静月遠火作品の書評/レビュー

R&R

繰り返される苦しみとほのかな希望
評価:☆☆☆☆★
 合気道部の部長を務めた受験生の新海百音は、突然激高して殴りかかってきた後輩の廻谷千瀬を投げ飛ばしてしまう。だが投げ飛ばされた廻谷千瀬は、あっさりと冷静さを取り戻し、捨て鉢になった態度で去って行こうとする。
 思わず引き留めてしまった新海百音は、廻谷千瀬から、自分が同じ日を何度も何度も数限りなく繰り返し、明日に進めない状況に陥ってしまっていることを説明されるのだった。

 初めは胡散臭げに思い、話に矛盾があれば指摘してやろうという疑いの目で見ていた新海百音だったが、あまりに切実に話す彼にほだされ、とりあえず相談に乗ってあげることにする。
 そして廻谷千瀬も事態が始まってから初めて、他人に話を信じてもらえたことが嬉しく、繰り返す今日の度に彼女に会いに行き、何度も何度もリピート&リセットの現状を説明し、助言を請うことになるのだった。

 何度も繰り返す日々の中、記憶を蓄積していく廻谷千瀬は、親身に接してくれる新海百音に恋心を抱くようになっていく。しかし、新海百音にとって初音に初対面の男性であり、いつも警戒する出会いを繰り返しているに過ぎない。
 やがて、新海百音が部活の後輩の荒木裕太にほのかな思いを寄せていることを知って打ちのめされ、毎回毎回声をかけてくるクラスメイトの外木優香にも辛く当たってしまうのだった。


 とにかく読者にも全く出口が見えないのが凄まじい。序盤はあまりにも支離滅裂で混乱し、本当に筋がないように見えるので、ちょっと呆れてしまった。終盤に無理矢理筋を通しはしたけれど、何度も起きた出来事の多くに後につながる意味はなかったようで残念。
 確かに、実際にこんな事態が起きたら混乱するだけで、起きる出来事の全てに意味がつくのは現実的ではないというのは理解できる。だが別に現実を実感したくて物語を読むわけではないのだから、せめて物語の中でくらい、都合の良いことが起きても良いんじゃなかろうか。

真夏の日の夢

住宅密集地のクローズドサークル
評価:☆☆☆☆★
 大学の演劇サークルの男女7人が、建坪8坪3階建てのボロ屋に密閉され、夏休みの1ヶ月間過ごすという心理実験のアルバイトをすることになった。1人でも途中で抜け出したら、バイト代が出ないどころか、前金の食料費も払わないとならない。それは貧乏学生にはキツイ。
 壁が薄くてトイレの音もお風呂の音もだだもれになってしまうボロ屋で、お芝居の練習をしながら、夜は飲み会をやって過ごす彼らだが、外からは彼らを誘惑するように、好奇心を刺激する音が響いてくる。しかし、窓も全てふさがれているので、外を確認することができない。気になる。

 そしてチャレンジ6日目、サークルのマドンナ的な女子学生が、突然消えてしまう。夜まで待っても戻ってこない。しかし探しに出ればチャレンジ失敗になってしまう。そんな逡巡をしているうちに、また一人、学生が姿を消すのだった。

 トリック自体は古今の名作ミステリーの要素を抽出した様に見受けられるので特筆するところはないが、演劇サークルの男女が織り成す物語という設定は好き。変なミステリ要素を付加するよりも、青春ものとして描いた方が個人的にはよかった気がする。
 まあでも、作者の抱いたテーマが違うのだろうから、そうはならないのだろうけれど。

