河野裕作品の書評/レビュー

評価:☆☆☆☆★

ウォーター&ビスケットのテーマ (2) 夕陽が笑顔にみせただけ

評価:☆☆☆☆★

夜空の呪いに色はない

評価:☆☆☆☆★


ウォーター&ビスケットのテーマ (1) コンビニを巡る戦争(河端ジュン一)

評価:☆☆☆☆★


最良の嘘の最後のひと言

評価:☆☆☆☆★


凶器は壊れた黒の叫び

評価:☆☆☆☆★


汚れた赤を恋と呼ぶんだ

評価:☆☆☆☆★


つれづれ、北野坂探偵舎 トロンプルイユの指先

雨坂がいないとダメな佐々波
評価:☆☆☆☆★
 雨坂ノゾミに憑りつかれた小暮井ユキは、朽木続のデビュー作「トロンプルイユの指先」のモデルだと思われるビルを訪れ、極めて強力で事態の中心にいる幽霊・紫色の指先の中に取り込まれてしまう。ノゾミと離れ離れになってしまったユキは、街をさ迷い歩く中、幼い頃の親友星川唯斗と再会する。
 現実世界において、突如倒れて入院したユキを目覚めさせる方法を探すことにした佐々波と雨坂は、紫色の指先の情報を求めて六甲大学へと赴き、レイニーに出会う。彼に憑りつかれることで紫色の指先の中に入ることに成功した二人は、ノゾミの父である雨坂聡一郎と出会うことになるのだった。

 レイニーと会話している佐々波がバカっぽ過ぎて、こんなキャラだっけ?と疑問に思ってしまった。

その白さえ嘘だとしても

クリスマスの憂鬱
評価:☆☆☆☆☆
 クリスマスを控えた12月。階段島の唯一の外部からの商品購入手段であるインターネット通販が使えなくなってしまった。残された商品購入手段は、島にある、品目の限られた商店だけだ。
 真辺由宇は、その原因だと噂されるハッカーを探すため、七草に協力を求める。一方、ヒーローへの願望を抱える佐々岡は、水谷という女子中学生の涙を拭うため、ヴァイオリンのE線の弦を探して島を駆け回る。

 やがて、島民の多くに届くクリスマスカード。その差出人と、今回の事件の内幕とは?

つれづれ、北野坂探偵舎 感情を売る非情な職業

子供っぽく、誠実な
評価:☆☆☆☆☆
 朽木続こと雨宮続からはやて文学賞の授賞式に誘われた佐々波蓮司は、第49回はやて文学賞、朽木続が「トロンプルイユの指先」で大賞を受賞した際に起きた哀しい出来事を思い出す。その哀しみは、萩原春という、誠実な校正者の形をしている。

 当時、3年目の編集者だった佐々波蓮司は、新人の工藤凛を指導しながら、大学時代に知り合った萩原春と同棲していた。第49回はやて文学賞の一次選考が始まった頃、工藤凛は編集長から第49回はやて文学賞大賞を受賞させる候補作として、「非常口」という原稿を渡される。それは、魅力的な設定を持ちながら、未だ結末が書かれていない原稿だった。

 書評家のカラスとは何者なのか。紫色の指先の正体が明かされるものの、さらに謎は深まる。

bell(河端ジュン一)

内側にいる読者
評価:☆☆☆☆☆
 読者が主人公の行動を支援してバッドエンドフラグをへし折るという、本当の意味でのインタラクティブな小説だ。作り手が本気で遊んでいる感じが伝わってきてドキドキする。
 残念なことに本書一冊でストーリーが完結しておらず、果たして続巻が出版されるかも不明のため、単純にお勧めすることが出来ないのが残念だ。

いなくなれ、群青

失くしものの正体
評価:☆☆☆☆☆
 階段島は、失くしもののある人々が暮らす島だ。住民はある日突然、島内に現れて、何故そこにいるのか分からない。定期船はあるが行き来できるのは荷物だけ。インターネットもあるが、島外に助けを求めることはできない。山頂に住むという魔女の支配する島だ。
 そんな階段島の柏原第二高等学校に通う七草は、11月19日午前6時42分、真辺由宇に再会する。彼女はこの島には来てはいけないはずの人だった。

