下村智恵理作品の書評/レビュー

エンド・アステリズム (2) 変転する二重運命系からの逃避行

戻れる場所
評価:☆☆☆☆☆
 突如、日本に現れた高次元の存在<ディセンター>に対抗することができる唯一の存在<リジェンタイル>と身体感覚を同期させられる者として選ばれた潤相五雁は、感情を同期させた七星茉莉衣と同居生活をすることになった。感情と身体を同期させられ、人工的な恋愛感情を植え付けられた関係に違和感を感じながらも、それを本物にするため、幼なじみかも知れなかった梶桜子の告白を、潤相五雁は断った。
 現実を直視するため、自身が壊滅させた渋谷へと向かった潤相五雁は、かつて彼がコンパスを刺した田島陽平の彼女だった佐々原蒼子と再会する。

 自分の新たな居場所となりつつあった池田と、帰れるかも知れない元の居場所である東京、その間で揺れ動く潤相五雁は、七星茉莉衣を不安にさせ、灯麻伊織と衝突することになってしまう。そうする内、灯麻伊織が埼玉へと出かけることになり、その妹の沙織を預かることになる。

 冒頭のやりとりは実話なの?という感じにリアリティがある。相変わらずこちゃこちゃと悩んで、結局は元の鞘に収まるという感じかな。ただ今回はひとりで悩んでいるだけという感じだったので、前巻のように色々と思想に介入するようなシーンがあっても良かった。

エンド・アステリズム なぜその機械と少年は彼女が不動で、宇宙の中心であると考えたか

少年は踏み出す
評価:☆☆☆☆☆
 ある日、旅立たなければという内なる声に突き動かされ、世田谷から北上して上越線に至った潤相五雁は、池田という駅に降り立つ。そしてそこで金髪の美少女、七星茉莉衣に待っていたと声をかけられる。更間野航一の運転する車に乗せられて向かったのは、川品村だ。そしてそこで、その日、渋谷に突如現れた巨大ロボットの正体が<ディセンター>という異次元の機械知性体であり、それに唯一対抗できる同種の<リジェンタイル>のパイロットに選ばれていることを知る。
 同じく<リジェンタイル>に繋がっている中櫂零右衛門や灯麻伊織に背中を押され、<リジェンタイル>で<ディセンター>に立ち向かうものの、彼の心に侵入してきた<ディセンター>にトラウマをえぐられて<リジェンタイル>を暴走させてしまう。

 <リジェンタイル>の力により、過去を改変された潤相五雁は、七星茉莉衣のはとことして高校に通うことになった。東京に憧れる帆足三太郎や辺崎誠から対抗意識を燃やされ、梶桜子に誘われて、梁矢洸が部長を務め担任の野口泰子が顧問を務める第二文芸部に入部した五雁は、彼が求めても得られなかった充実した学園生活を手に入れる。
 そして私生活では、<リジェンタイル>により七星茉莉衣との間に設定された恋愛感情の下、いびつな同居生活を送ることになる。

 第11回スーパーダッシュ小説新人賞優秀賞受賞作「Draglight/5つ星と7つ星」を改題。第一感はエヴァンゲリオンみたいだなというものだった。心に傷を抱えた少年が片田舎に一人で赴き美少女と出会い戦いに身を投じる。そして彼はパイロットであり続けさせられるために、彼が求めても手に入れられなかった居心地の良い環境を与えられるのだ。
 手に入るものを拒絶できるほど聖人君子にはなれないが、素直に受け入れられるほど疑問を持たないでは居られない。自分の心すらねじ曲げられているかも知れないという不安の下、それを払拭して本物を手に入れるため、あらゆる後悔を飲み下して前に進もうというのだ。

 主人公のこれまでの人生、過去はお世辞にも褒められるものではない。きっかけとしては彼が悪いわけではないのだが、それを仕方ないと受け入れるときの言い訳としてしまっているところが格好良くもない。まずはそこを受け入れ、もっと上手くやろうという心と、<リジェンタイル>の力とは、何らかの関係があるのだろう。

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