紅玉いづき作品の書評/レビュー

悪魔の孤独と水銀糖の少女

評価:☆☆☆☆☆


大正箱娘 怪人カシオペイヤ

評価:☆☆☆☆☆


青春離婚

評価:☆☆☆☆☆


現代詩人探偵

評価:☆☆☆☆☆


大正箱娘 見習い記者と謎解き姫

評価:☆☆☆☆☆


あやかし飴屋の神隠し

妖怪を形作る問題
評価:☆☆☆☆☆
 露天に細工飴屋を出す叶義と職人の牡丹は、人に憑いた妖怪を飴細工とし、祓うことができる。そしてそんな問題を抱えている人には、牡丹のことが絶世の美人に見えるのだ。
 美容師の成深につく赤錆、ストリートダンサー女子高生の蜜香につく運種、牡丹の元パトロンである清子につく醜美、そして神主の道理と出会うきっかけとなった狐繰。叶義が飴屋をしながら目指すこととは?

サエズリ図書館のワルツさん (2)

働くことは生きること
評価:☆☆☆☆☆
 わずか36時間が世界を変えたピリオド以後の世界。さえずり町にあるサエズリ図書館に関わる人々の姿を描く中編と短編が一本ずつ収録されている。

「サエズリ図書館のチドリさん」
 大学卒業を間近に控えた千鳥蓉子は、就職活動で悩んでいた。27件の面接を受け、既に25件のお祈りメールをもらっている。教授から勧められたリストベース管理者採用試験も、突然の体調不良で棄権扱いとなってしまい、何を目指せばいいのかすら分からない。
 それでも、最後に残された細い糸にすがるような気持ちで、サエズリ図書館のボランティアスタッフに応募したチドリさんは、特別探索司書の割津唯から一冊の本を貸し出される。

 晴れてボランティアスタッフとして採用されたチドリさんの前に、図書修復家の降旗庵治が現れたことで、物語は進みだすのだった。

「サエズリ図書館のサトミさん」
 ワルツさん以外の唯一の正規職員であるサトミさんには、とある秘密がある。それゆえに、サトミさんは利用者の小学生から罵倒されても笑顔を崩さない。
 そんなサトミさんのところに、演劇志望者だった25歳の本多くんがやって来て、戯曲集の寄贈を申し出る。

ブランコ乗りのサン=テグジュペリ

苛烈な輝き
評価:☆☆☆☆☆
 首都湾岸地区に建設されたカジノの華は、少女サーカスだ。創設メンバーである団長のシェイクスピアが率い、歌姫アンデルセン、猛獣使いカフカ、ブランコ乗りサン=テグジュペリなどを襲名するために、少女たちがしのぎを削る。
 当代のサン=テグジュペリである片岡涙海は、自主練中に転落して怪我をしてしまい、身代わりとして舞台に立つことを双子の妹の片岡愛涙に願う。愛涙は姉の居場所を守るために大学を休学し、ブランコ乗りとして舞台に立つのだが、そこは彼女にとっては魔境だった。

 歌姫アンデルセンである花庭つぼみには嫌味を言われ、カフカである庄戸茉鈴には慰められるものの、同輩からは嫌がらせを受け、果ては金に絡んで拉致までされてしまう。だが、そこを自分の居場所と定め、少女たちは一瞬の輝きを日々、披露する。彼女たちは何を求めてそこにいるのか?

 無理やり恋愛を絡めたけれど、本当は不要な要素だったのではなかろうか?少女たちの生きざまだけで十分に物語は成立していたように思う。

ようこそ、古城ホテルへ (4) ここがあなたの帰る国

評価:☆☆☆☆☆


サエズリ図書館のワルツさん (1)

細々と生き残る本の存在意義
評価:☆☆☆☆☆
 さえずり町にある私立図書館、サエズリ図書館。その責任者にして特別探索司書は若い女性だ。そして、もはや他には残存していない貴重な本を惜しげもなく一般公開し、貸し出している。その図書館に収蔵されている本を介して、人々は様々な思いを感じ、交流して行く。


