小太刀右京作品の書評/レビュー

機動戦士ガンダムAGE (5) ホーム・スイート・ホーム

主役は泣いて馬謖を斬るだけ
評価:☆☆☆★★
 ヴェイガンの捕虜となり、火星に生きる少年少女と交流をしたキオ・アスノは、イゼルカントの目指す理想、攻撃性を持つ遺伝子を人類から排除するという計画に共感できず、キャプテン・アッシュことアセム・アスノを介し、フリット・アスノのもとへと戻った。  だがそれで戦いは終わらない。銀の杯条約を無視し、逸失技術を発掘しての大量虐殺戦へと、戦いのフェーズは移行していく。シリーズ最終巻。  どういう風に決着がつくのかと思っていたのだが、ちょっと残念。現実の厳しいところは、誰かに絶対的な悪を押しつけ、それを糾弾することで一致団結するという解決が、広範なレベルで達成できないところにあるのだが、本作ではそれを過去の亡霊に押しつけることで、団結できるようにするという、安易なやり方を選択してしまった。  ここまで戦争を拡大させてきた以上、悪たる役割は身内から出すべきであった。主役級の人々は誰も死ぬことなく、英雄的役割を担わされたサブキャラたちだけが死に追いやられるような、お涙頂戴のご都合主義的な展開は、排除しなければならない。悪を担うのは、フリットであるべきだったと思う。彼にはそれをやり通すだけの意思が残されていたはずだ。そのあたりの緩さが残念。

機動戦士ガンダムAGE (4) マーズ・コンタクト

引き継がれる怨念
評価:☆☆☆★★
 アセム・アスノを戦場で失ったフリット・アスノは、全ての公職を退き、その忘れ形見であるキオ・アセムを育てるのに全力を尽くす好々爺となった。しかし、かつての恨みとガンダムに賭ける情熱までもなくした訳ではない。そしてそのくらい情熱が吹き出す先を歴史は未だ用意していた。
 13歳となったキオが直面する、ガンダムに搭乗してヴェイガンとの戦争に身を投じる局面。だが彼はそれをまるでゲームのように、有り余る才能を振り回すことで容易に乗り切っていく。

 それでも、彼の周囲は様々なものを引きずり、その醜悪な面を徐々にキオに見せてくるようになる。それに対してキオが選び取る未来とは?
 フリット、アセム、キオ、三代のアスノ家のそれぞれの正義は、次巻でぶつかることになるようだ。

機動戦士ガンダムAGE (3) セカンド・エイジ

三下デシルの復活
評価:☆☆☆★★
 グルーデック・エイノア率いる宇宙戦艦ディーヴァが宇宙要塞アンバットに襲撃を欠け、天才少年フリット・アスノがUEの正体をヴェイガンと知り、ユリン・ルシェルを永遠に失ってから25年。エミリー・アモンドとの間にもうけたアセム・アスノは、17歳になっていた。
 地球連邦軍総司令部ビッグリング司令となった英雄フリット・アスノの長男として、衆目を集めざるを得ない立場を生きるアセムは、父と自分を比べ、劣等感に苛まれる日々を送っていた。そんなとき、彼の前にゼハート・ガレットが現れる。

 アニメはもう視聴していないけれど、アニメを再構成して面白くするのが本ノベライズの役割と捉えていたので、アセム編を一冊に凝縮する構成は消化不良の感が否めない。正直、ウィキペディアの方が分かりやすく説明しているのではないかと思ったりもしてしまった。
 三世代を描くという構想は、その歴史を背景と共に視聴者に伝えるという意図があったと思われるが、肝心の個々の描写が不足しており、積層的に織りなされる歴史の表現には全く至っていないと断じざるを得ない。

 せいぜい見所は、デシル・ガレットの三下ぶりだろう。こんなやつのせいでユリンが死ななければ、フリットももう少し違う大人になれていたかも知れないな。

機動戦士ガンダムAGE (2) アウェイクン

闇に葬られていた歴史
評価:☆☆☆☆★
 連邦軍基地司令ヘンドリック・ブルーザーや技術士官バルガス・ダイソンの協力を得て伝説のガンダムを現代によみがえらせた天才少年フリット・アスノは、ノーラを襲って来たUEに対抗するため、ガンダムに乗って戦うことを選択する。
 ノーラから脱出した戦艦ディーヴァは、グルーデック・エイノアの指揮の下、ファーデーンで補給を受けていた。しかしそこは、ドン・ボヤージの指揮するザラムと、ラクト・エルファメルが指揮するエウバという、かつてのコロニー国家の残党が争う場所だった。

