杉井光作品の書評/レビュー

項目 内容
氏名 杉井 光 (すぎい ひかる)
主要な著作

 杉井光さんの作品の書評/レビューを掲載しています。

蓮見律子の推理交響曲 比翼のバルカローレ

評価:☆☆☆☆★


ブックマートの金狼

評価:☆☆☆☆★


夜桜ヴァンパネルラ (2)

評価:☆☆☆☆★


夜桜ヴァンパネルラ

吸血種のいる世界
評価:☆☆☆☆★
 吸血種が感染病として認められた世界。日本では管理されない吸血種は、厚生労働省特別防疫局による駆除の対象となっていた。そんな中、主導権を取り戻すべく一人の吸血種を借り受けた警察庁は、警視庁に捜査第九課を設立する。その唯一の課員こそ、東大卒キャリアの吸血種、櫻夜倫子警部である。
 新たに彼女の相棒として配属されたのは、あまりにもバカだが体力とやる気はある桐崎紅郎巡査。捜査一課長を兼務する大村課長による密かな支援はあるものの、捜査一課員や刑事部長の筑摩川隼人警視監からは嫌悪され、捜査九課にはまともな情報が回ってこない。そんな状況の中、部長の娘の筑摩川梨紗から相談を受け、二人は久瀬七月という少年に出会う。彼によれば、若者の間に吸血種になるドラッグがはやり始めているらしい。そしてその売人は、王国(キングダム)を名乗っているという。

 監察官として矢神修二が九課に張り付くようになり、厚生労働省特別防疫局担当官の絹川リンネアから差別的扱いを受けつつも、情報屋の吸血種である白麗から情報を得て、二人は事件の真相に迫っていく。

放課後アポカリプス (2)

エンドレス・ウェンズデー
評価:☆☆☆☆★
 天使化により制約が薄らいだ僕と未咲は、天使の襲撃を受ける世界の果てを調査に赴く。そして徐々に、このゲームの仕組みへの理解を深めていく。
 そんな時、強力な天使の襲撃を受け、校舎を半壊された時、目を覚ますと僕と未咲はその日の朝に戻っていた。そして繰り返される同じ水曜日の日常。この意味は何なのか。

生徒会探偵キリカ (6)

勝利の形
評価:☆☆☆☆★
 天王寺狐徹に敵対することを決めた牧村日影は、神林朱鷺子の生徒会長立候補に便乗し、勝利することを目指す。しかし、竹内美園を超える副会長候補が見つからず、手詰まりのまま、立候補届け出期間終盤に入ってしまう。
 手持無沙汰な聖橋キリカに対し、天王寺狐徹が竹内美園を副会長に選んだ理由を探ることを依頼する牧村日影だったが、それは天王寺狐徹の深慮遠謀を証明する結果となってしまうのだった。

六秒間の永遠

いつも通りの主人公
評価:☆☆☆☆★
 パイロキネシスを持つ紅藤は、意識せず父親を焼死させて以来、ひたすら他人と関わらず、感情を凍らせて生きて来た。そして行き着いた職業が警察官だ。発火衝動を紛らわすために独身者待機寮のキッチンで紙を燃やし、目立たず交番勤務をしていた紅藤に、突如、刑事課予備係転属の辞令が下る。
 あり得ない辞令に従い向かった、新宿署と四谷署の境界にひっそりと建つ警察署で、これまたあり得ない、警視長の署長・成瀬(通常、署長は警視または警視正)から、直属の上司である氷室を紹介される。彼はキャリアの警視長でありながら、平署員の刑事だった。

 実は紅藤と同様に生まれつきの能力者であり、紅藤の過去を暴いた有能な刑事でもある氷室とコンビを組まされ、他署の刑事たちからの嫌味を言われる係となった紅藤は、暇つぶしの巡回中、海月(ミツキ)という少女と出会う。彼女は雀荘で危うげない勝ち方を重ねる、どこか危うげな少女だった。そして、とある殺人事件の現場に彼女が立ち会っていたことで、再会することになる。

放課後アポカリプス

謎の戦場
評価:☆☆☆☆★
 高校に入学したものの、クラスに居づらくなって屋上などで時間をつぶしていた藍沢緋色は、その屋上で七連坂未咲という少女と出会う。その後、クラスメイトの有間くるみに声を掛けられ、久しぶりにHRに出た緋色は、自分がクラス委員になっている事実を知った。
 その直後、学校は周囲から隔絶された奇妙な空間となり、天使と呼ばれる怪物に襲われた。クラスメイト達は歴戦のソルジャーのごとく戦いの準備を始め、彼は自分がコマンダーになっていることを知る。

 ギリギリで天使との戦いを切り抜けたら、学校は当たり前の日常に戻ってしまい、クラスメイトは先ほどの戦闘の記憶を失くしている。生徒会長の姫木薫子からコマンダーだけが記憶を保持しているという事情を知らされた緋色は、絶望の戦いに挑まなければならない現実に直面するのだった。
 天使の正体とは、そして彼らが戦う世界とは何なのか。その答えの鍵の一端を、存在しないはずの1年C組のコマンダーが知っている…。

神様のメモ帳 (9)

複雑な相続
評価:☆☆☆☆☆
 藤島鳴海の前に紫苑寺茉梨というモデルが現れる。彼女はアリスこと紫苑寺有子の姉だという。彼女たちの祖父が昏睡状態に陥っており、遺産相続問題で親戚がやってくるだろうというのだ。
 その言葉通り、アリスの師匠である紫苑寺螢一が現れ、アリスは彼について実家に帰ってしまう。取り残されたナルミは、何をしたらよいかわからず、雛村壮一郎やテツ、ヒロや少佐も何も言ってくれない。篠崎彩夏は何か手伝えることはないかというのだが…。

 シリーズ最終巻。

東池袋ストレイキャッツ

蹴り出す亡霊
評価:☆☆☆☆★
 中学時代から引きこもりを続けていた小野寺春人は、高校入学を機に復帰しようとしてまたしても失敗した。両親からも腫れ物に触るように扱われ、じっと部屋に引きこもる小野寺春人を支えていたのは、彼が所有しているCDの中でも数少ない“生きている”バンド、Day Dream Drunkardだった。しかし、そのギタリストのキース・ムーアが事故死したことで絶望してしまう。
 “死んだ”バンドになったDDDのCDを捨てに夜中に出かけた小野寺春人は、ゴミ捨て場に捨てられている真っ赤なセミアコースティックギター、ギブソンES-335を見つける。キース・ムーアが使っていたギターと全く同じだ。それを自室に持ち帰った小野寺春人の前に、日本語を話すキース・ムーアの亡霊が現れる。

 彼に罵られるままにギターの練習を始めた小野寺春人は、彼に蹴りだされて池袋駅東口へ行き、ストリートでギターを弾き始める。それを聞いて低い点数をつけたのは、あたりでミウと呼ばれている少女、小峰由羽だった。
 あたりを仕切るバンド、ウルトラ・フルメタル・ジャケットの玲司と淳吾に気に入られた彼は、ハルという通り名で、毎晩、ギターを弾きにやってくるのだった。そこで出くわす物語とは?

生徒会探偵キリカ (5)

重なる祭り
評価:☆☆☆☆★
 白樹台学園の文化祭がいよいよ目前に迫ってきた。実行委員長の神林薫の手練手管で午後9時半までの作業の延長を職員室に認めさせることに成功し、生徒たちは夜遅くまで作業に打ち込んでいる。それらを管理する責任は文化祭実行委員会にあるのだが、足りない部分は長峰楓花率いる風紀委員会や、生徒会有志によって補うことで、何とか処理できていた。
 そんなとき、監査委員長の久米田郁乃が、夜間、怪奇現象が起きるという話を持ってくる。神林薫は会計にして探偵の聖橋キリカに解決を依頼しようとするのだが、怖がりのキリカはそれを受けない。仕方なく、怪奇現象を探偵した経験を持つというミステリーサークルの深町に調査を依頼するのだが、噂は鎮まるどころか広がりを見せ、学園七不思議が成立してしまうのだった。

 いよいよ解決に乗り出すことになった生徒会探偵の聖橋キリカと助手にして書記の牧村日影は、そこに元生徒会広報の伊吹真央の影を見る。
 一方、牧村ひかげの姉の牧村ひなたの友人でモデルの月島沙樹が、牧村ひかげにちょっかいをかけてくる。その結果、ひかげは芸能界のゴタゴタと、かつて中央議会議長の神林朱鷺子や副会長の竹内美園が優勝したミスコンの騒動に巻き込まれることになるのだった。

