柴村仁作品の書評/レビュー

項目 内容
氏名 柴村 仁 (しばむら じん)
主要な著作

 柴村仁さんの作品の書評/レビューを掲載しています。

鳴夜

評価:☆☆☆☆☆


宵鳴

評価:☆☆☆☆☆


ノクチルカ笑う

評価:☆☆☆☆☆


オコノギくんは人魚ですので (2)

うじゃの秘密
評価:☆☆☆☆☆
 城兼高校に通う人魚の一人である小此木善は、体育の授業中、豊田勝利が見つけてきた巨大うじゃに飲み込まれそうになってしまう。そんなトラブルもありながら、順調に人間化が進んできているオコノギくんは、早川嘉一郎のコーチで自転車に乗れるようになり、十河唯ともんじゃ焼きを食べに行った帰り、萩山奈津と怪しいだんご屋を発見する。
 飯塚エリオット諒と萩山奈津を招待した楽しい放課後を過ごした後、もう一人の人魚である水城拓磨と遭遇したところ、再び巨大うじゃに襲われ、拉致されてしまう。一体、城兼町では何が起ころうとしているのか?

 日常生活の細々とした描写にクスッとするような笑いがあり、大きなストーリーとは別に、楽しみの要素がある。

オコノギくんは人魚ですので (1)

逸れたところに道はある
評価:☆☆☆☆☆
 城兼町は少し不思議な町だ。湿気の多い季節になるとうじゃという白玉みたいな生物が大量発生するし、高校には3人も人魚が通っている。そのうちのひとりが、萩山奈津のクラスメイトである小此木善だ。
 元々将来を嘱望された水泳選手だった萩山奈津は、ある日突然、不思議な症状を発するようになり、水泳を諦めざるを得なくなった。そんな彼女は、泳ぐための鰭を持っているオコノギくんに興味を持っている。

 あるきっかけで、オコノギくんからも興味を持たれた萩山は、オコノギくんを監視する生物部の飯塚エリオットと話すようになり、孤高の美少女と呼ばれる藍本あざみが目撃したイリエさんという透明人間を探すことになったおかげで、十河唯、豊田勝利、早川嘉一郎らクラスメイトとの交流も深まっていく。
 そして、オコノギくんから、萩山が陥っている症状がイリエさんの存在と関係していることを知らされ、少しだけ救われることになるのだった。

 人魚や水人間や何か不思議なものが普通に存在している町で、普通になってしまった少女がいつの間にか何かを取り戻していく様なお話だ。
 バリバリの日常感の中に自然に織り込まれている不思議要素が何ともたまらない、作者らしい作品となっていると思う。

雛鳥トートロジィ

突然出来た家族
評価:☆☆☆☆☆
 タウン誌の出版社に勤務する上野鷲介は貯金できない。今日も乏しい財布の中身を使って一杯引っかけて帰った自室の前には、女子中学生がいた。彼女は大塚鴇子といい、鷲介の父親である上野蔦雄を父親に持つという。つまりは異母妹らしい。夜半に女子中学生を放り出すわけにもいかず、一晩泊めて実家へと送り出したのだが、なぜか翌日の夜も鷲介の部屋に戻ってきてしまった。
 大塚鴇子は高校への進学を機に、これまで暮らしていた叔母という人物の部屋を追い出されることになった。高校の寮に入れるまでの一ヶ月ほどの期間、一体どこで暮らせば良いのか。そんな状況も仕方ないと受け入れてしまえる自分がここにいる。執着することを諦めてしまっているのだ。

 何のトートロジーかと言えば、異母妹とは母親が違う妹であるのトートロジーなのだろう。突然、腹違いの妹がいると言われた青年と、しばらくぶりに家族と言える存在を知らされた少女、それぞれの立場から今回の事態を描いている。
 それぞれが知っている事情と事実が断片的であり、それぞれがそれぞれに実態と少しずれたイメージを抱いている。それが縮まって初めて、家族になると言うことなのかも知れない。

 しかし、お金が貯まらないという人は、100の節約要素の内、どうして0.1くらいのところにばかり注力するのだろう。自宅のトイレの水を流すのを二回に一回にするとか…会社員ならほとんど誤差だろう?