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ボクらのキセキ

嘘から出た真が功を奏す
評価:☆☆☆☆☆
 お調子者で評判の波河久則は、友人二人と一緒に、偶然拾った携帯電話でのいたずら電話を楽しんでいた。三人で順番に電話をかけながら、アドリブで話を紡ぐ。最後にかかった相手の少女に対して、久則は、彼女の未来の恋人が電話をかけてきたという設定で、ある予言をする。自分たちはもうすぐ出会うこと。自分たちは将来、人を殺してしまう。だから出会わない方が良い、と。その予言を信じるための確証が欲しいという少女の要望に答え、久則は、近く起きる5つの出来事を予言する。
 そんないたずらをしたのも忘れかけていた頃、久則は教師について出かけた女子高で、一人の少女に一目ぼれをする。その少女の名前は、三条有亜。久則がいたずら電話をかけた相手だった。
 そして、次々に実現する予言。彼女の周りで窃盗事件が起き、黄色いコートを着た少女が階段から落ちる。段々とエスカレートする事件に恐怖する有亜は、久則との接触を立ってしまう。そのことにショックを受けた久則は、従弟の正臣に協力を依頼し、問題の解決を試みる。しかし、その努力はむなしく、着実に予言は成就していく。

 お調子者で単純な直情径行型である久則と、論理的で他者を寄せ付けない雰囲気を持つ正臣のコンビが、しっかりものであろうと努力する少女に襲い掛かるはずの不幸を、未然に回避しようとするミステリー風の物語。前作が既に完了した事件に対する心の整理という形式だったことを考えると、その点は大きく異なっている。
 久則と有亜のやり取りだけを見ていると、ラブコメディになってもおかしくないキャラクターであり、そういう面からも楽しめる。でも、やはり本質は人の内面を描くところにあり、そこが少し恐ろしく、面白いところでもある。

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パララバ

代替可能なものと不可能なもの
評価:☆☆☆☆☆
 村瀬一哉は高校二年生、北高合気道部の部長だ。南高合気道部との合同練習を企画した時に南高の連絡係となった遠野綾は、毎日帰宅後に携帯電話で連絡を取り合う友達だ。だが、夏休みの終わり、綾は突然いなくなってしまった。通り魔に殺されたのだ。
 彼女の通夜に参列した夜、いつものように電話をかければ彼女の声が聞けるのではないかと思って連絡すると、携帯の向こうから聞こえるのはいつも通りの綾の声。いつもの様に今日何をしていたかを話していると、突然彼女が言ってきた。「今日の夜は一哉の通夜に行っていたんだよ」と。電話の向こうの一哉は、北高の屋上で水たまりに足を滑らせて頭を打って事故死したらしい。でも、高所恐怖症の自分が屋上になんか行くはずがない。そう言うと、綾は犯人捜しをしようと言ってきた。自分の仇をとる、と。
 パラレルな世界で恋する二人がそれぞれ事件の謎を追う物語が、遠野綾の視点で描かれています。

 この物語、携帯電話の向こうの一哉の存在がなくても、成立させることが可能に見えます。経験上の現実でとらえるならば、パラレル・ワールドの一哉の存在は綾の幻想で、綾が一人で頑張って、それまでの自分の殻を破り、事故死の真相を暴いていく物語ととらえることも可能です。そんな見方はとても野暮で、一哉と綾の暖かなやり取りを汚すような気もするけれど、この見方は示唆的なものがあります。
 綾が死んだ一哉の世界と、一哉の死んだ綾の世界は、ほとんど違いがありません。それぞれの世界では違う人が死んだのに、でも世の中の出来事は大体同じです。作中でも一哉が言います。ピンボールでピンが1本抜けたとしても周りが変わらないなら他のピンがそのピンの代わりをする、と。しかし、綾にとっての一哉の代わりはいないし、一哉にとってもきっとそうでしょう。すべてのものが代替可能なわけではなく、作中でも二つの世界のずれが大きくなっていきます。
 本当にパラレル・ワールドがあったのか、あるいはなかったのかは、これから読む方がそれぞれ感じることであり、どちらが正しいのかは分かりません。学校と部活、高校生と小さな商店、そして携帯電話。描かれている世界はそれほど大きいものではないのに、まだまだ色々な人間の描き方があるんだなあ、と思いました。

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