 島を脱出しようとする真辺由宇につきあいう七草は、新たに島にやってきた小学生の相原大地を拾う。彼を両親に返すため、真辺由宇は失くしものと魔女、遺失物係の秘密を解き明かそうとするのだった。

つれづれ、北野坂探偵舎 ゴーストフィクション

演じられる幻覚
評価:☆☆☆☆☆
 岬で地縛霊となっていた雨坂ノゾミが小暮井ユキに憑りついた。移動できるようになったのだ。そんな折、佐々波の昔の知り合いで作家となった里見智子から依頼が持ち込まれる。亡くなった姉の無くなった絵を探してほしいという。
 佐々波、朽木続こと雨坂続、彼の従妹という触れ込みで同行した小暮井ユキと雨坂ノゾミがたどり着いた洋館では、確かに心霊現象が発生していた。そこで演じられる幻覚と、過去の記憶。そのいずれが正しいのか。

つれづれ、北野坂探偵舎 著者には書けない物語

代理人の憂鬱
評価:☆☆☆☆☆
 大学生となった小暮井ユキは、サークル勧誘の波の中で、大野という女子大生と出会う。彼女から演劇サーク「ラバーグラス」で幽霊騒動が起きていると聞いたユキは、元編集の探偵、佐々波と作家の朽木続こと雨坂続に相談することにする。
 懐かしい大学を訪れ、ラバーグラスの代表である鍵谷に会った二人は、幽霊騒動が、宵野というかつて所属していた脚本家の残した脚本に端を発するものであることを告げる。そしてそれは、二人の出会いと、レイニーという幽霊にかかわってくるのだった。

つれづれ、北野坂探偵舎 心理描写が足りてない

それは筋が通らない
評価:☆☆☆☆☆
 女子高生の小暮井ユキは、たまたま入った「徒然珈琲」という喫茶店で、不思議な二人組を見かける。背中合わせに椅子にかけながら、互いを見ることもなくやりとりを続ける二人だ。話を聞いていると、一人は作家であり、もう一人は元担当編集らしい。
 そして二人は、窓の外に見えた、同じワンピースを着た二人の女性の間にあるはずの、物語のプロットを立て始めた。それはさながら名探偵の名推理のようでもあり…。

 「徒然珈琲」のオーナーであり元編集者で、現在は探偵をしている佐々波が取り扱う事件は、幽霊にまつわるものが多い。それには二つ理由があり、その一つは、彼には幽霊が見え、話すことが出来るからだ。
 そして持ち込まれた案件を、バイトの日本人女性、通称パスティーシュにからかわれながら、作家の朽木続こと雨坂続に、事件の背景を、彼の頭の中で組み立てられた物語として語らせる。

 今回持ち込まれたのは、小暮井ユキが小学生の頃に読んだという、題名も分からない絵本を探すことだ。そしてその絵本には、先頃亡くなった女子高生、ほっしーこと星川奈々子の幽霊が関係していた。そしてひとつの謎が解き明かされると、また新たな謎が持ち上がってくる。

 二人の男が本来追いかけている謎は別にあるので、どうやらシリーズ化されるようにも見える終わり方となっている。

ベイビー、グッドモーニング

連鎖する生と死、その命
評価:☆☆☆☆☆
 ある年の八月、もうすぐ寿命を迎える4人の男のもとに、中学生くらいの少女が現れる。どこにでもいそうな少女は、自分のことを死神と名乗り、彼らにその死を告げた。

 病室に少年がいる。彼のもとを訪れるのは、佐伯春花という友人だけだ。その少女ももうすぐ転校でいなくなる。そして彼も死ぬ。再びこの街に戻ってくると言う彼女に、少年はどんな言葉を残せば良いのだろう?

 ここに一人の作家がいる。かつては児童文学のベストセラーを生み出した作家だったが、その作風に納得がいかず、理想の文章を求めてさまよい、未だ何も生み出せていない。そんな彼のもとに届くのは、彼が最後に書いた作品に添えられた一文だった。

 青年はもうすぐ死ぬ。延長された寿命は僅かに十日間。その時間で彼は何をするのだろう。死神の少女は、その十日間の対価に、彼に一人の女性を救って欲しいと言う。

 一人の老いた道化師がいる。彼には最近、初孫が出来た。しかしその初孫は、先日、大切な友人を亡くしてしまった。そしてその初孫が新たな拠り所に仕掛けている自分ももうすぐ死ぬ。道化師として彼女を笑わせるために、何をすれば良いのだろう?

