ファミリーポートレイト(桜庭一樹)の書評/レビュー


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私の男 ファミリーポートレイト

ファミリーポートレイト

生きるために書くということ
評価:☆☆☆☆☆
 作者のハードカバー作品は、しばらく寝かせておいてから、気力の充溢した時に読むのを通例としている。だからこの作品は、ボクの書架で一年くらい眠っていたことになる。そしてついに読んだ。第一部を読むのが辛くて、でもこれがあるからこそ第二部がとても面白いと思えるのだから、やっぱりそれは必要なプロセスなのだろう。

 母親と共に各地を転々と放浪していたコマコ。小中学校に通うことも無かったが、文字を教えられてからは物語の世界にのめりこみ、呼吸をする様に本を読む、そんな生活が続く。そして14歳の時、母親との生活は終わりを告げ、父親の下で生活することとなった。
 14歳までの生活で人としての根本を母親に依存していたため、何にもなくなってしまったコマコ。しかし様々な男との出会いで、自らが拠って立つ世界を再発見していく。

 第一部を読み終わったとき思ったのは、本当に自分は教師にならなくて良かった、ということだった。ほんの気まぐれの行動で可能性をスポイルし、しかもその相手から好かれているなんて、地獄でしかない。(あるいは神になったと思うのか。)
 第二部は面白いけれど、ある意味では哀しい。結局奪いつくされたものは、取り戻したとしても、本当に自分のものにはなってくれない。それを持っている何者かを想定しなければ、表現することも出来ないのか。

 作家がどの様な気持ちで文章を書くのか分からないけれど、自分の中に無いものを素通りさせて表現することは出来ないだろう。そう考えると、この物語を著せることが少し恐ろしい。

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