田中ロミオ作品の書評/レビュー

灼熱の小早川さん

他人に舵を任せるな
評価:☆☆☆☆★
 今野高校1年B組に3日遅れてやって来た小早川千尋は、飯嶋直幸に炎の剣を幻視させた。そしてその直感は当たっていた。やる気のない空気が蔓延する教室で、クラス代表を務めることになった彼女は、生徒会などを巻き込み、校則の徹底など、綱紀粛正に乗り出してくる。そして彼女が吐く言葉は苛烈だ。
 当然、やる気のないクラスメイトが彼女に協力するわけなどなく、空気に従うことを是としたサボタージュは、小早川さんに過度の負担を強いる結果となった。そんな彼女の副代表として、スパイに送り込まれた飯嶋直幸は、初めて外からクラスを直視して、その問題の大きさを実感する。

 こうして彼は彼女に協力することになったのだが、元々、空気を巧みに読んでクラスの海をたゆ立って来た直幸は、千尋の本心を知るため、彼女が匿名で解説しているブログを読みつつ、徐々に彼女との距離を詰めていく。
 それはある意味で上手くいくのだが、彼女に接近し、彼女に本気になってしまった直幸には、逆に枷ともなって行く。つまり、本気で千尋とぶつかり合いをすることもなく、彼女のガードをかいくぐるように近づいていってしまったため、本物の信頼が醸成されず、互いの気持ちに温度のずれが出来てしまっていたのだ。

 現代の教室に広がる無気力の海に孤高に挑む炎の女戦士と、彼女に恋した氷の魔法使いの活動記録だ。


人類は衰退しました (2)

秘密道具シリーズ
評価:☆☆☆★★
 今回はわたしが妖精さんの作ったアイテムに翻弄されるお話。妖精さんが気まぐれや自己都合で作り出した状況を、何だかんだと受け入れているわたしがいます。まあ、本当に嫌なら、彼らに関わらなければ何もしてこないわけだし?
 ただ、中編2本の一話完結形式だけで、かつ、変化が見えずらいのは、せっかくのシリーズものなのにもったいないと思う。

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人類は衰退しました (1)

何もしなくて生きていけるとやる気をなくしてしまうのかな
評価:☆☆☆☆★
 人がその数を減らし地球に対する影響力を失って久しい時代、地球の主役は妖精さんに代わりました。人と同じような姿形ながらその平均身長は10cmで、高い技術力を持っている割には目的がなく、甘いお菓子を楽しみに生きています。
 主人公のわたしは、人類最後のインテリの一人でありながらがんばる気はほとんどなく、楽ができそうだという理由で調停官という職に就きます。これは妖精さんと人の間を取り持つ役職なのですが、既に二種族は互いに影響を受けることも与えることもなく生きていける状態になっているので、仕事は特に何もなし。でもわたしは、いちおう本来の使命を果たすべく、妖精さんとのコンタクトを開始します。

 作者はどうやら、食料の安定供給をキーワードに社会を見ているらしい。だから、おそらく過去の食糧供給システムを残したままその数を激減させた人は食べることに全く困らないので、総消費者状態になり何かを生み出す目的を持たず文明を衰退させる。妖精さんは食べる必要がないので集団で何かを頑張る必要がなく、でも高い技術力は持っているので、わたしによって目的を与えられるとその能力を結集して驚くことをしてしまう。
 わたしがお題を与えて妖精さんが遊ぶ。ふんわりさくさく考えずに読める。そんな構成の作品になっています。

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