さよならピアノソナタ (4)(杉井光)の書評/レビュー


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さよならピアノソナタ (4)

かけあう旋律
評価:☆☆☆☆☆
 題名の元となっているベートーヴェンのピアノソナタ「告別」は、彼の弟子でありパトロンでもあったルドルフ大公が、ナポレオンのウィーン侵攻にあたり疎開し、撤退後に帰還した事件に基づき作曲されたものだという。ゆえに、第1楽章の告別に始まり、第2楽章不在、第3楽章再会と続く。つまり、事前にルドルフ大公との出会いがあったことを考慮すると、二人が出会い、共に語らい、別れ、失意の内に過ごし、再会するという物語を表現していると見ることも出来る。まさにこの作品は、直巳と真冬のそんな物語だった。

 もうすぐ真冬の誕生日とクリスマスがやってくる。直巳はついに決心した。プレゼントと共につたえていない言葉を贈ることを。クリスマスライブのペアチケットを購入し、真冬に渡そうとするものの、響子には当日にライブイベントをぶつけられ、千晶の行動に翻弄され、上手くいかない。しかし、ようやく二人で誕生日を祝うことになり、プレゼントのお返しとしてもらったユーリと録音中のヴァイオリン協奏曲のサンプル音源を聴いている時に、重大な事実を発見してしまう。
 突然に訪れる別離。自分たちの努力ではどうしようもない現実。絶望の中でフェケテリコを、真冬が帰ってくる場所を守る決心をした直巳と、旅立つ真冬。二人に再会の日は訪れるのか。

 これは別離と再会の物語であると共に、音楽と出会い、絶望し、希望を見つけ再生する物語でもあったと思う。一つのことに打ち込んできてそれが叶わない事がわかったときの絶望は、ボクにも少し分かる。でも、失ったからこそ到達した場所もある。そんな場所にいるということを自覚できるかどうかが、立ち直るポイントだろう。そういう意味で、音楽家と音楽評論家という二人のポジションは、含意が深いように思う。
 個人的には、神楽坂先輩がナオに言ったセリフの一節が、ボクの想いと重なって、とても良かった。

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