 そして最後には、会長の天王寺狐徹との勝負について覚悟を決める。

神曲プロデューサー

変わり始める歴史
評価:☆☆☆☆☆
 悪魔メフィストフェレスにより未来から呼び寄せられ、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテとなった高校生のユキは、ルドヴィカ・ファン・ベートーヴェンとなった少女が自らの正体を知りながらも、歴史通りに「運命」「田園」の作曲を始めたことに、ホッと胸を撫で下ろしていた。
 作曲も佳境にかかり、天啓を得て運命の主題にホルンを用いることに決めたルドヴィカだったが、それが問題を引き起こす。教皇庁検邪聖省が、ホルンは天使のラッパであり、神を讃える曲以外にホルンを使うことは異端だとの見解を示したのだ。

 ウィーンのホルン奏者たちも腰が引け、初演を開こうにも演奏する人間がいない。カール・マリア・フォン・ヴェーバーらのいるザルツブルク闘魂烈士団には、ホルン奏者がいない。進退極まったところ、ルドヴィカのもとにホルン自動演奏装置が持ち込まれ、何とか貴族のサロンでの演奏にこぎつける。ところが、すぐさま教皇庁から届いたのは、ルドヴィカの死刑執行書だった。

神曲プロデューサー

音の連なりに生きる人々
評価:☆☆☆☆☆
 スタジオミュージシャンの蒔田シュンと、トップミュージックアーティストの海野リカコを軸として、音楽業界の悲喜交々を描いた連作短編だ。

「超越数トッカータ」
 スタジオミュージシャンの蒔田シュンは、初めてのオリジナルアルバムに収録し、楽器が歌うPVで売上が上がったシングル曲が、業界の大物である瀧寺雅臣の15年前の曲の一部のパクリであるとの噂を流されてしまう。
 もちろん、その曲は聴いたこともなく、パクリではない。しかし、相手に気を遣った所属会社の社長が販売を取り下げてしまう。そのまま埋もれてしまうと思った時、彼の背中を蹴りつけたのは、トップミュージックアーティストの海野リカコだった。

「両極端クオドリベット」
 海野リカコが次にプロデュースする楽曲で、ベーシストの岩井邦彦を使いたいと言い出した。もう、彼のベース以外には考えられないとまで言う。
 彼の消息を追いかけた蒔田シュンは、彼が胃癌に冒され、余命幾ばくもないことを知る。だが、海野リカコはそれでも諦めなかった。その姿を見た蒔田シュンは、無響室、ジョン・ケイジ「olgan2/aslsp」、ナパーム・デス「You Suffer」という道具を使い、岩井邦彦に訴える。

「恋愛論パッサカリア」
 蒔田シュンにサウンドプロデュースの仕事が回ってきた。5人組アイドルグループ「プレシャス乙女」のデビュー曲だ。PV監督は大物の奇多嶋ツトム、海野リカコの元夫だった。
 「プレシャス乙女」の歌の下手さを聞き、そのことで海野リカコにこき下ろされた蒔田シュンは、彼女を見返すため、最高の一音を積み重ねた一曲を作り上げる。元恋人の冬美さん登場。

「形而上モヴィメント」
 イギリスからの帰国子女でアイドルの窪井拓斗の初音楽デビューを蒔田シュンが担当することになった。彼の音楽性は際立っているものの、日本市場に向けたアレンジで自分の音楽が汚されるのが許せないらしく、作業は難航する。
 時間切れ間近に控え、蒔田シュンは密かに作成していたアレンジで収録を決行するのだが、それは彼に大きな挫折をもたらすことになった。

「不可分カノン」
 お蔵入りになった窪井拓斗のシングルを聞き、海野リカコが消息不明になった。周辺は大層騒ぎ立て、蒔田シュンもスキャンダルに巻き込まれてしまう。
 なぜ彼女は姿を消したのか。そのことに思いを馳せた時、蒔田シュンは彼女が戻ってくるための地図を、セカンドアルバムとして発売するのだった。

生徒会探偵キリカ (4)

仮初めの敵
評価:☆☆☆☆★
 白樹台学園の体育祭は、体育祭実行委員会ではなく体育教官室により運営されている。体育祭の年間予算は三千万円だ。ここ三年は、体育祭の運営権を賭けて体育科とそれ以外の学科による対抗戦が行われるのが習わしだ。予算編成権の獲得に燃える会計の聖橋キリカと、運営権の奪取に燃える生徒会長の天王寺狐徹、中央議会議長の神林朱鷺子、監査委員長の久米田郁乃の連合軍の前には、どんな敵もひれ伏すと思い込む生徒会書記の牧村日影だったが、現実は厳しく、毎年体育科の前に敗北を喫しているのだ。
 今年こそは勝とうと意気込む面々を見ながら、少し冷ややかな気持ちで会合に臨むヒカゲの前に姿を現した運営委員長は、瀧沢瑠威那という中二病の先輩だった。

 体育科に勝つためのルール変更を目論む生徒会総務の意向を受け、瀧沢瑠威那の許に交渉に赴くことになったヒカゲは、中二病の仮面の下に隠された彼の強かさの匂いをかぎ取る。一方、体育祭の種目は棄権するのがいつものことだというキリカの姿を見て、ヒカゲは彼女がチームの一員となれるような策はないかと思いを巡らし始めるのだった。

 ネタとして小粒な感じなので、もうひとつ楽しめなかった。あと、体育があんまり好きじゃないんじゃないかな?

楽聖少女 (3)

執着と非情、そして決別
評価:☆☆☆☆☆
 悪魔メフィストフェレスにより、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテとなった現代の高校生の幸は、少女になっていたルドヴィカ・ファン・ベートーヴェンに魅せられ、彼女のお世話をしていた。ナポレオンと彼を守護する悪魔を何とかかわし、ウィーンを戦火から守ったユキだったが、ルドヴィカの耳が聞こえなくなってきたことに気づく。
 初演した「フィデリオ」が不評で落ち込むルドヴィカに、プロイセンの王妃ルイーゼ・アウグステからの招待が届く。ベルリンで「フィデリオ」を再演して欲しいという。しかし、ザルツブルク闘魂烈士団のカール・マリア・フォン・ヴェーバーによれば、主戦派である王妃はナポレオンと戦う戦力を欲しており、ポリーヌと善戦した彼らの力を利用しようと考えているという。

 とにかく、ルートヴィヒの記憶を取り戻しかけ、彼の病状も引き継ぎはじめたルドヴィカを回復させるため彼の足跡を辿り、ハイリゲンシュタットの遺書に辿り着く。
 一方、ザルツブルグの復讐に萌えるフランツ・ヨーゼフ・ハイドンの弟ミヒャエル・ハイドンは、ユキにポリーヌの戦力を問いただすと、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトと何やら相談し、戦場へと去って行くのだった。

生徒会探偵キリカ (3)

覇道に立ちふさがる者
評価:☆☆☆☆☆
 生徒会予算八億円のマンモス校である白樹台学園の生徒会書記となった牧村日影は、中央議会議長の神林朱鷺子の弟にして中学一年生ながら文化祭実行委員会委員長の座に納まることになった神林薫とルームメイトになった。見た目はおかっぱの少女にしか見えない彼に甲斐甲斐しく世話をしてもらいながら、会計の聖橋キリカらの女子生徒が何かしら理由をつけて部屋に乗り込んでくる日々を過ごしている。
 期末試験も終わり、追試を課せられることになったひかげの許を、風紀委員長の長峰楓花が訪れる。彼女は校内からカンニングを無くすための調査活動の一環で、彼の許を訪れたのだった。誤解による調査とわかり、それで縁が切れるかと思ったのも束の間、情報学科教諭の峰岸から、生徒会総務執行部探偵に対して依頼が届く。それは、試験会場に仕込まれたカンニングアプリに関するものだった。

 生徒会長の天王寺狐徹と副会長の竹内美園の悪のりで、学園のプールで過激な水着を着て男子生徒たちの視線を集める遊びをしていたところ、体育教諭の福原に目をつけられてしまい、学園のプールは男女別利用にされてしまう。そんなとき、女子水泳部の使うプールに、大量のスクール水着がばらまかれるという事件が発生する。
 前生徒会書記にして真性ロリコンの柏崎駿と同様に、先輩でありながら天王寺政権で生徒会広報を務めた伊吹真央が留学から帰還する。そして彼女は、これからひかげがもたらす運命を告げる。それは、監査委員長の久米田郁乃から焚きつけられた火を彼に思い出させるのだった。

 大まかに3つのエピソードを収録した学園探偵ものっぽい杉井的ラブコメ。でも、だんだん主人公の自己主張が出てきている模様だ。私服イラストとか水着イラストとかあります。

楽聖少女 (2)