夜宵

橋の向こうに捕らわれた者たち
評価:☆☆☆☆☆
 橋を渡った先には、街とは違うルールで運営される市がある。それが細蟹の市だ。全ての者が仮面をかぶり、ゆえに人間ではないとして、人倫にもとる行為も許される。商品は、薬、人、色と何でもありだ。
 そんな市で仮面をしていない者は、マドウジだけ。マドウジとは、市のことを何も知らずに街から入り込んで来た人間のことだ。そんなマドウジを保護する役目を担っているのが赤腹衆。手枷をされ、しかし値札がないので商品でもないはずのカンナは、それまでの記憶を失っていたところを、赤腹衆のサザによって拾われる。

 章題にある経緯は、織物の縦糸と横糸のことだろう。縦が現在のこと、横が過去のこと。それぞれの糸を並べて見ただけではつながりが分からないことが、重なることによってひとつの物語を織りなすということの暗喩なのかもしれない。

 橋を渡った先は異界。わずかなルールを除いては、欲望のままにふるまうことが許される。しかし逆にいえば、そんな世界であれ、その世界のルールは順守される。その頸木から逃げ出すことは、意外に難しい。
 破壊と創造というが、破壊の先に来るのが常に創造とは限らない。ただ混沌が残るだけという恐れもある。ゆえに破壊をする際には、必ず、混沌が訪れない様に、先手を打つ必要があるのだ。しかし残念ながら、サザにまだその力はない。

めんそーれ!キソ会長

今回も無駄に頑張れ、キソ会長!
評価:☆☆☆☆☆
 生徒会の副会長をやっている木曽は、お人よしの良い人だけど、たいがい自分に良いことはない。
 今回は沖縄への修学旅行ということで、会長にして女帝の丹野さんの無茶振りからも逃れられると喜んでいたけれど、旅行先で男子高校生のテンションはマックス!でも、女子とは別の建物に泊まることになっているため、その欲望は美人女教師・千歳あやこに向かいます。

 そのイベントの名前は、写メ・ロワイヤル!千歳せんせいの寝顔を撮った人が掛け金を総取りという、かなりダメなイベントです。木曽は参加を参加を辞退して関わりを断つのだけれど、遠賀という女子にお願いされ、なんとか無難におさめるように尽力することに。
 ところがその矢先、木曽たちの部屋の前に、アルコール類の空き缶が放置されて、あやうく、クラス全員謹慎のバッドエンド?一体、誰が空き缶を置いたのか、そして、ホテルの周辺で出没する怪しい人物は誰なのか?

 おっとり年上お姉さんを彼女に持つ勝村と共に、カワイソウな木曽が東奔西走します。物語の締め方はすごく作者っぽい、ほんのちょっとの毒が含まれているかもしれません。

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4 Girls

心が晴れ上がる瞬間
評価:☆☆☆☆☆
 女子高校生を主人公とした「scratches」「Run! Girl, Run!」「タカチアカネノ華麗なる小細工」「サブレ」という4作品の短編集。scratchesは「プシュケの涙」のスピンオフ作品で、由良の後輩くろべえが主人公。サブレは周りとそつなく付き合いながらも、どこか別の所を見ている少女を描く。
 他の2本は再録で、Run! Girl, Run!は「四月、それは――××××」に、タカチアカネノ華麗なる小細工は「まい・いまじね〜しょん」に収録されていた作品。前者は自分に劣等感を抱いて卑屈になっている少女が前を向く時を、後者は高校で手作り人形の販売を依頼してきた少女の秘密を描いている。