「サエズリ図書館のカミオさん」
 朝の占いは最悪。せっかく作ったお弁当は忘れる。仕事ではお局様に怒られ、ファーストフードの店は駐車場がいっぱい。そして極めつけは、たまたま入った駐車場で車をぶつけてしまう。そんな上緒さんが車の持ち主を探すために入った建物は、今では珍しい図書館、私立図書館だった。
 その図書館、サエズリ図書館の責任者で特別探索司書だという若い女性の名は、割津唯。彼女に勧められて、初めて本を手にし読んでみたカミオさんは、直ぐには本の内容が理解できなかったけれど、ワルツさんや図書館の利用者である岩波さんと交流して行くうちに、本の面白さを発見していく。だがそこに、貴重な本の一般公開を即時中止すべきだという老人が現れる。


「サエズリ図書館のコトウさん」
 仕事にのめり込みすぎて離婚することになり、来年中学生になる娘の親権も奪われた古島さんは、娘と買い物に行く約束を破ってしまい、サエズリ図書館へとやってきた。そこでワルツさんを捕まえ、リファレンスサービスを強要する。
 そんなコトウさんは、図書館で金髪の小さな兄妹アダムとエヴァに出会う。本を抱え、学校に行っていないという彼らに近づこうとするコトウさんだが、兄妹には拒否されてしまう。コトウさんには彼らの残した言葉が耳に残った。


「サエズリ図書館のモリヤさん」
 かつてサエズリ図書館に本を寄贈した森屋新郷朗の孫のモリヤさんがやってくる。彼はワルツさんに対し、祖父の寄贈した本の即時公開停止を求めてくる。その間、モリヤさんは寄贈した本を一人で読みたいという。
 だがワルツさんはその要求を即座に拒否。モリヤさんは利用者として本を借りていく。そしてその本を返しに来るのだが、カミオさんは本の異変に気づいてしまった。


「サエズリ図書館のワルツさん」
 ワルツさんのパパの割津義昭は、著名な脳科学者であった。そして消滅しつつあった本を集めていた。そんな彼は晩年にワルツさんという娘を得る。
 そんな由来を持つサエズリ図書館から、一冊の本が盗まれた。厳重なセキュリティを突破して盗まれた本の行方を検索したワルツさんは、それが都市部にあることを知る。都市部に向かうため、電車を乗り継ぎ、ヒッチハイクをしてたどり着いたそこには、戦争の傷跡と、そこで暮らさざるを得ない人々の哀しみがあった。

ようこそ、古城ホテルへ (3) 昼下がりの戦争

戦争の火種
評価:☆☆☆☆★
 どんなものでも分け隔てなく快適に滞在できる古城ホテル「マルグリット」には四人の女主人(メトリーゼ)がいる。亡国の姫君リ・ルゥ・アヌ・アル・ラサ・ファン・チゼ、花の妖精フェニアーノ・クロージニー、男装の軍人ジゼット・ロドマン、煌き魔女ピィ・キキラーチェだ。彼女は本来の自分の居場所を奪われ、そして自分たちの力で自分の居場所を手に入れた。
 青銀の賢者サフィールと憐れな犬ヘンリーちゃんの守護の許、ようやく落ち着いてホテル経営に専念できると思ったのも束の間、ジゼット・ロドマンの祖国である軍国ボルドーの友人エラン・クリューガーがケリル王国から送ってきた手紙と共に、またもやトラブルが舞い込んでくる。

 軍国ボルドーとケリル王国の交渉場所として選ばれた古城ホテル「マルグリット」には、ケリル側から革命指導者ヤウズと、海神の血統アミルおよび従者ウールフが、ボルドー側からゴルダス・ベイル大佐と化け猫ランゼリオ・アルジャーが訪れ、戦争の瀬戸際での交渉が行われることになったのだ。

 旧友のピンチと女主人としての立場、そして故国への親愛の情に板ばさみにされながらも、全く揺れていないように見えるジゼット・ロドマンの内側にはどんな感情が隠れているのか?鉄面皮の麗人である彼女の素顔が垣間見えるかも知れない。