表現する苦悩
評価:☆☆☆☆☆
 悪魔メフィストフェレスによって十九世紀のウィーンに、中年ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテとして連れて来られた二十一世紀の高校生ユキは、《ファウスト》にまつわる自分の名前を取り戻し、魔術師として覚醒したかに思えた。しかし実際は、どうやったら魔術を使えるのか分からないし、ゲーテとしてどう作品を書いたらよいのかも分からない。
 一方、ルドヴィカ・ファン・ベートーヴェンは、着想した新たなピアノソナタを弾くことが出来る未だ存在しないピアノを求めて、ピアノ製作者のナネッテ・シュトライヒャーに依頼をしていた。ルゥの大ファンであるナネッテは、ルゥを手なずけるユキに敵意を燃やしながら、他の全ての仕事を擲って新たなピアノを作ろうとするのだが、戦火にあるヨーロッパでは、参考としたいピアノを手に入れることもままならない。

 そしてついに、ナポレオンがウィーンへと攻め込んでくる時が来た。皇帝フランツはウィーンを逃げ出し態勢を整えようとするのだが、ルゥはウィーンを離れようとはしない。それどころか、ナポレオンを招待し、交響曲《ボナパルト》を聞かせようとする。
 ところが、サリエリがとりまとめるウィーン楽友協会に依頼しても、会員が雇用者である貴族に従って疎開しようとしているため、楽団員が集められない。だが運良く、フランツ・ヨーゼフ・ハイドンの弟であるミヒャエル・ハイドンが師範を務めるザルツブルク闘魂烈士団と師範代カール・マリア・フォン・ヴェーバーの手助けを得られることになる。彼もまた、悪魔ザミエルの契約者だった。

 なぜか第二十二番目のピアノソナタとなっているピアノソナタ第二十三番ヘ短調《熱情/アパショナータ》にまつわる物語。未だ存在しない音を求めて彷徨う少女二人と、いかにしてゲーテになるかという問いを立てて迷宮に入り込む少年、そして悪魔に魂を売ってでも自らの求めるものを得ようとする青年たちが登場する。
 ハイドンが格闘家だったり、皇帝アレクサンドルがバイだったり、全体的にコメディの雰囲気を漂わせる設定の中、ナポレオンだけが殺気と虚無に満ちた空気を纏って登場するのが異質だ。この異質さがユキとどうか関わって来るのかが、このシリーズの中心になるのだろう。

 それと同時に、作家としてどうあるべきかという自分の形を見つけつつあるユキの姿には、作者の心情が投影されているのかも知れない。

楽聖少女

魂を奪われる音楽のはじまり
評価:☆☆☆☆☆
 嵐の日の学校の図書室にいた二十一世紀の少年は、突如現れた悪魔メフィストフェレスにより「ユキ」以外の名前を奪われ、十九世紀の欧州に連れて来られた。ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテの新たな身体としてだ。
 ゲーテの仕事仲間であるヨハン・クリストフ・フリードリヒ・フォン・シラーも、数多くのファンたちも、ゲーテが急に若返ったことをさほど不思議には思わずに受け入れてしまう。そして、この世界自体、二十一世紀の歴史の知識から見ると技術的に進み過ぎているのだ。

 ゲーテがメフィストフェレスとした契約は、彼が感動に打ち震え満足する瞬間が来たら魂を明け渡すというもの。ゲーテの知識はあれど意識はユキのままという状態に置かれてしまったユキとしては、ひたすら感動しない様に、感動しそうなものには触れない用心をせざるを得ない。
 それにも拘らず、ユキは彼が大好きな音楽家に出会ってしまった。何故か少女の姿をしたその音楽家の名前は、ルドヴィカ・ファン・ベートーヴェンという。ユキの両親を出会わせた「英雄変奏曲」の作曲者である。

 彼女の演奏を最後まで聞いてしまえば絶対に感動してしまう確信があるユキは、ひたすら彼女と接触しない様にしようとする。しかし、ハプスブルク家のフランツ二世の依頼で、皇女マリー・ルイーゼとその叔父ルドルフ・ヨハネス・ヨーゼフ・ライナーの家庭教師をすることになった縁で、再び宮廷で、ルドヴィカと遭遇することになってしまった。
 彼女の曲を聞こうとしないユキに対し、ルドヴィカはやたらと絡んでくる。それに、彼女の側にいれば、フランツ・ヨーゼフ・ハイドンやアントニオ・サリエリ、そしてなぜか死んだはずの、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトやマリー・アントワネットにまで遭遇してしまうのだ。

 歴史を知っているからこそよりはっきりとわかる、ルドヴィカの偉大さ。しかし時代は、彼女に自由な音楽を許さなかった。彼女が「ボナパルト」と題された、葬送行進曲を含む交響曲を発表しようとしていることを知った悪魔に連なるナポレオン・ボナパルトは、ニコロ・パガニーニを遣わし、オーストリア政府に圧力をかけて来る。そして、悪魔の匂いを嗅ぎつけた教皇庁検邪聖省の手も、ルドヴィカやユキに迫って来るのだった。

 ネタバレというほどのこともないだろうが、ゲーテ「ファウスト」を底本に、音楽と日本の高校生を絡めた、作者らしいラブコメ風ファンタジーとなっている。
 ユキの奪われた名字は、きっと「桧川」というんじゃなかろうか。あの二人の子供なんだろうな。

生徒会探偵キリカ (2)

一緒にいても思いは色々
評価:☆☆☆☆☆
 白樹台学園に入学した牧村日影は、生徒会長の天王寺狐徹に見染められ、会計の聖橋キリカと出会い、八億円の生徒会費を巡る大騒動を乗り越えて、ひかげは生徒会書記としての登用願いを中央議会議長の神林朱鷺子に提出されるところまでたどり着いた。そんなとき、彼は前生徒会書記の柏崎駿と新中学一年生の神林薫と出会うのだった。
 新一年生の教科書購入資金を巡る詐欺事件の解決を依頼された生徒会総務執行部探偵としての聖橋キリカがたどり着いた真相を、牧村ひかげはいつものように詐欺的な手法で開示し、探偵には出来ない、関係者全員が不幸にならない結末を辿り寄せる。

 そして始まるのは、文化祭実行委員会の委員長選挙だ。生徒会総務への任用を目指して、狐徹から彼女を選挙で勝たせるように、との課題をもらった薫に、ひかげとキリカは協力することになる。しかし、総務、監査、議会が推す候補者たちには誰も一長一短あり、選挙自体が執行出来るかどうか分からない状態になってしまう。
 狐徹の生み出した混沌状況を制することで彼女に勝ちたいと思うキリカは、そんな状況に先回りするように奮闘し、薫は分裂した派閥を結びつけようと駆けずり回る。そしてひかげは、その後押しをする一手を思いつくのだが…。

 副会長の竹内美園からの積極アピールや、監査委員長の久米田郁乃によるセクハラも健在で、杉井ワールドを展開しつつ、段々とこの作品自体の色が出て来た様な気もする。

生徒会探偵キリカ (1)

キミは凄いのだと知らせたい
評価:☆☆☆☆☆
 優秀な姉・日向の影響から逃げるように、生徒数八千人のマンモス校・白樹台学園の学生寮へと入った牧村日影は、この巨大校を統べる生徒会長・天王寺狐徹に見染められ、員数外の生徒会庶務として雑用を申し渡される。彼の直属は聖橋キリカ、八億円の生徒会費を一人で管理する会計だ。
 副会長の竹内美園からは妙に好意を寄せられ、監査委員長・久米田郁乃や中央議会議長・神林朱鷺子からは生徒会へのスパイに誘われ、引く手あまたのひかげではあるが、狐徹からは信頼されていない様だし、キリカとはまともに話もできない。もう生徒会に関わるのはよそうか、そう思った時、彼は盗難事件の容疑者になってしまう。その時、彼の前に現れたのは、生徒会総務執行部探偵の腕章を首に巻いたキリカだった。

 お金を唯一の基準にして他人との関係を形にしようとするキリカに、普通の人は敬遠気味だ。生徒会役員たちは綺麗な華だが、高嶺の、つまりは摘むのに危険な華でもある。そこに巻き込まれ、持ち前のツッコミ力と率直さで彼女たちの、キリカの中に突っ込んでいくのがひかげなのだ。
 “探偵”がタイトルについているが、“詐欺師”といった方が良いかもしれないのは、「神様のメモ帳」の読者ならよく分かるかもしれない。イメージ的にはひかげが藤島鳴海で、キリカが「さよならピアノソナタ」の蛯沢真冬がキリカという感じかもしれない。つまりは、何かに絶望し、半ばあきらめながらも諦めきれない少女を、何者でもないと思っている少年が、他の誰にもできないやり方で道を示す物語なのだと思う。