 「我が家のお稲荷さま」を読むと分かるように、作者の描く男の子は、とてもかわいらしくありながら、きっちり筋を通すという特徴がある。今回の短編に登場する男の子たちも、そんな印象を抱く人たちだ。
 そして女子高生たちは、高校生らしい色々なぐるぐる葛藤を心の中に抱いていて、それがカラリと晴れ上がる瞬間を楽しむことができる。

 電撃文庫とは枠が違うのは確かだが、メディアワークス文庫よりも、角川文庫などから出版された方が、様々な層に訴えかけられる作品である気がする。

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セイジャの式日

忘れ物を取りに
評価:☆☆☆☆★
 夜の学校に忘れ物を取りに帰る。今日、無理をして取りに行かなくても何とかなるんだけれど、やっぱり忘れっぱなしにして置きたくないので、怖い気持ちを我慢して戻る。忘れ物は元のまま残っているとは限らないけれど、今どうなっているかを知ることが出来れば、次の手立てを考えることが出来るのだ。
 今回も二部構成になっている。後半が本当に書きたいことだったとすると、前半は迂遠な感じがしなくもない。前巻であんな仕掛けにしなければ、まとまってしまうような気がした。まあ、でも、ストレートにいった方が良いとは限らないし、受け入れるまでには時間がかかることもあるから、必要なことだったのかもしれない。

 本筋とは関係ないところで、色々と小ネタが仕込まれているのも面白かった。

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ハイドラの告白

拡散する血脈、停滞する血脈
評価:☆☆☆☆★
 『プシュケの涙』の舞台となった時期から三年後の人々の姿を描く。共通して登場する人物もいるし、以前の事件の事後処理みたいな部分も含んでいるけれど、新たな人物とその物語がメインだと思う。

 テーマは「血脈」かな。血脈は過去から現在を経て未来につながるものであり、有性生殖である限り、必ず二つの血脈が結びついて続いていく。この結びつきのパターンにはいくつかあって、一説によると、自分の遺伝子から遠い遺伝子を選択して生物の多様性を確保していくとも言われる。
 人間同士の結びつきは、このような動物的な面と共に、打算的な面も併せ持つ。その両極端が、国中から美姫を集めた後宮を持つパターンと、近親で結びつき財や権力が拡散しないようするパターンだろう。

 タイトルにあるハイドラとは、ヒュドラとも呼ばれる9つの頭を持つ怪物だろう。ヘラクレスに退治されるハイドラの母はエキドナと言い、彼女と彼女の子オルトロスとの間に生まれたのが、スフィンクスと伝えられる。
 スフィンクスは謎を出し間違ったものを食い殺していたが、テーバイ王となるオイディプスに正解を出され、自ら身を投げて死ぬ。このオイディプスは、エディプス・コンプレックスの語源にもなっており、自らの父を殺して実母との間に子をもうけるのである。

 表面的には、前作ほど衝撃的な内容ではないと思う。そういう意味では安心。
 ただ、タイトルから勝手に深読みすると、色々とドロドロした内容を含んでいるのかな?気づかないだけで。

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おーい!キソ会長

優先順位の問題
評価:☆☆☆☆★
 進学校の生徒会執行部副会長である木曽は気は弱いが好奇心旺盛。そして今日も生徒会の雑務をこなしつつ、女帝と呼ばれる会長の丹野さんの気まぐれにまで対応している。
 そんな彼が街でからまれていたところを助けに入ってきたのが同級生の勝村。二年になってから悪い噂がささやかれる様になった勝村は、クラスでも敬遠されがちだったが、これをきっかけとして話をするようになる。そんな二人の周囲で巻き起こる、学園トラブルの物語。

