須賀しのぶ作品の書評/レビュー
天気晴朗なれど波高し。 (2)
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剣島での洗礼の儀式を次の航海に控え、ランゾット・ギアス五等海尉は、オレンディアという娼婦の少女と出会う。父は死に母は病に倒れたという彼女に、あれことれ気を使うランゾット。
一方、ネイ・カーヴォイは、ランゾットを連れるトルヴァン・コーア六等海尉を見て衝撃を受ける。
物語が完結した後になると何でもないことなのだが、出版時点から見ると章頭の引用文は色々と示唆的な事柄を含んでいる。そして、喪の女王の終盤を彩るギアス提督と修道女の関連性も。
人に歴史あり、という感じですね。
女神の花嫁 後編
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傭兵たちが不在の隙をついて襲撃を受けたホルセーゼの村では、村を守る女たちが白刃の下に倒れていく。阿鼻叫喚の嵐の中で、ラクリゼはザカリア女神との契約によりザカールの力を取り戻す代わりに、腹の中の子を失う。
ラクリゼの奮闘によって全滅を免れたものの、家族を失った悲しみに暮れるホルセーゼは、サルベーンに傭兵団を任せ、半ば引退生活を送ることになる。それから数年後、現役復帰したホルセーゼと傭兵団は、滅亡の足音が聞こえるギウタの地に来ていた。
ラクリゼが女神の力を取り戻した頃によって、サルベーンとの蜜月は終わりを告げ、二人の間には溝ができ始める。結局彼らの関係は女神という存在を抜きに語れないのかと思うと少し哀しい。
本編との関係で言うと、幼少のエディアルドが少し登場し、その出生の秘密が明かされたりもする。あとはもちろん、カリエとラクリゼの出会いも描かれる。
最後のアデルカの人知れぬ貢献は、サルベーンの行動との対比で見ると際立つ。
女神の花嫁 中編
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サルベーンと共にザカールの外の世界へ旅立ったラクリゼは、サルベーンの勧めに従って傭兵王ホルセーゼの下を目指すことにする。しかし、ザカールにいた時と保護者と被保護者の立場が入れ替わり、プライドを傷つけられたと感じたラクリゼは、サルベーンと喧嘩別れすることになる。
烈火のごとく怒り気ままに力を振るい優越感に浸っていたラクリゼだが、一人さまよい歩く森の果てで湖の女王に琥珀の指輪を取り上げられてしまい、女神の恩恵を全て失う。そんな時、猟師のアデルカと出会い、彼と彼の家族の保護を受けることになる。
剣の振るい方しか知らなかったわがままお嬢様が世間の常識と生活スキルを身につけていく。そしてついに訪れる二人の再会。そこにあるのは感動か、悲劇か。
ザカールのお話にも拘らず、本編に感じる宗教色が一番薄いような気がする。後には超人的活躍をするラクリゼが、最も安らいで生活できていた時期なのかもしれない。
女神の花嫁 前編
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クナム(長老)の子は必ず男子であり、千人目のクナムは世界の王となるべく生まれてくるということがザカリア女神とザカールとの契約。それなのに、王の親となる998番目のクナムの子は、なぜか女子だった。
歴代のクナムと比較しても隔絶した力を幼少から示しながら、父であるクナムには認められず、女であることに苦悩するその子の名は、ラクリゼ。本編でカリエを助け導く傾城の美女の幼き日の姿だった。
同年代の男子など相手にならない実力を持つのに、女であるがゆえに父に認められないことに苛立ち、荒んでいくラクリゼは、ボロボロになってザカールの村にたどり着いた一人の少年を周りの偏見から守るように父に言いつけられる。それがラクリゼとサルベーンのはじめての出会いだった。
それから数年がたち、彼らに転機の時が訪れる。
娘の扱いに戸惑い悩むラクリゼの父に人間らしさを感じたのが意外だった。本編で描かれるクナムの姿とは余りにもかけ離れているように感じたので。
ザカール至上主義的な考え方を持っていたラクリゼが、外の世界に興味を持ち、波乱の人生に旅立つ過程が面白い。
流血女神伝 喪の女王 (5)
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表舞台に立てなくなった結果、カリエの直接的な影響力が小さくなって、頼る・祈るというのが取りえる最大の行動になってしまった。無謀な行動力が特徴の人物だったので、何か落日の感がある。一方、エドにも変な役割が割り当てられ、最後の切り札的なポジションになったけれど、一国の権力者を相手取って、剣一本でどう立ち向かうのか?