剣の女王と烙印の仔 [

神々の戦いの終焉
評価:☆☆☆☆☆
 血反吐を吐く様な思いをして聖王都まで進軍し、アンゴーラの女帝アナスタシアに対抗するため、聖王国軍と和睦した連合軍だったが、それまでの仇敵同士が急に仲良く出来る訳もない。互いに思惑を抱えた探り合いが続く。もはや一刻の猶予も残されてはいないのに…。フランチェスカ・ダ・ザカリア・サン・ディキマ・エ・ベローナはまたも苦労を強いられることになる。
 王宮にてようやくクリストフォロ・エピメクスとミネルヴァ・サン・ディキマ・イ・フォルトゥナだったが、クリスは冥王オルトスの真名を封じる代償に、彼自身の記憶も失っていた。それどころか、まじりあったティベリウスの意識が暴走し、事態を混迷させる。

 ジュリオに助けられたシルヴィア、カーラなど、全ての役者が、神々の刻印が聖王都にそろう時、世界の行方に決着がつくことになる。

 色々なキャラクターに結末が与えられる訳だけれど、一番憐れな結末をもらったのはカーラかもしれないな。求めて求めて様々に画策をし時間を費やして来たのに、結局それは完全に死路であることを明確に突きつけられてしまうなんて、絶望以外の何物でもないかも。あれこそはまさに神の傲慢というべきか。
 正直言ってハッピーエンドと呼ぶのは憚られるが、人の身に過ぎた力を課されてしまった以上、求められる幸福にも限度があるのかもしれない。

シオンの血族 (3) 魔王ミコトと那由他の十字架

二千年の時の果てに
評価:☆☆☆☆★
 紫苑寺ミコトは、その身に上書きされていた万魔写本を、教皇ソフィアから生じた還肉機関のノウェムにより奪われ、聖痕以外の能力を失ってしまった。さらなる攻撃を避けるため、メイド長・藤堂冬子の計らいで、紫苑寺初音・有葉、和晃院静佳、ソフィアというミコトの妻全員で、南の島にバカンスに行くことになった。
 しかし、事態はその間にも急変していく。全地普遍教会は、廃教皇ベアトリーチェが全ての黒幕であることを知り、その制圧のために動き出す。だが同時に、第三帝国や英国、米国なども動き出し、世界各地は大混乱へと陥っていくのだった。

 正直言って、もはや収拾がつかなくなったとしか思えない展開になった。ポイントポイントでは杉井光の色が出るのだが、それと全体の設定、およびキャラクターの一部があまりにも合わず、どこか違和感が拭えない印象を受けてしまう。ミコトの周囲は杉井光っぽいのだが、そこから離れるほど別の色になっていく気がするのだ。
 まあしかし、何やかんやいいつつ、一応は集結した模様。でも、あまり成功だったとは思えない。特に巻が進めば進むほど。

神様のメモ帳 (8)

傷跡が疼き出す季節
評価:☆☆☆☆☆
 お〜、なんかアニメとリンクしてる!と思ったら、後書きを読めばそれもそのはず。第二章はそもそも、アニメ第一話の原案として書かれたものだったらしい。通りでラブホから窓を割って下着女子高生が落っこって来たりするわけだ。
 そんなわけで、分量的には短編2本と中編1本というところなのだが、表層で起きる出来事はそれぞれ違うのだが、柱となるものは共通する連作集となっている。

 第一章は、三代目!襲来。雛村壮一郎の父、雛村玄一郎と母、理佳子が登場する。平坂組からの依頼で雀荘でイカサマをやる雀熊を見つけるために借り出された藤島鳴海は、容疑者たちを見つける過程で、雛村一家の相続騒動に首を突っ込むことになる。
 第二章は、たまには高校へ。篠崎彩夏に引きずられていった学校で、鳴海は生徒会長・剣崎佳也子と監査委員長・鮎川千夏の相談を受ける。それは同級生の誰かが、援助交際をきっかけとした強姦未遂事件に巻き込まれているという。その解決を任されるのだが…。

 そして最終章。第一章、第二章で描かれた事件の背景にあった、一年前の事件の残照を追い払うための苦難の道。再び街にエンジェルフィックスが出回っているのだ。その製造元を突き詰めるため、各事件の加害者たちを問い詰めていくうちにつぶやかれる言葉、シュシュリ。
 鳴海は彩夏を巻き込まないために、四代目と義兄弟の杯を返し、四代目と敵対することを選ぶ。その結果としてニートたちがたどり着く場所とは?

 煮えきらず、どうすれば良いかを分かっていても、誰かに背中を押されなければ決断できないと言う鳴海の性格は一年前と何も変わっていない。しかし、その間に関わってきた事件、そして人たちのおかげで、彼が見知らぬ誰かからすらも頼られる存在となっていることは確かだ。そして頼られれば、それを断る決断すら出来ず、結局、自分を、周囲を傷つけながら出なければ、それを収束することもできない。
 それは、駄目なことなんだろうか?いや、そんなことはないと思う。自分には被害が出ないよう、見てみぬ振りをして無関心を決め込むよりは、ずっと勇気のある選択だ。そしてそれを知るからこそ、ニートたちは彼に最後の選択を託すのだと思う。

神様のメモ帳 (7)

絆のかたち
評価:☆☆☆☆☆
 勤労感謝の日。それはニートへの怨嗟が街に溢れる日であり、ニートたちは自分の部屋に閉じこもり、ユダヤの安息日のごとく、何もせずに過ごす。その日が過ぎれば、ニートにとっての新年が明けるのだ。
 そんな冬のある日、平坂組騒動のときに関わったバンドの人の依頼で、藤島鳴海はまたもや芸能人の依頼を受けることになった。そうして現れた夏月ユイ、本名を桂木結菜という少女は、ホームレスの男が、昔いなくなった父親かも知れないという。奇遇なことに、その人はテツ先輩の知り合いのギンジという男だった。

 借金があり工場が火の車だったという理由はあったのかもしれないが、妻と娘を捨てて愛知から東京へとやって来た桂木健司。もし仮にギンジがそうだったとしても、簡単に娘に会えるはずもない。しかし、父親と会って話をしたいという依頼を受けたアリスは、生者の問題ゆえにその解決を鳴海に委ねる。
 だが、その父娘の問題と同時に、ギンジたちホームレスたちが暮らす公園で、再開発による立ち退き要請と、改造モデルガンによるホームレス襲撃事件という、またもや別の問題が重なってきた。加えて、校舎の問題については、少佐こと向井均に心当たりがあるらしい。

 ニート探偵団を一時抜け、独自にホームレス襲撃事件の調査を進める少佐と、父娘の問題に取り組む鳴海。彼は少佐に関わろうとするが、少佐の強い拒絶で関わることができない。テツやヒロ、四代目やアリスたちも、少佐の意志を尊重し、全く関わろうとはしない。
 そうして日数が過ぎていくうち、少佐と鳴海の事件は、思いもよらないかたちで関わりあうことになる。

 同じニート探偵団に属している仲間のはずなのに、それぞれ個人の事情には深く立ち入らないニートたち。元々全く他人なのに、ホームがないという事情を共有しているがゆえに、互いの意志を尊重しようとするホームレスたち。
 ニートとホームレスは全く事情が違うし、背負っている重みも違うけれど、誰かに必要とされた時に手を差し伸べる気持ちは共通しているのかも知れない。それは彼らが互いの事情を知らないとしても、互いに置かれている環境を共有しているという意味で、つながっているからなのだろうか?

