至道流星作品の書評/レビュー

俺が大統領になればこの国、楽勝で栄える アラフォーひきこもりからの大統領戦記

評価:☆☆☆☆☆


勇者の武器屋経営 (1)

評価:☆☆☆☆☆


一條明日菜の地球連合

評価:☆☆☆☆☆


破滅軍師の賭博戦記 幼き女王は賽を投げる

評価:☆☆☆☆☆


世界創造株式会社 (2)

早速の危機
評価:☆☆☆☆☆
 仮想通貨ゼロコインと連動するソーシャルゲーム「World War Zero」日本語版をリリースした世界創造株式会社の涼香、大樹、隼、小春は、瞬間的に積み上がっていく課金額に驚きを隠せない。しかしその勢いも、新着ランキングの対象期間から外れた途端、急速に鈍化していく。
 広告を打つ資金も十分になく、ユーザー数を十分に増やせない会社に不満を抱くユーザーたちが徐々に離れ始める中、打開策を求め、隼の伝手からゲーム会社リズミスを訪れた涼香と大樹は、プロデューサーから広告手法のあれこれを聞く。そして二回目の訪問で早川社長に会い、彼を心酔させた涼香は、5億円の出資を提示されるのだった。

 将来の通貨発行益(シニョレッジ)と、世界征服という目的を考えれば、この時点で大資本を投入されることは受け入れ難い。しかし現実に、目の前の経営は悪化するばかりで、将来のことを考える余裕もない。この状況に、4人の意見もすれ違い、崩壊の危機が訪れる。  そして、モスクワ大学経済学部教授ルドルフ・バラノフの訪問が新たな危機を呼び込むのだった。

 1巻の熱量に比べれば、2巻は普通という感じかな。

世界創造株式会社 (1)

赤羽から始まる世界征服
評価:☆☆☆☆☆
 ビデオチャットで仲良くなったMIT大学院飛び級卒の日乃原涼香から、フリーゲーム製作者兼留年大学生の北都大樹、高校を3日で退学してひきこもったゴスロリハッカーの雪丈小春、腕はあるが貧乏なイラストレーターの御影隼は、世界征服に誘われた。ここで彼女の誘う世界征服は、もちろん武力による支配ではない。世界を席巻するほどの革命的な基盤を構築し、その存在なくしては世界が維持できず、どんな権力もそれを無視できない状態を作り上げることだ。
 対人スキルがゼロに近く、引きこもって生活することに慣れ、自分の能力を低く見積もる3人は、それを断ろうとするが、とりあえず、涼香が帰国する1か月後にリアルで会おうということになる。これまでビデオチャットであけすけに話し合ってきた関係があったからこそ、リアルでも率直に関係を築けることに気付いた3人は、それぞれの理由から、彼女の企みに力を貸す気になる。そして、ブレインストーミングの結果、「実行->結果」の射幸性が高いソーシャルゲームと、そのSRカードを裏付けとする仮想コインを組み合わせることで、各国政府の裏づける通貨に基づく貨幣経済よりも信用度の高い経済システム構築を目指すということになった。

 各国の英雄たちをモチーフとするカードゲーム「第零次世界大戦(WWZ)」と仮想通貨「ゼロコイン」は世界を席巻するか?

 「羽月莉音の帝国」の羽月莉音と同じく、日乃原涼香の根底にあるのは、自身の死という現象に端を発する思索だろう。その結果、彼女は彼女自身の宇宙観に辿り着き、この宇宙の全てはゼロであると悟る。そしてゼロであるがゆえに、全てを成すことが出来るのだと考え、世界征服をしようと考えるのだ。
 そんな彼女の世界観に救われた北都大樹は、世界の破滅を望む雪丈小春にも救いをもたらす。そして彼の過去の作品であるゲームの世界観は、日乃原涼香の着想の基になり、御影隼の自立のきっかけにもなっていたという、彼らの関係性の根幹を形成する。こうして一つの会社を設立するに至った4人が世界に何をもたらしていくのか、期待が持てる作品だ。

フォルセス公国戦記 (3) ―黄金の剣姫と鋼の策士―

反転攻勢
評価:☆☆☆★★
 フレンツェの傭兵隊長に就任したチェザーレは、十分に地歩を固める前にクーデターを起こし、国を則ってしまう。彼の勢力が急拡大することに危機感を覚えたリノは、チェザーレが周辺国への根回しを行っていないことを突き、周辺国による包囲網を敷くことを思いつく。
 外交行脚を行い、周辺国の協力もしくは黙認を取り付けたリノは、フォルセスの経済力いっぱいの兵団を催し、エルザの指揮の下、チェザーレを責めるのだった。

フォルセス公国戦記 (2) ―黄金の剣姫と鋼の策士―

有為転変
評価:☆☆☆★★
 ルチア・チェスティの案件であるフォルセスに不安を抱いた首脳部は、ヴェザニアの傭兵隊長である猛将、不敗のエルツベルガーことジークベルト・エルツベルガーによるフォルセス公国侵攻を命じる。リノが交渉で時間を稼ぎながら、エリザが築く鉄壁の防衛線とは?  そして教皇軍最高司令官チェザーレの侵攻を受けるフィレンツェからやってきた官吏ニコロ・マキャベリから救援要請を受けたエリザの決断とは?

東京より憎しみをこめて (3)

編集部判断の打ち切り?
評価:☆☆☆☆☆
 海音寺組の海音寺詩乃と海音寺雪奈から預かった30億円超の資金をFXで溶かしてしまい、逃げて捕まって赤星勇に半殺しにされた月成拓馬は、一度きりの最後のチャンスをもらい、一気に日本の中枢を掌握できるようなビジネスを考え始める。
 税理士との雑談から、中小企業をメインターゲットとする税理士を取り込むことで、中小企業に連なる人々の情報にアクセスできるネットワークを構築することを思いついた月成拓馬は、海音寺詩乃から100億円の融資を受け、サービスの提供を開始する。

 六条会五代目の決断により、全面的なバックアップを受けて規模を急拡大させる月成拓馬だったが、その利権に金に困った真壁組の真壁が菱野組傘下の組を引き込んで乗っ取りを企てる。

 何故なのか最終巻。編集部判断の打ち切りなのか?

大日本サムライガール (9)

合法的な独裁者
評価:☆☆☆☆☆
 日本のマスコミからのバッシングは政治家とマスコミのスキャンダル戦争に持ち込むことで切り抜けたものの、今度はアメリカ大統領クロード・ウォーカーから、神楽日毬の名指しは避けたものの、危険なナショナリストと非難されてしまった。アメリカの同意を得られなければ、日本で安定した政権を運営することは、これまでの歴史を見ても不可能に近い。
 織葉颯斗は、日毬をアメリカデビューさせてアメリカ市民の彼女に対する友好意識を醸成し、同時にロビー団体を設立して合衆国政府に影響力がある人々にロビー活動することで、大統領と友好的な関係を築こうとするのだった。

 シリーズ最終巻。最後の日毬の戦略を見て、実は彼女のモデルはスキピオ・アフリカヌスだったのかな、と少し思った。もしくはカエサルという見方もある。

フォルセス公国戦記 ―黄金の剣姫と鋼の策士―

チェーザレ
評価:☆☆☆★★
 海洋国家ベネチアに隣接する小国であるフォルセス公国は、教皇領の復活を掲げる教皇の嫡子チェーザレ・ボルジア率いる教皇軍の侵攻を受ける。
 病床の父に代わり皇国軍の指揮を執る公女エリザ・ファウネルを守るため、宰相ワルター・バルダードの息子で行政官のリノ・バルダードは、公国軍敗北後の生き残り策を実行すべく、エリザのメイドのドロテア・ストラデルラと共に、準備を開始するのだった。やがて、ロザリア・ダ・ヴィンチを軍事顧問として招へいする。

 中世ヨーロッパ風の仮想戦記なのだが、チェーザレ・ボルジアの行動は歴史の丸写し。これならば歴史書を読んだ方が良い気もしてしまうが、おそらく、ドラッカー「マネジメント」と「もしドラ」の関係みたいなものを目指しているのかもしれない。

朝霧ちとせはへこたれない 売れないアイドル活動日誌

へこたれない
評価:☆☆☆★★
 実家のアパレル工場を救済するため、なんとしてもお金が欲しい朝霧千歳だったが、バイトをすればドジばかりでバイト仲間からは蔑まれ、水商売をしようとすれば未成年だと断られる。そんな彼女が最後の希望としてすがったのが、あの神楽日毬が所属する日毬プロダクションのオーディションだ。
 健城由佳里や神楽日毬の推薦で、織葉颯斗に採用された朝霧千歳は、事務員として固定給をもらいながら、歩合でアイドルデビューを果たすことになる。

 グラビアデビューを果たし、バンバン仕事が来るようになると思ったものの、ちっとも仕事は来ない。それどころか、後からデビューした神楽凪沙に知名度で先を越されてしまう。次なるステップのために演技の学校へ行けば、同じクラスの和泉リサトや大鳩結菜からバカにされるのだった。
 それでもめげない千歳は、地下アイドルの伊月瑠衣と知り合い、更なる意欲を掻き立てられる。彼女は本物のアイドルになれるのか?