ルトヴィアの惨状ばかりが目立っているけれど、神に頼る統治者を持ったユリ・スカナの民も結構不幸だと思う。
流血女神伝 喪の女王 (4)
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神ではなく人の力の偉大さを信じる方向へ進もうとするカリエだが、落陽、ユリ・スカナの政変は、ザカールを大国の中枢に近づかせる結果となり、再び女神の娘としての機能を期待される立場に追いやられてしまう。
リシクが飛ぶとき、今度も女神の束縛から抜け出すことはかなうのだろうか?
流血女神伝 喪の女王 (3)
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第7章から第8章に入る部分では、少し錯覚してしまう。急に時間軸が進んだのかと思って。
バンディーカ女王の過去の回想から始まって、辺境の修道院に身を隠したカリエたちが描かれる。宗教もカーテ教に変わり、ザカリア女神の圧倒的な支配から抜け出しがたい思いを感じるカリエは、その教えにある神との共存に希望を抱く。しかし、カリエの周辺で起きる変化はまだとどまることを知らないようだ。
喪の女王 (2)
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王太子の婚姻という口実はあれど、理想破れて失意の帰国をするグラーシカが哀れ。政治的に追い詰められているのに加え、ドミトリアスの第二子懐妊の情報は彼女を打ちのめす。そんな状況で帰国した故郷はいつもよりまぶしく見え、麗しの姉も昔の優しさを示してくれるのだが…。
政治の中枢から逃げるカリエを再び中枢に引き戻そうとする、何者の意図が働いているような偶然。ユリ・スカナにも食い込んでいたザカールの血は、彼女を平穏のままには置かない。優しく儚げに見えても美しい薔薇には棘がある、という言葉がふさわしい展開。
喪の女王 (1)
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イーダル王子を頼りユリ・スカナに亡命したカリエとエディアルド。それまでの激動と打って変わって穏やかな日々を送っていたのだが、周囲は彼女達を放って置いてはくれず、争いの渦中に身を置くことになる。
ザカールを支配下に置いたバルアン、女王を未だ憎み続けるネフィシカ王太子、ゼカロ北公国に根を張ったビアンなどが立ち回る争いの舞台は、凍てつく大地の上に移る。
流血女神伝 砂の覇王 (9)
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前半はバルアンが去った後のインダリの人々の様子、ヨギナに来たカリエの様子が描かれる。そしてついに時は満ち、バルアンはオラエン・ヤンの頂を目指す。砂の覇王完結編。最後にはタイトルの意味も明らかになります。
流血女神伝 砂の覇王 (8)
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カリエが急速に成長していく。少し前から考え方は変わってきていたと思うが、それが行動にまで反映されるようになってきた。ただ、自分のやりたいことを認識したと思ったら、ザカリア女神が出しゃばって来てしまう。神様の意思を越えてカリエがこれからも思う通り行動できるかが見どころだろう。
一方、ルトヴィアの凋落ぶりが目に見えるようになってきた。果たしてこのまま崩壊するのか、解体的出直しが成功するのか、皇帝夫妻の手腕がどこまで通用するだろうか。
流血女神伝 砂の覇王 (7)
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久しぶりのルトヴィア、懐かしきドミトリアスとグラーシカに会い、すっかりくつろいだ生活を送るカリエ。しかし、以前との立場の違いは、カリエに単純な生活を許さなかった。
家族の思いは捨てがたきことながら、統治者としての行動を取らざるを得ないドミトリアスとグラーシカに、少し寂しさを感じるカリエ。そんな彼女に迫っていたのは、とある選択だった。
流血女神伝 砂の覇王 (6)
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海賊としての生活になじみつつあるカリエ。しかし、エティカヤの政変とルトヴィアの海賊征伐は、彼女をいつまでも楽しい生活のままにはおかなかった。
この物語にはタイトルの通り、流血女神ザカリアの力が隠然とはびこっている。それは直接表に出てくることはないが、ザカールの血をひく者をからめ取り、彼らがその意思を慮って行動することにより、大国の行く末すらもその掌中におこうとする。そういった人外の力の中で、カリエの果たす役割とは何なのだろうか?
