識が向き過ぎなのではないか。キャラクターはそれを説明するツールにすぎず、そこに愛着がないようにも感じられる。バランス感覚を養った方がよりよくなる気はするが…。

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