大日本サムライガール (8)

体制の敵
評価:☆☆☆☆☆
 日本大志会と民政党の対等合併により成立した大和同盟の党首に就任する予定の神楽日毬だったが、それを嫌うホワイトハウスの意向を受けたDIAのクルス大佐や、大手広告代理店の蒼通、そしてマスコミ各社によるバッシングを受け、船出前から崩壊の危機にさらされていた。
 ひまりプロダクションの健城由佳里や片桐杏奈(美城春菜)、槙野栞や神楽凪沙、朝霧千歳やリリィ・レイエスは、ラジオで一社提供の番組を立ち上げてバッシングに対抗しようとするのだが、敵の物量の前には焼け石に水という他ない。

 織葉颯斗は、CIA東アジア支局長のローガン・レイエスから提供を受けた情報を元に、蒼通の仕掛けたネット上での宣伝工作の全容を暴き出し、警視庁公安部の黒谷を通じて訴状を提出するものの、蒼通までは届かない。そんな時、彼の前に沢木律子というシンガポールのテレビ局の特派員と、彼女との接触を妨げようとする本郷雛子という美少女が現れる。

 大和同盟に対するバッシングが続く中、潜在的な敵となりうる勢力とのパイプを築くため、人民解放軍総政治部連絡部宣伝局の雷春燕や台湾国防部軍事情報局の王丞林を通じ、日米中台の情報当局者および大和同盟による5者会談が開催される。その結果、バッシングに対する反撃材料も得るのだが、それは新たな敵を呼び込むことにつながっていくのだった。

大日本サムライガール (7)

大きな転機
評価:☆☆☆☆☆
 政治家としての神楽日毬は、いよいよ大きな転機を迎えた。先の選挙で大敗した民政党からは日本大志会との対等合併が持ちかけられ、CIA東アジア支局長のローガン・レイエスやDIAのクルス大佐からもコンタクトされるような立場になったのだ。
 アメリカ内部の考え方を知るため、ローガンの妻で元国務省職員だったクロエをアドバイザーとして迎える。さらには、日毬プロダクションの社長となった健城由佳里と副社長となった片桐杏奈が娘のリリィ・レイエスをスカウトしてモデルとしてデビューさせることになる。

 そして専務取締役となった織葉颯斗には、プライベートの部分で大きな転機が訪れる。それは突然会社を訪ねてきた母親からもたらされた。

 政権奪取という大目標を見据え、妥協や挫折を味わうことになる神楽日毬は、本物の政治家として立つことが出来るのか?次巻以降の楽しみだ。

東京より憎しみを込めて (2)

一瞬の栄光と一寸先の闇
評価:☆☆☆☆★
 経済産業省の若手官僚だった月成拓馬は、六条会系の一家をうやむやのうちに継いだ元絵本作家の海音寺詩乃とその妹の海音寺雪奈の下で、ヤクザとなって人生を生き直すことをした。彼らの目標は、彼らを排除した日本国政府の破滅だ。
 海音寺組の構成員である真壁組の真壁の紹介を受け、しのぎの勉強のために詐欺っぽい商売を行っているウィルロジャースに入社した月成拓馬は、そこで新たなしのぎの種を見つけ、月成組を立ち上げる。

 妹の月成千夏にはヤクザになったことを言えず、ヤクザとして勢力を拡大し始めた月成拓馬は、海音寺詩乃から30億円超の資金を渡され、運用を手掛けることになる。しかしそれはヤクザの怖さを知る始まりでもあった。

 ヤクザ業界を甘く見ている月成拓馬が大失敗をして赤星勇に命を取られるはめに陥るまでの展開を描く。生まれ変わった新生ヤクザの誕生が次巻の展開となろう。

東京より憎しみを込めて (1)

奪われた者の矜持
評価:☆☆☆☆★
 経済産業省の若手官僚だった月成拓馬は、震災復興関連のスキャンダルに巻き込まれて逮捕され、マスコミにより童貞オタクとのレッテルをはられ、挙句、懲戒免職となってしまった。もちろん、汚職に手を染めた事実などないが、検察による国策捜査とマスコミによる暴走の力には勝てない。エリートは、一瞬にして社会の最下層へ転落してしまい、日本銀行に就職した妹の月成千夏に迷惑をかける状況に陥ってしまう。
 菱野組、梧桐連合に並ぶ広域暴力団である六条会の中核を担う海音寺一家の親分の娘である海音寺詩乃は、画家として認められ始め、絵本作家としても売り出し中だった。しかし、父親が憲法違反気味の判決によって無期懲役となってしまい、海音寺一家を潰そうとする警視庁の追撃により、夢を捨てざるを得ない状況に追い込まれてしまう。アイドルのまねごとをしていた妹の海音寺雪奈も同様だ。

 マンションのローンを抱えたまま無職となってしまい、全国的に有名人になってしまったためまともな職業にも就けず、非合法なアルバイトに手を染めざるを得なくなっていた月成拓馬を、海音寺雪奈と、父親の兄弟分の赤星勇がスカウトにやってくる。そしてたどり着いたのは、世界に復讐を誓う悪の組織だった。

 生きるために状況に流されるままに転落しかける元官僚と、生きる苦労はなまじ不要な分、理念的な戦いに身を投じる決意をした元絵本作家の出会いまでを描く。テーマは面白いのだけれど、今回はキャラクターにいまひとつ不安アリかな。

好敵手オンリーワン (5)

3人の結婚式!
評価:☆☆☆☆★
 これまでは桜月神社の桜月弥生や天都教会の天都水貴に振り回されてきた孝一郎が、自分でリスクを取って会社を立ち上げることを決意した。担任教師からは普通に大学に進学して普通に就職することを薦められるが、今だというチャンスを逃したくはない。
 そうして立ち上げた未来日本不動産株式会社のジョイントプレイス事業は、テナントオーナーと新規事業者をつなぎ、事業の売上に応じた賃料が発生するというビジネスモデルだ。

 葬儀事業の際に買い取っていた広告枠を使い、大規模な宣伝をかけるが、問い合わせはほとんどない。たまにあったとしても、コーイチローの年齢が18歳だと知ると、怒って電話を切ってしまう。
 そんなとき、一本の電話が全てを買える。ビジネス雑誌の編集者の取材を受け、未来日本不動産がトップで取り上げられることになったのだ。問い合わせは増え、とある賞を受賞し、地方行政や中央官庁からも提携の話が舞い込んでくることになる。

 一方、プライベートでは、コーイチローは桜月弥生と天都水貴から、同時にプロポーズを受けていた。どちらかを選んで欲しいと言うことではない。3人一緒に結婚式を挙げたいというのだ。突拍子もない話に戸惑うコーイチローだったが…。

 シリーズ完結編。新規事業立ち上げのモデルケースを例示したシリーズだったらしい。今回の裏主人公は友人である勝也だろう。現実をようやく知ることになった勝也は、コーイチローから刺激を受け、真剣に人生を行き始めるようになる。

大日本サムライガール (6)