超越数トッカータ 小説すばる 2011年06月号

無限の音楽の中にある自分の音楽
評価:☆☆☆☆★
 蒔田シュンは、音楽業界では珍しくもなく、依頼をこなしてギャラを得ることでその日を暮らしている人間だ。その彼が作った曲「ロンド・アンジェルコ」がネットで評判になり、世界の歌姫・海野リカコの曲をダウンロード数で抜いてしまう。一日だけとはいえ。
 その当人、海野リカコにも曲の良さを認められ、有頂天になりかけるシュンだったが、それに冷や水を浴びせかける事態が起きる。その曲が、業界の大御所、瀧寺雅臣の曲のパクリだという評判がネットを駆け巡るのだ。

 かたや業界の大物、かたやギリギリ業界人、シュンは決して剽窃はしていないものの、事態の趨勢は火を見るより明らかに思えた。しかし…。


 最後には音楽版・無限の猿定理という感じの解決が図られる。ちなみに無限の猿定理というのは、猿が適当にキーボードを叩いていると、いつかはシェイクスピアの一小節も現れるという様な考え方。そこに、十二音階律と、数学と音楽の関係をミックスすると出来上がる感じ。
 登場するキャラクターの性格や、物語の展開の仕方、解決後の種明かしなどは、いつもの作者という気がした。

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剣の女王と烙印の仔 (7)

打開策が混迷を生む
評価:☆☆☆☆☆
 プリンキノポリ司教補マルマテオの命を賭した行動により、総大主教代行という地位につけられてしまったフランチェスカは、神の思惑に振り回される我が身を嘆きながらも、人として事態打開に臨むことを決意する。そしてミネルヴァも、フランチェスカの覚悟を知り、自身の覚悟を決めるのだった。
 一方、ミネルヴァと別れ、自分に巣くう冥王オルクスの真名を知るために、聖都を目指すクリストフォロの前に、ミネルヴァたちの師匠カーラが現れる。その圧倒的な実力の前に、クリスは初めて恐怖を抱くのだった。

 王太伯ティベリウス・ネロスにその身体の支配権を渡してしまったジュリオと、メルクリウス・エピメクスは、アンゴーラ軍の攻撃により行方不明になってしまった託宣女王シルヴィアを探すため、前線へ赴く。その戦場では、ヒエロニヒカに隠された秘密が明らかになるのだった。

 聖王国内での内戦、外敵の侵攻、天上の神々が地上にもたらした力。そんな各種要素が聖都めがけて収束していくのが今巻の内容だ。様々な立場の人間が、それぞれの持つ力を駆使し、自分にあるいは国に有利な未来を導こうとする。そんな思惑のぶつかり合いが生む、奇妙にねじれた展開を楽しみたい。
 ところで今回のイラストは、下からのアングルが多かった気がする。そのせいもあってか、全体的にキャラたちは幼く丸い印象になった。何か理由があるのかな?

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シオンの血族 (2) 魔王ミコトと九十億の御名

ぼけぼけ女教皇に地位を脅かされる有葉
評価:☆☆☆☆★
 紫苑寺ミコトに刻まれた魔名が御子の名だった、すなわち救世主が堕天使だったという事実は、世界中の情報機関に知れ渡った。元々それを知っていた全地普遍教会の司教枢機卿たちは、自分たちの信仰を護るため、神聖四文字計画を発動する。

 一方、魔名が開放されてしまい、神聖拒否反応のため姉の有葉と触れ合えなくなってしまったミコトは、魔名を増やしてまた触れ合えるようにするため、東京カテドラルのシスターたちに会いに訪れる。そこで出会ったのは、ローマ司教、主の代行者、首座使徒の継承者、全地普遍教会の統治者、イタリア半島の首座司教、教皇ソフィア・アングリクス・ビブリオテカリウス2世だった。

 神聖四文字計画の名の下に司教枢機卿たちがシスターたちに施す残虐な実験に心を痛めていたソフィアは、ミコトの誘いに乗って、紫苑寺家に来てしまう。そしてミコトの後宮に入るため、藤堂冬子や和光院静佳に指導を受けるのだった。

 もはやヴァチカンをどう敵にまわそうが知ったこっちゃないという展開。慣れちゃったのかもね。  もう一度、有葉とミコトが触れ合えるようにするために大層派手な展開になりつつも、万魔写本や還肉機関に関する物語も進んでいく。
 そして何とかまとまったかと物語が収束の気配を見せ始めたときに起きる破局。また次に向けての引きがされてしまったので、何とか早めに3巻を刊行していただければと思う。

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花咲けるエリアルフォース

ソメイヨシノが結び付ける少年少女
評価:☆☆☆☆★
 世界中のソメイヨシノが絶滅した日、4月8日に戦争は始まった。箱根を絶対防衛線として、この国を東西に分けた内戦は、周辺国の軍事供与の下、激化の一途を辿った。
 戦争が始まった日に両親を喪い戦争孤児となって各地を転々とする仁川祐樹に、一機の戦闘機と一人の少女が現れる。その戦闘機の名前は桜花。そして壱番機・初雪のパイロットである桜子から皇国空軍への召集令状を手渡された祐樹は、連れて行かれた靖国で、絶滅したはずのソメイヨシノが9本残っていることを知る。これらの樹は、あの絶滅の日に、ソメイヨシノを憐れんで泣いた少年少女たちの想いをアンカーとして、自分たちの時間を止めることで難を逃れたのだ。
 そしてその事実を利用して、一人の天才科学者によりつくられたのが桜花であり、そのパイロットに選ばれた一人が桜子であり、祐樹だった。

 同じ様にソメイヨシノに魅入られた少女たち。那須野佳織は開発者を父に持ち、吉田神楽は靖国で敵味方双方の戦没者たちを石に刻み、桜子は誰よりも重い責任に耐えている。そんな彼女たちの中で、祐樹は他に行くところがないという理由で戦いに臨むのだが、初めての実戦で、その重さを思い知らされるのだった。

 文章の雰囲気はいつもの杉井作品の通り。ただ、設定を見ても分かる通り、主人公ははじめの方に「逃げちゃダメだ」とか言いそうだし、ヒロインは「桜子と呼ぶがよい!」とか言いそう。世界観的には、自作飛行機を作ってどこかの塔に向かって飛んで行きそうな気がする。
 主人公とヒロインの関係性は作者のお約束であり、やたらと女性から可愛がられるというのもパターンとなっているので、そういう意味で面白いのは面白いのだが、あえてなぜこの設定なのかは疑問が残る展開になっている。

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神様のメモ帳 (6)

ニート探偵の本来の役割
評価:☆☆☆☆☆
 ラーメンはなまるにミンさんの従兄妹たちがやって来る。黄紅雷と黄小鈴と名乗る彼らは、ミンさんの父、花田勝が人を殺して逃げたという。黄家は中国マフィアのトップの家柄なのだ。
 その代償として、ミンさんに花嫁の身代わりをして欲しいという紅雷だが、そこにはなし崩しでミンさんを嫁にしようという意図があった。それに気づいたヒロは、散々逡巡した上で、アリスにそれを阻止する依頼をする。

 ネットの海に生きるニート探偵、アリスですらも容易に足取りをつかめない、花田勝の動き。そうかと思えば、タイミング良く連絡を入れてきて、捜査の行方を誘導しようとする。一方で、本職のマフィアの前には、藤島鳴海の詐欺師めいた話術も、四代目の暴力も通用しない。
 このままだと娘がマフィアの嫁になってしまうというのに、まったく見えてこない花田勝の目論見。アリスが明らかにする真相には、娘を思う不器用な父の生き方があった。それなのに、事件を収束させるために取った手段は、非常にジゴロ的という正反対さ!

 短編で、ヒロの師匠でありアリスの大叔父でもある紫苑寺吾朗が登場する、「ジゴロ先生、最後の授業」も収録している。長編の流れで読むと、面白さは倍増するかもしれない。

 ところで花田勝の経歴って、どこか南雲慶一郎を彷彿とさせる印象があるなあ。

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終わる世界のアルバム

失われていく世界で、それでも失いたくない想い
評価:☆☆☆☆★
 いつの頃からか世界に黒点病と名付けられた症状が現れて、人が死ぬと消えてしまい、生きている人の記憶からも失われてしまう様になった。そして時々、生きている人も突然消えてしまい、誰も覚えていない。マコトと呼ばれるぼくを除いては。ぼくが銀塩フィルムで撮った写真に写っている人の記憶は、ぼくからは消えてなくならない。でも別に悲しくはない。世界はそういうものなのだから。
 父母も消えてしまい、隣家のクラスメイト莉子とその母の恭子さんに養ってもらいながら、時々教室から減っていく机を見に中学に通い、夕方の記念公園で海賊放送のラジオを聞く。周辺が立ち入り禁止区域だらけになり、人も減った東京だから誰にも邪魔されないはずだった。
 そんなある日、ぼくは教室に机がひとつ増えているのに気づく。その席にいたのは、水島奈月という少女。ぼくも名前だけしか覚えていない少女は、特に知り合いでもないはずなのに、なぜか気になってしまう。

 人は何を持って世界にその爪あとを残すのだろう。名前?作品?姿かたち?思い出?でもそれは、誰かが覚えていてくれなければ、何もないのと同じだ。残った爪あとも、いつか風化して消え去ってしまう。
 そんな世界で消えてしまったものを忘れられない少年。そしてその少年にすら忘れられてしまった少女。穏やかに失われていく世界で、それでも失いたくないものがそこにはあるだろう。

 終末モノは、誰が書いても大体同じ感じになるのかな?

