妹尾ゆふ子作品の書評/レビュー

翼の帰る処 番外編 ―君に捧ぐ、花の冠―

評価:☆☆☆☆★


翼の帰る処 (5) ―蒼穹の果てへ― 下

評価:☆☆☆☆★


翼の帰る処 (5) ―蒼穹の果てへ― 上

休む間もなく
評価:☆☆☆☆★
 世界の罅をふさぐ方法を探ることを皇帝から一任されているヤエトは、黒狼公を隠居したにもかかわらず、忙しい日々を過ごしていた。
 帝国内で発生し始めた魔物を封じる対応に忙殺されながら、第四皇女の帝位への野望をサポートしなければならなくなったヤエトに、北方から連絡がもたらされる。それは、セルクと交換で人質となっているア=ヴルスであるルシルの兄レイモンドを返して欲しいというものだった。

翼の帰る処 (4) ―時の階梯― 下

犠牲
評価:☆☆☆☆★
 ヤエトの前に再び現れたターンの預言者ウィナエは、世界の罅を塞ぐ手がかりを得るため、砂漠の深部シンリールへと向かう。扉の先で彼が見ることになるものとは?  異界から戻った時、既に新年祭を間近に控える季節となっていた。そして都では、第七皇子による戦争の気配が近づいていた。都に残る皇女に会うため、ヤエトは都へと向かう。

翼の帰る処 (4) ―時の階梯― 上

望みとは違う隠居
評価:☆☆☆☆☆
 四大公家の《灰熊公》から《金獅子公》に譲られるはずの馬を横取りしたことを発端として、四の君と五の君は真上皇帝により粛正された。庇った北嶺王は謹慎という名目で帝都から遠ざけられ、同じくセンヴェーラ妃とその出身である《白羊公》は中央での権力を失ってしまう。
 解決への貢献を皇帝から認められたヤエトは、論功行賞で皇帝から隠居を認められることとなった。もっとも、それは彼の長年望んだ楽隠居とはほど遠く、より厄介ごとに首を突っ込む機会を増やすことにしか成らなかった。

 とにかく跡継ぎとして、前《黒狼公》の妹ミアーシャの次男キーナンを養子にとり、貴族としての面倒ごとを避けるように手を打つヤエトだったが、北嶺ではレイランドが皇女に手を出そうとし、ヤエトのもとには皇妹が訪ねてくるなど、他にも女性に関する厄介ごとは後を絶たない。
 予言者ウィエナの言葉を無視することも出来ず、現地調査のための手配をするヤエトだったが…。

 出版社のどんな事情があったのかは分からないが、判型が大きくなり、値段も高くなった。これまでと同様、新書で出してくれば良いものを…儲けに走ったのか?でも、文句は言いつつ、買わないという選択肢はない。

翼の帰る処 (3) 歌われぬ約束 下

恩寵の力と肉親のつながり
評価:☆☆☆☆☆
 ルス公家の支配する敵地に赴いたヤエトは、そこで彼の過去視の恩寵を前提とした真上皇帝陛下kらの伝言を受け取る。恩寵を隠し通そうとすれば、陛下の伝達官にして商人のナグウィンが死ぬ。彼を助けようとすればルス公家の内紛に巻き込まれかねないし、何より恩寵がばれてしまう。巧みに作られた罠にはまったヤエトは、こういうときにはまず、自分のことよりも北嶺王のことを、誰かのことを考えてしまう。
 ひとまず危機を乗り越えて北嶺と戻ったヤエトだが、ナグウィンの問題は何も解決していない。他国に介入するため、強大な力を持ちながらも幽閉されているル=シル・ル=ウル・ア=ヴルスと協力関係を結ぶことを考えるヤエト。それには、皇帝陛下の気を別の方面にそらす必要がある。そのための策を練ることにするのだが、それはいくつかの成功と、いくつかの傷跡を残す結末をもたらすことを、ヤエトはまだ知らない。

 ちょっと時間が空いてしまったので、ストーリーを忘れてしまいそうになっていた。まあでも読んだら大体思い出した。今回、ヤエトはかなり勤勉に働いている。
 魔王に関する情報も加わり、アストラあるいは古き竪琴ハルウィオンという人物が登場し、神々の一部も積極的に動き始めた気がする。しかしそれとは関わりなく帝国は運営され、そこに生きる人々も、日々、小さな想いを交わし合うこともあるわけだ。肉親同士がいがみ合い、あるいは無関心を貫く関係がある一方で、元々は何の関係もなかった人々がつながり、互いを思いやる関係も、またある。

 今回は特に、ヤエトの台詞に良いものが多かった気がする。

翼の帰る処 (3) 歌われぬ約束 上

押し寄せる難題
評価:☆☆☆☆☆
 ヤエトがようやく床払いをしてジェイサルドの監視から逃れられたとホッとしたのも束の間、皇妹から黒狼公としてのヤエトに復縁の提案がなされる。受けるも断るも彼の自由という皇妹の言葉に、余計に悩みが深くなる。
 その件も片付かないうちに、再び夏入りの祭の季節がやって来た。そして時を同じくして、北方からは和平の使節が訪れる。
 ヤエトが訪れる北方の地で出会う、絶大な恩寵の力を持つ少女。そんな神の力の世界とは別に、人の世では権力と金に基づく新たな策謀が繰り広げられようとしていた。