新たな側面
評価:☆☆☆☆☆
 佐々倉壮司に導かれて神楽日毬と織葉颯斗がやってきたのは、在日アメリカ大使館だ。そしてそこで、CIA東アジア支局長のローガン・レイエスとその家族に紹介される。佐々倉壮司は、CIAの情報提供者であったのだ。神楽日毬は佐々倉壮司に対し裏切られた気持ちを抱くが、織葉颯斗から諭され、彼の選択を受け入れる。

 CIAとの接触から、ペンタゴンや中国国家安全部、人民解放軍総参謀部第二部などが言動を注視していることを知った神楽日毬は、突然の事態の進捗に取るべき態度に迷う。理想はあれど、現実を無視して実現できる理想はないからだ。
 そして日本国内からも、自友党と民政党それぞれから、将来の選挙立候補を確約する代わりに、発言権のある立場を提供すると持ちかけられる。それに対し、神楽日毬は日本大志会との対等合併と、自らを党首にすることを検討の条件として提示するのだった。

 一方、杏奈プロジェクトで社長に就任した片桐杏奈(美城春菜)は、芹沢佐歩らのサポートを受けつつ、順調に事業の立ち上げを行っていた。さらに、日毬プロダクションの経営会議メンバーとして、朝霧千歳を売り出すための、アイドルの日常をとらえるドキュメントの自主制作を提案する。
 初めはネットで配信されたドキュメント「アイドルたちの何気ある日常」は、槙野栞や健城由佳里が登場する二回目までで50万回以上の再生がなされ、テレビ局により深夜枠での五夜連続放送が決まった。そしてその放送は、意外な結果を引き起こす。

 大体三分の一ずつ話題が変わり、最初は世界の中の日毬、次はアイドルとしての側面が、最後は日毬プロダクションの新たな展開が語られる。

 巻末では、至道流星の次回作「東京より憎しみをこめて」の紹介がなされている。

大日本サムライガール (5)

上を目指し続けるアイドル
評価:☆☆☆☆☆
 マルクス主義者にして最年少公認会計士補の槙野栞がひまりプロダクションと契約したことで、神楽日毬が司会を務める政治討論番組「ひまりんプロジェクト」は対立軸を明確にすることができるようになり、番組として軌道に乗ることができた。副社長となった健城由佳里が企画した「きれいなネット政治推進協会」も順調に立ち上がり、社長の織葉颯斗は次なるビジネスの種を探すのに余念がない。
 一方、政治結社である日本大志会の会員は三万人突破を目前に控えていた。日本大志会は「きれいなネット政治推進協会」の加盟政治団体として、国政政党と肩を並べる組織となり、今後の政治活動にも弾みがつこうというもの。親衛隊にして経理の佐々倉壮司も感動を隠せない。

 そんなとき、健城由佳里が幼馴染のパティシエの開いた店を宣伝したいという相談を持ち込んでくる。後輩に威厳を示したい織葉颯斗は、その案件を次なるプロジェクトにしようとプランニングを始めるのだが、その広告塔として彼が白羽の矢を立てたのが、西プロダクション所属のトップアイドル片桐杏奈(本名: 美城春菜)だった。
 朝霧千歳いじりや神楽凪沙のマイナス思考はとどまるところを知らない。だが今回は、朝霧千歳にもちょっとだけ上向きの兆しが見えてきた。もしかしたら次巻には花開くのか…と思いきや、ラストでは神楽日毬と織葉颯斗がとんでもない場所に連れて行かれる。いよいよ、日本大志会が永田町の関心を引く影響力を持ち始めたようだ。

好敵手オンリーワン (4)

覚醒
評価:☆☆☆☆★
 桜月神社の桜月弥生が始めた神道式の格安葬儀サービスと、天都教会の天都水貴が始めた専門学校法人の理事長就任は、暗礁に乗り上げた。前者は既存の葬儀事業を手がける宗教団体から猛反発を受け、後者は改革に反対する教職員が組合を結成したのだ。彼女たちのモチベーションの根底にある高校三年生の孝一郎は、彼女たちを助けるために出来ることをしようと決意する。しかし、それは中々の難事でもあった。
 宗教団体は葬儀事業中止に追い込むために右翼団体を雇い、神社前で街宣活動を繰り広げる。教職員組合は未来を指向することもなしに賃上げ要求を繰り返す。警察に相談してもけんもほろろだし、手ひどい失敗で弥生や水貴の精神もダメージを受けている。そしてその余波は、巫女&シスターカフェにも波及し、営業が出来ない状態に追い込まれていた。

 これまではヒロインのサポート役に徹していたコーイチローが、自分の仕事として敗戦処理を行ったり、新規事業を立ち上げようとしたりする。
 主人公はヒロインや周囲の女の子にモテモテで、自己評価は低いが周囲の評価は高い。本当に、作者の他の作品とは全く毛色が違う。ヒロインたちの事業が結局赤字になってしまうところも異色だ。読者のターゲット設定がまるで違うのであろう。結局、女の子は格好良い男の子に守られると言うことなの?

大日本サムライガール (4)

論客少女、二人
評価:☆☆☆☆☆
 政治結社である日本大志会の会員は一万人を突破し、会長である神楽日毬には、政治討論番組の司会者の仕事も決まった。正統なる右翼を主張する神楽日毬にとっては、信じられないような喜ばしい現実であり、日本大志会の唯一の常勤である佐々倉壮司も興奮の色を隠せない。
 企業としてのひまりプロダクションは、警視庁公安部第三課の定期的訪問を受けることになったものの、蒼通と資宝堂、ステッチラインと立ち上げた神楽日毬ブランド「Kagura」も成功をおさめ、所属アイドルである神楽日毬は既に大御所クラス、朝霧千歳や神楽凪沙にもそれぞれに適した仕事が来るようになり、経営陣は社長の織葉颯斗をはじめ、副社長となった健城由佳里、経理担当の佐々倉壮司と、少数精鋭の態勢が出来上がった。

 日本国首班を目指す神楽日毬の次のステップは、自身が司会を務める政治番組「ひまりんプロジェクト」を成功させることだ。しかし、織葉颯斗の密かな危惧は当たり、視聴率はいま一つ振るわない。そしてその現実は、神楽日毬から自信を奪ってしまう。
 一方、健城由佳里は、「ひまりんプロジェクト」のバックアップを兼ね、ネット選挙にまつわるビジネスモデルを立案する。そして、佐々倉壮司のコネクションを利用して永田町に根回しを行い、「きれいなネット政治推進協会」を立ち上げるのだった。

 次なるアイドルは、社会共産党の党員にして最年少公認会計士の槙野栞だ。もっとも彼女は後半まで登場せず、前半は、日本大志会の政権奪取戦略概要や、新たなひまりプロダクションの事業戦略について語られる。
 だが後半に入ると、ひそやかな根回しと低迷する番組に引きずられた穏やかさとは一転、コテコテの大阪弁が飛び交う大激論が繰り広げられる。なぜなら、神楽日毬が対する論客は、右翼の天敵とも呼べる左翼の急先鋒、大阪文化人として売り出し中の若手、槙野栞となるからだ。そして激しい論戦と、明らかになる槙野栞の境遇が明らかになった結果、二人は強敵と書いて“とも”と呼ぶような関係になっていく。

 今巻の織葉颯斗の述懐は、ボクが政治に興味を持ち、関心を薄れさせていった過程とほぼ重なっており、中々に興味深かった。やはり同じような過程をたどる人は多いのだろう。そしてその中で自信を貫ける者だけが、神楽日毬のように生きることができるわけだ。特にうらやましいわけではないが、眩しい。

好敵手オンリーワン (3)

譲れない戦いの犠牲
評価:☆☆☆☆☆
 高校三年生の孝一郎は悩んでいた。進路といえば進路だが大学受験のことではない。幼馴染にして横浜の女子高生の双璧と目される、桜月神社の桜月弥生と天都教会の天都水貴の二人が最近ビジネスで張り合っているのは、どちらが孝一郎と将来添い遂げるかを争うためだということを知ってしまったからだ。
 しかし、自分が二人から好意を寄せられるほど大したものだとは思えないし、自分の生活がリア充だとは思えない。ネット上の質問掲示板に相談しては妄想乙といわれ、友人や果ては取引相手に相談しては相手に再起不能の傷を与え、ようやく、自分の状況がとてつもなく恵まれたものであることを理解できるようになった。それゆえに、大切な二人が自分のために相争うなど許容できない。

 何度となく弥生と水貴をいさめ、仲良くするように訴えるのだが、この勝負に負ければ孝一郎を失うと思いこんでいる二人は必死で、孝一郎の諌める声など聞かず、焦燥に後押しされるように、一発逆転の策に打って出る。

 今回のビジネスネタは、弥生が神道式の格安葬儀サービスの開発、水貴が負債を抱えた優良専門学校法人の買収だ。その結末は読んでいただければ良いのだが、たった一人の男を賭けて二人の美少女が坂道を転げ落ちていく様な展開はドキドキもの。
 しかし作者のシリーズで、女の子が素直に助けを求めるなんて、とてつもなくレアな展開じゃないか?

