貴子潤一郎作品の書評/レビュー

項目 内容
氏名 貴子 潤一郎 (たかね じゅんいちろう)
主要な著作
  • 12月のベロニカ
  • 眠り姫
  • 煉獄のエスクード (1, 2, 3, 外1)
  • 灼熱のエスクード (1, 2, 3, 4)

 貴子潤一郎さんの作品の書評/レビューを掲載しています。

灼熱のエスクード (4) DADDY, BROTHER, LOVER&LITTLE BOY

剣から心へ:受け継がれるもの
評価:☆☆☆☆☆
 『伝える』という行為は時間を超越するための一つの手段だと思う。かつて伝承や技術を後世に伝える主要な方法は口伝や徒弟制だったが、活版印刷が再発明されると、その役割は書籍に代わる。しかし、書籍は当初の内容を変質させることなく伝達させることが可能である一方、誰かが意図的に伝えようと思った事柄しか伝えられないという欠点もある。そして、読み手がその書籍から真に迫る情景を受け取ることができないとしたら、口伝や徒弟制によって自らの体に染み込ませられた情報量を超える事が出来ないかもしれない。だから、何十年も経つと、同じ場所で戦争が起きたりしてしまうのだろう。

 本書の中で、シド・ギーエンがレディ・キィとなったレイニーの運命に嘆いたり、アロマの半使徒となった深津薫を擁護したりするシーンがある。彼は嘘がつけるほど頭が良くないので、言っていることは真情だろう。だが、あと百年もしないうちに彼は世を去り、それによって彼の想いは失われ、彼らを化け物や裏切り者としてだけ見る視線が残る。一方でこんなシーンもある。千年前に、扉の向こうでレイニーが親交を持った領主ギアリーが、当時彼女のせいで恥辱を受けたにも拘らず、昔を懐かしんでレイニーを思い出すのだ。こう思うと、如何に心を受け継がせていくことが難しいのかを感じざるを得ない。
 レイニーと薫の、千年の歴史の中での一瞬の交わりは、十分に何かを伝えるに足るものであったのだろうか。それは今後の歴史が示すところだろう。

   bk1
   
   amazon
   

灼熱のエスクード (3) I WILL CATCH U

哀しいけれど幸せなひと時
評価:☆☆☆☆☆
 盟主アロマの復活がもたらす破滅の時。魔族に対する反抗組織を持つ国は侵攻を受け、支配体系は丸ごと乗っ取られてしまう。巷にあふれる使途と、生じる混乱。
 その頃、レディ・キィとして運命を定められてしまったレイニーは、戦う意志を失い、過去の記憶に浸る。家族との楽しい日々と、そして戦いの始まりの時の記憶に。一方、教皇庁によるレイニーの扱いに納得できない薫は、一人組織に反抗し、隔離されたレイニーの下へ向かおうとする。
 盟主とは一体何なのか。そして偉大なる君主とは何者なのか。それらの謎が明らかになってくる。

 トゥロワヌやアルフェルムを子供扱いする力を持つアロマに対抗するには、論理的にこれしかありえない、というような展開になってしまった。ご都合主義のハッピーエンドを排除するストーリー構成。しかしそんな中でも、薫にとっても、レイニーにとっても、与えられた情況の中で望みうる最高の関係が得られたのかもしれない。

   bk1
   
   amazon
   

煉獄のエスクードARCHIVES―だけど綺麗なものは天国には行けない

雨降りの日に
評価:☆☆☆☆★
 現在から過去へ。短編が終了するごとに時間がさかのぼっていきます。どの物語も、少し切ない。最も切ないのは、真澄とクラウディアのかつてのドタバタ喜劇を見せられる、お師匠様はご機嫌斜め。もう、こういう日々は戻ってこないのかなぁ。
 最後の短編は、ハードボイルドチックで、映像が先行している感じがする。薫がいないからこそ書ける、大人の世界。他の作品とはかなり印象が違うので、好き嫌いが分かれるかも。
 こうやってずっと、物語はさかのぼっていくのかな?