 真の人類の敵であるUEをよそに、人類の間で内紛を続ける現実を見せつけられたフリットは、彼らの憎しみの連鎖を断ち切り、それを正しい方向に導きたいと願う。
 そんなフリットを補佐するエミリー・アモンドだったが、フリットの前にユリン・ルシェルが再び現れたことで、その心を揺さぶられることになる。

 UEの正体を知ったフリットがどんな大人になったのか、それは次巻で語られるだろう。

機動戦士ガンダムAGE (1) スタンド・アップ

時代を切り開く兵器
評価:☆☆☆★★
 コロニー・オーヴァンが謎のモビルスーツ型機動兵器に襲撃された日、宇宙は新たな歴史を歩み出した。そのとき、母親を失った少年は、二度とこのような悲劇を起こさないことを近い、無辜の民を焼き尽くした正体不明の敵に復讐を誓う。その少年の名はフリット・アスノと言った。
 それから七年、コロニー・ノーラへと移り住んだ少年は、連邦軍基地司令ヘンドリック・ブルーザーの知己を得、技術士官のバルガス・ダイソンと共に、一機の革命的なモビルスーツを作り上げようとしていた。その名はガンダム!

 彼が天才少年であることは疑いようもないが、周囲が彼について行けるとは限らない。人々を焼き尽くした戦場から遠く離れたこのコロニーでは、正体不明の敵の脅威を説くフリットは異端児だ。それなのに、よそ者のフリットがエミリー・アモンドと仲が良いと言う事実は、ディケ・ガンヘイルのような生粋のノーラっ子には面白くない。自然、フリットはクラスでも浮いた存在となっていた。
 しかしそんなとき、そのノーラが正体不明の敵の襲撃を受け、崩壊の危機を迎える。副司令のグルーデック・エイノアの決断により、多大な犠牲を払いつつも、ガンダムを乗せた戦艦ディーヴァは、戦場へと赴こうとしていた。

 アニメとはかなり設定を変えてきている。エピソードが省略されているのは紙幅の影響もあるのだろうが、フリットはより反体制的に、エミリーは盲目的に恋している感じの少女に、ディケはフリットに反発する少年になっている。
 いかにもお涙ちょうだいの演出が死の無常さを少年に知らしめる演出になっていたり、グルーデックの行動がブルーザーの示唆の下に行われていたり、演出面での変更点も散見される。

劇場版マクロスF 下 サヨナラノツバサ

奇跡を起こす代償
評価:☆☆☆☆☆
 超時空シンデレラとしてスターダムを急上昇するランカに対し、ギャラクシーのスパイの疑惑をかけられたシェリルは、監視対象となる。
 そんなとき、ギャラクシーの電脳貴族が避難民にまぎれてクーデターを画策しフロンティアを乗っ取ろうとするのだが、事前に察知したレオン・三島の手により、逆に支配される形となってしまう。それを契機として拘束されたシェリルは、戦時下における即日死刑判決が下されてしまう。
 囚われの身となったシェリルを、ランカは、アルトは救いだせるのか。そして、バジュラとの戦いの結末は?

 テレビアニメ版とかなり異なる設定になっていることは上巻で分かっていたが、下巻も色々と異なる点が多い。レオン・三島の婚約者がルカ・アンジェローニの姉になっていたり、クーデター時のレオンがあくまで大統領補佐官の立場で行動していることなどだ。
 後者は大統領補佐官が大統領の職務代理執行者ではないためだと思うが、前者の設定変更により、オズマ・リーの格好良さが表現される部分が減少したり、ルカの行動が脅されたゆえに、という感じになったことが物足りない気もした。

 他にも大きな変更点はあるのだが、基本的に、アルトを中心として、ランカとシェリルとの関係に集中したとみてよいと思う。その一方で、グレイス・オコーナーの立ち位置がだいぶ変更になっていて、かなり良いポジションになっているのも面白い。舞台の見立ての解説は彼女の役割だし、シェリルの母親みたいな印象を受ける。
 最後の方に様々、派手なキャラクターも登場して色々あるのだが、この作品におけるアルトは、決断のできる男に成長していると思う。

