クラッキング・ウィザード ~鋭奪ノ魔人と魔剣の少女
- 孤独の終わり
- 評価:☆☆☆★★
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魔術遺産である神遺物によりエネルギー供給されている天空都市《ヴァラスキャルヴ》において、魔術的なクラッキングを生業としているヴァルリアス・ケルトヴィーネは、街で偶然出会ったエーレフォーア・ゼムディムズにクラッカーであることを知られてしまい、彼女の依頼を受けざるを得なくなる。
その依頼とは、彼女の母親の形見である神遺物《ドラウプニル》を取り戻すことだ。彼女の父親が経営する魔術器具製造会社が倒産するゴタゴタで、何者かに奪われてしまったらしい。
他のクラッカーの協力も得つつ調査を行った結果、容疑者として浮かんだのは、メルティスラ・マルセス率いる巨大企業マルセス社だ。そして彼に協力するクラッカー集団《スレイプニル》の少女アルマと出会い、彼女たちがヴァルと同じ、忌まれる神性《賊神/トリックスター》の持ち主であることを知る。
《賊神/トリックスター》であるために親からも捨てられ、他者と親しくなることも出来なかったヴァルは、初めて得られるかも知れない仲間と、自らの良心の間で葛藤することになる。
ロゥド・オブ・デュラハン (2) 不死の都と守護精霊
- 最後の使命
- 評価:☆☆☆☆★
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傭兵の少年アルフォンスは、死期を告げる精霊デュラハンのリィゼロッテや死者の声を聞く少女フリーダと出会い、彼が慕っていた領姫の仇を討つことが出来、かつ、リィゼを妄執から解き放つことも出来た。
リィゼの師匠イレーネから、領都イスルに謎の巨人が出没する話を聞いたリィゼたちは、精霊デュラハンとしての使命を果たすため向かう。そしてそこで、精霊スプリガンとなった、イスル砦の元守護兵テオと出会い、イスルで起きた出来事と、領姫マルグリットが果たしている使命を知るのだった。
そんなとき、イスルを奪還するため、大帝・イスル連合軍とティーガー率いる豪虎傭兵団が襲来する。マルグリットを助けるため、領都内に入ったリィゼと、テオを助けるために残ったアルフォンス。彼らの思いは連合軍に通じるのか?
紅炎のアシュカ
- 弱い魔王の下克上
- 評価:☆☆☆★★
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私はアシュカ。魔王アシュバルドの右手の小指の爪の先の化身だ!そんな名乗りをする少女と共に旅をするのは、治安維持を担う駆神人のラティスと小妖精のリルだ。彼らはアシュカの目的である、魔王アシュバルドの体の一部の化身を探す旅に同行する。
かつて世界を混沌の渦に落とし込んだ魔王アシュバルドは、ある時、自らの体を分割させ、消え去ってしまった。分割された体は、その大きさによって力も異なり、考えていることも違う。右手の小指の爪の先の化身でしかないアシュカは、お人よしの穏健派だ。
だが、力の強い化身はかつての魔王の状態を色濃く残しており、故に現在の人間たちと相いれず、その弊害をアシュカも受けることになる。
ほとんど名乗りの部分だけの、中身的には近年ありきたりな迷う魔王の異世界ファンタジーだ。
千の剣の権能者(エクスシア)
- 全てを対価にしても取り戻したいもの
- 評価:☆☆☆☆★
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特定の事物を操る《権能》を持つ《権能者》が遺跡からよみがえり、世界に不穏をもたらしていた。その能力は絶大であり、普通の人々に対抗手段はない。唯一、《権能兵》という、《権能》を持つ兵士をコントロールする手段を生み出すことに成功した帝国は、他国に恭順を求めた。他国も《権能兵》を生み出そうと努力はしたものの、成功してはいない。《権能》を持つ人間を見つけることは出来ても、《権能》を使えば発狂してしまう。魂が《権能》の力に耐えられないのだ。つまり《権能兵》とは、魂を抜かれ、帝国騎士に絶対服従する人間である。
帝国総督の息子でありながら、帝国騎士に幼馴染の少女を殺され、出奔して暗殺者となったクオンは、かつて救った少女イェリの勧めで道場を開き、子供たちに護身術を教えていた。そんなある日、クオンは暴走する《権能兵》を倒す、帝国騎士の命令を受けずに自発的に行動する《権能兵》の少女クアディカと出会う。
無私の心で弱者を救うクアディカに、理想とする英雄の姿を見たクオンは、彼女を家に連れ帰り、彼女の望みを叶える手助けをすることにした。その望みとは、魂を取り戻すこと。
帝国の横暴を憎みながらも、《権能者》という脅威ゆえに従ってきた元支配者層は、自衛の手段として利用できるクアディカの存在を奇貨とし、帝国に反旗を翻そうと画策していた。更には、クアディカを取り戻すため、帝国騎士のセイジスが現れる。
《権能》という、世界の行方を左右する力を中心に構成される政治状況の中、その歪みを受けてねじ曲がった青年と、歪みの中心にありながら、歪みを受けていないかに見える少女との出会いがもたらす変化を描いている。
前作にも感じたことだが、積み上げる構成があまり得意ではないようで、キャラクターの背景や展開に唐突感を感じるところもある。最後のシーンもあまりにも唐突過ぎた。
ロゥド・オブ・デュラハン
- 人の思いが行き過ぎた先
- 評価:☆☆☆☆★
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領王の娘姉妹リラとアデーレの死体を冒涜する死術師の拠点に単身乗り込んだ傭兵の少年アルフォンスは、あっさりと返り討ちになりそうなところを、死期を告げる精霊デュラハンのリィゼロッテと死者の声を聞く少女フリーダに助けられる。
せめて、親しく接してくれたリラとアデーレの仇を討ちたいと、リィゼロッテたちに同行を申し出るアルフォンスだったが、姫たちの護衛だった騎士ライナイトまでもが失踪し、アルフォンスは失意と怒りにまみれそうになる。
芯の仇たる殺戮の精霊レッドキャップの痕跡を追い求めて旅をすることになった3人は、涙を肩代わりする精霊パンシーのゲルダと知り合い、死の運命に抗い何かをなそうとする妄念に囚われた人々の姿を見ていくことになる。そしてその過程で、3人は自らのなすべきことに気づいていくのだった。
少しエピソードを盛り込みすぎかなというのが第一印象で、結果、誰がメインの主人公だったのかがぼやけてしまった印象がある。おそらくはリィゼロッテなのだが、彼女の事情は後半になるまで語られることはないため、どうしてもアルフォンスに目が行きやすい。そうなると、アルフォンスがリラ、アデーレ姉妹の喪失に感じた憤りが読者に伝わってくる仕掛けが前半に不足しているため、彼の行動原理が見えにくく薄っぺらいように感じてしまう。
個人的には、まずアルフォンスとリラたちの出会いの場面と関係を深めていく経緯があり、それが突然断ち切られたことによる絶望をしっかりと印象づけてから、復讐に駆り出されていく様を描き、そこからの解放という流れにした方が分かりやすかったように思う。そしてそれに厚みを増す形で、リィゼロッテの物語を後半に盛り込んでいった方が良かったのではないだろうか。
第3回「このライトノベルがすごい!大賞」大賞受賞作品だ。