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剣の女王と烙印の仔 (6)

頑張れパオラ、負けるなジュリオ
評価:☆☆☆☆☆
 王配候ルキウス・グレゴリウスとの戦場をパオラに任せ、フランチェスカは新たな総大主教を決定するコンクラーベが開催されるプリンキノポリへ向かう。そしてマルマテオ司教補との再会がフランチェスカに新たな戦場と苦い敗北を与えることになる。
 一方、戦場を任されたパオラは、限られた選択肢の中で精一杯の采配を見せていた。そんな中、ギクシャクした気持ちを抱えたままのミネルヴァと、彼女から距離をとるクリス。しばしの猶予を経て、彼らにも決戦の時が訪れようとしていた。

 その頃、アンゴーラの急襲によって行方不明となった託宣女王シルヴィアを救うため、最悪といっても良い決断をしたジュリオは、意を決して王配候ガレリウスに面会する。
 全土に広がる戦場、目まぐるしく入れ替わる敵と味方、そして接近する神々と人の世界。急激な刻印の力の増大は、これまでとは違う力を地上に招くことになるのだった。

 パオラが健気にひたむきに頑張っているころ、フランは直面した事実に弱音を吐きそうになってしまうし、ジュリオは本当に無残なことになってしまう。また、ミネルヴァがグルグル自分の考えに囚われてしまっている間に、クリスは正面突破でいつの間にか自分の答えにたどり着いたみたい。そんな感じで、新たな役者が新たな舞台に配置されていく。
 内戦の方向性も見えてきたところで、外敵アンゴーラとの戦いや、これらの戦いの背後にある神々の力を巡る争いに焦点はシフトしていく模様。もはや神々の代理戦争の様相を呈してきた。

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剣の女王と烙印の仔 (5)

役者たちが決戦の舞台に上がる
評価:☆☆☆☆★
 冥王オルクスの力が取り戻されていくのと呼応するように、急激に高められていく全ての烙印の力。その時を待ち望んでいたかのように、聖都では王太伯や大院司が、そしてそこから遠く離れたアンゴーラでも、テュケーの血を求めた策動が本格化していく。
 本国へと戻ったニコロ、未だ黒薔薇章を外すことのないジルベルト、そして、テュケーとオルクスに翻弄されるミネルヴァとクリストフォロ。緩やかにバラバラになって行くかの様に見える銀卵騎士団は、コンクラーベ出席により、絶対的指揮官のフランチェスカまでも軍団から欠くことになる。その隙を突く、王配候ルキウス。
 一方、シルヴィアを護り、無益な戦いを止めさせるため、一つの決断をしたジュリオの下にも危機が迫っていた。明らかにされる、テュケーの女神の真の力とは何か。

 本当の戦いが始まる前の、役者たちが決戦の舞台に上がる前哨戦という感じがする。だから、前巻の様な派手な戦闘はあまりなく、その分、各所で繰り広げられる出来事の描写が多い。複数に分かたれた流れが時の果てに一つに集まる。その時は次巻以降に訪れるだろう。
 シリアス成分が多い代わりに、ほんわか分やいちゃいちゃ分は少なめ。

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神様のメモ帳 (5)

大人率が高めの短編集
評価:☆☆☆☆☆
 短編集なので普段はメインに来ないような人をメインに、ということなのかもしれないが、エピソードの中心にいる人の大人率が高め。ミンさんや彼女の同級生二人(酒屋&ゲームセンター)に巻き起こる事件への、ニート探偵の活躍が描かれる。

 ミンさんの狙われたさらしとはなまるの新作スープの関係にまつわるエピソード「はなまるスープ顛末」、近所の酒屋さんで起きた異物混入事件とその背景にある人の想いを描く「探偵の愛した博士」、四代目不在の平坂組にかかってきた脅迫電話から始まる「大バカ任侠入門編」の既出短編3本とと書下ろしが1本。
 この書下ろしが、アーケード型ネットワーク対戦野球ゲームを巡って起きるヤクザとのリアル野球対戦に関する話なのだけれど、最後にきちんとネットワークゲームに話がつながっておさまるところがきれいだった。あと、過去に登場したヒロインもちょこっと登場するしね。

 新聞に載るような大きな事件ばかりではないけれど、そこに関わる人たちにとっては人生を左右するような大きな事件であって、その助けを求める小さな声に応えるところにニート探偵の価値がある。
 どうしようもない状況だと思っても諦めずに探せば、ギリギリ切り抜けらられる細い道はどこかに残されているのかもしれないと思えるストーリーだ。

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シオンの血族 (1) 魔王ミコトと千の花嫁

人に混じった吸血鬼の物語
評価:☆☆☆☆★
 キリスト教の背景があるという意味では『さくらファミリア!』と類似しているけれど、2点ほど大きく違う。1点は第二次世界大戦期の様な国際情勢にあるということ。オカルトを利用した兵器が利用されているのは現実とは異なるけれどね。
 もう1点は、主人公がハーレムを目指しているということ。ハーレムになってしまう訳ではなく、目指している。杉井作品におけるこの違いは、かなり大きい。主人公の少年がいつものヘタレっぽい感じではなく、通常ならお姉さんポジションの人が常備している性格をしているのだ。世界中の女は俺の嫁というのが基本のスタンスで、女と見れば手当たり次第に手を出すのだけれど、決める時はきっちり決める。つまり、変な表現だが、主人公をヒーローにしようとしている、という感じなのだ。

 メディアミックスを前提とした企画らしく、巻頭のイラストには本文中に影も形もない人も登場していたりする。初めから最強に近い能力を持たされた紫苑寺ミコトは、杉井流にどう料理されていくのか。それが楽しみだ。

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剣の女王と烙印の仔 (4)

背中で感じるのではなく、正面で向き合うように
評価:☆☆☆☆☆
 寡兵で大軍を破るという大戦果を挙げてしまった銀卵騎士団。周囲はフランチェスカを聖女と崇め、大勝利に狂喜しているが、騎士団の中核たる指揮官と近衛の面々の顔色は優れない。
 全ての罪を一人で背負うかのごとく、自らの身を省みず外交・軍略に没頭するフランチェスカ。そんなフランチェスカを気遣いつつも、どう接してよいか分からないパオラ。内から染み出して来る死者の声に翻弄され沈み込むクリス。
 だが、そんな状況の中で、フランチェスカの側に控えているべきジルベルトは、剣審院の召還に応じ、彼女の下を離れて行ってしまう。そして、その姿をくらませてしまったニコロも…。
 一方、聖王国側では、ジュリオの罪を問うべく審判の時が迫っていた。彼を助けるために暗躍するカーラ。圧倒的な力で振るわれる、その剣の切っ先はいずれの方を向くのか。

 前巻は大規模な市街戦がメインでしたが、今回はその後遺症のお話がメイン。今回の件で大きな変化を見せたのは、実はミネルヴァとシルヴィアでしょう。
 テュケーの血脈に縛り付けられている二人は、本質的なところでその血がもたらすもの、託宣や女王という地位を嫌っています。その束縛から逃れようとして、王城から逃げ出したり、心を殺したりする。でも決して逃れることはできない。今回は、それを受け入れて、だからこそできる事があるのだ、という瞬間が二人に訪れたのかもしれません。

 表紙を初めて見たときは背景が真っ白で寂し過ぎるかなと思ったけれど、本文を読んだ後ではピッタリ合っていると思えました。

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すべての愛がゆるされる島

二重三重に煙に巻く
評価:☆☆☆☆★
 新創刊されたメディアワークス文庫。”電撃文庫で育った大人たちに贈る”という、ある意味あいまいなコピーに、うまいこと合わせて来たなあという感じがする。さすがに器用ですね。
 だからと言うべきか、「神様のメモ帳」「さよならピアノソナタ」の様に、ちょっと情けないけれど今後の伸びしろに期待が持てる少年、みたいな存在は出てこない。何というか、既に伸び切ったけれど、その不完全さをもてあましている様な大人(あるいは大人未満)が登場する。

 赤道直下にある、地図にも載せられていない島。その断崖には古い教会があり、そこを訪れる二人がどのような関係であろうと、本当に愛し合っていさえすれば、許され祝福されるという。
 父と娘、姉と弟。二人の間にある関係性を愛と名づけるため、あるいは愛を形付けるための関係性を求めるために島を訪れる。
 多分単純なことなのだけれど、色々なしがらみがそれを本質からずれさせる。そのずれは社会を成立させるために必要なのだけれど、その必要性は物語を重ねていくうちに曖昧になって、最後には煙に巻かれてしまう。

 文中のたとえ話は等価原理っぽいけれど、作用反作用の法則は、内側でどんな力が働いていても外には影響を及ぼさない、ということを示している。これを二人の関係に敷衍すると、周囲からは普通に見えていても二人の間にはどんな関係が起きているかは分からない、ということになるだろう。言い換えれば、二人の間にあるものは、二人の間だけで意味がある、ということになるのかも知れない。

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剣の女王と烙印の仔 (3)

奇策と超人技のコンボ
評価:☆☆☆☆☆
 一万の聖王国軍を破り大教会を解放したものの、デュロニウス率いる二万の軍勢と遠征軍一万に包囲され、味方の軍勢に連絡を取ることもできずに孤立した銀卵騎士団。クリスを引き渡せばプリンキノポリは攻撃しないというデュロニウスの言に踊らされ、市当局と自警団はクリス狩りを始める。地下の一室に息をひそめて閉じこもるクリスとミネルヴァ。
 一方フランチェスカは、ニコロの力を借りつつ、起死回生の一手を放つための準備を始めていた。

 クリスが腹を決めて自分の道を選ぶという、作品的に大きな転換点になっていると思うのだけれど、クリスやミネルヴァのいちゃいちゃ描写よりも、フランチェスカの指揮官としての苦悩を描くのに紙幅が多く割かれているように感じた。
 戦況を考えれば指揮官の描写が増えるのは当然と言えば当然なんだけれど、少し意図的に増やされているような気もする。巻末もフランチェスカのイラストだったし。アンケート結果の影響かな?