今回、終盤では、白兵戦の様子も出てきます。服わぬ人々の悲哀と、戦争が彼らを生み出すという現実を前にして、カリエの心が受ける影響は、かなり大きそうです。
流血女神伝 砂の覇王 (5)
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サルベーンやラクリゼが表舞台に出て行動を始めます。それぞれ異なる思惑があるようですが、どちらもカリエから離れません。
サジェは運命というヤツに翻弄されてしまいました。目の前に転がり込んできた、一番よさげに見える選択肢を選んだだけなのに、哀しい結末になってしまいます。まあ、憐れまれるのはイヤでしょうけれど。
流血女神伝 砂の覇王 (4)
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ドミトリアスとグラーシカの婚礼に参加するためにタイアークに向かうバルアンとその小姓を務めるカリエ。久しぶりに二人に会えるとウキウキしながら旅をするカリエだが、新米のカリエを連れて行くのには裏があるようで…。
陸だけでなく海の物語も少しずつ登場し、どんどんと世界が広がってきます。
流血女神伝 砂の覇王 (3)
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ドミトリアスが帝都で剣を持たない闘争に明け暮れている頃、カリエは砂漠のルールと向き合っていた。
同じ立場でありながら、何から何まで、ドミトリアスとは全く違うように見えるバルアンに反発するカリエ。しかしその行動は、死の土地に囲まれた場所で暮らすものにとっては必然の行動でもある。でも、カリエがそのことに気づくのは、もう少し先のことになりそうです。
流血女神伝 砂の覇王 (2)
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流血女神伝 砂の覇王 (1)
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カデーレを出奔し、ユリ・スカナ王国を目指すカリエとエディアルドだが、逃走経路に選んだクアヒナ東公国は、戦乱の影響で、貧しく病んだ国になり果てていた。食中毒になったエドを休めるため、一夜の宿を求めるカリエだが、人々は他人を助ける余裕など既になく、待っていたのは、片翼の神鳥リシクが再び告げる、運命の転機だった。
前作ではミュカがカリエの競争相手だったけれど、今度は女の子が競争相手になるみたい。波瀾万丈という言葉そのものの人生だ。
カリエがいなくなったことによって皇帝となるドミトリアスの方は、青い血を持つ者の悲哀を感じずにはいられない。まあ、本当にかわいそうなのは、泣いて切り捨てられる方なのかも知れないけれどね。
ガーウィナ大城壁という国境間の城壁は何となくハドリアヌス防壁とかを思い起こさせるし、エティカヤの風習は何となくペルシャあたりの風習を思い起こさせる。巻頭に地図もついているので、物語の舞台がイメージしやすくなりました。
流血女神伝 帝国の娘 後編
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皇位継承者が暮さなければならないカデーレ宮殿に入るカリエ。そこに待っていたのは、あからさまに敵意を向けてくる、一つ年下で西公の後見を得るミューカレウス、そして年長の二人の兄ドミトリアスとイレシオンだった。
ミューカレウスとは良きライバルとして切磋琢磨しながら、ドミトリアス達を仰ぎ見て暮らす、充実した生活。しかし、後継を争う鞘当ては、本人たちの思惑の外でもうごめき始め、意外な破滅をもたらすことになる。
本格的に始まる物語の、序章といった位置づけの作品の様だ。
流血女神伝 帝国の娘 前編
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雪深い山村に住むカリエは、女の身ながら狩りにも出かける活発な子供だった。普段ならばカリエが狩りに出かけるのを嫌がる養父母。それなのに、その日に限って養父母は、カリエが狩りに出かけるように仕向けた。そんなカリエの前に現れたのは、貴族の格好をした男エディアルド。気絶させられた彼女が次に目を覚ましたのは、荒波が押し寄せる砦の一室だった。
そんな彼女が命じられた役目は、病に伏せるルトヴィア帝国第三皇子アルゼウスの身代わりを務めること。養父母に売られた悲しみを乗り越え、エディアルドの苛烈な指導を乗り切った彼女は、アルゼウスとして帝都に入る。そこにあったのは、四大公間の醜い権力争いと、隣国ユリ・スカナの王女にして男装の麗人グラーシカ、彼女に随伴する美しき剣の達人サルベーンとの出会いだった。
一言で表すなら、貴種流離譚の変形バージョン。突然の人生の転換点から、いかにしてカリエがはい上がり、自分らしさを取り戻していくのか、というお話。
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