楽聖少女 (2)(杉井光)の書評/レビュー


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楽聖少女 (2)

表現する苦悩
評価:☆☆☆☆☆
 悪魔メフィストフェレスによって十九世紀のウィーンに、中年ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテとして連れて来られた二十一世紀の高校生ユキは、《ファウスト》にまつわる自分の名前を取り戻し、魔術師として覚醒したかに思えた。しかし実際は、どうやったら魔術を使えるのか分からないし、ゲーテとしてどう作品を書いたらよいのかも分からない。
 一方、ルドヴィカ・ファン・ベートーヴェンは、着想した新たなピアノソナタを弾くことが出来る未だ存在しないピアノを求めて、ピアノ製作者のナネッテ・シュトライヒャーに依頼をしていた。ルゥの大ファンであるナネッテは、ルゥを手なずけるユキに敵意を燃やしながら、他の全ての仕事を擲って新たなピアノを作ろうとするのだが、戦火にあるヨーロッパでは、参考としたいピアノを手に入れることもままならない。

 そしてついに、ナポレオンがウィーンへと攻め込んでくる時が来た。皇帝フランツはウィーンを逃げ出し態勢を整えようとするのだが、ルゥはウィーンを離れようとはしない。それどころか、ナポレオンを招待し、交響曲《ボナパルト》を聞かせようとする。
 ところが、サリエリがとりまとめるウィーン楽友協会に依頼しても、会員が雇用者である貴族に従って疎開しようとしているため、楽団員が集められない。だが運良く、フランツ・ヨーゼフ・ハイドンの弟であるミヒャエル・ハイドンが師範を務めるザルツブルク闘魂烈士団と師範代カール・マリア・フォン・ヴェーバーの手助けを得られることになる。彼もまた、悪魔ザミエルの契約者だった。

 なぜか第二十二番目のピアノソナタとなっているピアノソナタ第二十三番ヘ短調《熱情/アパショナータ》にまつわる物語。未だ存在しない音を求めて彷徨う少女二人と、いかにしてゲーテになるかという問いを立てて迷宮に入り込む少年、そして悪魔に魂を売ってでも自らの求めるものを得ようとする青年たちが登場する。
 ハイドンが格闘家だったり、皇帝アレクサンドルがバイだったり、全体的にコメディの雰囲気を漂わせる設定の中、ナポレオンだけが殺気と虚無に満ちた空気を纏って登場するのが異質だ。この異質さがユキとどうか関わって来るのかが、このシリーズの中心になるのだろう。

 それと同時に、作家としてどうあるべきかという自分の形を見つけつつあるユキの姿には、作者の心情が投影されているのかも知れない。

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