大日本サムライガール (3)

拡大の一途
評価:☆☆☆☆☆
 神楽日毬の人気はとどまるところを知らず、彼女の主宰する政治結社である日本大志会の党員も四千名を超えた。ひまりプロダクションの経営状態は超健全で、朝霧千歳の実家であるステッチラインもひとまず危機を乗り越えた。しかし全てが順調に進み過ぎているため、逆に人手が足りない。ひまりプロダクション唯一の事務員である朝霧千歳は、やる気と努力は認めるものの能力が全く追いついておらず、織葉颯斗のからかいの対象となることで雰囲気を和やかにしてくれるものの、仕事の負担は減らない。日本大志会も神楽日毬が忙しすぎて事務処理が追い付かず、運営に苦労するようになってきた。
 その解決の第一歩として、神楽日毬は日本大志会の第一回党大会を開催し、本部常駐の隊員を募集することになった。警視庁公安部第三課による警戒の下、代々木第二体育館で開催された党大会において、神楽日毬は自らの会が掲げる政治目標を明らかにしていく。それは、新自由主義的な思想に生きる織葉颯斗にはなかなか受け入れがたいものでもある。そしてこの党大会で、神楽日毬は佐々倉壮司という隊員を雇い入れることにするのだった。

 一方、ステッチラインのメインバンクの一行は、自らの財務状況の悪化の煽りで貸しはがしにかかり、一刻も早い返済を強硬に申し出てきた。それを処理するため、財務のダウンサイジングを図ると共に、日本最大の広告代理店である蒼通の健城由佳里と協力し、化粧品メーカーの資宝堂を巻き込んで、神楽日毬ブランドを立ち上げて、その生産をステッチラインに委託する企画を推進する。その結果、神楽凪沙にも大きな転機が訪れることとなるのだった。

 いじられ役としての朝霧千歳の位置づけが上手くはまっている。前巻のキャラクターとはずいぶん違うような気もするが、余分な責任を下した等身大の彼女はこんな感じなのだろう。
 そして今回のもう一つの主役は蒼通だ。広告代理店がいかにしてムーブメントを作りだしていくかがみっちりと描かれている。

大日本サムライガール (2)

評価:☆☆☆☆☆
 某ネット書店のレビューを読んでみると、神楽日毬に比べると朝霧千歳のインパクトが薄いという意見が多くみられたが、これは誤解だと思う。朝霧千歳も十分、神楽日毬と同様の異常性を持っている。実際、二人とも目的は異なるが、その実現のための方法論はほぼ同じと言ってよい。いずれも自分自身の価値を“機能”としてしか認識していないのである。

 神楽日毬が自認する機能はふたつ。ひとつは神楽家を存続するための胎となること。もうひとつは日本国を再生するための礎となることだ。後者の方は本人が散々喧伝しているので自明ではあると思うが、前者も作中の彼女の言動から読み取れる。それは、結婚するまで処女を貫くとか、夫に貞節を尽くすとか、神楽家の歴史を語ったりするところだ。
 彼女が日本国首班となるために捨てたのは、あくまでも職業選択の自由のみである。そして、それを達成するための妨げとなるあらゆる「私」である。ここで、“家”は「私」ではなく「公」であることに注意したい。「公」であるがゆえに、結婚するのは当たり前だし、子どもを産むのも当たり前という認識にあると解釈して良いだろう。

 一方、平凡な女子高生と見なされている朝霧千歳だが、ある意味で、神楽日毬よりも自己犠牲の精神が強い。彼女は連綿と続く歴史を背負った家系の生まれではない。ゆえに、子どものころから家のために尽くす精神を植え付けられてきたわけでもない。しかし彼女は、自分の体を売っても、AVに出ても、愛人契約を結んでも、あらゆる女としての幸せを放棄して、家族のために尽くそうとしている。
 この意味で、朝霧千歳が捨てたのは、職業選択の自由どころではなく、「私」の全てである。極論するならば、自分が消えて家族が守られるならば、彼女は本望だと思うだろう。

 「私」を捨てて何かに尽くすという意味で、二人の本質は同じである。もし違いがあるとするならば、それは時間という視点を持っているかいないかだろう。神楽日毬は過去から未来に血脈をつなぐための子どもと、それがある国を残すという時間的な視点を持っている。一方で、朝霧千歳は未来すらも担保にして現在を買い取る姿勢であるため、彼女自身の時間は止まっている。
 こう考えると、朝霧千歳は十分に異常なキャラクターであると言えよう。

 それではなぜ、朝霧千歳が平凡に思われてしまうのか。それは彼女の行動が、中世的な感覚ではよくある行動だからではないだろうか。つまり、時代劇などにおいて女郎に身を落とす少女というのは、大概、実家の借金を返すために親に売られている。娘を金に換えるというのは、中世的には当たり前の考え方だったわけだ。
 だがこの考え方は、リバタリアニズム(これからの「正義」の話をしよう参照)の文脈では異常な決断である。もし読者がこの視点で考えれば、朝霧千歳を平凡などと誤解するはずもない。そう感じるのだとしたら、読者にコミュニタリアニズム的な考え方が根付いていると解釈しても良いだろう。

 つまり、この作品に登場するアイドルは、いずれも自分の“自由”を犠牲にして、何かを得ようという意思を体現している人物である。ここに、作者の思想が隠されている気がして仕方がない。

大日本サムライガール (2)

ただひたすらに一直線の少女たち
評価:☆☆☆☆☆
 日本最大の広告代理店である蒼通を辞めた織葉颯斗は、防衛省前で演説をしていた、日本にただ一人の真正の右翼を名乗る女子高生の神楽日毬の政治活動を助けるため、彼女をアイドルとして売り出すことに人生を賭けてみることにした。右翼的なアイドルとして爆発的に知名度を挙げていく様を見て食指を動かされた業界最大手のアステッドプロの仙石社長と狩谷専務から引き抜きを受けたものの、日毬の政治活動が阻害されそうだったため断ったところ、メディア全体から強烈なバッシングを受けることとなった。
 最終的に織葉颯斗の人格攻撃に至ったことに怒り心頭に発した神楽日毬は、白装束に木刀と拡声器の拡さんを携え、アステッドプロにメディアを引き連れて殴り込みをかけた。そして、仙石社長の目前の机を木刀で真っ二つに叩き割り、仙石社長を気絶に追い込むと、やってきた警察に従容と逮捕されたのだった。

 生放送で非行事実を全国放送してしまい、成年なら即釈放の罪状にも拘わらず、未成年ゆえに複雑な手続きを経て、ようやく釈放されることができた。そのとき既に、彼女は多くの若者たちの心をつかみ、そして海外にまでそのニュースは知られることになっていた。
 かくして、ひまりプロダクションの経営は安定軌道に乗った。それを見た健城由佳里は、新たなアイドルの募集を提案する。日毬の姉の神楽凪沙も非常勤として雇い開催したオーディションで、彼女たちの全員が採用に同意した女子高生の朝霧千歳は、アイドルになる目的をお金と断言し、採用されないならば身売りするとまで言い切ったのだ。

 アイドルとしての報酬も完全歩合を要求するものの、当初の収入を確保するためバイト事務員として採用することにした颯斗は、彼女のやる気と努力に反する事務能力の低さに悩まされながらも、人気アイドルの片桐杏奈にも気に入られた日毬のバーターとして千歳の売り出しを始める。
 とにかくお金にこだわり、どんな汚れ仕事でも食いついていく千歳を強くたしなめながら、日毬と颯斗は、彼女がお金にこだわる理由を解決する必要があるとの見解に達していく。