 そんな死と生を描く連作短編集。これを読むと「サクラダリセット (7) BOY, GIRL and the STORY of SAGRADA」のラストに新たな解釈を見いだすことが出来るかも知れない。それは相麻菫にとっての救いとなる解釈かも知れないと思う。

 本作の関連として「グンナイ、ダディ-死神のスタンス」も公開中。

サクラダリセット (7) BOY, GIRL and the STORY of SAGRADA

選んだ先にしか未来はない
評価:☆☆☆☆☆
 管理局対策室室長の浦地正宗の両親は、咲良田の能力を管理するために、当時少年だった加賀谷の能力によって礎となった。ゆえに能力を忌避する浦地は、岡絵里の能力によって未来視の相麻菫に能力の使い方を忘れさせ、宇川沙々音に能力の暴走を演出させ、管理局に咲良田中の能力者に能力の存在を忘れさせるという最終手段を了承させることに成功した。
 しかし、その未来には、浅井恵のそばに春埼美空の姿はなく、代わりに明るく快活な相麻菫がいた。記憶を失うことのないケイのそばに、リセット能力を持つ春埼を置くことを浦地が嫌ったのだ。

 春埼美空を取り戻すために元通りの世界にすると言うことは、自分がスワンプマンではないかと苦しむ相麻菫に戻すと言うことでもある。だがそれでも、ケイは自分のために、咲良田に能力を取り戻そうと決意する。
 能力をコピーする坂上央介や声を届ける中野智樹、対象を消し去る村瀬陽香や猫と意思疎通ができる野ノ尾盛夏らの能力を組み合わせ、そして敵方の人物すら取り込むことで、より理想的な世界を作り出そうとするケイ。だがそのためには、彼自身の意思で、再び相麻菫を傷つけなければならない。誰よりもケイのために生きた彼女を再び傷つけることでしか成し遂げられない未来。それなのにその未来で、ケイは彼女が本当に望むことを与えることすら出来ないのだ。それはどんなに残酷なことだろう。

 だがやはり、人の感情を無視することは出来ないし、思い通りの未来が手に入るわけでもない。より理想に近い形を求めて努力し続け、少しでも犠牲を減らそうとすることが、人間に許された限界なのかもしれない。そのためには、自分を傷つけることすらためらわず突き進むのがヒーローの姿なのだと思う。
 そんなヒーローの導く未来は、どこか切なく、しかし生きる意味のある世界だ。シリーズ堂々の完結。

サクラダリセット (6) BOY、GIRL and ‐‐

40年の思いをリセットする決意
評価:☆☆☆☆☆
 二年前に死んだ相麻菫を能力を組み合わせて黄泉帰らせたことで、春埼美空は恐怖を感じてしまった。それは、浅井ケイが自分を、自分の能力であるリセットを必要としなくなるのではないかという恐怖。世界を3日分巻き戻すという能力よりも、相麻の未来視能力の方が使い勝手が良いはずだからだ。
 その鬱屈した思いは、文化祭で彼女が演じる女性と、皆実未来が脚本で書いた人物像を乖離させてしまう。ケイの恋人役を幸せに演じるには、脳裏に浮かぶ相麻の姿が強烈すぎるのだ。そんなすれ違いを感じた皆実未来と中野智樹は、友人である浅井ケイに奮起を促すため、ある仕掛けを施す。

 一方、二代目魔女を名乗る、生き返った相麻菫は、管理局対策室室長の浦地正宗との会合を控えていた。浦地は咲良田から能力を消し去るために策を巡らし、二代目魔女はそれに協力をしているかのように見える。
 だが、浅井ケイには、相麻菫から、浦地の陰謀をはねのけるためのヒントが届いていた。果たして彼女は何を思って行動しているのか?

