佐々之青々作品の書評/レビュー

吟遊詩人に贈る歌 (2)

夢を叶えるために何が出来るかという不安
評価:☆☆☆☆☆
 世界一の吟遊詩人になる夢に挫折して故郷の街ルネスに戻ったレントは、約束の相手であり一流の軽業師となった幼なじみのトルチに再会し、広場に出るメイド服の幽霊エリスと二百年前の吟遊詩人リソルートにまつわる秘密を解き明かしてエリスを成仏させ、ルネスの二大名家ラッセル家とレイベンス家からその真相を語る唯一のお墨付きをもらった。そして、トルチと共に、世界一の吟遊詩人を目指して再出発することになった。
 エリスの物語を歌にするための旅の途上、レントは孤児院の院長だったペトリに会うために宿場町フラートを訪れ、王都時代に知り合った歌姫候補のハスクイット・ルフランと再会する。そして、エリスの一件が教会に不利に働かないか念押ししてきた大司教ヨナン・コリエンツに、百年に一度だけ目覚めるという精霊を起こすための歌を歌うことをレントに依頼されるのだった。

 一緒に旅をすることになって後は最高のタイミングで告白されるだけと高をくくっていたトルチの前に、レントに好意を抱く美少女のハスが現れ、その戸惑いに気づかないレントにトルチが当たり散らすというお話…かな。その舞台設定として、精霊を呼び覚ませる技量を持った吟遊詩人を選ぶ大会が催される。
 キャラクターや展開に目新しい部分はないのだけれど、安心して楽しめるという意味では好みの作品だ。

ライトノベルの神さま (2)

あなたから奪います!
評価:☆☆☆☆☆
 大学生の青葉浩介に現れたライトノベルの神さまである栞の神格を上げるため、大学付属女子高校生とライトノベルな恋を演出してもらうことになったのだが、その候補であった幼なじみの篠島佳枝を袖にして、神さまである栞に告白してしまった。
 その帳尻を合わせるため、バイト先の美人店長・御山春香や執事コスプレのロマンスグレー刑事・真田由蔵が暗躍し、栞は付属女子高入学を目指すことになった。それまでの時間つなぎというわけではないが、レペルアップ幅を増大させるため、新たに浩介が遭遇するはめになったのは、物の怪ファンタジー風ラブコメだ。

 またもやラノベ風の能力を使える3回券をもらった浩介の前に現れたのは、行き倒れの少女・秋穂だ。実はおさん狐という、恋人のいる男を誘惑する物の怪であった彼女は、栞の前で浩介にキスしてしまう!本来ならばラノベ展開に喜ぶはずの栞の反応は…?
 浩介の友人である片倉創や芦屋眞人、バイト先にいる謎人物の早苗や透子も事件に積極的に絡んで来て、ライトノベルな物の怪ファンタジーが繰り広げられる。

 2巻になり、ライトノベルの神さまである意義は益々薄れた様な気がしなくもない。神さまじゃなくて単なる恋する少女じゃん、すでに。神さまがくれる能力も、使えたんだか使えなかったんだか、その結果が分かりづらい。まるでラノベは、いかに決定的な結果を出さずにごまかし続けるかが本質だ、と主張しているかのようだ。

吟遊詩人に贈る歌

詩に託して時代を超える思い
評価:☆☆☆☆☆
 世界一の吟遊詩人になると幼なじみの少女トルチ約束してのルネスの街から旅立ったレントは、5年後、再びルネスに戻ってきた。自分よりも若い吟遊詩人に出会い、才能の差を見せつけられたレントは、もう約束を果たせないと、別れを告げるために戻って来たのだ。ルネスに戻り、演奏禁止と気づかず演奏した噴水広場で、レントはメイドの格好をしたエリスという女性の幽霊を呼び出してしまう。
 その騒ぎを聞きつけてやって来た女警吏のテアに捕まり、釈放の条件として幽霊騒ぎを解決することを押し付けられてしまったレントは、その身元引受としてやって来たトルチに、5年ぶりに再開する。

 自分が夢破れて戻って来たのとは対照的に、トルチはルネス唯一の劇場の一番人気の軽業師にして、レントの二大名家のひとつ、武のラッセル家の嫡子デリックを筆頭として、数多くの男に言い寄られるほどの少女になっていた。
 そんな差を見せつけられ、本来、彼女に告げるつもりだった言葉を告げられなくなってしまったレント。流されるまま、エリスの幽霊騒動を調べているうちに、自分の持っている魔法人形が二百年前の偉大な吟遊詩人リソルートのものであることを知る。そして、実はそれはラッセル家の汚点に関わるものであり、それを隠したいラッセル家は、レントとデリックのトルチを巡る決闘に託けて、レントをルネスから排除しようとするのだった。

 普通に考えて、吟遊詩人と警吏隊の隊長とでは剣の勝負になるはずもない。しかし、レントの魔法人形は、ルネスの文の名家であるレイベンス家の事実書によれば、当時の剣の名手であるクライフに匹敵する技量を誇ったというのだ。わずかな勝機を求め、二百年前のリソルートの歌を探っていたレントは、やがてエリスの幽霊の真実にたどり着くことになる。

 少年と少女の幼いころの約束に基づく恋物語をベースに、それに対比される様な歴史的な悲恋と、そこに隠された秘密を解き明かしていくファンタジーだ。自分の思いを表に現すことが出来ない少年の言動にやきもきしつつ、彼が新たな決意をしていく様子は、才能の壁を感じて挫折した様な人に、新たに決意する勇気を与えてくれるかもしれない。

ライトノベルの神さま

神さまが演出するライトノベルな恋
評価:☆☆☆★★
 大学生の青葉浩介の部屋に突然現れたのは、小中学生くらいの女の子、栞だ。その子は自分がライトノベルの神さまだと偉そうにのたまい、浩介に契約を迫る。大学付属の女子高校生とライトノベルな恋をして、その幸せを伝播させることで、神さまの格を上げるというのだ。
 今のところ最下層の神さまなので、浩介にちょっとした能力を授けたら自分の力を失ってしまい、栞は浩介の部屋に居候することになる。そんな栞を留守番において出かけたバイト先の書店で、浩介は幼なじみの篠島佳枝と再会する。なんと、大学の付属高校に入学したというのだ。
 佳枝から見ると慕っていたお兄ちゃんとの再会に、いきなりライトノベルな恋が実現するかと思いきや、盛り上がりを要求する栞は、あえてその流れを途切れさせる。書店の店長の御山春香を巻き込んで、彼らの物語はどこへ向かうのか?

 ライトノベルの神さまが演出するので、どれだけお約束な展開でも、どれだけあざとい演出でも問題ないというお墨付きがあるので、テンプレートなイベントがたくさん盛り込まれている。ジャンル的にはパロディっぽいラブコメという感じだろう。あとはこういう手法を読者が許容できるかで、気に入るかどうかが決まる気がする。個人的には、むしろ神さまという設定がない方が、純愛っぽいラブコメとして受け入れやすかった。
 本文中の設定とイラストの、身体的特徴の不整合が気になった。

   bk1
   
   amazon
   
ホーム
inserted by FC2 system