 前巻の騒動を望みうる限り最高におさめ、トップアイドルとして、日本国総理大臣への道を歩み出した日毬と、お金のためには自分すら捨てる覚悟を持った千歳という、どこか飛び抜けた女子高生をアイドルとして抱えることになった颯斗は、彼女たちのペルソナの影にある普通の女の子としての姿に時々ドキッとさせられつつ、ビジネスとして、しかし人情を失わず、ビジネスを大きくして行こうとする。
 言動や生き方が極端で、しかし初々しく男心をくすぐるキャラクターを何パターンか登場させつつ、ビジネスの裏側にもちょっとだけ触れつつ、熱狂していく社会を描きつつ、ただひたすらに邁進する少女たちを描いている。

大日本サムライガール (1)

日本の敵を一刀両断
評価:☆☆☆☆☆
 日本最大の広告代理店である蒼通の社員である織葉颯斗と後輩の健城由佳里は、受注した広報業務の打ち合わせのため、防衛省を訪れていた。そこで、拡声器を持って演説をぶつ、美少女の女子高生である神楽日毬と出会う。

 公安警察にマークされているのを暴漢と勘違いして彼女を助けた颯斗は、彼女が東京都選挙管理委員会に届け出、総務省に認可された政治結社日本大志会の総帥を務めていることを知る。彼女いわく、神楽日毬は日本にただ一人の、真正の右翼なのだ。
 それもそのはず。神楽日毬は、藤原北家の流れを汲み、後朱雀天皇の御世から三河神職となり、三河松平一族と結んで旗本として剣術を指南し、千年に亘って天子に仕えてきた家の生まれだ。家訓により、神楽家は十五歳で成人し、自らの進むべき道を選択しなければならない。その家訓に従い、彼女は日本を救う道を選んだのだ。

 だが、いくら美少女とはいえ、極右の主張を繰り返す彼女に関わろうという人はいない。ゆえに、日本大志会の会員も彼女一人だけ。そんな彼女に対し、健城由佳里は、露出しない政治家はいないのと同じと言い切る。初めて公安から助けてくれ、しかも政治的主張を聞いてくれた織葉颯斗に全幅の信頼を寄せる神楽日毬は、彼に自身のプロデュースをして欲しいと願い出る。
 東王印刷創業家一族の長男でもある織葉颯斗は、父が弟に家督を譲るつもりであることを知り、実家の影響力の及ばない場所で、自分ひとりで何事かを成し遂げ、実家を見返すつもりだった。そんな折、彼の前に飛び出してきたのは、神楽日毬という奇貨。織葉颯斗は神楽日毬に賭ける決意をする。

 日本の政治的トップになるため、アイドルという手段を用いる覚悟を決める女子高生と、そんな彼女の望みをかなえるべく全力を注ぐ青年の活躍を描いている。小さなことからコツコツと積み上げ、偶然やってくるチャンスを上手くつかみ取り、順調に知名度を上げていく二人ではあったが、芸能界の暗部がその歩みに影を落とす。
 なんとなく、最後の場面で日毬の一手を受ける覚悟を決められる人間が、本当の大物という気がした。逆に言えば、あの場面で見せたものが、日毬の格ということが言えよう。それが日本を担うに足る格かどうかは、今後の彼女の活躍で証明されることだろう。

好敵手オンリーワン (2)

トンビに油揚げとはよく言ったもの
評価:☆☆☆☆★
 横浜の女子高生の双璧と目される、桜月神社の桜月弥生と天都教会の天都水貴を幼なじみに持つ孝一郎は、彼女たちの経営の才能を最も高く評価する人間だ。しかしそれゆえに、彼女たちに比べて自分は凡才だと思い込んでいて、シェフ顔負けの料理の腕前や、ヤクザを沈ませる腕っ節、家の補修も難なくこなす器用さまで持っていても、自虐が絶えない。
 ヤクザ問題に絡む弥生の勘当扱いも解け、シスター&巫女カフェの経営も順調に進み、店を任せられる存在を育てて、弥生と水貴は次のビジネスを開拓しようと躍起だ。それもこれも、人材育成までこなす孝一郎を、どちらが自分のものに出来るかが懸かっているから当然だ。しかし孝一郎は、それほど自分がもてている事実にも気づかない。

 高校生は将来の進路について考える季節でもある。担任から進路について真面目に考える様に言われた孝一郎は、いつかは自分よりはるかにランクが上の男を娶り、自分から離れていくであろう弥生と水貴から距離をとり、一人で生きていくすべを考えなければならないと思い始める。
 同じころ、カフェで料理を指導している弥生の後輩の楓から、孝一郎をべた褒めする言葉を漏れ聞いてしまい、その結果、彼女から告白されることになってしまった。

 初めて女の子からもてたと思い込む孝一郎だったが、弥生と水貴の3人でいた期間が長すぎて、他の女の子をどう思うかよく分からない。そこでいつものごとく、弥生と水貴に相談するのだが、当然、彼女たちは激怒したり泣き崩れたりしてしまい…。

 ビジネスネタは、明朗会計全国一律お祓いサービスと、牧師派遣自宅結婚式サービスのそれぞれ一つとかなり控えめ。あとはもうすぐ円安になるという予言くらい。全面的にラブコメにシフトしているのだ。
 だが、正直言って、これは作者の強みから考えて、隘路にしか思えない。無理筋も良いところで、これを突き抜けるには、今まで作者が示したことがないラブコメセンスを開発しなくてはならないだろう。そして残念なことに、現状までの描写を見る限り、その見込みはかなり薄い気がする。

 このため個人的には、これまでの路線に回帰し、そこで第一人者として君臨するのがお薦め。なぜなら普通のラノベ作家には、ビジネス分野にノウハウを持っている人などほとんどいないのだから。ラブコメ路線はニート系に任せておいてください。

羽月莉音の帝国 (10)

最終決戦!そして…
評価:☆☆☆☆☆
 東京湾に浮かぶ無人島・猿島を占拠し、東京湾には巡航ミサイルを搭載した改造タンカーを、宇宙に展開した衛星にはアテスミサイルを配備して、独立戦争を起こした大革命部帝国皇帝の春日恒太と、その家臣である羽月莉音、羽月巳継、折原沙織、泉堂柚。
 まずは猿島の領有権を主張する日本政府の自衛隊戦力の大部分を、一瞬にして無力化させる。だがその背後に控えるのは、当然のことながら世界最強のアメリカ軍と、彼らが主導する国連多国籍軍の存在があった。

 革命部の起こした戦争を好機として、自らの世界戦略の中に取り込もうとする強かさを見せるアメリカ政府の作戦の前に、革命部は絶体絶命のピンチへと追い込まれていくのだが…。果たして彼らの革命の理想は世界に爪痕を残すことが出来るのか?


 首都東京の目と鼻の先で巻き起こる戦争は、まさに大衆の好みそうな劇場型の戦争となった。有利不利を問わず戦況がありのまま映像として世界に配信されることで、日本が防衛力を失ったという事実を、これ以上ないくらい明確な形で、弄することなく各国政府は入手することが出来てしまった。シギントやヒューミントに鎬を削る情報機関の存在意義が無くなっちゃう…。これが世界を巻き込んだ戦争だから良かったけれど、そうじゃなければ日本は次の大戦の中心地になっていただろうな。

 ビスマルクは「愚者は経験に学び賢者は歴史に学ぶ」と言ったそうだが、これを「自分一人が反映するだけなら自分だけで出来るが、あまねく人々を救おうと思えば誰かに引き継がねばならない」と解釈してみればどうだろうか。

 資本主義を一言で言えば、富が富を呼ぶ思想と言えよう。富を集める方法を思いつきさえすれば、その中で上位を占めることは誰にでも可能な思想だ。ここで必要なのは、自分の知識と経験だ。しかしこの思想は、それがない大多数から富をかき集める思想でもある。かき集める富がなくなれば破綻するしかない。
 この破綻が目前に迫った時、自分だけでなく大多数も助けようとすれば、システムから変革をするしかない。しかし、そのシステムを維持しようとする勢力も当然存在する訳で、そこに引き起こされるのは戦争だ。

