小林がる作品の書評/レビュー

噛みつけ! アンノちゃん。 (1) あなたのハートいただきます

人間不信の主人公なラブコメ
評価:☆☆☆☆☆
 辛かったり大切なものを失くした時などに、胸にぽっかりと穴があく、という慣用句を使うけれど、主人公の滝立米人の胸には、物理的に穴があいている。記憶喪失のアンノという異次元人の少女に、文字通り食べられたからだ。それはもう、美味しそうにぱくぱくと。どうやら彼女は、最近、この街で起きている殺人事件の真犯人、七次元体の化物と関係があるらしい。
 本来、滝立米人は他人とは関わらないことを決め、他人を敵だと見て遠ざける生活を送っている人間だ。それは、慣用句的な意味でも米人の心にはぽっかりと穴があいているからだ。それは、彼の家族に関わることで、ゆえに、今の里親である叔母の志良以をも遠ざけているし、一時期一緒の施設で過ごした幼なじみの津下実桜とも慣れ合わない。

 それなのに、アンノウン・エンダーのアンノを拾うことになったり、そのアンノについて何か知っているらしい這いずり少女のクウに優しくしたり、口で言うのとは真逆な行動を取ったりもする。だから、実桜を慕う八光檸檬には警戒され、敵視されているわけだけれども。
 人間を食べちゃう宇宙人が登場するラブコメ。そしてその宇宙人には、エヴェレット的な宇宙観が背景にあるらしい。人間を遠ざける主人公が宇宙人と、幼なじみと、どんなラブコメをするのか。それは普通の様であり、普通ではない。

 第22回富士見ファンタジア特別賞を「ジャスティン!」で受賞した作家が、新作でデビュー。

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