 隠居という単語が遠くなる一方のヤエトは、次から次へと難題を抱えてしまう状態に陥っている。
 魔界の蓋が開くという神の世界に関わる問題は、未来視の恩寵だけではなく、身近な鬼神の問題や、新たな恩寵の力が彼の前に現れ、より広がりを見せる一方で、人間の世界の中でも買収・切り崩しなどの権力闘争が裏面で本格化してくる。ある場所では世界が滅びるという話をしているにも拘らず、ある場所では今のままの世界が続く前提で権力の配分に汲々としているギャップが面白い。

 本書の最後に、ヤエトは選択を迫られる。他人の今すぐの危機を救うか、将来の自分の安全を取るか。そんなドキドキを抱えたまま何ヶ月も待ちたくない場合は、下巻が刊行されてから読んでも良いかも知れない。

 それにしても、シロバの雛はもふもふしてて気持ち良さそう。

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翼の帰る処 (2) 鏡の中の空 下

未来視も鎖となるのか
評価:☆☆☆☆☆
 黒狼公の領地の隣国を所領に持つ第二皇子から盗賊捕縛協力の要請がある。それに協力する過程で、ヤエトは彼の恩寵である過去視の対となる未来視の恩寵の持ち主と出会う。そして、預言を与えた人々を取り込んでいくさまに、そして未来視を絶対視し自らの努力を放棄する人々に、軽いいらだちを覚えるのだった。
 後半でルーギンが恰好良く活躍するのだけれど、その見せ場を作るために、ジェイサルドは損な役回りを演じることになってしまった気がしなくもない。
 数多の恩寵と、遥かなる過去から現在まで続く古の契約の影響が明らかになり始める。ヤエトの心構えも少し変ったけれど、皇女の成長も著しい。

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翼の帰る処 (2) 鏡の中の空 上

新たな舞台へ
評価:☆☆☆☆☆
 北嶺郡を北方民族から護り、隠居願望を満たせるかと思ったヤエトだが、事態は彼の願望に反し、北嶺は郡から国へと格上げ、皇女は北嶺王となり、その相に任じられたヤエトも、貴族になることとなった。叙爵のため赴いた帝都の新年の祭で、皇帝はヤエトに思わぬ位を与える。
 ヤエトが活躍する舞台は北嶺から離れ、砂漠の方へ。鳥たちも大活躍であちこちを飛び回る。そして、表紙を見れば分かるように、ジェイサルドも。
 段々と権力闘争が中心になって来て、ヤエトには休む間もありません。

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翼の帰る処 (下)

枷から解き放たれる
評価:☆☆☆☆☆
 表紙が上巻と似た構図なのだけれど、鎖の部分の違いが下巻の内容を象徴的に表している気がする。ただ、性格的には皇女の方がこの構図に似合うけれど、そこまで誘導したのはヤエトだった気がしなくもない。もっとも、彼の性格的には、鎖をちぎるというような積極的活動はしなさそうだから、これが正しいのかもしれない。  療養と情報収集のため帝都に遣わされたヤエトは、第三皇子の屋敷に逗留することになるのだが、どんな猜疑を招いたのか、半ば軟禁状態となってしまう。皇女の伝達官とも連絡が取れなくなり、恩寵の力によって皇女に迫る危機を知ったヤエトは、屋敷からの脱出を目論むのだが…。  相変わらず、発熱したり倒れたり、病弱さにかけては人後に落ちない主人公なのだけれど、今回も結構無茶をします。そして明らかになる、北嶺の地に秘められた神との契約の内容とは?  北嶺にいる人たちを差し置いて、皇妹の騎士団長ジェイサルドが大活躍します。
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翼の帰る処 (上)

見かけの派手ではなく、精緻な細工が魅力
評価:☆☆☆☆☆
 帝国の官吏であり、数百年前に帝国に併呑された王国の末裔でもあるヤエトは、帝国の辺境、北嶺郡の尚書官に左遷される。彼以外の官吏は全て現地採用であり、控えめに言っても官吏ごっこをしている程度の能力しかないが、代わりにのんびり過ごせるとヤエトは思っていた。そんな辺境の地に、皇帝の末娘が太守として着任する時までは!
 帝都とは全く環境の異なる北嶺では、ろくに飼葉も採れず、騎士の命たる馬も養うことができない。北嶺の民は馬の代わりに巨鳥を馴致して使役しているので問題はないのだが、一事が万事かくのごとくであり、皇女の騎士団と現地の官吏は対立をしてしまう。彼らの仲を取り持ちつつ、北嶺の事務レベルを上げ、皇女の相手をすると言う神経を使う仕事が、隠居を夢見るヤエトに降りかかってくる。

 生来の病弱さと、彼に備わっている過去視の恩寵の弊害で、たびたび倒れながらではあるが、何とか仕事を切り回し、それなりに落ち着いてきた頃、ヤエトは偶然、皇帝一族と北嶺の民の間に、なんらかの関係があるのではないかと気づく。だがそれを深く考える間もなく、皇女や周囲の人々が、次々と問題を巻き起こしていくのであった。

 歴史ファンタジー風の物語なのだが、主人公は大変病弱の歴史学者という風情で、とてもとても、アクションという雰囲気はない。代わりに、異文化対立や歴史の謎、高貴な生まれの人々の苦悩など、人物や世界を少しずつ詳らかにしていくことで、確かな舞台を作り上げていく。
 見かけの派手さではなく、精緻な細工が魅力の作品だろう。

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