 変革が間近に迫った時、仮に変革ののちに心の平穏があるのだとしても、つい目の前の仮初の平穏に縋りつきたくなる。そこで、ファーストインパクトに働くのは拒否反応だ。だが、その通過儀礼を過ぎてしまえば、感覚がマヒして受け入れられるようになってしまうのも大衆心理と言えるのかもしれない。

好敵手オンリーワン (1)

現実は甘いだけじゃない
評価:☆☆☆☆★
 孝一郎には二人の幼なじみがいる。一人は桜月神社の桜月弥生。もう一人は天都教会の天都水貴。二人は横浜の女子高生の双璧と目される、才色兼備の持ち主だ。そんな二人は、孝一郎も含め、三人で兄弟姉妹のように仲良く、一緒にご飯を食べたり、遊んだりして暮らしていた。中学時代までは!
 高校に入り、孝一郎がポツリともらした一言がきっかけとなり、弥生と水貴の間に抗争が勃発!どちらが優れているかを、勉強やスポーツ、見た目など、あらゆることで競いだした。その審判を務めるのは、いつも孝一郎だ。正直、板挟みになるので気が重い。

 昔は仲の良かった二人が対決するのを我慢できなくなった孝一郎は、くだらないことで争うなと、勇気を出して一喝したのだが、それが学校を飛び出した勝負のきっかけになってしまった。どちらの宗教法人が資金力を高められるか勝負することになったのだ。勝利の暁には、孝一郎を一生奴隷としてこき使えるらしい。…本人の承諾もなく。
 そうして始まった利益追求の勝負。宗教法人の利点を生かし、才能と若さにものを言わせて次々ビジネスを繰り出していくのだが、社会の荒波の前に、ちょっとばかり痛い目にもあったりする。そしてその勝負の行方には…?

 ヤクザのしのぎみたいなビジネスを考えるなあと思って読んでいたら、本当にヤクザが登場しちゃったりするし、カタギだからと言ってヤクザよりも上品とは限らない例を見せつけられたり、社会の現実を突きつけられちゃう感じだ。
 そして今回は、いつもの様に女の子の方が才気走っているのだけれど、ピンチになれば男の子の方が活躍するという設定が、いつもとはひと味違う。この辺はラノベ文庫の要請なのかもしれないな。

羽月莉音の帝国 (9)

革命の烽火が上がる!
評価:☆☆☆☆☆
 スタインバーグ財閥のローザから差し伸べられた、世界の中枢へ参加するための招待を断ってしまった羽月莉音と巳継には、もはや入念な準備をするための時間は無くなってしまった。ひとたび敵対した以上、優秀な彼らが革命部を放置するはずもないからだ。ジリヤ経由でロシアなどから核兵器の不足を補うための巡航ミサイルとそれを設置する船舶を大量に買い付け、アテスミサイルを軌道上に打ち上げて、急ピッチで革命への準備を進める。
 その資金を捻出するのは、彼らが立ち上げた新たな株式市場・KKネクストだ。上場企業の過半数近くが上場するマーケットとなったそこで、究極的なインサイダーによってバンバン資金を調達していく。そして革命後の資金のために、金・銀・プラチナ・宝石などの現物を買い付けて積み上げていく。

 予定より早まったけれども全ては順調。しかし、羽月莉音の表情はどこか優れない。それは、巳継や折原沙織、春日恒太や泉堂柚を引き返せない道に引き込んでしまったという負い目があるから。その想いを払拭させるには、巳継たちが自分で決断し、その想いを莉音に示さなければならない。ここに革命部の本当の戦いが始まる。

 あとがきによると、本来は全12巻の予定だったらしいのだが、全10巻としたらしい。つまり次が最終巻だ。その予定変更に呼応するように、革命部の行動は一気に最終局面へと突入している。あまりにも展開が早く進み過ぎて、これまでの様な丹念に積み上げていく臨場感は、若干薄れてしまったかもしれない。
 結局のところ勝負は、勝つか負けるか、食うか食われるか。そして革命部が挑むものは、世界を維持するシステムそのものと強大だ。革命部がそのいずれの立場になるのかは、次巻で明らかになるだろう。

 キャラ紹介でのオリオリのコスプレが、生存戦略〜!になってる。

羽月莉音の帝国 (8)

最大の危機、最大の好機
評価:☆☆☆☆☆
 ロシアのプチロフ大統領と手打ちに向かった羽月莉音と巳継だったが、出迎えに突きつけられたのは銃口だ。莉音の父・一馬を人質に取られている状況の中で、革命の中核であるアテスミサイルを取り戻すことが出来るのか?

 そして革命部には新たな危機が訪れる。ひとまず命の危機は去ったものの、その代償は小さくなかった。資源の売り浴びせによる大規模な損失が、ついに革命部グループの資金繰りをショートさせかねないまでに達していたのだ。
 2百兆円以上の債務超過を回避する手段はなかなか見つからない。コツコツ、グループに手を入れていきながらも、起死回生の一手を探っていく。そんな日々の中に現れた障害は、革命部グループ破綻の匂いをかぎつけた、一流紙の記者だった。

 その記者の対応をすることになった巳継と莉音に対し、春日恒太は告げる。
「…暗殺、するか?」
 これまでで最大の危機を重ねつつ、大規模グループになったために、莉音と巳継が役割分担をせざるを得なくなったため、大きな決断が巳継に迫る。彼を信じる折原沙織の期待に応え、この危機を乗り越えられるのか?


 ついに革命は目前まで迫ってきた。世界の覇権を握るカルヴァート、スタインバーグ、セルベル、ハストンも見過ごしえない大きさになった革命部に示される、究極の選択。それに対する莉音の答えは何なのだろうか?

羽月莉音の帝国 (7)

震えるロシアでの逃避行
評価:☆☆☆☆☆
 中国での危機を乗り越え、ロシア官界と協力したロケット開発に着手した革命部は、世界中から技術者をヘッドハンティングする。その上、開発した先端技術を世界中に公開し、匿名での新たなアイデア・技術提供を高額の報酬の下で奨励することで、あっという間に強力な弾道ミサイルの開発に成功する。
 それは一方で、匿名で技術を洩らされたアメリカ政府等の反発を招き、国連の場でも議題にあげられる事となった。それはちっぽけなニュースで終わるはずだったのだが、それを奇貨としたロシアFSBが革命部傘下の会社をロシア官界もろともに摘発してしまった。そして、機密情報への唯一のアクセス権を持つ巳継は、たまたまロシアに来ていた沙織と共に、逃亡を余儀なくされることになる。

 無茶を押し通して道理を引っ込め、遮二無二彼らを拘束しようとするFSBに対し、たった二人の高校生に対抗手段は限られている。
 しかし、追い詰められた彼らを放置する仲間たちではない。莉音は諸勢力を結集して救出に尽力し、春日恒太はロシアに対する経済戦争の宣戦を布告する。

 ロシアという莫大な資源を背景とする国家を完全に敵に回して、革命部のメンバーたちは生き残ることは出来るのか?そして、生き残れたところで、彼らの目的に向けた活動は続けられるのか?
 圧倒的なスケールと、莫大な額の資金が飛び交う、一般常識の裏側の戦いが繰り広げられている。そして、一見矛盾するようではあるが、その現実感が、物語を確かなものとして楽しませてくれる。

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雅の婚カツ戦争

結婚はしたいけれど相手がいない
評価:☆☆☆☆☆
 預金残高世界二位の東都銀行エクイティ部門に勤務する九条雅は、傾国の美女だ。その容姿だけでなく能力も優れていて、同期の出世頭、入社二年目にして1,300万円超の年収を誇る。
 加えて、曲がったことが大嫌いで、たとえ利益につながると理解していても、グレーなやり方には断固反対し、上司でも平手打ちしてしまう強靭さも備えている。

 そんな彼女の人生計画は、自分の美貌に相応しい、超イケメンの大資産家と結婚すること。女の人生は男で決まるが口癖の彼女は、自分に相応しい男を見つけるため、銀行を辞めて結婚相談所を起業することにする。
 その仲間は3人。雅の高校時代の友人で、さばさばして人付き合いも上手い鷹野夏希、銀行の後輩で、真面目ゆえに鬱になりかけた七海あずさ、そして幼なじみで売れない小説家の佐倉京介だ。