ようこそ、古城ホテルへ (2) 私をさがさないで

だからあなたはここにいて
評価:☆☆☆☆☆
 神殺しの罪で魔山を追放された古城ホテル「マルグリット」の女主人の少女の一人である煌き魔女ピィ・キキラーチェの許に、二組のお客様がやってくる。一組は異界の伯爵エン・デュペ率いる見えないお客様たち。そしてもう一組は、魔山からピィを捕らえに来た兄弟子たちだ。彼女を魔山に連れ去り、精神と肉体を切り離して、結晶体というエネルギー源にする目論見らしい。
 “神”を殺したことに罪悪感を持つピィは、素直に彼らの虜囚となり、マルグリットを静かに去る。だが残された女主人の少女たち、お姫様リ・ルゥ・アヌ・アル・ラサ・ファン・チゼ、花の妖精フェニアーノ・クロージニー、男装の軍人ジゼット・ロドマンは、ピィのその行動を許さなかった。

 ピィを救出するため、フェノンとジゼットは、魔山への潜入を開始する。そして一度はホテルを守るために残ったリ・ルゥは、憐れな犬ヘンリーちゃんに留守を任せ、青銀の賢者サフィールに下げたくない頭を下げ、ピィがもてなしたお客様の言葉を携え、魔山へと向かうのだった。

 ピィ以外の女主人から散々な扱いを受けるヘンリーちゃんの姿を見ていると、なぜか癒やされる。ヘンリーちゃん、いじめられて実は喜んでるんじゃないだろうな?
 そして物語は、女主人たちの過去の負債を片付けるエピソードへと入っていく。表題作の他、フェノンに関するエピソードである中編「これがわたしのたからもの」も収録している。1巻よりもずっとパワーアップして、面白さが増している気がする。

ようこそ、古城ホテルへ 湖のほとりの少女たち

湖のほとりで輝く強さ
評価:☆☆☆☆★
 青銀の賢者サフィールに導かれ、湖畔の古城ホテル「マルグリット」にやって来た4人の少女たち。ピィ・キキラーチェは魔女の山を追放された魔女、ジゼット・ロドマンは軍を追放された軍人、フェニアーノ・クロージニーは他人に言えない仕事をしていた少女、リ・ルゥ・アヌ・アル・ラサ・ファン・チゼは国を滅ぼされた王女、いずれも帰る場所を持たない少女たちだ。
 彼女たちは、古城ホテルの女主人となるため、候補生として客をもてなす試験を課される。初めは流されるままに、対立しながら仕事をしていた彼女たちも、徐々に協力するようになり、自分の帰る場所を自分で作るために努力するようになっていく。

 4人の少女の奮闘と失敗、そして孫娘を失った女主人の悲哀、その原因を作ったヘルハウンドと、彼らを引き合わせた賢者の交流を描いていく児童文学だ。
 元々自分が帰属していた場所から放逐され、何をしたらよいか分からない少女たちが目的を見つけ、自らの居場所を作り出していく強さが描かれている。強いというのは、暴力的な意味ばかりではない。折れない気持ちの強さなのだ。

毒吐姫と星の石 ミミズクと夜の王 (2)

姫として育てられなかったお姫さま
評価:☆☆☆☆☆
 星占いで政治を決める小国ヴィオンに姫として生まれたエルザ・ヴィオンティーヌは、誕生して直ぐに下町に捨てられる。占いで凶兆が出たという理由で。呪いの姫と噂されながら、全てのものに毒を吐くことで生活の糧を得て生きて来たエルザは、ある日突然、王宮に連れ戻される。再び占いにより、夜の王の住まう森の近くにある聖剣の国レッドアークの異形の王子に嫁ぐことが決まったというのだ。
 生まれてから一瞬たりとも王族としての暮らしを経験することも無く、寒さと飢えにさらされて生きて来たエリザは、毒を吐けないように魔法で声を封じられ、無理矢理に輿入れすることになる。そこで出会った王子、クローディアス・ヴァイン・ヨールデルタ・レッドアークの手足に付与された夜の王の魔力により声を取り戻した毒吐き姫は、ディアを拒絶し逃げ出そうとする。
 そんな彼女を受け入れ、自由に過ごさせるディアや、聖騎士アン・デューク・マクバーレンやその妻で聖剣の巫女であるオリエッタに触れるうちに、彼女にも少しだけ変化が見えてくる。そんなとき、彼女を捨てた国ヴィオンに政変が起きる。