 オルクスとテュケーの関係や烙印の役割、託宣女王の血に潜む力、そして他国の存在としてアンゴーラが明らかになり、物語の支柱がはっきりするとともに、世界も広がっていく気配を見せている。死を喰らう力を受け入れて、ミネルヴァと共にいることを選択したクリスには、次にどのような舞台が用意されるのだろうか。
 そうそう、ついにミネルヴァたちの剣の師匠、カーラ先生が登場しました。

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さよならピアノソナタ encore pieces

いつか再び、違うかたちで出会うまで
評価:☆☆☆☆☆
 アンコールなので、盛り上がった熱をいや増すように、あるいは穏やかに冷まして日常に戻すかのように、メインキャラクターたちを主役とする小品が5編まとめられている。
 真冬と直巳の結婚と絡めた、音楽家の愛の証にまつわる話や、神楽坂の情熱の火が灯された瞬間の話も良いのだけれど、ここはあえて、千晶とユーリの話にふれたい。

 ベースとドラムスはリズムセクションであり、バンドを疾走せる原動力でもあるらしい。そしてその片足である直巳がいなくなってからも、千晶は変わらずリズムを刻み続けて来た。
 一見すると千晶の話は、フェケテリコの新人ベーシスト橘花をメインとする話にも見える。でもこう考えると、何があってもひたむきに進み続け、傍らにある者へ前に進む力を与えられる千晶の凄さを表している話なのかも、と思った。

 ユーリは人を惑わすいたずら好きの妖精みたいな感じで、どこまで本気なのかよく分からないように感じる部分もあったけれど、少なくとも音楽に関しては本気なのだなと思った。自分の気の赴くままに演奏しているようでありながら、本当は何を求めているかよく分からない。
 そんな彼を導く恩師、ルビンシテイン教授の存在はたぶん大きい。この教授は、たった2回、それも手紙という古き良き意思疎通媒体でしか登場しないのだけれど、その率直な語り口は、彼を負のループから救い出す一助になったことだろう。
 でもやっぱり演奏は、特定の誰かに向けたものも良いけれど、万人に向けて供される方がうれしいな。だってその誰かにボクがなることはなさそうだから。

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剣の女王と烙印の仔 (2)

制御できない力と制御しようとする意思
評価:☆☆☆☆☆
 日本国内での久しぶりの皆既日食が話題になったのは最近のこと。現在では太陽が月の影に入る天文現象として受け入れられている皆既日食ですが、そんな事情を知る由もない古代の人たちは、天変地異の一つとして恐れていたことでしょう。日本では天岩戸に天照大神が隠れた、北欧ではフェンリルが太陽を食べて世界が終わる、などという伝承からもそれは明らかです。
 この恐れは、自分の力では制御することが出来ない現象に対して感じる感情です。しかし、人間の凄い所はこの恐れを恐れのままにしなかったことでしょう。避ける事が出来ない現象ならば何時起きるのかを知ろうという事で、暦や天文の技術が発展していったのでしょうし、ついにそれは人間を月に運ぶことまで成功させてしまったのです。

 この作品でクリスが感じる恐れは、自分の中に存在する得体の知れない力に対するものです。その力は戦場において無類の力を発揮しますが、向かう先に敵味方の区別はなく、引き起こされる結果に彼は打ちのめされることになります。もう一人の主人公であるミネルヴァにしても、自らの死を予知するという制御できない力に己の行動を左右されます。
 一方で、彼らを庇護するフランチェスカが振るう力は人為の力です。知略を巡らし物資を整え人心を掌握して、戦場での勝利を自分のものにします。クリスやミネルヴァの人外の力でさえ、その内側にとどめ利用しようとするのです。

 物語は、銀卵騎士団が包囲殲滅の大ピンチを迎えるところで終わります。クリス達の力が何に起因するかも何となく明らかになって来ました。次々におきる難題を如何に攻略して最善の地点に着地することができるのか、今後の展開が楽しみです。

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神様のメモ帳 (4)

自分ひとりなら何とか生きられる。でも、誰かの人生まで背負って生きるのは楽じゃない。
評価:☆☆☆☆☆
 自分から見ると明らかに苦境に陥っている他人がいる。それを助けるのはやさしさである、というのは常に成立する命題ではない。それが対等(だと思っている)関係であればなおさらだ。なぜなら、相手にだってプライドはあり、苦境から抜け出すことがプライドを失うことより価値があるかどうかは本人にしか分からないことだから。
 ゆえに、相手が助けを求めるまで助けない、というのは十分に納得のいくルール。しかし、このルールは頑なに守り続けなければならないものではない。だって、相手に確かめても良いのだから。助けようか?って。

 ニート軍団にありながら実は全然ニートではない、雛村壮一郎と平坂組のお話。インディーズバンドのプロモーションという仕事に駆り出された藤島鳴海が出会う、過去の記憶。テツの時と同じように、誰かのために作られた真実が誤解を生み、結果として絆が壊れそうになる。
 鳴海は自分の生き抜ける社会の隙間を見つけた感がある。壮の事業も含めて、現実の写像のように見えなくもない。だから今回は、初めから最後まで、鳴海が頑張って働いています。…ニートじゃねぇ。

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剣の女王と烙印の仔 (1)

自らの死を見る少女と、死をまき散らす少年の出会い
評価:☆☆☆☆★
 西洋風ファンタジーということで作者の最近の傾向とは少し違う作品なのかな、と思い読み始めたのだけれど、キャラクター的な面では「さくらファミリア!」などの近作を踏襲している。
 戦場にあって鎧も身につけず、踊り子の様な服装で大剣を振るうミネルヴァと、獣の烙印による殺戮衝動に怯えるクリストフォロ。そして彼らを保護下に置く、フランチェスカやその近衛たち。無意識に勘違いさせるような発言をすればそれに過敏に反応し、彼らにちょっかいを出して楽しむお姉さん役がいるという構図は、まさに「さくらファミリア!」そのもの。

 一方で、託宣を下す女王の下で貴族や神職が実権を握るという政治体系や、女王の力をめぐり争いが起きるという構造は、「火目の巫女」に通じるものも感じる。人気作の良いところを取り入れつつ、あえてこの道を進もうということは、異能ファンタジーを書きたいという強い希望が作者にあるのかも知れない。
 問題は、そういう方面の作品を書くと何故かダークサイドに落ちる確率が高いということだろう。今回は何とかバランスを取り、プラスマイナスゼロに止めた感じだが、今後はどちらに傾くのか分からない。最近の、プラス思考、ハッピーエンド思考に傾きつつある流れの勢いを借りて、このシリーズも完結まで突っ走って欲しいと思います。

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さくらファミリア! (3)

契約の力ですべてを取り戻す
評価:☆☆☆☆☆
 前巻のラストで天界に連行されてしまったガブリエルを救出するため、天界に乗り込もうとする祐太たち。天界への扉を開く鍵を持つはずのペトロは生活苦のために聖痕をヨハネに売り払ってしまったので全くの役立たず。そのヨハネもロックにハマった永遠の高校二年生を名乗っており、こちらも問題ありの予感。
 様々な困難を乗り越えてたどり着いた天界は、いろんな意味でひどいありさま。ガブリエルが天使の特殊事例でなかったことが明らかになり、天国に希望を抱いている信仰者はショックを受けざるを得ないでしょう。そして、ガブリエルたちが審判により裁かれそうになった時、レマの取った行動は。。。果たして彼らは再び家族に戻れるのか。

