涼野遊平作品の書評/レビュー

伊月の戦争 〜終わる世界の物語〜

追い込まれる人類
評価:☆☆☆☆★
 世界中の国々の間で和平条約が結ばれ、武力が放棄される寸前、世界に突然、影獣と呼ばれる存在が現れ、人類に敵対してきた。それは真っ黒な人間のようであり、人類の攻撃ときっかり同じ規模で反撃するという性質を持っていた。
 ゆえに人類は大量破壊兵器による攻撃を諦め、四人一組の小隊によるゲリラ戦で対抗することになり、損耗する兵は十二歳以上の学徒兵で補われた。そのひとつである天宮小隊は、爆破戦術を得意とする天宮伊月に率いられた、御永祥陽、能登飛鳥、六反田鴻という幼馴染同士の部隊だ。損耗する戦場を何とか日々生き残り、情報将校の春叶クレア学徒中尉と情報交換することで何とか生き延びている。

 そんな人類の希望は、英雄隊と呼ばれる白沢雪姫学徒大尉や夜上比呂学徒大尉の部隊だ。彼らのような強大な力を持たない天宮小隊は、ある日、影獣の包囲により全滅の危機を迎える。そんな彼らを助けたのは、謎の白い光の人だった。

 第11回スーパーダッシュ小説新人賞特別賞受賞作「終わる世界の物語」を改題。もう少し上手く描くともっと面白くなりそうな話ではある。描かれる状況で社会が崩壊していないことに対するフォローが未だ不足していると思うので、前線と銃後のバランスをとって描いた方が良かったように思う。
 中盤以降、天宮隊のメンバーが精神的に追い込まれ、折れる寸前で立ち直るきっかけを得ると言うところは、もう少し丹念に描いても良かっただろう。力を手に入れたゆえに居場所を失っていく焦燥をたっぷり味わった上で、最後の解決に導いて欲しかった。現行はその辺りがあっさりとし過ぎている気がした。

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