 タイトルの後半は7巻に続くらしい。それでこの物語も完結の予定だ。

 浅井ケイと春埼美空。能力を持ち、いつも隣にいるけれど、感情が希薄で、何を考えているかは単にから読み取りづらい。でも彼らも普通の高校生でもある。何かがあるから普通の高校生でいられないのではなく、普通の高校生でもありながら何かがあるという形に落ち着くべきだ。そんな誰かの思いが支えるかのように、物語は進展していく。

 浦地の作戦は万全だ。あらゆる反撃を封じるため、管理局の立場を生かし、能力の裏をかき、あるいは表から対処し、自分の目的まで一直線のルートを敷く。それには魔女の未来視も叶わない様に見える。
 しかしそうではなかった。逆転の一手を打つため、魔女は大きな犠牲を払いつつ、自分の何かを切り捨てて、路を残した。それは隘路ではあるが、死路ではない。その路を進んだ先に、彼らは、彼女たちは、何を手に入れるのだろう。

サクラダリセット (5) ONE HAND EDEN

敗れてもなお救いはある
評価:☆☆☆☆☆
 人間に様々な能力が宿る街・咲良田で、浅井ケイは2年前に事故死した友人・相麻菫を再生した。彼女自身が仕組んだ出会いに導かれるように、様々な能力を重ね合わせて。そんな相麻菫には、まだ浅井ケイにも言えない望みがひとつあるらしい。
 そんな彼女の思惑とは別に、浅井ケイにも実現したい未来がある。それは、再生した相麻菫を普通の女の子に戻すこと。つまり、咲良田の外に出し、能力に関する全てを忘れさせ、両親との暮らしを取り戻させることだ。その実現性を問うために、ケイは夢の世界で実験をすることにする。

 夢の世界とは、片桐穂乃歌という目覚めない女性が作り上げた、どんな願いも簡単に叶う世界。でもただひとつ、願いを叶える神様自身の本当の願いは、絶対に叶わない。そして、それを叶えてあげようという人は、夢の世界にはいない。
 一方、夢の世界に入った浅井ケイ、春埼美空、野ノ尾盛夏は、過去に失ったもの、あるいは失わせたものをそこに見つける。しかしそれは夢の中で叶ったとしても、現実に戻る彼らには何の意味もないものだ。

 理想を言うならば、現実の世界で夢を実現するのがよい。だが、やり直しのできない現実に打ち負かされた者はどこへ行けば良いのか。ひとつの結論が夢の世界だ。
 しかしここに、別の結論を求めようとする者たちがいる。彼らは何を望み、何を成そうというのか。ここから始まるのは、そういう物語なのだろうと思う。

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サクラダリセット (4) GOODBYE is not EASY WORD to SAY

補完的・予告的な短編集
評価:☆☆☆☆☆
 連番なので長編だと思い込んでいたらまさかの短編集。

 芦原橋高校入学初日の奉仕クラブの初仕事を描く「ビー玉世界とキャンディレジスト」、野ノ尾盛夏が出会った月を目指す猫と彼が助けた少年のエピソード「月の砂を採りに行った少年の話」、ある日の春埼さん「お見舞い編」「友達作り編」は能力が関係しないストーリー。
 そして二年前、相麻菫が亡くなった直後、春埼美空のリセット発動にどうして浅井ケイが関わるようになったのかを明らかにする「Strapping/Goodbye is not an easy world to say」という5編の短編と、全く別のお話「ホワイトパズル」が収録されている。

 長編は浅井ケイが全ての展開を計画している印象があるけれど、この短編集では春埼美空の姿を描いている印象が強い。特に、ある日の春埼さんは基本的にケイが登場しない。
 その他には長編の補完的な側面と予告的な側面があって、「ビー玉世界…」は津島信太郎の意図がうかがえるし、「Strapping…」には宇川沙々音という新キャラクターが登場する。

 短編だけれど長編に漂う静謐な雰囲気はそのままに、短いので読みやすく凝縮された仕上がりになっていると思います。

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サクラダリセット (3) MEMORY in CHILDREN