 営業開始当初はさっぱり客が来なかったものの、1件を上手くこなし、その広告効果で一気に火がついたマリッジプランニングは、様々なタイプの相談者たちを相手にしていく。
 そんな中、開業メンバーたちの結婚も忘れていない。それぞれに合った相手が名乗りをあげては来るのだが…というラブコメディ。

 作者の他作品はできる女性がいて、その人に男性が引き上げられて行く、という流れの作品が多いけれど、この作品は結婚を目指す女性ということでちょっと趣きが異なるのかな、と思ったのだが、やはり力強さは変わらなかった。
 ただ、これまでの作品はお金をいっぱい稼いで何かを成し遂げることが正しい、という視点での作品だったのに対して、今回は、お金だけではなく、その稼ぎ方や使い方、人間性まで含めての社会を描いているという気がした。どちらが正しいというわけではないのだが、どちらの面も含んでの社会ということなのだろう。

 ラブコメなので、佐倉京介くんは女性陣にさんざん虐められながらも、やっぱり良いことも起きる。そんな未来に希望を持って、現実の辛さを乗り切ってもらいたい。

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羽月莉音の帝国 (6)

去っても未だ残るもの
評価:☆☆☆☆☆
 衣料チェーン・アクアスの中国進出を証券化する手法で急拡大を狙った革命部の羽月莉音と巳継だったが、前国家主席が主導する排日運動の影響により、一気に大ピンチに陥ってしまう。そこに登場したのが、戦後日本の大立者・海胴総次郎だった。
 莉音の父である冒険家・羽月一馬の意外な人脈からの支援もあり、何とか反撃態勢を整えたかに思えた矢先、人民軍に強い影響力を持つ前主席が直接的な手段に出てきて、巳継はその銃弾に倒れてしまう。そのとき、莉音は…。

 物語におけるヒーローの登場シーンよりも、老兵の舞台からの退場シーンの方が実は感動的なのかもしれない。立って、立ち向かって、戦いぬいて、自分がなすべきことを全て成し遂げて、もうこれ以上ないというほどやりつくしたのだけれど、やっぱりまだまだやらなければいけないことがある。しかし、生物である以上、許された時間は有限だ。必ず退場すべき時が来る。
 そのときに、生き抜いた人間は後悔をするだろうか?もう自分はやり抜いたと満足するだろうか?その答えはYESかもしれないしNOかもしれない。それはボクには分からない。だが、自分が去った後にも、自分と同じ様に現状に満足せず、それをどうにかしたいと考え行動している人間がいることを知れば、自分の役割は既に終わったと安心できるかもしれない。

 科学者は論文という形で自分の全てを、未来に現れるであろう、自分の研究を引き継いでくれる人間に残す。資産家は資産を家族に残す。
 今回、舞台を去る人物が莉音や巳継に残したものは、形にできないけれど確かに存在しているものだと思う。そしてそれは、本来なら人生をかけた末でなければ手に入れられないものなのだろう。

 扱う資金が地球規模になり、経済だけでなく政治もテーマになってきた。地球をチップにするかの様な革命戦争の行方は、世界中の組織を巻き込んで展開していく。

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雷撃☆SSガール (2) 神と世界と絶望人間 03-08

順調に見えた覇道の先に
評価:☆☆☆☆☆
 リザ・ブランフォート、桜井海斗、伊吹青葉、マイク・サミュエルソンの4人による経営は順調に規模を拡大していく。しかし、徐々に目立つ場面も増え、危険な影も迫って来る。そんなとき、彼らに接触してきたのは意外な勢力だった。

 2003年から2008年にあった実際の出来事も交えつつ、ブランフォート財閥への対抗勢力作りは続く。結果のためには手段は選ばない戦いだ。そして最後には、ブランフォート卿と対峙する所まで来る。
 雷撃☆SSガールとの関係性も最後には明らかになります。また、1巻の内容に拒否反応を起こした方は読む必要はないでしょう。個人的にはとても面白く恐ろしいです。

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雷撃☆SSガール (2) 神と世界と絶望人間 00-02

現代社会の根幹に対する挑戦
評価:☆☆☆☆☆
 この本を読む前にひとつ頭に入れておかなければならないことは、作者が主人公の桜井海斗を社会心理学専攻の学生にしたことだと思う。大衆扇動の手法を熟知していて、物事にレッテルを張ることの危険性を感じている。そこに、これから書くことに対する理性がある。

 スタンフォード大学大学院に在学中の桜井海斗は、父でジャーナリストの桜井啓司からプラチナのペンダントを渡される。そしてそれから10日もしないうちに、啓司が薬漬けの状態で事故死体となって発見される。
 父親を引き取るためにニューヨークを訪れた海斗だが、啓司を謀殺した犯人らしきグループに監禁され、父親が彼に渡したと思われている情報を引き渡すよう、精神的・肉体的に強烈な拷問を加えられる。しかしその心当たりがなかった海斗は、結局、父親と同じ様に放り出され、1か月の昏睡状態の後に奇跡的に目を覚ますことができた。

 目を覚ました海斗は、父親の無念を晴らすため、犯人グループに復讐したいと考える。そんなとき、父親から受け取ったペンダントから、SDカードを発見するのだった。そこに記録されていたのは、世界最大の財閥ブランフォートがこれまで行ってきた、そしてこれから行う予定の、世界統一政府樹立に向けたロードマップだった。
 アメリカの連邦準備銀行を利用した世界支配の手口、ローンの仕組みを利用した利益収集システム、そしてテロと見せかけた大衆扇動とそれによる利権確保、マネーの電子化による個人支配など、それだけ聞けばあまりにも荒唐無稽で陰謀史観的な、しかしどこまでも現実的な計画に衝撃を受ける海斗。

 その後、ブランフォート卿に仲間に誘われ、彼の計画が非常に現実的で正しい考え方に則るものだと理解しつつも、父親を謀殺されたという一点で相いれない海斗は、殺される寸前で、一族の少女リザに命をすくわれる。そして彼女と共に、ブランフォート財閥打倒の戦いを始めるのだった。

 前作「雷撃☆SSガール」と同じ世界の物語なのだが、おそらくはそれ以前の出来事なのだろう。あちらで登場した人物は、ほとんど登場しない。また、他社作品の「羽月莉音の帝国」とも微妙にリンクしている。
 非常に壮大な物語で、現代社会の根幹に対する疑問というか挑戦をしているような作品。史実に基づいている部分もあるため、どこまでが事実でどこからが虚構なのか分からなくなるくらい。でも、エンターテインメント作品としても面白く、作者の他の作品に比べると対象年齢は少し高めかも知れない。

 読めば一笑に付す人もいるかもしれないし、信じ込んでしまう人もいるかもしれないし、様々なことに疑問を持つようになる人もいるかもしれない。そんな作品だと思う。

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雷撃☆SSガール

世界のシステムに勝負を挑む女性
評価:☆☆☆☆☆
 零細ダイレクトメール会社を経営する朝倉陣は、恋人に振られた日にキャバクラですごい美人に出会う。その女性、水ノ瀬凜は、傍若無人な振る舞いでとても客商売の人間とは思えなかったのだが、翌日会社にやって来たリンは、画期的なダイレクトメールのビジネスモデルをジンに提案する。
 一回しか会ったことがない社長から5億円を引っ張ってきたり、ヤクザに追い込まれている出版社を救済したり、どんどんビジネスの規模を拡大していくリンにはやりたいことがあった。それは世界征服!現在の破綻することが確実な世界の仕組みに変わって、出来るだけみんなに優しい世界を作るのだという。
 初めて会った人は見た目も含めて誰も信用しないのだが、その深い技術的知識と大胆な決断力を見せつけられれば、誰もが彼女に心酔するようになる。そしてついには、世界を経済的に支配する大財閥ブラフォードの当主が彼女の前に立ちふさがるのだった。

