終わる世界のアルバム(杉井光)の書評/レビュー


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終わる世界のアルバム

失われていく世界で、それでも失いたくない想い
評価:☆☆☆☆★
 いつの頃からか世界に黒点病と名付けられた症状が現れて、人が死ぬと消えてしまい、生きている人の記憶からも失われてしまう様になった。そして時々、生きている人も突然消えてしまい、誰も覚えていない。マコトと呼ばれるぼくを除いては。ぼくが銀塩フィルムで撮った写真に写っている人の記憶は、ぼくからは消えてなくならない。でも別に悲しくはない。世界はそういうものなのだから。
 父母も消えてしまい、隣家のクラスメイト莉子とその母の恭子さんに養ってもらいながら、時々教室から減っていく机を見に中学に通い、夕方の記念公園で海賊放送のラジオを聞く。周辺が立ち入り禁止区域だらけになり、人も減った東京だから誰にも邪魔されないはずだった。
 そんなある日、ぼくは教室に机がひとつ増えているのに気づく。その席にいたのは、水島奈月という少女。ぼくも名前だけしか覚えていない少女は、特に知り合いでもないはずなのに、なぜか気になってしまう。

 人は何を持って世界にその爪あとを残すのだろう。名前?作品?姿かたち?思い出?でもそれは、誰かが覚えていてくれなければ、何もないのと同じだ。残った爪あとも、いつか風化して消え去ってしまう。
 そんな世界で消えてしまったものを忘れられない少年。そしてその少年にすら忘れられてしまった少女。穏やかに失われていく世界で、それでも失いたくないものがそこにはあるだろう。

 終末モノは、誰が書いても大体同じ感じになるのかな?

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