すべての愛がゆるされる島(杉井光)の書評/レビュー


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すべての愛がゆるされる島

二重三重に煙に巻く
評価:☆☆☆☆★
 新創刊されたメディアワークス文庫。”電撃文庫で育った大人たちに贈る”という、ある意味あいまいなコピーに、うまいこと合わせて来たなあという感じがする。さすがに器用ですね。
 だからと言うべきか、「神様のメモ帳」「さよならピアノソナタ」の様に、ちょっと情けないけれど今後の伸びしろに期待が持てる少年、みたいな存在は出てこない。何というか、既に伸び切ったけれど、その不完全さをもてあましている様な大人(あるいは大人未満)が登場する。

 赤道直下にある、地図にも載せられていない島。その断崖には古い教会があり、そこを訪れる二人がどのような関係であろうと、本当に愛し合っていさえすれば、許され祝福されるという。
 父と娘、姉と弟。二人の間にある関係性を愛と名づけるため、あるいは愛を形付けるための関係性を求めるために島を訪れる。
 多分単純なことなのだけれど、色々なしがらみがそれを本質からずれさせる。そのずれは社会を成立させるために必要なのだけれど、その必要性は物語を重ねていくうちに曖昧になって、最後には煙に巻かれてしまう。

 文中のたとえ話は等価原理っぽいけれど、作用反作用の法則は、内側でどんな力が働いていても外には影響を及ぼさない、ということを示している。これを二人の関係に敷衍すると、周囲からは普通に見えていても二人の間にはどんな関係が起きているかは分からない、ということになるだろう。言い換えれば、二人の間にあるものは、二人の間だけで意味がある、ということになるのかも知れない。

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