 初めはクラス内での盗難事件から始まり、だんだんと広がって学校の外に出てしまい、最後には結構大きな事件と関係してきてしまう。これらの事件を調べていく間に発生する、様々な人々とのやり取りが物語のメイン。
 主人公である木曽は真面目で普通な感じ。どちらかというと勝村の方がヒーロー気質で、木曽はそれに彩りを添える脇役という印象を受けることを否定することはできない。おそらく勝村視点で物語を書いたら、恰好よい物語になるのだろう。
 しかし、それを理解しつつ、あえて木曽を主役に持ってきたのには理由があるはず。おそらく、それだけではエンターテインメントとして成立しえない、地味めな人間関係みたいなものを書きたかったのではないだろうか、と思う。
 実際、クラス内での盗難事件や、何故か木曽を好きな柿田さんは、ラストに至るストーリー展開で絶対に必要な要素ではない気がする。だが、このあたりの描写は結構豊富で、犯人が判明する時の会話や、メールのやり取りの様子などが大きく扱われている印象を受けた。

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プシュケの涙

想いの在り方、表し方
評価:☆☆☆☆☆
 夏休みのある日の高校。補習中の榎戸川は、窓の外を落ちて行く少女、吉野彼方を目撃する。そんな自殺騒動も落ち着いた頃、榎戸川の前に由良という美人の少年が現れる。吉野と同じ美術部だった彼は、自殺の真相を知りたいといい、その調査に巻き込んで行く。明らかになる真相。なぜ由良は真相を知りたがったのか。

 表紙、イラストと進んで行くと、次にあるはずの目次がない。でも、おそらくこれは意図的。読み進めていけばその理由は分かる。はじめはほのぼのした感じの展開になるかと思わせておきながら、急転直下、吐き気のする様な話になってくる。しかし、その後に付け加えられたストーリーのおかげで、少しは救われた気持ちになれる。
 心から幸せ、という話ではないし、哀しみをより深めるだけという考え方もあるかもしれないけれど、最後まで読み終わった後はさわやかな気分。落差が激しかった分の好印象ということもあるかもしれないけれど。
 後半に出てくる人たちを使えば、もっといろいろな話が書ける気がするけれど、それを使い捨てにしてしまう大胆な構成だと思う。

我が家のお稲荷さま。 (6)

ツッコミ不在?
評価:☆☆☆☆★
 久しぶりの新刊でワクワクしながら読み始めました。既刊に対するボクの印象では、透が穏やか〜に事件の発端を引っ張り込んできて、それを昇がオタオタしながらも捌くという感じだったんだけれど、今回は違うようだ。透が終始ストーリーの中心にいて、昇はサイドを固めるか、次巻へのネタフリにとどまっている。
 透は天然系のキャラなので、どんな事態が起こってもそれを迷いなく受け入れてしまう。昇のようにいちいちツッコミを入れないので物語は緩やかに進行し、若干メリハリがないようにも感じてしまった。一番強烈に焼きついてしまったイメージは、おいしいケーキが食べたい!それに尽きる。
 本巻の何よりの不満は、佐倉がほとんど出てこれないこと。次は、昇ストーリーになりそうな気配なので、ぜひ登場してほしいなあ。

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我が家のお稲荷さま。

引き継がれているものは…
評価:☆☆☆☆★
 人間の寿命が延びたといっても、90歳まで生きれば十分長生きと呼べる。この時間のなかでもアクティブに生きられる時間はもっと短いだろう。しかし、これがもっと短い人間がいたらどのように生きるのだろうか?そして、それを何百年も生きる生物が見たらどう思うのだろう?
 ある日、高上昇・透兄弟は、いまは亡き母親の実家に呼び出された。そこで二人が出会ったのは封印された天狐空幻だった。何故か二人を気に入った空幻は二人の家に守り神としてついて来てしまう…。そのなかで起こるちょっとした事件とほのぼのとした日常を描いた物語。
 浮世離れした空幻の、長寿ゆえの?人間には到達しがたい思考と行動も面白い。でもそれ以上に昇・透の周りの暖かな空気が心地よい。思わずにんまりしてしまいそう。
 今後もこんな雰囲気を持ち続けて欲しいと思います。

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