 星と神の運命において、という聖句により翻弄されて生きてきたエルザは、姫としての権利を受け取ることもなく、国のために人生を捧げるという、王族の統治システムの中に組み込まれてしまった。
 一方、彼女が嫁ぐレッドアークの王子ディアは、呪われた四肢を持ち監禁されて過ごした過去を持つ。そんな彼が王子として立ち、国と民を護るという覚悟を見せることで、何不自由ない生活には代償が必要とされるのだ、という王族の常識をエルザに背中で語っていく。

 生まれて直ぐに捨てられ、何の拠り所もなく、ただ自らの言葉のみを武器として生きてきたエルザ。しかしその言葉が多くの人の運命まで動かしかねない立場と一緒になった時、何も怖れるものはなかったはずのエルザに初めて畏れが訪れる。
 これは王女として生まれながら、王女として育てられなかった少女が、運命を左右した占いの代わりに信じられる人を知り、王族として生まれ変わる物語であると思う。「ミミズクと夜の王」の続編。

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ガーデン・ロスト

私の紙と字は、誰かを救えるのだろうか。
評価:☆☆☆☆★
 文通相手の虚構を受け入れて恋をするエカ、理想を傷つけることを怖れて本気であたれないマル、何気ない一言で自分を縛ってしまっているオズ、そして母親の理想を体現しようとして崩れていくシバ。そんな女子高校生四人組が集まるのは放送室の一室。そこは外の悩みから切り離された場所…のはずだった。
 しかし、変わっていく周囲、否応なく訪れる転機。これらはそれぞれを少しずつ変え、変わらないはずの場所にも変化をもたらしていく。

 エントロピーが増大を続けるためなのか、望むと望まざるとに関わらず、変化は常に訪れる。そして、変化する中でも変わらないこともある。これはそんな変化の瞬間を切り取った作品。
 放って置いても別れの時は来るのに、そこに至る前に壊してしまいたくなるのは何故なのだろう。感情的でもあり、理性的でもある。刹那的でもあり、恒久的でもある。臆病でありながら大胆。そんな矛盾するような感情が渾然となって関係を作り上げている。

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雪蟷螂

寒々しい雪景色を溶かすような激しい想い
評価:☆☆☆☆☆
 十年前、フェルビエ族とミルデ族の族長は、盟約の魔女の仲介により、どちらかが滅ぶまで続くと思われた戦争を停戦させた。魔女が出した停戦の条件は、フェルビエの族長の娘アルテシアとミルデ族の族長の息子オウガを結婚させること。そして十年の月日が経ち、婚礼の準備が進められているときに事件が起こる。ミルデ族の先の族長の永遠生の首が何者かにより奪われたのだ。
 そもそも、山脈に住む蛮族であるフェルビエ族と、下界の風習を持ち込み永遠生というミイラ信仰を持つミルデ族では、風習も何もが違うし、長年にわたる遺恨が染み付いている。おそらくは婚礼に賛成しない者の起こしたことだろう。アルテシアはオウガに釈明するため、近衛のトーチカのみを連れ、盟約の魔女の住む谷を目指す。果たして事件の真相は、そして、想い人を喰らうとまで言われるフェルビエの激情はどこに向かうのか。

 凍てつくような雪の大地と、唇からわずかにこぼれる血の赤。ほとばしり叩きつけるようなセリフ。冒頭の数ページで一気に世界観の中に呑み込まれる気がする。鉄と血、争いの中で生まれる激情。ある意味では悲しい愛の物語であり、ある意味では幸せな恋の物語といえるだろう。

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