最善を選べることが幸福につながるとは限らない
評価:☆☆☆☆☆
 浅井ケイと春埼美空がこれまで出会ってきた人たちの能力を組み合わせれば、二年前に事故で死んだ相麻菫を生き返らせることができる。マクガフィンから導かれるその結論は、これまでの彼らの道筋が予測されたものだったことを悟らざるを得ない。その想いは、ケイに二年前の相麻との出会いから別れまでの出来事を思い起こさせる。そしてそれはケイと美空の出会いの物語でもある。
 ケイが美空の信頼を得ていくまでにあった、一人の少女と母親を巡る物語。それは彼らが関わるように相麻が誘導した出来事でもあるが、全てが彼女の思い通りになったわけではない。未来を見通せるがゆえに、常に最善の選択肢を選び続ける。この最善が本当に自分が得たい選択肢ばかりとは限らないからだ。
 そして舞台は二年後の現在へ。再び時間の流れの中に戻った相麻菫が目指すこととは何なのか。それは次の物語。

 二年前のケイと美空や菫の関係性と、現在の彼らの振る舞いから感じる関係制が、何かずれているような印象を読中ずっと感じていた。だがその理由は、菫が亡くなった時のケイの行動を知って、何となく分かった様な気がした。
 最後のイラストは本来ならばありえなかった構図のはず。それが示唆しているものは何だろう。

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サクラダリセット (2) WITCH,PICTURE and RED EYE GIRL

各巻で面白く、かつ、次の展開の伏線にもなっている
評価:☆☆☆☆☆
 八月九日水曜日。マクガフィンが欲しい、という突然の電話を受けた浅井ケイは、佐々野宏幸という人に会うために出向いていた。マクガフィンはただの黒い石にしか見えないが、それを手に入れたものは咲良田中の能力を支配できると言われており、彼はそれを利用して自分の能力を取り戻したいという。彼は、ある少女に能力を封じられていた。その少女の名は岡絵里と言い、ケイが二年前に利用した少女でもある。
 そして時を置かずしてケイと春埼美空の前に現れる、未来を見通す能力を持つ女性。ケイを咲良田に導いた存在でもある彼女の目的はどこにあるのか。

 作中に物語の道筋を表すキーワードがつかわれるのが特徴。前作ではマクガフィンだったし、本作ではスワンプマンがそれに当たる。意味深長に語られるその単語に、読者を引き込む以上の意味はないのかと思いきや、きちんと次の次の展開まで含めて準備されているのがニクい。今回の話を読むと、なぜマクガフィンが咲良田中の能力を支配できるのか、その理由が分かる。
 こう見ると、最低でも3巻まで行かなくては構想を実現できない展開スピードなので、そこまで続けられる自信があったということなのだろうか?また、見方によっては、能力で命を簡単に扱いすぎるという批判も受け得るかも知れない。

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サクラダリセット CAT, GHOST and REVOLUTION SUNDAY

それ自体に意味はなく、それが引き起こす行動に意味がある
評価:☆☆☆☆☆
 見かけは三人称の文体なのだが、実際は浅井ケイと春埼美空、二人の高校生の視点で交互に語られている。
 二人が住む咲良田は、一見するとただの沿岸の地方都市。ただ一点、住民の半数以上が超能力者だということを除くならば。そして、浅井ケイは全ての記憶を忘れない能力、春埼美空は三日だけ世界を巻き戻すリセットの能力を持っている。
 超能力者といえばバトルものという展開を想像しがちだが、いきなりそうはならない。何せ二人の能力はバトルに直接役立てられるようなものでもない。だから彼らの下に来た依頼も、死んだ猫を生き返らせて欲しいという、一見平和で、でもある意味、過去を捻じ曲げるという無謀なもの。しかしそれが出来てしまうのがリセットという能力だ。

 この依頼は単なるきっかけに過ぎず、それ自体に意味があるわけではない。すべてが終われば、まるで何もなかったかの様に世界は平穏を取り戻す。重要なのは、きっかけによってはじまる人との出会いであり、それが引き起こす悩みであり、過去の記憶を掘り起こして後悔することであり、何かを変えようと動くこと、それ自体である気がする。
 本当は何も起こっていないのかも知れない。だから、どんなに能力を駆使しても、何も変えられないことはある。しかし一方で、少しは変わる部分もある。そしてその積み重ねは周りに影響を与え大きなうねりとなる、こともあるかもしれない。

 派手な物語ではない。世界が決定的に変わることもない。ただ、静かな物語の中にも何か大きな動きがある。そんな感じの作品です。

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