 ストーリー的に前巻から引き続いているので、祐太が最初から結構真面目に活躍します。いつもは後半にならないと頑張ろうとしないのにね。あとは、主役の女の子も前半と後半で入れ替わります。これまでの流れからいって大体予想がつくと思いますけれども。
 執筆時期が近いこともあり、他社で刊行された作品とかぶる要素があったりもするのですが、それすらもネタにして笑いを取りに行く開き直りが面白いと思います。何かをふっきって心の赴くままに筆を進めている気がします。

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ばけらの! (2)

池袋で作家をやりたくなるお話
評価:☆☆☆☆☆
 エム、亜里沙、そして新作家鴻池ジンをそれぞれ中心とする3話と、クリスマス・イブのおまけで構成されており、新たにお屋形さまを名乗る、最近8年ぶりの新シリーズを出した他レーベルの作家も登場しています。
 沖縄旅行の空席争いがラーメン対決になりプロ顔負けのスープへのこだわりを見せだしたり、せっかくの沖縄で仕事をしていたらサイコロトークになったり、陰陽や五行ネタを引っ張って池袋を魔窟にしてしまったり、当初の目的からずれた方向で話が盛り上がっていく。あなたのご職業はなんでしたっけ、という感じで趣味に命をかけて生きる姿は、真面目に締め切りを守っている作家からはヒンシュクを買いそう。でも、とても楽しそう。
 個人的には冒頭の掛け合い漫才のような会話と、"いいとも"できれいに落としたあたりが好き。

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さよならピアノソナタ (4)

かけあう旋律
評価:☆☆☆☆☆
 題名の元となっているベートーヴェンのピアノソナタ「告別」は、彼の弟子でありパトロンでもあったルドルフ大公が、ナポレオンのウィーン侵攻にあたり疎開し、撤退後に帰還した事件に基づき作曲されたものだという。ゆえに、第1楽章の告別に始まり、第2楽章不在、第3楽章再会と続く。つまり、事前にルドルフ大公との出会いがあったことを考慮すると、二人が出会い、共に語らい、別れ、失意の内に過ごし、再会するという物語を表現していると見ることも出来る。まさにこの作品は、直巳と真冬のそんな物語だった。

 もうすぐ真冬の誕生日とクリスマスがやってくる。直巳はついに決心した。プレゼントと共につたえていない言葉を贈ることを。クリスマスライブのペアチケットを購入し、真冬に渡そうとするものの、響子には当日にライブイベントをぶつけられ、千晶の行動に翻弄され、上手くいかない。しかし、ようやく二人で誕生日を祝うことになり、プレゼントのお返しとしてもらったユーリと録音中のヴァイオリン協奏曲のサンプル音源を聴いている時に、重大な事実を発見してしまう。
 突然に訪れる別離。自分たちの努力ではどうしようもない現実。絶望の中でフェケテリコを、真冬が帰ってくる場所を守る決心をした直巳と、旅立つ真冬。二人に再会の日は訪れるのか。

 これは別離と再会の物語であると共に、音楽と出会い、絶望し、希望を見つけ再生する物語でもあったと思う。一つのことに打ち込んできてそれが叶わない事がわかったときの絶望は、ボクにも少し分かる。でも、失ったからこそ到達した場所もある。そんな場所にいるということを自覚できるかどうかが、立ち直るポイントだろう。そういう意味で、音楽家と音楽評論家という二人のポジションは、含意が深いように思う。
 個人的には、神楽坂先輩がナオに言ったセリフの一節が、ボクの想いと重なって、とても良かった。

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ばけらの!

実感がこもっているから余計に面白い
評価:☆☆☆☆★
 杉井光というライトノベル作家の視点で、周辺に生息するラノベ作家(ただしみんな人間じゃない)の生態を観察する物語。一話完結形式で、メインとなる作家を決めて、その人物にまつわるストーリーを展開する。第一話・葉隠イヅナ、第二話・神無月つばさ、第三話・風姫屍鬼、第四話・杉井光。
 ストーリーはフィクションだと思うけれど、作家のモデルは実在するらしいので、準メタ小説といっても良いと思う。彼らの日常から仕事を引いた部分を、たらたら書いているだけなんだけれど、妙に実感がこもっている部分もあって、何か楽しい。モデルの存在は無視して、純粋に作品を楽しんだ方が良いように思います。

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さくらファミリア! (2)

危うく最後の審判
評価:☆☆☆☆★
 またまた三十銀貨財団から嫌がらせとして、聖霊入りの小包が送られてくる。無理やり神からひっぺがされて弱っていた聖霊は、エリと同化して何とか生き延びる。ほっと一息ついたのも束の間、子の状況を利用してフィリオクェ問題(※1)に決着をつけ、聖書の売上を伸ばそうとペトロの生まれ変わりが乗り込んでくる。ペトロの外道っぷりには、一同振り回されっぱなし。

(※1)聖霊が父に帰属するのか、子にも帰属するのかという論争。ローマカトリックは後者の説を取る

 祐太がユダの記憶を取り戻す際の、イエスから想いを託される回想シーンは、ちょっと甘美的。最後に風雲急を告げる展開が待っています。次回の舞台は天国になるのかな。

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さくらファミリア!

三十億人を敵に回しても大丈夫!
評価:☆☆☆☆★
 オカルト作家にして魔術師?の父が、莫大な借金を祐太に押し付けて失踪した。しかも借入先が闇金よりも性質の悪そうな三十銀貨財団。なんでも、イスカリオテのユダがイエスを裏切った際に得た銀貨三十枚を資本金として設立されており、神や悪魔など、普通のところからは借りられないものに貸付を行っているらしい。しかも、祐太はそのユダの生まれ変わりだという。驚く間もなく、借金をチャラにするため設立者を殺しに来たイエスの生まれかわりのエリとレマ(なぜか女の子でしかも双子)、巨乳美女のガブリエル、ロリっ子のルシフェルが、次々と祐太の家に押しかけてきた。なんだか良く分からないうちに、祐太のハーレム生活が始まる!
 状況はハーレムなんだけれど、祐太の性格が負け犬根性90%配合なので、エロい展開にはなるのだけれど、完全にはエロエロにはならない。主人公の性格だけでいうと、「神様のメモ帳」「さよならピアノソナタ」とほぼ同じ。
 一味違うのが、題材が題材だけに、キリスト教ネタが散りばめてあること。真面目なキリスト教徒が見れば怒るのかもしれないけれど、イエスが女だったとすることで、宗教画にあるユダがイエスにキスするシーンを説明したり、神学論争になるマタイ福音書と使徒言行録のユダの死因の矛盾を絡めてみたり、普段キリスト教について全く考えない人にとっては、興味を持つ機会になるかもしれない。…難しいかもしれないけど。
 あほらしいかも知れないけれど、生まれ変わっても続く愛なんて、もてない男の願望を形にした作品かもしれない。

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さよならピアノソナタ (3)

とりあえず進んでみる
評価:☆☆☆☆★
 もどかしいっ!とにかく色々もどかしい!
 自分が望む姿と他人から見た姿は、検証は不能だけれど、大分違うのだと思う。他の誰かがすごいと思うことだって、自分の理想からズレていれば、コンプレックスのもとにもなってしまう。ナオミの音楽の才能というヤツも、おそらくそういう種類のモノなのだろう。しかし、こういうモノは、ある瞬間突然に、自分を支えるモノになることもある。やはり、そういうものを持っているヤツは偉大だ。
 それなのに。それなのに!自分の足で大地に立てる能力を持っているのに、うじうじ悩んで閉じこもってしまうなんてもったいな過ぎる!この本を読みながら、ナオミが現実にいたら背中を蹴飛ばして進ませたいと思ってしまった。お前は何を悩んでいるっ!
 そんな感じで、後半の文化祭ネタはちょっと間延びしすぎな感じがしました。逆に、合唱コンクールネタはエネルギーを感じてよかった。イラストにも力が入っていました。

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神様のメモ帳 (3)

世界は言葉でつながっている
評価:☆☆☆☆★
 1巻が彩夏がナルミを世界に呼び込もうとする話だとすれば、3巻はナルミが彩夏を世界に引き戻そうとする話と言えるかな?園芸部と温室という同じ設定を使って、違う事件を組み立てるのは結構面白いと思う。これをもって本当の意味で1巻の事件は完結する。
 ドタバタして、痛い目にもあって、自分の世界を守ろうとして他人が守ろうとした世界に手を掛けたりするんだけれど、結局、自分の想いを相手に伝えるには言葉しかないんだ、と気づいたナルミは、一つ成長したのだろうか。
 ニートが活躍する話のはずなんだけれど、今回のメインはどう見ても学生だよ…

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