   bk1
   
   amazon
   

煉獄のエスクード (3) RHYTHM RED BEAT BLACK

一番長い日
評価:☆☆☆☆☆
 この世界と魔界の扉の鍵をめぐるローマ教皇庁と魔族の戦いをある兄弟の視点で描くファンタジー第三作。
 ローマ教皇庁のエージェントである薫は、教皇庁と不仲な魔術師教会の魔術師ルーシアとある高校で起こっている失踪事件の調査を行っている最中に気を失い、約800年前の中世ヨーロッパの城の中で目を覚ました。まさにその日は、この世界に残された魔族のロード3人がただ一度の会議を行った日だった。
 繰り返される同じ日、城から外へ出ることを許さない結界、禁忌の魔道書、そして晩餐会に現れる、1000年もの長きにわたって人間側で戦い続ける、薫の師匠となるレイニー…
 全ての役者が舞台に登場するとき、この城に隠された重大な秘密が明かされる。

 物語の収束に向けて、少しずつ動き出してきた気がします。

   bk1
   
   amazon
   

煉獄のエスクード(2) The Song Remains The Same

根底にある想い
評価:☆☆☆☆☆
 この世界と魔界の扉の鍵をめぐるローマ教皇庁と魔族の戦いをある兄弟の視点で描くファンタジー第二作。
 第一作に出てきた人物達は今回ほとんど表に出てきません。今後の物語で重要な役割を占めるのであろう、教皇庁と魔族による「外道祈祷書」の争奪戦が話の中心です。
 教皇庁と対立する魔術師教会の魔術師であり、真澄の師匠でもあるクラウディアから教皇庁に依頼があった。フィンランドのある小さな村で魔術師が殺されたので、その調査を行って欲しい、と。
 その真意は不明のまま、トゲトゲ頭のギーエンと一緒に調査に行かされる事になった薫は、元気な少女アイリスに遭遇する。アイリスに振り回されながら調査を進めるにしたがって浮かんでくる不審人物達。アイリスの祖母、その主治医、村の地主一家、そして、村はずれに存在する小さな遺跡。
 全ての人物達の思惑が、ある一点に集まったとき、50年前の闘争の真実が現れる。果たしてそこから導かれる新たな謎とは…
 個人的にはレイニーが全くでないのが残念ですけれど、ストーリーの枠が広がって新たな進展が感じられる巻です。

   bk1
   
   amazon
   

煉獄のエスクード RAINY DAY & DAY

それでも守らなければならないもの
評価:☆☆☆☆★
 この世界と魔界をつなぐ扉の鍵をめぐるローマ教皇庁と魔族の戦いをある兄弟の視点で描くファンタジー第一作。
 孤児として教会で育てられ、養父である神父によって剣技を仕込まれてきた高校生薫は、ある日ローマ教皇と面会させられる。そこで出会ったのは二人の女性。”レディ・キィ”ソフィアとその護衛者である魔族レイニー。そして薫は剣士としてソフィアの「盾」となる使命を持つことを告げられる。
 ソフィアを奪い扉を開けるべく襲い掛かってくる魔族とその眷属。薫と共に教会で育てられた魔術師真澄に忍び寄る魔手。普通の高校生として育った薫がレイニーに一つの決断を迫られたとき、無事ソフィアを守り、扉に鍵をかけることができるのか…
 「12月のベロニカ」同様に、導入部の時間軸が転倒しています。ただ、この戦闘シーンをここに持ってくる必要はあるのかな?と若干疑問はあります。しかし、通常キリスト教をベースにした場合に見られるような宗教臭さは見当たりません。上手く物語りに入り込めれば、すんなり読めると思います。

   bk1
   
   amazon
   

サブカテゴリ内の前後の著作者 (あいうえお順)
竹宮 ゆゆこ 貴子 潤一郎 鷹見 一幸
ホーム
inserted by FC2 system