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劇場版マクロスF 上 イツワリノウタヒメ

3人の出会いと成長
評価:☆☆☆☆★
 マクロス・フロンティアの劇場版、イツワリノウタヒメのノベライズ版だ。フロンティア船団を銀河の妖精、シェリル・ノームが訪れ、梨園の御曹司・早乙女アルトや、歌手志望の少女ランカ・リーと出会うことで、ヴァジュラという生物兵器と、船団や銀河の運命を巻き込んだ物語が繰り広げられる。
 上巻では、シェリルとアルトのステージに触発されたランカがデビューを果たし、シェリルと競えるプロのレベルまで駆け上がってくるところ、そしてアルトは自分の内面を見つめなおして現実と向かい合うところが描かれる。

 登場するキャラクターはほとんど変えることなく、その役割を再配置することで、コンパクトに整理されている印象がある。例を挙げると、松浦ななせがランカの同級生ではなく、マネージャーという位置づけになっていることがそれに対応する。
 また、事件の計画性・演出性も上げられている様に感じる。シェリルの舞台演出が、グレイスの本来の目的に対する暗喩になっていたり、ギャラクシー船団崩壊と、フロンティア船団の政治闘争が関連付けられたり、構造の整理・統合が図られている。

 コンパクトにまとめたゆえに、密度が上がることによる充足感はある一方で、シェリル、ランカ、アルトの心理的揺れの描写は少なくなっているかも知れない。
 代わりに、彼女たち3人だけでなく、この物語の各所に登場するトライアングラーが強調されていて、また新たな面を見出す思いも感じられるかも知れない。

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マクロスF フロンティア・ダイアリーズ

メインストーリーの影で
評価:☆☆☆☆★
 ミシェルとクランが受けたS.M.S本来の任務の様子を描く「バトルフィールド・エニウェア」、フロンティア船団の下層で起きた殺人事件を解決しようとするボビーと矢三郎のアクション「エボニー&アイボリー」、嵐蔵の若き日の姿を描く「楽園星天剣酔舞」、試験勉強と称してアルトの家に押しかけるシェリルとランカ「イグザミネイション・パニック」、戦場でただ一人残されたアルトの姿を描く「ティア・ドロップ」、学園祭の屋台の料理対決「ホット・プレート」を収録。  なお、書下ろしはティア・ドロップのみだ。

 今回は嵐蔵の昔話よりも、アルトが戦場で突っ張るティア・ドロップがよかったと思う。劇場版のノベライズも担当するそうです。

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マクロスF フロンティア・メモリーズ

まさにエピソード集
評価:☆☆☆☆★
 シェリルがフロンティアに来る前のブレラのエピソードもあれば、美星での日常のエピソードや、ランカがフロンティアを出て行った後の話などもあります。
 個人的には、早乙女アルトの父、嵐蔵の若き日の姿が垣間見えるエピソードが面白い。あの子にしてこの父ありという感じがします。

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マクロスフロンティア Vol.4 トライアングラー

アニメより立派に成長した
評価:☆☆☆☆★
 バジュラ本拠地の襲撃に丸々一巻を割いている。  矢三郎とシェリルのやり取りが描きこまれていたり、アルトがガキっぽい反発ではなく、深みのある芸で全てを覆い隠していたことにするなど、アニメの描写とは少し違うところもあるように思う。一言で言うなら、アルトがアニメよりかなり大人で格好よい。
 巻末にアルトとミシェルの出会いの物語を収録。

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マクロスフロンティア Vol.3 アナタノオト

大人たちがした選択
評価:☆☆☆☆★
 11年前の事件の際に、グレイスやオズマ、あと幾人かの為した、あるいは為さざるを得なかった選択がかなりの紙幅を取って描かれています。これを読むと、グレイス・オコーナーの見方が少し変わってしまうかも。
 歌舞伎役者としてのアルトを強く意識した書き方によって、各局面で矛盾する(優柔不断に見える)ような行動をとってしまうことを説明している功がある一方で、ほのめかしたままの方が良かったような部分まで書きすぎている罪もある気がする。おかげで、ある種アルトの裏切りが一層手ひどいものになってしまった。
 マクロスフロンティアがヴァジュラ本星に到着し、最後の決戦が始まる直前で次巻に続きます。

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マクロスフロンティア Vol.2 ブレイク・ダウン

なぜアルトは歌舞伎役者なのか
評価:☆☆☆☆★
 アニメを見ているだけでは、なぜトップアイドルであるシェリルが、一スタントマンに過ぎないアルトに興味を持ったのかがイマイチ理解できなかった。しかし、この作品を読むことで理解できた。同様に、なぜアルトが歌舞伎役者でなければならなかったのかも。
 また、このような内面的な描写だけではなく、普段の生活の様子など、物語の背景となるような描写がそこかしこにあり、アニメを補完する形になっている。そういう意味で、続編が少し楽しみだ。

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