 現代の主戦場である資本主義の舞台で、誰よりも現実的な手段で、誰よりも理想的な世界を目指す女性と、彼女に振り回されながら世界の真実を目にしていく青年の経済活動をライトに描いた作品。多分、学生よりもビジネスマンの方が楽しめる。
 誰かが儲かっているからには誰かが損をしているのは確実。そして、損をしている人が努力をしていないわけではない。悲しいくらいの現実を見せ付けてくれる、エンターテインメント作品だと思う。

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羽月莉音の帝国 (5)

革命部の戦いの舞台は世界へ
評価:☆☆☆☆☆
 不良債権を抱えて破綻寸前の日本商業銀行を買収し、現頭取を留任させて一歩引いた所から経営するはずが、春日恒太が暴走して頭取に就任してしまう。身内を守るため引くに引けなくなった羽月莉音と巳継は、実務を折原沙織に委ねて不良債権の実情を詳しく調査することにする。その結果、不良債権の背景には裏社会の人間が関わっていることが明らかになり、またもや一触即発の状況が訪れてしまう。

 そして革命部の舞台は巨大マーケットの中国へ。低金利社会において稀に見る高金利の日本商業銀行の融資先を作るため、投資銀行業務にも範囲を広げた革命部は、アクアス絡みの案件で中国へと降りたつ。一見、順調に進んでいるように思えたビジネスだったが、実は中国という国が抱える巨大なカントリーリスク、共産党による独裁支配が彼らの前に立ちふさがる。
 真面目に日本商業銀行改め国際商業銀行は破綻の大ピンチ。土地鑑のない中国という場所で、ピンチを切り抜ける起死回生の一手を繰り出すことができるのか?解決は6巻に続きます。

 今回は前半も銀行業務や監督官庁である金融庁の話題も含めて、十分面白かったのだけれど、後半の中国編はもっと面白い。特に、戦後の中国史を辿るところは良い。やはり中国で仕事をするには、中国のことをよく知っておく必要があるのだろう。

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羽月莉音の帝国 (4)

日本の巨大企業に挑む!
評価:☆☆☆☆★
 核兵器の開発に必要な精密機械を違和感なく手に入れるため、世界一の原子力企業ウェスタンユニオンを保有するエグゼスエレクトロニクスの買収に乗り出した羽月莉音と革命部。時価総額14兆円以上のEEを買収するための秘策とは?
 そして、EE買収を阻止するため、日本政界の大立者、最後のフィクサーとも言うべき男、海胴総次郎が革命部に戦いを仕掛けてくる。メディアを席巻する羽月巳継のバッシング、そして暗殺の危機。今回も無事に乗り切ることができるのか、あるいは…。

 規模が大きくなり、ついには国家規模の話も当たり前のようにテーブルに乗るようになって来た。前回の事件のせいか、莉音も少しは周囲を頼るようになりつつある様子。そんな状況で泉堂柚は言葉の爆弾を放り込むし、春日恒太も少しはまともになって来たかという油断を突いて驚きの行動に出る!
 果たして無事に革命までたどり着くことができるのか。そしてどこまで話は大きくなるのか?

 ところで海胴総次郎のモデルは、児玉誉士夫氏と笹川良一氏なんですかね?

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羽月莉音の帝国 (3)

メンバーたちの心理的変化
評価:☆☆☆☆☆
 日本トップの衣料品流通企業アクアスの敵対的TOBを仕掛けた革命部と羽月莉音だったが、アクアス側へのホワイトナイト出現により、買収資金が厳しくなってくる。莉音は巳継を連れ、ジリヤに資金提供の依頼に向かう。そこで紹介されたのは、世界第二位の財閥スタインバーグの異才ローザだった。
 ようやく買収資金にメドがついた途端、マラリアを再発させ倒れてしまう莉音。唯我独尊で悩みも無い様に見える莉音に知れずプレッシャーがかかっていた事を知り、彼女の負担を少しでも減らすために、彼女の革命に真剣に取り組む決意を固める巳継、折原沙織や春日恒太たち。そして巳継は、一度完全に敗北したアクアス社長・立花勇二に再度対決を挑むことになる。

 泉堂柚、そして春日恒太を除いてイヤイヤ莉音に付き合っている雰囲気があったメンバーたちが、真剣に事業に取り組むことを決意する。沙織は人前に立つために努力するし、適当なことばかりを言っている様に見える恒太も、きっちりと地歩を固め始める。そして何より、革命部社長である巳継の心理的変化が大きい。
 いよいよ革命を見据え、防衛力獲得を目指した企業活動も開始され始めます。また、自分でビジネスを立ち上げ成功させている人に対する敬意や、莉音やローザの描く世界像も色々と考えさせられるところがあり、面白いと思います。

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羽月莉音の帝国 (2)

のるかそるかの大博打
評価:☆☆☆☆★
 コスプレイヤーの写真撮影サポートというニッチな市場をターゲットにしていた株式会社革命部は、東証二部上場の速水半導体工業を傘下に納め、1to1カスタマイズの衣料流通システム「おりおんクローズ」の立ち上げを企画し、衣料流通のメインストリームに乗り出していく。
 しかしそんな時、望ますに革命部のエースとなった折原沙織の父が経営する中堅広告代理店・銘広社が広域暴力団東丈会のフロント企業にひっかかり、倒産寸前の状況になってしまう。仲間を助けるため、羽月莉音はどう立ち向かうのか?

 1巻は会社立ち上げの話だったけれど、2巻では、革命を見据えて領土を探したり、軍事訓練を受けたり、裏社会と対立したり、そしてトップを取るために大企業と立ち向かったりする。
 莉音に祭り上げられた巳継は、史上最年少の上場企業の社長としてマスコミにもてはやされてしまい、その一挙手一投足が注目される始末。しかし、莉音の鉄拳制裁を恐れてということもあるが、仲間を守るために根性で踏ん張るのだ。

 そして株式会社革命部に訪れる絶体絶命の大ピンチ。ここを無事に乗り切れるのか、それとも社会的に抹殺されてしまうのか。そんな、剣も魔法もない、金融技術を駆使した戦いが繰り広げられる。

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羽月莉音の帝国

使えるものは極力利用する
評価:☆☆☆☆★
 羽月巳継は青海大学附属高校の入学式の日に、同じ高校へ通う従姉の羽月莉音に自分の部活に入る様に命じられる。巳継と莉音は、幼なじみの折原沙織や春日恒太も含めて、子どもの頃から大胆ないたずらや遊びをして来た仲間なのだ。もっとも、冒険家の父・羽月一馬に連れられて世界中を周り、行動や考え方が大胆になり過ぎた莉音の暴走が原因のほとんどなのだが…。
 ともかくその延長線上の活動だろうと集まった3人は、莉音の部活・革命部なるものの活動内容を知らされる。革命部の最終目的は建国、日本の領土を奪い、主権を主張して独立国家をつくることだという。その第一歩となる資金集めの手段は、ゴミ捨て場を回って集めたものをフリーマーケットに売ったりする地味なもの。そんなこともあり、去年の活動から残っているのは、莉音以外ではただ一人、泉堂柚のみ。彼ら5人の建国への道が始まる。

 国を作り守るにはまずお金が必要ということで、起業してお金儲けをするところからスタートする。インターネットが使えないと現代においては手足を縛られるみたいなものなので、そこの部分への設備投資に少し借金をするけれど、初めの事業は基本的に元手のかからないもの。学校という人材の集まる特殊環境を利用したり、メンバーを前面に押し出したり、とにかくただで使えるものはこき使う。働き方はまさにベンチャーの役員っぽい。
 起業する時は売り物とそれを運用する人間が重要だと思うので、革命部のメンバーはうってつけの構成になっている。行動力にあふれたリーダー、着実に実務を実行する堅実派、コンテンツやツールを提供する才能の持ち主。若干一名は今のところ活躍する兆しがないけれど、きっと何かの役に立つのだろう。

 すごく短期間の間にあれよあれよという感じでビジネスが大きくなっていくので、こんなに上手くいくのかな、という感じもするけれど、とにかく既存の仕組み、元手のかからないものを極力利用してビジネスを組み立てているので、ギリギリありかも知れない。何より、現実に目の前に存在するフロンティアを開拓していく物語は面白いから、細かいことはひとまず置いておけば良い。
 普通だったら十分に成功の部類に入るけれど、革命部の活動はまだまだこれから本格化していきます。

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