佐原菜月作品の書評/レビュー

アナザー・ビート 戦場の音語り

戦いの歌
評価:☆☆☆☆☆
 宗教によって連合国を統率する神国と、それに対抗する王国は、十年ほど前の戦争で不平等条約を結び、音語りという力を使い悪魔と呼ばれた団長に統率された騎士団を解体されてしまった。そして現在、かつては王だけが持つことを許された楽団を持つことが、商業で財を成した新興貴族たちのステータスとなっている。
 そんな楽団の華である旋律士の見習いであるコハクは、世界的な作曲家のヂェスと、大規模な祭りが開催される街で出会う。旋律士として欠点を抱え落第寸前のコハクは、ヂェスの演奏に歌いやすさを感じ、彼に売り込みをする。

 コハクを突き放すこともできず、何かとかまうデェスだったが、祭り当日にメイン会場に送り込まれてきた工作員によるテロ事件がきっかけで、運命は動き始める。

 戦闘力を見込まれ、自分の楽団で旋律士の勉強をすればよいという成り上がり貴族の誘いを受け、神国への商売に付き添ったコハクは、そこで法王フォルモンドと大司教ノイモントと出会う。神国で天使と呼ばれる女性と同じ瞳と喉の紋様を持つコハクは、フォルモンドによって政治的に利用されることになる。
 一方、祭りでの事件が神国による侵攻の予兆であることを悟る国王のロイは、配下のジルバに命じてヂェスを召喚する。それは悪魔復活の前兆だった。

シアンの憂鬱な銃

何故かニマニマとさせられる
評価:☆☆☆☆☆
 新米刑事の紅野空也は、放火現場で藍川青という碧眼の若者に出会う。青のアドバイスで放火犯を確保出来た空也は、身元を明かさぬまま消えてしまった青を探し、とあるミッション系の学校の付属教会で神父をしている青と再会する。
 別件でクリスチャンの被疑者の尋問に青の協力を仰いだ空也は、その事件の裏に広がる巨大な闇に、かつての青の恩師が開発した特別製の銃が関わっていることを知る。その銃は本来、絶対に急所にあたらない機構を備えた銃だったのだが、恩師のもとから奪われ、逆に絶対に急所にあたる銃に改造されたというのだ。そして青は、恩師のただひとつの形見であるその銃を今も探しているという。

 情報交換という形で、青の探索に協力することになった空也は、他人を寄せ付けない空気を持つ青に興味を抱く。そして青も、決して他人と関わり合いを持たないという自分の決心に反し、何故か自分の懐にスルリと入ってくる空也に、少しずつ心を許していくのだった。
 だが事件の闇は彼らの近くまで忍び寄り、彼らの身を危険にさらしていく。

 能天気で直感だけで動く空也と、クールにふるまう青のコンビが、ハードな事件をテーマにしているにも拘らず、何故かニマニマとさせられてしまう。その意味で、折り込みのイラストは過不足なく情報を伝えていると言えるだろう。
 電撃文庫のターゲットにミートするかは分からないが、バランスが取れている良い物語だと思う。

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